2009/03/03

やっぱり人間の心は創造論を信じるような実装になっている

人間は自然界を目的論で説明し、ランダムな現象に必然的因果関係を求め、進化論よりも創造論を信じる傾向があるらしい。

  • 目的論を語る子供たち (2006/11/13)
    Kelemen and DiYanni[2005]は、英国の児童を調査して、「生物および非生物の自然界の事物について、人工物のような目的機能の説明をつくり、動物と人工物の起源としてインテリジェントデザインを支持する傾向があること」を見つけている

  • When seeing IS believing (2008/10/11)
    人間の精神は、世界はランダムであると考えるよりも、神秘的で目に見えない力が秘かに働いていると信じたがる。Whitsonは次のように書いている「あらゆるデータに、人々は誤ったパターンを見出し、株式市場にトレンドを見出し、なじみの人間に陰謀を見出す。コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める。」をコントロールのもとにおくことができる。

  • 人間の心は進化論を理解しにくいようになっている? (2008/11/30)
    Dr Justin Barrettは、「これは両親や教師から何を言われようとも、子供たちが進化論より創造論を信じる傾向があることを意味する。人類学者たちは、ある社会の子供たちは宗教教育を受けなくても、神を信じている。子どもたちは通常かつ自然に発達させた心により、神による創造やインテリジェントデザインを信じるようになる。これに対して、進化論は人間の心には不自然であり、理解するのが難しい」と述べた。

その傾向は、Religious Rightにもちろん見られる:

  • Unguided! Unguided! Unguided! (2006/03/18)
  • インテリジェントデザインとハガル (2008/08/04)
    Uncommon DescentのThomas Cudworthは次のように書いている「進化が神の制御のもとにないなら、神が地球とその上の居住者のために将来必要なものを与えるという、摂理の概念とは相いれない。たとえば、神はハガル[創世記16章: Abrahamとの間にIshmaelをもうけた女性]が構成員である人類が原始の海から出現することすら保証できないので、ハガルが砂漠で必要とするものを準備できない。」
と同時に、Leftistたちにも見られる
そして、「自然選択とランダムな突然変異による進化」を嫌う創造論者たちとLeftistたちは、同じような形式で、進化論を批判する:
以上を見てくると、反進化論という"情念"は、キリスト教やイスラム教あるいは共産主義によって人為的につくられたものではなく、そもそも人間の思考の実装に基づくもとのではないかと思える。

"目的論を語る子供たち"を研究したBoston Universityの心理学者Deborah Kelemenが新たに行った研究は、それを示唆している。

==>Deborah Kelemen and Evelyn Rosset: "The Human Function Compunction: Teleological explanation in adults", Cognition, 111(1), 138-143, 2009

NewScientistによれば、Deborah Kelemenは次ぎような実験を行った:
To see whether education erases teleological tendencies or whether they instead represent our brain's default mode, Kelemen and colleague Evelyn Rosset presented 230 university students with various teleological statements, such as:

  • Earthworms tunnel underground to aerate the soil
  • Mites live on skin to consume dead skin cells
  • The Sun makes light so that plants can photosynthesise
  • Earthquakes happen because tectonic plates must align

Students saw a sentence flash onto a computer screen and had either 5 or 3.2 seconds to answer true or false. A third group had no time limit.

To make sure students were paying attention and could read quickly, the researchers threw in some obviously true statements: "Flowers wilt because they get dehydrated" or "People buy vacuums because they suck up dirt", for example.

教育によって目的論な傾向が消えているのか、あるいは我々の脳のデフォルトモードを見せるのかを調べるために、Deborah Kelemenと共同研究者Evelyn Rossetは、230名の大学生に次のような目的論な文を見せた:
  • 土壌に空気を通すために、ミミズは地下にトンネルを掘る
  • 死んだ皮膚細胞を消費するために、ダニは皮膚上で暮らす
  • 植物が光合成できるように、太陽は光を放射する
  • 地殻プレートを調整するために、地震が起きる

    学生たちは、制限時間5秒と制限時間3.2秒と制限時間なしの3つ条件のグループに分けられて、コンピュータ画面上に表示された分が正しいか間違っているか判定する。

    学生たちがちゃんと注意を払って、速読できているか確認するために、自明に正しい文も混ぜらていた。たとえば「花が水不足になると、花は弱る」や「人々は埃を掃除するために掃除機を買う」など。

    [Ewen Callaway: "Humans may be primed to believe in creation" (2009/03/02) on NewScientist]
  • そして、その結果は....
    A first round of experiments suggested that adults make more teleological mistakes when pressed for time than when not. Yet Kelemen and Rosset also noticed that no matter how much time they had, test subjects tended to endorse false statements implying that the Earth is designed and maintained for life. "The earth has an ozone layer in order to protect it from UV rays", for instance.

    実験第1ラウンドでは、制限時間が短いと成人は目的論な誤りを犯しやすくなることを示した。しかし、Kelemen and Rossetは、制限時間にかかわりなく、地球が生命のためにデザインされ維持されていることを意味する誤った文を正しいと判断する傾向があることを見出した。たとえば「地球は紫外線防護のためにオゾン層を持っている」

    A second round of tests with a new group of students added more biological and geophysical questions to probe these inclinations further. Kelemen and Rosset also asked volunteers about their religious beliefs.

