社会心理学者Joshua Correllはビデオゲームを使って、人種バイアスが容疑者に対する発砲に影響するか調べた。
かつて、連邦検察は、ニューヨーク市警の警官が、西アフリカからの移民であるAmadou Dialloを射殺した事件を起訴しないと決定した。彼が手にしようとしていた物体が銃ではないことが判明するまでに、41発の銃弾を受けた。社会心理学者Joshua Correllはデンバーでこのニュースを父親と見ていた。それは2001年1月31日のことだった。11か月前、陪審員たちは警察官たちを故殺について、ニューヨーク州の刑事裁判で無罪評決をしていた。そして、この起訴しないという発表は、Diallo殺人事件は警察の暴力性と人種差別性の証拠だとみている抗議運動者たちを怒らせた。
University of Coloradoで博士課程の研究を始めたCorrelは、「1999年の夜に何が起きたか解釈しようとするところから問題が起きている」ことに気付いた。他の条件、特に人種では、結果は違っていただろうか?警官が近づいていたのが白人で、Dialloがしたように、自分のアパートの玄関に走っていて、サイフを手にしようとしたとしたら。未明のブロンクスだったら、何が起きていただろうか。実際のところ、わからない。
しかし、彼はそれ以来、答えを求めて進んだ。4年間の博士課程の研究と、2年間のシカゴでの心理学助教授としての研究で、Correllは、警官の容疑者に対する発砲判断に、人種バイアスがどう働くか調べた。携帯電話かサイフかハンドガンを持っている、白人と黒人の画像を使って、Correllとコロラドの共同研究者たちは、瞬時判断を求めるビデオゲーム実験をつくった。絵が次々にでてきて、被験者は画像の人物がハンドガンを持っているか判断しなければない。850ミリ秒(あるいは、どれだけ被験者を急き立てたいかにより、さらに短い時間)で、被験者たちは発砲するか、そのまま放置するかキーを押す。Correllがターゲットと呼ぶものたちは、膝をついていたり、立っていたり、腕を組んでいたり、手をポケットに近づけていたりする。ターゲットたちは、公園の噴水や集合住宅の前や建設現場や樹木のある公園や駐車場などなど、よくある都市の風景を背景にしている。
実験を繰り返し、Correllは学部学生やDMV顧客やモールのフードコートの常連客や警官をテストして、まれではあるが、人々の誤りが、パターンに従っていることを見出した。非武装の白人よりも非武装の黒人に対して発砲する可能性が高く、武装した黒人より武装した白人に対して発砲し損ねる。2002年の4回の実験を列挙したJournal of Personality and Social Psychologyの論文で、Correllたちは、「黒人のターゲットの方が、発砲の閾値が低い」と書いた。その傾向は、被験者が黒人の場合でも変わらなかった。
Correllによれば、その傾向は、アクティブな偏見よりは、社会的なステレオタイプの影響と思われる。この文化バイアスは、被験者が何を信じているか、あるいは何を信じたいかによるものではない。長い時間かけて、映画を見たり、新聞記事を読んだり、ジョークを聞いたりするごとに、頭にねじ込んできたものによる。被験者を調べて、Correllはゲームの結果が、人種偏見よりもステレオタイプの認知度によって予測できることを見出した。「実際に黒人が暴力的だと考えている人々よりも、黒人は暴力的だと思われていると述べた人々の方が、人種バイアスを示す傾向がみられた」
2006年6月のJournal of Experimental Social Psychologyに掲載された論文では、どれくらい深くステレオタイプが根付いているか調べられた。実験で、Correllは被験者の頭部に電極を付けて、ビデオゲームプレイ時の神経系の活動を記録した。「驚いた。P200 (脅威に対する反応に伴う神経電位の上昇)は、白人の顔より黒人の顔を見たときの方が大きかった。」特に強くP200と、ビデオゲームでのバイアスは関連していた。「この電位変動は画面に人物像が表示されてから200ミリ秒で発生していた。我々はとても素早い前意識を見出していた。これが直感的反応だ。」とCorrellは言う。
Correllの最新の事件では、市警の警官も参加した。全体的には、警官たちは普通の市民より、素早く、かつ正確に反応した。「警官たちはほとんどミスらなかった。これは間違いない」とCorrellは言う。しかし、警官たちもバイアスから逃れてはいない。Journal of Personality and Social Psychologyの6月掲載論文で、Correllはデンバー市警の警官と、デンバー市民と、14州の警官の参加を募って、ビデオゲームを行った。主要な計測対象は、人種と反応時間の相関だった。警官と市民は同様の相関を持っていた。「ステレオタイプに反するターゲットを見た場合(銃を持たない黒人や、武装した白人)、彼らはためらう。数ミリ秒だけ遅れるが、判断を間違えるわけではない。」とCorrellは言う。
同じJPSPの2つの論文で、訓練でバイアスが除去可能であることを示す証拠を提示した。警官であれ市民であれ学生であれ、被験者たちが連続4日間ゲームをプレイすると、成績は良くなった。しかし、反応時間は変わらなかった。変わったのはミスの数だった。「複雑で変化する背景の中で、銃のような小さな物体を特定することには、コントロールと規律が必要だ。特に、根深い期待に反する画像の時には」とCorrellは言う。警官の訓練は、コントロールと規律を教えていて、これが警官のミスをほとんどなくしている。「この国の文化的ステレオタイプを変えられないとしたら、誤りを減らすことが、我々のできることのすべてだ」とCorrellは言う。
研究は充実しているとCorrellは言う。彼は警官の参加した実験の知見の探求を計画している。大都市の警官は小都市の警官よりも、人種に影響された判断遅延が大きい。Correllは神経電位変動の計測をさらに実行したいと考えている。さらに、Correllはヒスパニックやアジア系の人々の画像も使った実験や、多くの地域や人種の人々を被験者とする実験を始めている。すべての実験で、Correllは何が警官に発砲させているのか迫っている。「これは未だ、やっかいな問題だ」と言う。
photo: Correllのビデオゲーム: 武装あるいは非武装の、黒人あるいは白人の容疑者が画面に表示される。秒単位の時間で、被験者は発砲するか否か判断しなければならない。
[Shooter’s choice (2007) on University of Chicago]
その後も、白人と黒人以外も含めたバイアスや、疲労度と人種バイアスの関係などの研究が続けらている。