予測不可能な現実をコントロールしようとする
昨秋、「コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める」というネタを取り上げた。
==>忘却からの帰還: "When seeing IS believing" (2008/10/11)
各紙がその関心に従って、様々な報道をしたことを紹介したが、そのひとつがこれ:
[Sharon Begley: "Feeling Powerless? Do I Have a Conspiracy Theory for You" (2008/10/02) on News Week]「陰謀論を信じれば事件の原因と動機が定まり、単なる偶発時と考えるよりも合理的だと思えるようになり、乱れて予測のつかない現実をコントロールのもとにおくことができる。」というのは、もちろん本人の認識であって、実際に現実をコントロールのもとにおけるわけではない。ただし、陰謀論を採用した場合、打倒すべき敵が特定できて、自分自身の方針は定まる。
The reason, suggest Jennifer Whitson of the University of Texas, Austin, and Adam Galinsky of Northwestern University, is that pattern perception compensates for feeling out of control in a sea of forces you do not comprehend. It balances the sense that life is random and restores the sense that you do understand what’s going on and might even be able to affect them. It can be more comforting to believe that a vast conspiracy explains, say, the stock market crash than to acknowledge that the financial system is beyond your comprehension, let alone control: conspiracy beliefs, write the scientists, give "causes and motives to events that are more rationally seen as accidents ... [in order to] bring the disturbing vagaries of reality under ... control."
その理由は、AustinのUniversity of TexasのJennifer Whitsonと、Northwestern UniversityのAdam Galinskyによれば、理解できない力で制御不可能になったという感情を、パターン認識が埋め合わせていること。パターン認識は、生命はランダムだという感覚を均衡させ、何が起きているか理解し、その事態に自分が影響を及ぼせるという感覚を回復させる。株式市場の崩壊を巨大な陰謀論で説明する方が、金融システムが自分の理解を超えていると考えるよりも安心できる。陰謀論を信じれば事件の原因と動機が定まり、単なる偶発時と考えるよりも合理的だと思えるようになり、乱れて予測のつかない現実をコントロールのもとにおくことができる。
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The human mind prefers to believe that mysterious, invisible forces are secretly at work rather than that the world is random. Whitson put it this way: "People see false patterns in all types of data, imagining trends in stock markets, seeing faces in static and detecting conspiracies between acquaintances. This suggests that lacking control leads to a visceral need for order, even imaginary order."
人間の精神は、世界はランダムであると考えるよりも、神秘的で目に見えない力が秘かに働いていると信じたがる。Whitsonは次のように書いている「あらゆるデータに、人々は誤ったパターンを見出し、株式市場にトレンドを見出し、なじみの人間に陰謀を見出す。コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める。」
代替医療を選択するとき
代替医療を選択する過程の観察記録として、こんな例がある。
==>忘却からの帰還: "HIV否定論によろめく過程" (2009/01/11)
この途中で、ホールフォード・ローフード(生食)によって娘と自分自身を守ろうとしている:
HIV否定論に自ら接近した若い母親"momma2girls82"と、HIV否定論へと引き込もうとするHIV否定論者たちのやりとり。"momma2girls82"は、
- HIV検査で陽性判定が2007年11月17日に出た
- 夫は陰性、生後3か月の娘は未検査
- 自然妊娠・自宅出産だったため、HIV検査を事前に受けていなかった
- 母乳で育てたいと思っている
ただちに、HIV否定論に自ら接近したが、2007年12月18日に娘が陰性であることがわかって、HIV否定論コミュをフェードアウト。
人々の体を常に攻撃している毒素であるというのが、もっともらしい。なので、世界中の人々が、ホールフォード・ローフード(生食)から構成される健康的な食事をとれば、誰もAIDSで死ぬことはなかったというものです。これで正しいですね?自分のせいで娘にHIVを感染させたかもしれないという状況で、自分自身の力で事態をコントロールしたがっているようにも見える。と同時に、代替案であるホールフォード・ローフードが身近であることもHIV否定論を受け入れやすくしているように見える。
私の夫はホールフォード・ローフード(生食)で育ったので、よい情報源になるでしょう。そして、私は家族が正しい食事を取れることを確実にしようと思います。
一方、昨年末(2008/12/29)にAIDS関連疾患で死亡したHIV否定論者Christine Maggioreは、HIV否定論に行くつくまでに2年程度の時間がかかっている。
[David France: "The HIV Disbelievers" (2000/08/19) on News Week]Christine MaggioreはHIV否定論によって、HIV感染という恐怖を克服したように見える。
"The basis of denial is a need to escape something that is terribly uncomfortable," says Boston College psychology professor Joseph Tecce, who has studied Holocaust deniers and AIDS dissenters. "If something is horrific, I might want to pretend it doesn’t exist."
