2009/06/16

NewScientist誌の掲載されたカイロプラクターによるカイロプラクティック擁護記事

カイロプラクターであり英国カイロプラクティック協会の副会長であるRichard Brownが、Simon Singhを訴えた件に関連して、New Scientistに、カイロプラクティックを擁護する記事を書いた。

その中で、カイロプラクターRichard Brownは次のように主張した:
"Many critics - including Edzard Ernst (New Scientist, 30 May, p 22) - hark back to the origins of chiropractic. This has the clear intention of suggesting that modern chiropractors cling to the 19th century idea that spinal misalignments are responsible for the majority of diseases. While a tiny minority retain this view, most are aware that such claims have long since been debunked.

Edzard Errnstを含む多くの批判者たちはカイロプラクティックの起源にまで遡る。これには、現代のカイロプラクティックが、背骨が整列しいないことが大半の病気の要因だとする19世紀の考え方を信じてると主張する意図があることが明らかだ。この見方をほんの少数のカイロプラクターは信じているが、大半はそのような主張が昔にデバンクされたと知っている。

[Richard Brown: "In defence of chiropractic " (2009/06/13) on New Scientist]
カイロプラクターRichar Brownが文中で触れているEdzard Ernstは英国ExeterにあるPeninsula Medical Schoolの代替医療の教授であり、代替医療の効果が科学的証拠によって支持されているのは5%にすぎないという研究結果を発表している。

その記事で、Edzard Ernst教授は次のように、カイロプラクターたちがカイロプラクティスの万能性を信じている調査結果を引用する:
If you find this hard to believe, here is the evidence. A 2004 survey by the UK General Chiropractic Council revealed that most chiropractors believe they can treat asthma (57 per cent), digestive disorders (54 per cent), infant colic (63 per cent), menstrual pains (63 per cent), sport injuries (90 per cent), tension headaches (97 per cent) and migraine (91 per cent). According to a 2007 survey, 69 per cent of all UK chiropractors see themselves as more than just back specialists, and 76 per cent consider Palmer's original concepts to be "an important and integral part of chiropractic".

2004年の英国General Chiropractic Councilの調査により、カイロプラクターたちが、喘息(57%)・消化障害(54%)・幼児の疝痛(63%)・月経の痛み(63%)・スポーツの怪我(90%)・緊張頭痛(97%)・片頭痛(91%)を治療できると信じていることが明らかになった。2007年の調査によれば、英国のカイロプラクターの69%がPalmerの考え方を「カイロプラクティックの重要で肝要な部分」だと回答している。

[Edzard Ernst: "What you should know about chiropractic " (2009/05/29) on New Scientist]
Richard Brownの主張に反して、Palmerのオリジナルな主張を2/3以上のカイロプラクターが支持している。この主張とは以下のようなものである:
Palmer convinced himself he had discovered something fundamental about human illness and its treatment. According to Palmer, a vital force - he called it the "Innate" - enables our body to heal itself. If our vertebrae are not perfectly aligned, the flow of the Innate is blocked and we fall ill.

Palmerは人間の病気と治療法について何か根本的なものを発見したと信じていた。Palmerによれば、"Innate"と呼ぶバイタルフォースが我々の肉体を自ら治癒させる。我々の背骨が正しく整列していないなら、"Innate"の流れがブロックされて、我々は病気になる。

[Edzard Ernst: "What you should know about chiropractic " (2009/05/29) on New Scientist]


さらに、カイロプラクターRichard Browはカイロプラクティックは危険性は他の医療と同等だと主張する:
Claims that chiropractic is dangerous overlook two recent pieces of research. One found no causative association between chiropractic manipulation and stroke. The other concluded that the incidence of stroke after chiropractic was no greater than after a consultation with a general practitioner (Spine, vol 32, p 2375, and vol 33, p S176).

