2008/06/12

E-coli実験に情けない反論をするインテリジェントデザイン理論家Michael Behe

1988年から44000世代にわたる大腸菌の実験で示される進化の歴史の偶発性についての研究が、最近報じられた:
Bob Holmes: "Bacteria make major evolutionary shift in the lab" (2008/06/09) on NewScientist.com


大きな進化のイノベーションが研究者の眼前に展開した。そのような稀で複雑な新規の特徴が進化によって形成されるのを捉えたのは、これが初めてである。対象の種は細菌なので、科学者たちは、偶発的イベントの蓄積によって進化的新規特徴が出現した歴史をリプレイできた。20年前。米国East LansingのMichigan State Universityの進化生物学者Richard Lenskiは、ひとつの大腸菌とその子孫から12個の大腸菌実験群を作った。それ以来、Lenskiの観察のもとで、12群は成長し、次第に突然変異を蓄積し、44000以上の世代を経て進化した。

重大な変化

Lenskiが観察できたパターンの大半は、各群でよく似ていた。たとえば、全12群において、ブドウ糖培地で、より大きな細胞と高い成長率を進化させ、群の密度のピークを低下させた。しかし、3万1500世代付近で、1群だけにドラマチックなことが起きた。細菌が突如として、培地の第2の栄養分にして、大腸菌がふつう利用できないクエン酸を代謝する能力を獲得した。実際、クエン酸を利用できないことが、細菌学者が大腸菌と他の種を識別する基準として使っているものだったのだ。クエン酸を利用する変異体によって、群は個体数と多様性を増加させた。
「これは、この実験期間で見られた最も重大な変化である。これは、まったく違う何かであって、種としての大腸菌の境界だと考えられるものの外側である。それはとても興味深い」とLenskiは語った。

稀な突然変異?

このとき、Lenskiは、すべての単純な突然変異は複数回にわたって既に起きるに十分な数の大腸菌が生まれて死んでいたことを計算していた。このことは、クエン酸を利用するという特徴が、何か特別なことが起きたはずだということを意味していた。すなわち、ほとんどありそうもないような単一突然変異、すなわち稀な染色体逆位が起きたか、あるいは複数の突然変異が続けて起きて蓄積してクエン酸を使う能力を獲得したか。そのどちらであるか判別するために、Lenskiは500世代ごとに冷凍保存してある冷凍庫に向かった。これら保存された世代を解凍して進化をリプレイさせることによって、任意に選択した時点から歴史をリプレイできる。同じ群がCit+を進化させるだろうか、それとも12の群は等しく大当たりしそうだろうか。

進化の証拠

幾兆もの細胞を見ても、リプレイでは、オリジナルの群だけがCit+を進化させた。それも第20000世代以降の世代からリプレイ開始したときのみ。彼は第20000世代あたりで、Cit+を後に進化せるような何かが起きたはずだと結論した。Lenskiと共同研究者たち最初の変化が何で、それがいかにして10000世代後に、Cit+突然変異をもたらしえたのか。一方、実験は進化が最高の結果に必ずしもつながらないという証明となっている。その代りに、偶然のイベントは異なる歴史を持つ他の群れには決して開かない進化の扉を時として開ける。University of Chicagoの進化生物学者Jerry Coyneは、Lenskiの実験が反進化論者たちに一撃を与えるという。「ありそうにないイベントの組み合わせによって、これらの複雑な特徴を進化させることができる、というのが最も言いたいことだ。それがまさに創造論者たちが起きえないというものだ」と彼は言う。

Journal reference: Proceedings of the National Academy of Sciences (DOI: 10.1073/pnas.0803151105)
これについて最も適切な解説は、Carl Zimmerによるものみたいだ:

==>Carl Zimmer: "A New Step In Evolution" (2008/06/02) on Loom
==>A New Step In Evolution_Richard Lenski (2008/06/10) on 英文翻訳のメモ

また原論文はこれ:

==>Zachary D. Blount, Christina Z. Borland, and Richard E. Lenski: "Historical contingency and the evolution of a key innovation in an experimental population of Escherichia coli", PNAS | June 10, 2008 | vol. 105 | no. 23 | 7899-7906 ,Published online on June 4, 2008, 10.1073/pnas.0803151105

さて、これについてインテリジェントデザイン理論家Dr. Michael Beheが異論を唱えたもよう。フェードアウト状態だったDr. Michael Beheを久しぶりにDiscovery Insitute公式ブログおよびインテリジェントデザイン理論家Dr. William Dembskiと仲間たちのブログUncommon Descentが取り上げた。

これについて、まいどおなじみUniversity of MinnesotaのPZ Myers準教授が斬っている
The creationists are already leaping all over this result and garbling and twisting it hopelessly. Michael Behe was quick to claim vindication, saying that these results support his interpretation.

創造論者たちは既にこの結果について反応し、絶望して、これらの結果を捻じ曲げている。Michael Beheは、すばやく、これらの結果が自分の解釈を支持するのだといって、自らの主張を擁護した。

I think the results fit a lot more easily into the viewpoint of The Edge of Evolution. One of the major points of the book was that if only one mutation is needed to confer some ability, then Darwinian evolution has little problem finding it. But if more than one is needed, the probability of getting all the right ones grows exponentially worse. "If two mutations have to occur before there is a net beneficial effect -- if an intermediate state is harmful, or less fit than the starting state -- then there is already a big evolutionary problem." And what if more than two are needed-- The task quickly gets out of reach of random mutation.

