2008/08/30

携帯電話の電磁場によるDNA損傷についてのメモ

携帯電話の電磁場によるDNA損傷についての研究におけるデータ捏造問題が泥沼化しているとのこと。

==>2008-08-29 - 食品安全情報blog ■[論文]不正の告発により、携帯電話の電磁場でDNAが傷つくという主張に疑問が投げかけられた (2008/08/29)

まずは、Scienceの該当記事から...
Science 29 August 2008:
Vol. 321. no. 5893, pp. 1144 - 1145
DOI: 10.1126/science.321.5893.1144a

Gretchen Vogel: "SCIENTIFIC MISCONDUCT: Fraud Charges Cast Doubt on Claims of DNA Damage From Cell Phone Fields" (News of the Week)

崩れた関連性。大学の調査により、電磁場に曝された細胞のDNAが破損することを報告した2本の論文のデータが偽造されたものであることがわかった。

携帯電話の電磁場がDNAを破損させることがありうることを示した、たった二つの査読つき科学論文が、Medical University of Vienna(MUV)で、不正論争の中心となっている。批判者はデータは事実にしては、あまりに良く見えると論じた。5月には大学が調査することの同意し、調査の結果、2本の研究論文のデータは偽造されたもので、論文は取り下げるべきだと結論した。

この研究に従事した技術者は辞職し、2本の研究論文の主たる著者は当初、両方を取り下げることで大学の学長と合意していた。しかし、その後、著者の気が変り、技術者が不正を否定したのだと言ったことで、暗雲が立ち込め始めた。著者は一方の論文の取り下げだけに同意しているが、批判者が携帯電話会社から研究資金を受け取っていたことがあると言って、製品による被害の証拠を信頼できないものにしようとする意図は明らかだと主張している。

一般的な欧米の携帯電話と同等の電磁場に曝された細胞についての、問題となっている研究は、携帯電話の厳格な規制を主張する人々によって広く引用されている。2本の研究は、いずれもHugo Rüdiger研究室によるものである。Hugo RüdigerはMUVの産業医学科長を務めた後に退職した。他の研究チームは、電磁場の細胞への影響は、遺伝子起動や表現を変えるようなDNA損傷を起こすレベルよりも、小さいものだと報告している。「この研究が信頼できないとすれば、電磁場がDNAを損傷するという仮説を本当に放棄しなければならないだろう」と、幹細胞に対する電磁場の影響を研究しているドイツGaterslebenのLeibniz Institute of Plant Genetics and Crop Plant Researchの発達生物学者Anna Wobusは語る。

2005年にMutation Research誌に掲載された第1論文は、欧州連合が320万ユーロの研究資金を投じたプロジェクトREFLEXの一部だった。このプロジェクトは、様々な電磁場源の細胞に対する影響を調査するために計画された。この論文は、外野から強い批判を受けた。この批判を先導したのは、ドイツのJacobs University Bremenの生物学教授で、ドイツ政府のRadiation Protection Boardの一員であるAlexander Lerchlだった。Alexander Lerchlは、複数の携帯電話会社と携帯電話製造業者からも資金提供を受けている、電磁場を調査する傘下組織から研究資金を受け取っていたが、「もとから2005年の論文の表の数字が何か変だと気づいていた。この数字は生物学実験の結果ではありえない」と述べた。

昨年、Alexander LerchlはMutation Research誌の編集者とMUV当局に自身の懸念を伝えた。11月に、編集者はこれに対して「技術と生物統計学の専門家はAlexander Lerchlの計算は示唆的だが、データが偽造されたものだというほど深刻だとは何も証明していない。実験の設定がブラインドされていれば、望ましい結果を生むデータを作成することは不可能である」と回答した。

MUVに新たに設立された倫理委員会は、最終的に、2008年前半に問題を調査することを決定した。倫理委員会の報告書全体は公開されていないが、5月23日に、大学側は、「独立調査組織は疑いは正当なものだと示唆した。データは実験的に計測されたものではなく、偽造されたものだ」というニュースリリースを出した。プレスリリースで大学の学長Wolfgang SchutzはHugo Rüdigerの研究グループの2005年と2008年の論文の取り下げを求めた。