カイロプラクティックが危険だという主張は直近の2つの研究を見落としている。ひとつはカイロプラクティックと脳卒中の因果関係は見いだせないというもの。もうひとつはカイロプラクティック後の脳卒中発生率は一般医の相談後の場合より大きくないこと、。

[Richard Brown: "In defence of chiropractic " (2009/06/13) on New Scientist]
カイロプラクティック後の脳卒中の発生率の数字そのものが小さいことは、Simon Singh & Edzard Ernst "Trick or Treatment"(p.177)にも記載されている。Simon Singhが問題視したのは、カイロプラクティックの首マニピュレーションによる死者が確認されていること。そして、無に等しい治療効果がリスクに見合わない点である。裁判の対象となっている記事で、Simon Singhは次のように書いている:
Laurie Mathiason was a 20-year-old Canadian waitress who visited a chiropractor 21 times between 1997 and 1998 to relieve her low-back pain. On her penultimate visit she complained of stiffness in her neck. That evening she began dropping plates at the restaurant, so she returned to the chiropractor. As the chiropractor manipulated her neck, Mathiason began to cry, her eyes started to roll, she foamed at the mouth and her body began to convulse. She was rushed to hospital, slipped into a coma and died three days later. At the inquest, the coroner declared: "Laurie died of a ruptured vertebral artery, which occurred in association with a chiropractic manipulation of the neck."

20 歳のカナダ人ウェイトレスLaurie Mathiasonが腰背痛の緩和のために1997年から1998年に21回にわたりカイロプラクターを訪れた。直前の訪問で、彼女は首のこわばりがあると言った。その夜、彼女はレストランで皿を落とすようになった。なので、彼女はカイロプラクターを再訪した。カイロプラクターが彼女の首をマニピュレートすると、彼女は叫び始め、彼女の目が回り始め、口から泡を吹き、彼女の体は痙攣し始めた。彼女は病院にかつぎこまれ、昏睡状態に陥り、3日後に死亡した。検死のとき、検死官は「Laurie Mathiasonは、カイロプラクティックの首のマニピュレーションに伴って起きた椎骨動脈の破裂により死亡した。」と述べた。

This case is not unique. In Canada alone there have been several other women who have died after receiving chiropractic therapy, and Professor Ernst has identified about 700 cases of serious complications among the medical literature. This should be a major concern for health officials, particularly as under-reporting will mean that the actual number of cases is much higher.

この症例は唯一の例ではない。カナダだけでも他に数名の女性がカイロプラクティック療法を受けた後で死亡しており、Edzard Ernst教授は医学文献の中から、700の合併症の例を特定した。これは医療当局にとって重大な懸念たるべきで、報告されていない例も考えれば、このような症例の実数は、はるかに多い。

Bearing all of this in mind, I will leave you with one message for Chiropractic Awareness Week - if spinal manipulation were a drug with such serious adverse effects and so little demonstrable benefit, then it would almost certainly have been taken off the market.

これらを心に留めた上で、私はカイロプラクティックを知る週間のために一つのメッセージを残そう。背骨のマニピュレーションが、そのような重大な副作用を持ち、大して効果がない薬品だとしたら、そんなものは、ほぼ間違いなく市場から回収されているだろう

[Original Page, Cache, 強調追加]
なお、治療効果が無に等しい点についてEdzard Ernst教授は次のように述べている:
For back pain, there is some encouraging evidence. Chiropractic manipulations have been shown in several clinical trials to be as effective as standard treatments. One needs to know, however, that standard care is not very effective for bad backs, and studies that adequately control for placebo effects tend to arrive at less positive conclusions. When my team in Exeter reviewed data from these more rigorous trials we concluded that "spinal manipulation is not associated with clinically relevant specific therapeutic effects" (Journal of Pain and Symptom Management, vol 22, p 879).

