インテリジェントデザインは"God"を"Intelligent Designer"に置き換えただけだと思う人々
カリフォルニア州のFrazier Mountain高校でインテリジェントデザインの授業をしようとして裁判になっているSharon Lemburg先生(LA times,エントリ)は、創造論の"God"を"Intelligent Designer"と置換すればインテリジェントデザインだと思っていたのだろう。先生の最初の授業計画(Philosophy of Intelligent Design)はまったくの創造論。予定教材も大半が創造論。
「神が怒る」(wiki news)で有名なテレビ伝道師Pat Robertsonも、「諸君らの地域を災害が襲っても神は帰ってこない。諸君らが町から神を追放した。(If there is a disaster in your area, don't turn to God. You just rejected him from your city.)」なんてことを言うのは、"Intelligent Designer"が"God"のエイリアスだと思っているからだろう。
しかし、それらはもちろん間違いだ。1987年の米国最高裁Edwards対Aguillard裁判(Talkorigin,wiki)において、創造科学は宗教であると判断された。これを迂回するためにPhillip Johnsonたちが立ち上げたのがインテリジェントデザイン運動である。当然、迂回しようとしてして、違うものに仕立てている。さらに、Phillip Johnsonは「6日間世界創造=若い地球の創造論(エントリ)」と「ネオダーウィニズム」の二択だというから、「宇宙の年齢が数十億年」と考える人々を進化論に追いやるのだと主張している(Creator or Blind Watchmaker?,1993)。これに対応するためにも、若い地球の創造論と同じであっては意味がない。
インテリジェントデザイン運動側は創造科学との違いを主張する
インテリジェントデザイン推進組織の一つAccess Research Network(ARN)のサイトにあるFAQに「インテリジェントデザインは創造科学の別名ではないのか(Isn't Intelligent Design Another Name for Scientific Creationism)?」 というのがある。これによると:
Although intelligent design is compatible with many "creationist" perspectives, including scientific creationism, it is a distinct theoretical position. This can be seen by comparing the basic tenets of each view.
インテリジェントデザインは創造科学を含む、多くの創造論者の見方と共通性を持つが、理論的な位置づけが異なる。これはそれぞれの見方の基本的信条を比較すればよくわかる。
Legally, scientific creationism is defined by the following six tenets:
法的に、創造科学は以下の6つの信条によって定義される:
- The universe, energy and life were created from nothing.
(宇宙とエネルギーと生命は無から創造された)- Mutations and natural selection cannot bring about the development of all living things from a single organism.
(突然変異と自然淘汰では、一つの生物からすべての生物が発展することはありえない)- "Created kinds" of plants and organism can vary only within fixed limits
(創造された動植物は、限られた範囲内でのみ変化しうる)- Humans and apes have different ancestries.
(人間と類人猿は、祖先が異なる)- Earth’s geology can be explained by catastrophism, primarily a worldwide flood
地球の地質は、主として大洪水などの天変地異説によって説明できる- The earth is young--in the range of 10,000 years or so.
(地球は若く、せいぜい1万歳程度)
Intelligent design, on the other hand, involves two basic assumptions:
一方、インテリジェントデザインは2つの基本的仮定を置く:
- Intelligent causes exist.
(知的な原因が存在する)- These causes can be empirically detected (by looking for specified complexity).
これらの原因は、経験的に検出できる(指定された複雑さを探すことにより)。
"This is a very modest, minimalist position," says mathematician and philosopher William Dembski. "It doesn’t speculate about a Creator or his intentions."
「これは、まさに非常に控え目な、穏健派の位置である。インテリジェントデザインは創造者およびその意図について推測しない。」と、数学者であり哲学者であるWilliam Dembskiは言っている。
実はこれは既にウソになっている。インテリジェントデザインでも「生物は限られた範囲でのみ変化しうる=小進化はありだが、大進化はない」と言っている(エントリ)。また、インテリジェントデザインの本山たるDiscovery InstituteのCasey Luskinは、「人類の類人猿の祖先は異なる」と主張している(Human Origins and Intelligent Design, 2004)。
さらに、「創造者およびその意図について推測しない。」と言ったはずのDr. William A Dembskiは「"インテリジェント"はインテリジェントエージェントがたとえ愚かに行動したとしても、その結果を意味する。」と言いつつも、「パンダの指はデザイナーが馬鹿の証拠」と言われると、「自然の歴史において突然変異と淘汰が働いて、器官を環境に適応させる。おそらくパンダの親指はそのような適応のなのだ」とやってしまう(Intelligent Design is not Optimal Design,エントリ)。
実際の創造科学とインテリジェントデザインの違いは
- 地球の年齢は1万年程度か
- 大洪水により地球の地質を説明できるか
この2つがあると、とても大変なことになってしまう。1万光年以上遠くにある星たち、放射性元素による年代測定、めまぐるしく変化するウィルスなどに説明をつけなければならなくなる。場当たり的な説明の副作用を抑えるために、無理な説明を重ねて荒唐無稽度を高めることになる。
それでは進化論を信じない人々であっても、とてもついてこれなくなる。
しかし、インテリジェントデザインは神の証拠を求める
インテリジェントデザインと相容れない考え方に、無神論とともに有神論的進化論(Theistic Evolution, Evolutional Creationism)がある。インテリジェントデザインの主導者Phillip Johnsonや、数学担当Dr. William Dembskiは、無神論以上に有神論的進化論を嫌っている。
この有神論的進化論とは「神は自然法則と偶然を介して人間を創造した」という考え方で、「神による進化への直接介入」を想定しない。このような立場をとっていると思われるのはローマカトリックやメインラインバプテストなどで、根本主義バプテストとは商売敵なキリスト教勢力。
「インテリジェントデザインは創造科学の別名ではないのか(Isn't Intelligent Design Another Name for Scientific Creationism)?」 によれば、Dembskiは次のように述べている:
Theistic evolution takes the Darwinian picture of the biological world and baptizes it, identifying this picture with the way God created life. When boiled down to its scientific content, however, theistic evolution is no different from atheistic evolution, treating only undirected natural processes in the origin and development of life.
有神論的進化論は生物学的世界のダーウィンの絵をとって、それに洗礼を施し、この絵を神が生物を創造した絵であるとと特定する。科学的な内容を煮詰めれば、有神論的進化論は無神論の進化論と違いはなく、生命の起源と生物の発展に指示のない自然の過程のみを考える。
Theistic evolution places theism and evolution in an odd tension. If God purposely created life through Darwinian means, then God’s purpose was ostensibly to conceal his purpose in creation. Within theistic evolution, God is a master of stealth who constantly eluded our best efforts to detect him empirically. Yes, the theistic evolutionist believes that the universe is designed. Yet insofar as there is design in the universe, it is design we recognize strictly through the eyes of faith. Accordingly the physical world in itself provides no evidence that life is designed.
有神論進化論は、妙な緊張で有神論と進化論を対置する。もしも神が目的を以ってダーウィンの手段で生物を創造したのなら、神の目的は創造における神の意図を隠蔽することだということになる。神は、神を経験的に検出しようと我々の最善の努力から、自らを隠す隠密のマスターということになる。そう、有神論的進化論者は宇宙がデザインされたものだ信じている。だがそれは、デザインが宇宙にある限り、信仰の目を以ってのみ認識できるデザインなのだ。従って、物理世界それ自体は、生物がデザインされたという証拠を与えない。
インテリジェントデザインは、「神の存在を経験的に検出できる」という一点の違いによって、有神論的進化論の立場と対立する。
そして、「神の存在を経験的に検出できる」というのは研究の結果ではなく、研究の前提である。