一方、大学側による調査を知らないまま、4月に、Hugo Rüdigerが長を務めていた学科の臨時学科長であるChristian Wolfは、論争中だと聞いたデータについて独立に調査していた。Christian WolfはScience誌に対して「自分と同僚たちは、2005年の論文の第1著者であり、2008年の論文の共著者であるElisabeth Kratochvil技師の研究ノートを調べた。Christian Wolfは「列番号と細胞を電磁場に曝すために設計された機器からのコードと一致していることに気づいた。コードはどの実験室が電磁場に曝され、どの実験室が対照実験なのかを示していた。Hugo Rüdigerの研究チームは、チューリッヒの機器メーカーに実験データを送った後で、キーを受け取ったと思われる。しかし、不使用チャネルにノブの位置があることから、コードを知り得たことを発見した。この研究ノートを突き付けられたElisabeth Kratochvil技師は辞職した。その後、研究ノートのコードエントリが2005年秋まで遡れることを見出した。」と述べた。

Hugo Rüdigerは「最初は、倫理委員会の調査に基づいて、2本の論文の取り下げに同意した。しかし、数日後に、倫理委員長が携帯電話会社のために働いたことがある弁護士だとわかった。Elisabeth Kratochvilは不正を否定した。彼女は辞めさせられた。」とScience誌に語った。(Science誌はElisabeth Kratochvilにコメントを求めたが、彼女は応じなかった。)

6月に大学側は、代理委員長とともに第2次委員会を設立した。Hugo Rüdigerは「この委員会との議論の後、ブラインディングが完全だったことを保証できなくなったので、International Archives of Occupational and Environmental Healthに掲載された2008年の論文の取り下げに同意した。そのかわり、委員たちはこの問題は完了させることに同意した。2005年の論文は有効だ。その実験は私の実験室が独自の実験装置を入手うする前の2003年に行われた。Elisabeth Kratochvilはベルリンの実験室で数週間かけて、研究データを収集した。彼女が機器のコードを知っていたという証拠はない。」と述べた。

しかし、ミュンヘンのFoundation for Behaviour and Environmentの長であり、2本の論文の共著者であるFranz Adlkoferは取り下げに同意していない。Franz Adlkoferは「大学側は私に倫理委員会の報告を送るのを拒否し、それを見るためにウィーンに来るように言ってきた。それを見るまでは、非常に優秀で知的な技術者であるElisabeth Kratochvilを疑う理由はない。一方、Alexander Lerchlはこれでは満足せず、主張を続けている。Alexander Lerchlはデータが偽造であるという更なる証拠があると言い、それをMUVに送った。Alexander Lerchlは、大学の最高会議であるMUV大学審議会に、Elisabeth Kratochvilが著者である全8本の論文について新たに調査を行うように要請した。Alexander Lerchlは「9月8日の会議開催時に、議長が問題を議題にあげると約束した」の述べた。また、Mutation Researchの編集者は、2005年の論文について調査中だとScience誌に語った。

[Link]
Hugo Rüdiger名誉教授の対応は敵味方識別ベースのように見える。

問題となっている2本の論文は:
そして、2008年の論文をめぐって2008年4月あたりに応酬があり...2008年5月23日に、Medizinischen Universitat Wienのプレスリリースが出ている:

Verdacht auf fehlerhafte Studie der ehemaligen Abteilung fur Arbeitsmedizin
これまでの産業医学科による不正な研究についての疑い

Rektor der Medizinischen Universitat Wien fordert Autoren seiner Universitat zur Rucknahme auf - Herausgeber der Publikation wird jedenfalls uber den Verdacht auf wissenschaftliches Fehlverhalten informiert.

Medizinischen Universitat Wien(ウィーン医科大学)の学長は、学内の著者に対して科学的誤りについての疑いのある論文の取り下げを求めた。

Rasch und eindeutig hat der Rektor der Medizinischen Universitat Wien, Wolfgang Schutz, reagiert, als gravierende Verdachtsmomente an der wissenschaftlichen Korrektheit einer Studie der ehemaligen Abteilung fur Arbeitsmedizin auftauchten. ...

産業医学科の研究の科学的な正しさについての重大な疑義が明らかになった時点で、Medizinischen Universitat Wien(ウィーン医科大学)の学長は迅速かつ明確に反応した。...
この詳細非公開な形のプレスリリースを受けて、Spiegelが次のような報道をしている:
[Studien über Gefahren der Handystrahlung gefälscht (2008/05/24)]
携帯電話による電磁波の危険性についての偽造された研究

Zwei aufsehenerregende Studien über Erbgutschäden durch Mobilfunk sind offenbar das Werk einer Schwindlerin. Nach SPIEGEL-Informationen hat eine Labortechnikerin einer Wiener Universität die Daten manipuliert.