ホロコースト否定論者とHIV否定論者を研究している、Boston Collegeの心理学教授Joseph Tecceは「否定論の基盤は、恐ろしく不快な何以下からのがれる必要性である。何かが恐れしければ、それが存在しないと偽りたがるかもしれない」と言う。
Christine Maggiore’s horrific event came on Feb. 24, 1992, when, she says, a routine blood test came back positive for HIV. She was 36 years old, single and a partner in a successful clothing wholesaler. A former boyfriend also tested positive. "I was mortified," she says. "According to the conventional wisdom, I had just foolishly and irrevocably ruined my entire life."
恐ろしい出来事は、1992年2月24日に、定期血液検査でHIV陽性と判定されたことだと、Christine Maggioreは言う。彼女は36歳の独身で、事業が成功した衣料品卸売業の共同経営者だった。昔のボーイフレンドもHIV陽性だった。彼女は「私は心を痛めました。常識に従えば、私は愚かにも、人生をまるごとダメにしてしまった」と語っている。
Maggiore was not immediately a disbeliever. Initially, the oldest child of a Los Angeles advertising executive sought the advice of doctors and planned to start treatment. But some scientific principles of the disease never added up to her. For one thing, she felt fine -- and still does. How could she have a killer virus? "There was this empirical data from my own body," she says. "I was ridiculously healthy."
Christine Maggioreは、すぐにHIV否定論者になったわけではない。最初は、医師の助言に従って、治療を始めようとした。しかし、科学の法則にしたがった病状がまったくでなかった。ひとつには、彼女はまだ健康だった。なのに、殺人ウィルスに感染しているのだろうか。「私には経験的データがあります。私は不思議にも健康です」と彼女は語っている。
Ultimately she discovered the work of Berkeley virologist Peter Duesberg, whose belief that AIDS is caused by lifestyle choices like promiscuity and drug use rather than infectious agents have long been dismissed by his peers. One spring evening in 1994, as she was sitting on a panel discussing AIDS prevention, it finally struck Maggiore that she no longer believed in the epidemic. "Being a practical person, it didn’t seem to me after investigating this that there were good reasons for me to live my life as if I were dying," she says.
最終的にChristine Maggioreは、AIDSは乱交や薬物利用のようなライフスタイルの選択によるもので感染症ではないという、同僚から否定された考えを信じる、Berkeleyのウィルス学者Peter Duesbergの著作を見出した。Christine Maggioreは、1994年の春の夜に、AIDS予防のパネルディスカッションに参加して、自分が感染を信じていないことに気づいた。「現実的な人間として、これを調べた後では、私が死にかけているかのように生きていくことの正当な理由がないように思えました。」と彼女は語っている。
HIV否定論に至る経路は個々人によって異なるので、他のHIV否定論者も同様かどうかはわからない。
ただ、"momma2girls82"が娘に感染させたかもしれないという恐怖が杞憂に終わったためにHIV否定論コミュからフェードアウトしたのに対して、Christine Maggioreは自分自身のHIV感染の恐怖を抱えていたことによりHIV否定論にはまり、そのまま宣伝者となっている。このことは「コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める」というラインにあっているように見える。