2008/12/22

ほぼ無名の創造論者Dr. Ariel A. Rothの創造論本

創造論を教義とするキリスト教宗派のひとつSeventh Day Adventists(SDA)の傘下の Seventh-day Adventist Loma Linda Universityの中に、研究人員10名程度の小さな創造論研究所Geoscience Research Institute(GRI)というのがある。ここの元所長であり、機関紙Originの編集人を23年間つとめたのがジュネーブ生まれの創造論者であり動物学者であるDr. Ariel A. Rothである。"若い地球の創造論"ミニストリAnswers in Genesisによれば、生物学でPh.DをUniversity Michiganで取得しており、反進化論者としては珍しく生物系である。ネタとして楽しめるような珍説も出しておらず、創造論者の中では無名に近い。

そのAriel A. Rothが1998年に出版した"ORIGINS"という創造論本の日本語版、2006年に日本のSeventh Day Adventists傘下の出版社である福音社が出した。価格はなんと6000円である。これには、ミシガン州在住の創造論者である長谷川医師もお怒りである。そんな本を、誰かが間違って買って古書店に売り払ったのか、保存状態の良いものが、神田の古書店のひとつ明倫館に3000円であったので、買ってみた。

1996年という出版時点を考えてもネタ的に目新しいものはなく、オリジナルの珍説もなく、基本的には、「Mark Isaakの創造論者の主張」が対応済みな主張の寄せ集め。Geoscience Research Institute(GRI)がほとんど存在も知られていない理由のわかる一冊だった。

一応、お約束ネタについての立場だけは見ておくと....

  • 「太陽系は6000歳だが、宇宙は135億歳」あるいは「宇宙は恒星からの光も含めて6000年前に創造された」の両論併記:
    創造週に関してしばしば提起される問題の一つは、遠い星からの光が届くのにかかる時間の長さに関するものです。晴れた夜、望遠鏡なしでも、かすかに見ることができるアンドロメダ星雲は、その光が我々のもとに届くのにはおおよそ200万年かかります。もし星が数千年前の第4日目に造られたのなら。どのようにして我々はその光をすでに見ることができるのでしょうか。光が我々のもとに届くのに10億年もかかる程遠くの星もあるというのに? 星は創造週のはるか以前に造られたと提案することがその問題を解く一つの方法です。別の提案に、神は数千年前の最近に星を造られたのであろうが、すでに燦然と輝きを放つ光が地球に達している状態で完成しており、人は始めからその光を見て楽しうことができたのだ、という考え方もあります。[p.338]
    「光も含めて創造」は昔は流行っていたが、今は破棄された説。哲学的には合理的だが、気持ちが悪いらしい。しかし、Dr. Ariel A. Rothは気にしないようだ。

  • 創造論者は一般に最初の概念(小進化や小突然変異)は受け入れますが、第二の概念(大進化や大突然変異)は否定します。[p.98]
    これは標準的な創造論者。Answers in Genesisが「見た目ではなく、遺伝子レベルの変化の大きさ」という表現をとるのに対して、シンプル。
  • 聖書は現在とは幾分異なっていた洪水前の地球を記しています。おそらく雨がなかったようです。しかし河川を含めて十分な湿気がありました。[p.223]
    どうでもいいネタで、Answers in Genesisは放棄したネタだが、Institute for Creation Researchなど老いたる創造論ミニストリには残っている。
  • 創造論者は洪水時には種の数は少なかったであろうと仮定します。洪水以降の制約限定された変異が理由で、種レベルで最もありそうですが、箱舟に保存された種の数よりももっと多くの種の変種が現在の世界に存在するでしょう。[p.224]
    これは標準的な"若い地球の創造論者"のポジション。これがあるので、小進化がありになり、自然選択による種形成も受け入れることになる。
  • 大洪水を起こした水は、洪水前の地球上にすでに存在していたようです。その大部分が洪水前の海に。「淵の源」にいくらか、そして大気中に少量あったのでしょう。[p.229]

    創造論者は大洪水説のための多くのモデルを提案しています。そして、注意すべきことは、それぞれのモデルが仮のものと考えられていると述べることです。一般に、モデルは3つの広範囲のカテゴリの中に入ります。1) 洪水時における大陸と大洋の交換、2) 地球の収縮と膨張、3) 洪水中の大陸の沈下と続いて起こる大陸の隆起。これらを組み合わせたモデルと、また別の他のモデルも可能です。[p.226]

    Austin SA et al: "Catastrophic plate tectonics: a global flood model of earth history", Proceedings of the third International Conference on Creationism, pp.609-621, 1994.
    Baumgardner JR: "Computer modeling of the large-scale tectonics assicuated with the Genesis flood", Proceedings of the third International Conference on Creationism, pp.49-62, 1994.
    Baumgardner JR: "Runaway subduction as the driving mechanism for the Genesis flood", Proceedings of the third International Conference on Creationism, pp.62-75, 1994.
    地球外に水源を求めない説のみを列挙。
これらのうち、最後の"ノアの洪水"の水源については、少なくとも2007年10月まではGeoscience Research Institute(GRI)は彗星を衝突させて水源にしようとしていた:
It is possible that more water was added during the flood by collisions of one or more comets, which appear to be made largely of water.
洪水の期間にひとつかそれ以上の彗星が衝突して、水を追加したかもしれない。彗星はほとんどが水である。
FREQUENTLY ASKED QUESTIONS ABOUT THE GENESIS FLOOD (Archive.org 2007/10/22)]
もちろん、笑えることに、地球全体を厚さ1cmで覆い尽くすとすると、5兆トン、直径20kmくらいの彗星核が必要なこと。同一質量の岩石だと直径10km以上になる。衝突速度に依存するが、このサイズだと6500万年前と推定されるChicxulub Craterを形成した隕石衝突クラスの被害が出そう。すなわち、全地球的地震・急激な気温上昇・数年にわたり闇に閉ざされる地球など。

その他、全体としてDr. Ariel R. Rothの本は1998年という出版時期を考えても、かなり古びている。それを今更、日本語にしても、ネタにもならない。役に立つとしたら、Geoscience Research Institute(GRI)がカビが生えたネタを抱えていることの確認のみ。
タグ:創造論
posted by Kumicit at 2008/12/22 09:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | Creationism | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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