「最初の細胞がどのようにして生じたのかは誰にもわからない」――ジョナサン・ウェルズは、『進化の聖画像』(Icons of Evolution)の中の一章をこう書き出している。これはID(インテリジェント・デザイン)派の共通見解だと言ってよかろう。「誰にもわからない」とは不遜な断定ではないかとも思われるであろう。しかしこれが、生命の起源の問題について、人知の到達しえた結論であると言ってよいのではなかろうか。
Dr. Jonathan Wellsは統一協会(EvoWiki)、カリフォルニア大学バークレイ校で生物学の学位を、エール大学で神学の学位を取得している((リベラル新聞なWashington Post記事)。統一協会の下部組織である勝共連合の月刊誌『世界思想』の連載記事に、一見、中立な研究者のような印象で信者であるDr. Jonathan Wellsの一節を引用しているというわけ。、渡辺久義先生は知らなかったってこともありうるので、これは流しておこう。
で続きで
これは無知による、あるいは研究調査の不備不足からくる結論ではない。ビッグバン以前のことが科学ではわからないように、わからないと言ってよいのではないか。ID理論に沿って考える限り、そこに超自然が関与した、あるいは自然と超自然が接触した、という言い方が可能であろう。「どのようにして」? それはもしかしたら霊視能力者にはわかることかもしれない。しかしIDが経験的な証拠に基づく科学である以上、それは「わからない」と言うしかない。
確かに、インテリジェント・デザインを批判するDr. Robert T. Pennockも指摘するとおり (出典=Debating Design所収)
は
ID theorists, by contrast, are very close-mouthed about their own views. If evolution really cannot hope to explain the Cambrian explosion, and ID theorists can do better, one would expect them to show how. However, no "alternative theory" is forthcoming. ID leaders who are Young Earth creationists - such as Paul Nelson, Percival Davis, and others - do not even accept the scientific dating of the Cambrian. However, even the Old Earthers, such as Behe and presumably Meyer, have offered no positive account.インテリジェント・デザイン側のいかなる説明もない。
対照的に、ID理論家は彼ら自身の見方についてまったく口を閉ざしている。進化論がカンブリア紀爆発をほんとうに説明できそうになく、ID理論家がそれよりもうまく説明できるなら、何らかの説明をしてくれてもよさそうなものだ。しかし、いかなる"代替的理論"も用意されていない。Paul NelsonやPercival Davisなどの"若い地球"の創造論者でもあるIDの指導者たちは、そもそもカンブリア紀の科学的な年代すら認めていない。さらに、"古い地球"の創造論者たるBeheやMeyerも積極的な説明を提示していない。
しかも、インテリジェント・デザイン支持者は有神論的進化論(Theistic Evolution)を拒否する(エントリ)。有神論的進化論とは「進化によって人類が誕生するように、神が自然法則を創った」というもの。直接的な神の介入ではなく、自然法則を介しての間接的介入であるため、有神論的進化論では、神の存在を科学的に証明できないが、科学によって神の存在を否定されることもない。それでは、インテリジェント・デザインの数学担当Dr. Dembskiによれば「神による創造を経験的に検知できるという考えを否定している」(ARNの記事)ので、受け入れられない。つまりはインテリジェント・デザイナーの直接的介入を前提とする。
そう言ってもなお、具体論に一歩も踏み込めないのは次のような理由だと思われる。
- Dr. Pennpckも指摘するとおりで、創造論はひとつではない。具体的なことを言い始めれば、内輪もめが始まる。インテリジェント・デザインの主導者Phillip Johnsonは創造論の同士討ちはダーウィニズムをやっつけてからにしろと言っている(出典記事)。
- 具体的なことに触れようとすると、神様登場となって、科学ではなく宗教となり、理科教育への裏口からの侵入という目的が果たせなくなる
で、具体的な説明を排除してしまうと残るのは、"God of the gaps"論でしかない。つまり「わからない=超自然」と言うだけ。
インテリジェント・デザインは創造論を必然的に伴う
渡辺久義先生は次のように書く。
さてそこで、始めの「最初の細胞がどのようにして出来たのかは誰にもわからない」という命題に戻る。細胞には――マイケル・デントンに拠ってかつて説明したように――原核細胞と真核細胞の区別があるだけで、原始的な細胞というものはないのである。すなわち、どちらにしても、恐ろしく複雑な構造をもつ(ことが次第にわかってきた)細胞が、最初から完成された形で現れたということである。これは細胞だけではない。(最初から完成品が現れたことをマイケル・ビーヒーが立証した)最初の鞭毛、最初の鳥(の翼)、最初の眼、そして何より最初の人間など、すべてについて言える。
なおこのDr. Michael Beheの鞭毛については、Dr. Ian Musgrave: "Evolution of the Bacterial Flagellum", in "Why Intelligent Design Fails"pp.72-84, 2004. (Amazon)などが解説している通り。これについてはまたの機会に。
で、この「どうしてできたか誰にもわからない」ものを自然法則を介したインテリジェント・デザイナーの介入によるものではなく、直接のインテリジェント・デザイナーの介入だとするのがインテリジェント・デザイン。
遺伝情報は抽象的なものではなく、何らかの記録媒体の上にしか存在できない。ウィルスなどを除けば、生物はDNAだけで存在するわけでもない。単細胞生物なら、まさに「完成品」としてしか存在できない。インテリジェント・デザイナーは「完成品」を置くしかない。多細胞生物でも、受精卵か成体か何らかの形で「完成品」を置く他に出現させる方法はない。
直接「完成品」を置くということは、「創造された」ということ。インテリジェント・デザインは神の名を冠さない創造論となる。そして...