携帯電波機器による遺伝子損傷についての2つの煽情的な研究は、明らかに詐欺師の仕事である。SPEIGELの情報によれば、ウィーンの大学の検査技師はデータを操作した。

...
Scienceの該当記事によれば、この後、論文取り下げをめぐって、Hugo Rüdiger名誉教授が抵抗中。とはいえ、もはや2本の論文の信憑性は失われている。

ただし、2本の論文が消し飛んだとしても、携帯電波機器による高周波の電磁場の人体に対する影響がないと言えるわけではないようだ。たとえば...
[START INS LEBEN via >2008-08-26 - 食品安全情報blog [BfR]人生のスタート 赤ちゃんや胎児や繁殖能力に与える環境からの影響 ]

MACHEN MOBILFUNKFELDER UNFRUCHTBAR?
携帯電波で種なしになるのか?

Schon seit den 80er Jahren wurde in wissenschaftlichen Studien der Frage nachgegangen, ob es einen Zusammenhang zwischen elektromagnetischen Feldern im Hochfrequenzbereich und der männlichen Fruchtbarkeit gibt. Zusammenfassend kann hierzu gesagt werden, dass für hochfrequente elektromagnetische Felder der unterschiedlichsten Quellen (z. B. Radar, Diathermiegeräte, Mobilfunk, etc.) ausschließlich thermische, also wärmebedingte Wirkungen auf männliche Geschlechtsorgane nachgewiesen wurden. Unterhalb der Grenzwerte, und somit ohne thermische Effekte, können fruchtbarkeitsschädigende Einflüsse der Felder aus dem vorliegenden Wissen nicht abgeleitet werden.

既に1980年代から、高周波の電磁場と男性の繁殖力の関係について、科学的研究がなされてきた。それらの研究をまとめると、様々な電磁場(レーダー、ジアテルミー[高周波治療器], 携帯機器ほか)の高周波の熱の影響のみ、すなわち男性の性器に対する熱の影響は示されていると言える。限界値以下であるため、熱の効果を除けば、生殖能力への有害な影響は、利用可能な知識からは導けない。

Bei Anwendung neuer Kommunikationstechnologien, wie zum Beispiel WLAN, muss damit gerechnet werden, dass die mobilen Sender verstärkt im Bereich des Unterbauches platziert werden (z. B. Laptop auf den Knien). Über die zu erwartenden „spezifischen Absorptionsraten“ (SAR) in den betreffenden Geweben liegen keine belastbaren Daten für eine Risikoabschätzung vor. Deshalb werden im Rahmen des Deutschen Mobilfunk Forschungsprogramms (DMF) hierzu Forschungsprojekte durchgeführt. Die Bewertung der Ergebnisse unter Einbezug des nationalen wie internationalen wissenschaftlichen Kenntnisstandes wird nach Abschluss des DMF voraussichtlich 2008 erfolgen.

たとえばWLANのような、新しい通信技術の利用では、膝の上のノートPCのように、モバイル通信機器が下腹部に近いところで利用されるという事実を考慮に入れる必要がある。特定吸収率(SAR)について、リスク評価のために使えるデータは現在、存在しない。従って、ドイツ携帯機器研究計画(DMF)の完了が待たれる。国内的ならびに国際的な科学水準の知識に基づく結果の評価は、2008年のDMFの完結後になる。
もうしばらく、研究の推移を待ってからというところ。

posted by Kumicit at 2008/08/30 07:17 | Comment(2) | TrackBack(0) | News | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
携帯の電磁波によるDNA損傷研究がねつ造だったという容疑は晴れた模様です。先日発表されたAUVAレポートでしょうか。ピッツバーグ大デービス博士の米国上院議会の証言動画ビデオをご覧ください。

「電磁波でDNA損傷の研究公表を産業界が妨害」告発・爆弾証言(米国議会公聴会
http://ameblo.jp/kitakamakurakeitaing/entry-10360551692.html

ケータイはズボンのポケットに入れるな」
携帯電話で精子減少の新データ
http://www.mynewsjapan.com/reports/1091
Posted by 新研究ほか at 2009/10/17 17:08
>携帯の電磁波によるDNA損傷研究がねつ造だったという容疑は晴れた模様です。
>先日発表されたAUVAレポートでしょうか

といえるでしょうか?
AUVAレポートを読むと、REFLEXでデータ偽造と
名指しされたHugo Rüdigerが、AUVAレポートの
中にも登場しています。
AUVAプロジェクトの報告書ドイツ語原本にRudigerは直接の関与者としては登場していないようです。
しかし、英文の概要版には写真付で登場していますので、このプロジェクトに直接もしくは間接的に関与していると推定できます。

直接もしくは間接的に関与したAUVAプロジェクトでもって、REFLEXの偽造が晴れた とは言い切れないでしょう。
Posted by bemsj at 2009/10/29 05:50
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