私は、この結果が、"The Edge of Evolution"の見方に容易に適合していると考える。この本[The Edge of Evolution]の主な主張のひとつは、ある能力を得るために一つの突然変異が必要なら、ダーウィン進化にほとんど問題はない。しかし、もし複数の突然変異を必要とするなら、正しいひとつの結果を得る可能性は指数関数的に悪くなるというものである。「もし、全体として有益な効果をもたらす前に、二つの突然変異が起きなければならないなら、そして中間段階が有害なものであるなら、あるいは最初の状態よりも適応度が低いものなら、そこに既に進化の大きな問題があることになる。」 2つ以上必要ならどうだろうか。すぐにランダムな突然変異の圏外になる。
Wait a minute -- has he read the paper? This is an experiment that revealed a trait that required at least three mutations. Yet there it is, produced by natural evolution, with no intelligent design required; and when the experiment is re-run with populations that had the initial enabling variant, they re-evolved the ability multiple times. It seems to me that this work demonstrates that drift, chance, historical contingency, and selection are sufficient to overcome his "big evolutionary problem", and directly refute the premise of his book.

ちょっと待て。Beheは論文を読んだのか? これは少なくとも3つの突然変異を必要とする特徴を明らかにした実験だ。それでもなお、自然の進化によって、インテリジェントデザインを必要とすることなく、特徴が形成された。最初の進化可能な変異を持った群から実験を再実行すると、複数回にわたって、同じ能力を再進化させた。この結果は、私からすれば、Beheの言う「大きな進化の問題」を解決するのに、ドリフト・偶然・歴史的偶発性・選択で十分だということを示しており、Beheの本の命題を直接論破しているものなのだが。
If the development of many of the features of the cell required multiple mutations during the course of evolution, then the cell is beyond Darwinian explanation. I show in The Edge of Evolution that it is very reasonable to conclude they did.

細胞の特徴の多くが進化の過程で複数の突然変異を必要とするなら、細胞はダーウィンの説明の圏外にあることになる。"The Edge of Evolution"で私は、そう結論するのが合理的だと示した。
This is simply baffling. Behe claims that he has shown in his book that the result observed by Lenski and colleagues could not occur without intelligent intervention…yet it did. He is trying to argue that an experiment that showed evolution in a test tube did not show evolution in a test tube. Behe's claims are comparable to someone living after the time of Kepler and Newton trying to claim that because Copernican circular orbits don't fit the data cleanly, the earth must be stationary -- in response to research that shows the earth is moving. That is how backward Behe's claims are.

これは、まったく不可解だ。Beheは自らの本で、Lenskiと共同研究者たちによって観察された結果が、インテリジェントな介入なしには起きえないことを示したという。でも、それは起きた。Beheは、この実験が、試験管の中で起きた進化が試験管の中で起きえていないことを示したと論じようとしている。Beheの主張は、地球が動いていることを示す研究に対して、KeplerとNewtonの時代以降に生きた誰かが、コペルニクスの円軌道に観測事実が合わないから、地球は動いていないと主張するようなものだ。Beheの主張がいかに遅れいているかということだ。

Behe is a bad note to end on, so let's look at the paper's conclusion. The answer does not lie in an imaginary designer, but in the reality of historical variation. And this is a lovely discovery.

終わるにはBeheは悪い記述なので、論文の結論を見ておこう。答えは、想像上のデザイナーではなく、歴史的バリエーションの現実にある。これはとても美しい発見だ:
...our study shows that historical contingency can have a profound and lasting impact under the simplest, and thus most stringent, conditions in which initially identical populations evolve in identical environments. Even from so simple a beginning, small happenstances of history may lead populations along different evolutionary paths. A potentiated cell took the one less traveled by, and that has made all the difference.

...我々の研究は、初期には同一だった群れが同一の環境で進化する状況という、最も単純な条件、すなわち最も厳格な条件のもとで、歴史的偶発性が最も重大で永続的な影響を与えることを示した。単純な開始点からであっても、歴史の偶然の出来事は群を異なった進化経路へ導くかもしれない。それにより強化された細胞は、他の細胞が通らなかった道を選んだことで、すべてが変わった。

[PZ Myers: "Historical contingency in the evolution of E. coli" (2008/06/10) on pharyngula
Also on Panda's Thumb]
やっぱり、"The Edge of Evolution"は情けない代物のようだ。というか、この実験で撃沈されている...

それでも、"反論"が他になかったのか、Discovery Insitute公式ブログは取り上げざるを得なかったのかな?


なお、論文の終わりのちょっと凝った表現の出所はこのあたりらしい:
Two roads diverged in a wood, and I -
I took the one less traveled by,
And that has made all the difference

森の分かれ道では人の通らぬ道を選ぼう。すべてが変わる

[Robert Frost & The New England Renaissance]
タグ:Behe id理論
posted by Kumicit at 2008/06/12 00:01 | Comment(2) | TrackBack(0) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>第2000世代以降の世代からリプレイ開始したときのみ。彼は第2000世代あたりで、Cit+を後に進化せるような何かが起きたはずだと結論した。

20000世代の間違いですよね。
些細な間違いですが。
Posted by com at 2008/06/13 16:45
comさん、ご指摘ありがとうございます。修正しました。
Posted by Kumicit 管理者コメント at 2008/06/14 10:57
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