背部痛については肯定的な証拠もある。カイロプラクティックのマニピュレーションはいくつかの医療試験で通常の治療法と同程度の効果があると示されている。しかし、知っておくべきは背部痛に対する通常の治療法にほとんど効果がないことだ。プラセボを適切にコントロールした研究では、効果がほとんど見られないという結論に至ることが多い。Exterの私の研究チームは、より厳格な試験結果をレビューし、背骨マニピュレーションは特に治療効果は見られないと結論した(Journal of Pain and Symptom Management, Vol22, p.879)

[Edzard Ernst: "What you should know about chiropractic " (2009/05/29) on New Scientist]
たとえ死亡を含む重大な副作用があるとしても、その確率と治療効果が見合っているなら、その治療法を試す価値はあるかもしれない。しかし、効果が無に等しいのであれば、そのようなリスクを冒す価値はない。それがSimon Singhの論点であるが、カイロプラクターRichard Brwonはそれに反論できていない。


なお、日本では厚生労働省の通達(1991年6月28日 医事58号)で、「頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要があること」などを述べている:
[医業類似行為に対する取扱いについて (平成三年六月二八日) (医事第五八号)]

2 いわゆるカイロプラクティック療法に対する取扱いについて

近時、カイロプラクティックと称して多様な療法を行う者が増加してきているが、カイロプラクティック療法については、従来よりその有効性や危険性が明らかでなかったため、当省に「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」のための研究会を設けて検討を行ってきたところである。今般、同研究会より別添のとおり報告書がとりまとめられたが、同報告においては、カイロプラクティック療法の医学的効果についての科学的評価は未だ定まっておらず、今後とも検討が必要であるとの認識を示す一方で、同療法による事故を未然に防止するために必要な事項を指摘している。

こうした報告内容を踏まえ、今後のカイロプラクティック療法に対する取扱いについては、以下のとおりとする。

(1) 禁忌対象疾患の認識

カイロプラクティック療法の対象とすることが適当でない疾患としては、一般には腫瘍性、出血性、感染性疾患、リュウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等とされているが、このほか徒手調整の手技によって症状を悪化しうる頻度の高い疾患、例えば、椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、側彎症、二分脊椎症、脊椎すべり症などと明確な診断がなされているものについては、カイロプラクティック療法の対象とすることは適当ではないこと。

(2) 一部の危険な手技の禁止

カイロプラクティック療法の手技には様々なものがあり、中には危険な手技が含まれているが、とりわけ頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要があること。

(3) 適切な医療受療の遅延防止

長期間あるいは頻回のカイロプラクティック療法による施術によっても症状が増悪する場合はもとより、腰痛等の症状が軽減、消失しない場合には、滞在的に器質的疾患を有している可能性があるので、施術を中止して速やかに医療機関において精査を受けること。

(4) 誇大広告の規制

カイロプラクティック療法に関して行われている誇大広告、とりわけがんの治癒等医学的有効性をうたった広告については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十二条の二第二項において準用する第七条第一項又は医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第六十九条第一項に基づく規制の対象となるものであること。
このうち「(3) 適切な医療受療の遅延防止」の指摘が、カイロプラクターRichard Brownの主張に対抗する形になっている。
Our critics also make the mistake of equating chiropractic with spinal manipulation, especially with regard to treating non-spinal conditions such as asthma. This demonstrates a lack of understanding of the fact that chiropractors utilise a range of treatments, including postural advice, reassurance and exercise.

カイロプラクティックの批判者たちは、特に背骨と関連のない喘息などについて、カイロプラクティックと背骨マニュピレーションを同一視する。これはカイロプラクターが姿勢についての助言や安心や運動など幅広い治療法を使うことについて、批判者たちが知らないことを示している。

[Richard Brown: "In defence of chiropractic " (2009/06/13) on New Scientist]
喘息が「姿勢についての助言や安心や運動など」で決着がつくわけではないし、発作によっては死に至る危険性も持っている。Richard Brownの主張が正しいとしても、「適切な医療受療の遅延」の問題がある。


タグ:Quackery
posted by Kumicit at 2009/06/16 08:48 | Comment(0) | TrackBack(1) | Quackery | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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