創造は"Appearance of Age"を必然的に伴う
創造論者Henry M. Morrisは自著The Twilight of Evolution, (Baker: Grand Rapids)[1963]の47〜64ページにおいて、創造は必然的に"Appearance of Age"が不可避と言っている。
According to the Bible, God created all things in heaven and earth, including all living kinds of animals, as well as man, in the six-day period of creation. Following this period of creation, He rested. Thus, no true creation is now taking place in the world, and this revelation is confirmed by the great principle of mass and energy conservation.
Now this can only mean that, since nothing in the world has been created since the end of the creation period, everything must then have been created by means of processes which are no longer in operation and which we therefore cannot study by any of the means or methods of science.
聖書によると、人間と同じく、生きているすべての種類の動物を含む万物を6日の創造の期間に神は天地の創造しました。そして神は休息した。従って、真の創造は現在の世界では起きておらず、このことは偉大なる質量とエネルギーの保存則によって確認される。
今やこれが意味するところは、創造期間が終わってからは、世界のいかなるものも創造されておらず、今はもう機能していない過程を用いてあらゆるものが創造されたはずであり、従って、いかなる意味でも、科学的方法を用いてもこれを研究できない。
質量とエネルギーの保存則と聖書の記述によって、現在は創造が一切行われておらず、観測できないと主張する。それ故に、創造を研究しようにも、もはや観測できないと言う。
We are limited exclusively to divine revelation as to the date of creation, the duration of creation, the method of creation, and every other question concerning the creation. And a very important fact to recognize is that true creation necessarily involves creation of an “appearance of age.” It is impossible to imagine a genuine creation of anything without that entity having an appearance of age at the instant of its creation. It would always be possible to imagine some sort of evolutionary history for such an entity, no matter how simple it might be, even though it had just been created.
我々は、創造の日、創造の期間、創造の方法など創造に関わる疑問について、天啓としてしか知りえない。そして、認識すべきまさに重要な事実は、真の創造が必然的に"Appearance of Age"(時代の外観)の創造を必然的に伴う。創造の瞬間に"Appearance of Age"(時代の外観)を持つ存在を伴わない正真正銘の創造など考えられない。たとえ創造された直後であったとしても、それがいかに単純なものであっても、そのような存在に対してある種の進化史を考えることは可能だろう。
This is seen most clearly in the record of the creation of Adam and Eve. According to the record, Adam was created as a mature man, formed by God out of the elements of the physical earth. He was not created first as an embryo or a baby, and then allowed to develop. Similarly, Eve was created directly out of Adam. In like manner, everything was created as a fully developed, perfectly functioning whole. Soil was created for the plants to grow in; chemical molecules and compounds were created; light from the sun and stars and moon was seen on the earth at the instant of their creation; and so on. Thus, everything in the earth must have had an appearance of age, if there had been any true creation at all.
これは、アダムとイブの創造の記録に最も明瞭に見られる。記録によれば、アダムは物理的な地球の要素からの神によって形成されて、大人として創造された。彼は胎児や乳児として創造されず、成長するようにもなっていなかった。同じくイブはアダムから直接創造された。同じく、あらゆるものは、完全に成長し、すべての機能を持つ形で想像された。土壌は植物が育つように化学分子と化合物とともに創造された。地球から見える太陽や星や月からの光は、創造の時点で創造された。真の創造物であるなら、地球にあるあらゆるものは"Appearance of Age"を持つ。
創造論者Henry M. Morrisは、"創造"が"Appearance of Age"を避けて通れないことを、むしろ積極的に認めている。これは誠実と言えるだろう。
そして、Herny Morrisは、聖書の記述(6日間で世界を創造して、翌日は日曜日)と質量とエネルギー保存を頼りに創造期間限定で起きたと、主張する。それは、研究対象にできないようにするためとともに、Philip Henry Gosse(wiki)が記した「オムファロス仮説」(エントリ)のすわりの悪さ(神は嘘つき)という問題を回避するためでもある。Herny Morrisは"若い地球の創造論"(YEC=Young Earth Creationism)の立場にあって、地球と生物は6000年前に創造されたと主張している。だからこそ、創造行為は始めの6日間限定でよい。その6日間限定の"Appearance of Age"としておくことで、オムファロス仮説を封印できる。
「今この瞬間に目の前で創造=大進化が起きる」ことを否定する方法がないのだ。「人間が進化最終形態である」という前提を置く以外に"Appearance of Age"をもって突如出現する新人類集団を否定できないのだ。そして、その前提は聖書の記述を頼りにするほかない。
渡辺久義先生は聖書の記述を頼りに、もはや"Appearance of Age"が起きないのだと安心しているのだろうか?
インテリジェント・デザイナーはインテリジェント・デザインを宣伝すべく3年前に渡辺久義先生を"Appearance of Age"を伴って創造したことも否定するすべはないのだ。発表論文も、本人の記憶も、友人の記憶も、預金口座も、すべてインテリジェント・デザイナーによって創造されたものであって、4年前には存在しなかったかもしれない。