    新たなグループの学生たちによる実験第2ラウンドでは、このような傾向を徹底調査するために、生物学および地球物理学についての文をより多く加えられた。Kelemen and Rossetは学生たちの宗教についても質問した。

    People continued to agree with false teleological statements, particularly those that endorsed an Earth intended for life. But non-believers were just as likely to make these errors as religious students, they found.

    学生たちは、やはり、誤った目的論な文、特に地球が生命のために存在する文を正しいと判断した。しかし、Kelemen and Rossetは、宗教信仰を持つ学生と無信仰な学生に差異がないことを発見した。

    Education goes only so far in extinguishing mistaken beliefs about the physical world, Keleman says. "It suggests that we're quite explicitly failing in science education, certainly with these undergraduates."

    Kelmanは言う「教育は物理世界について誤った信条を消せていない。確かにこれらの学生について、理科教育は完全に失敗していることを示している」と。

    [Ewen Callaway: "Humans may be primed to believe in creation" (2009/03/02) on NewScientist]
    この結果の意味するところを、Yale Universityの心理学者Paul Bloomは次のように述べている:
    "What her work suggests is that the creationist side has a huge leg up early on because it fits our natural tendencies," says Paul Bloom, a psychologist at Yale University. "It has implications for why most people on earth are creationists, I think."

    For this reason, it's not surprising that non-religious, college-educated adults fall back on purpose-seeking explanations. Many people have little understanding of evolution and instead view it as a cultural belief, thinking: "'I'm a good secular liberal, I'm no yokel, I believe in Darwin,'" Bloom says.

    「Deborah Kelemenの研究成果が示唆するのは、創造論は我々の自然な傾向にあっているので、創造論サイドは最初から有利になっているということである。それが、大半の人々が創造論者である理由となっている。なので、宗教的ではない、大学で教育を受けた成人が、目的論な説明に頼ろうとするのは不思議なことではない。多くの人々は、進化論をほとんど理解しておらず、進化論を文化信条として見ており、『私は世俗リベラルである。私は田舎者ではない。私はダーウィンを信じる」と考えている」

    [Ewen Callaway: "Humans may be primed to believe in creation" (2009/03/02) on NewScientist]
    Deborah Kelemenの研究成果は「人間の脳は実装上、創造論を信じるようになっているらしい」ことが示しているようだ。

    これは、キリスト教やイスラム教の勢力の弱い日本においても、何らかの形式の創造論を信じる人々がマジョリティになる可能性があることを示唆している。


    posted by Kumicit at 2009/03/03 01:10 | Comment(3) | TrackBack(0) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
    この記事へのコメント
     ボストンの大学生が被験者のようですが、キリスト教社会で育ったら、子供の頃から潜在意識に創造論的物語がすりこまれているでしょう。中国で同じ実験をすべきです。
     また「目的論は脳に実装されている。」は言い過ぎ。「知的な生物は、様々な事物の間に因果関係を想像する能力がある。」くらいが正しい。因果関係を想像する方向性として、幼少より刷り込まれた創造論的世界観がホイホイと顔を出す。
    Posted by アーサー at 2009/03/03 16:03
    おいおい見ていくことにします:

    科学への抵抗感が子供の頃に起因するという研究のレビュー論文:
    http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/316/5827/996
    Paul Bloom and Deena Skolnick Weisberg: "Review -- Childhood Origins of Adult Resistance to Science", Science 18 May 2007: Vol. 316. no. 5827, pp. 996 - 997, DOI: 10.1126/science.1133398

    創造論を信じる理由も同様とするBloom and Weisbergの記述に対する疑問:
    http://scienceblogs.com/purepedantry/2007/05/that_is_not_how_to_argue_for_s.php
    Jake Young: "That is NOT how to argue for science" (2007/05/23) on PurePedantry

    Posted by Kumicit 管理者コメント at 2009/03/07 21:57
    私もアーサーさんの意見に同感です。
    ただ非キリスト教徒の日本人であっても、幼い時から周りが工業製品だらけで、科学に関する子供向けの読み物も、目的論的表現で書かれているので、米欧諸国と似た結果が出る可能性は否定できませんが。
    ただ多くの日本人にとって、伝統的な感覚からすると、キリスト原理主義者やイスラム教徒の大多数が、科学の文脈においても、進化論を否定したり、ノアの洪水が実際に起こったと信じたりする感覚を、理解し難いと思います。
    (ただ進化論を本当に科学的に理解している人は日本でも少ないでしょうが)

    何年前でしたか、街宣車に乗った外国人が街頭で伝道活動の演説をしていました。
    下手くそな日本語でしたが、よく聞いてみると、
    "七夕祭りは嘘つきです。織り姫と彦星は星です。天の川は星です。七夕祭りは非科学的です。"
    と確かに言っていたのです。
    これには一緒にいた知人とともにヒきました。
    七夕祭りのお伽話を科学を同一レベルで考えるなんて発想はさすがに思いつきませんよ。
    戦前戦時中、天皇が神聖化が徹底された時も進化論が禁じられなかったそうですし、当の昭和天皇からしてダーウィニストの生物学者だったという話を聞きます。
    こうなるとやはり日本と、アブラハム系宗教文化圏とのギャップを感じざるをえません。
    Posted by 卍丸 at 2009/04/20 09:34
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