2006/02/02

Dembskiの情報量保存則

インテリジェントデザインの数学担当Dr. William A Dembskiは1997年に「Intelligent Design as a Theory of Information(情報理論としてのインテリジェントデザイン)」という記事で、「情報量(CSI)保存則」を提唱している。もちろん、誰も相手にしていないが...
Dembskiの言う「情報量」とはもちろん、Dembski用語「CSI=Complex Specified Information(複雑な指定された情報」のこと。Dembskiによる定義は「自然法則の必然でも、偶然でも説明できない、意味のある情報」である。"意味"を数学的に定義しているわけではないので、結局は「科学で説明できなくて、意味ありそうだと人が経験的に思えるもの」でしかない。

で、CSIが保存することを証明する論理は次の通り:
To see that natural causes cannot account for CSI is straightforward. Natural causes comprise chance and necessity (cf. Jacques Monod's book by that title). Because information presupposes contingency, necessity is by definition incapable of producing information, much less complex specified information. For there to be information there must be a multiplicity of live possibilities, one of which is actualized, and the rest of which are excluded. This is contingency. But if some outcome B is necessary given antecedent conditions A, then the probability of B given A is one, and the information in B given A is zero. If B is necessary given A, Formula (*) reduces to I(A&B) = I(A), which is to say that B contributes no new information to A. It follows that necessity is incapable of generating new information. Observe that what Eigen calls "algorithms" and "natural laws" fall under necessity.

「CSIが自然の原因で説明できないこと」をわかるのは簡単だ。自然の原因は(Jacque Monodの本の表題である)偶然と必然から構成される。情報は偶発性を前提とするので、必然は情報の、言うまでもなく"複雑な指定された情報"の、生産を定義上できない。そこに情報があるためには、複数の有効な可能性のうち、一方が現実化され、それ以外が除外されなければならない。これは偶発性だ。しかし、もしある結果Bが前提条件Aによって必然的に与えられるなら、Aが与えられたときのBの確率は1であり、Aが与えられたときのBの情報量はゼロである。もしBがAから必然的に与えられるなら、公式はI(A&B)=I(A)に還元される。すなわちBは新しい情報をAに与えない。Manfred Eigenが"アルゴリズム"と"自然法則"と呼ぶものは"必然"に帰着することがわかる。

何のことやらわからないのは日本語訳のせいではない。なので、整理すると

  • Aが起きたら、必ずBが起きるなら、Bは新しい情報ではない。
  • 自然法則による必然とは「Aが起きたら、必ずBが起きる」というものである
  • よって、自然法則による必然からは、新しい情報は生み出されない
  • 従って、情報は"偶発性"(contingency)からしか生み出されない

これにより、DembskiはCSIの源泉として"自然法則による必然"を排除する。(ここでDembskiは"偶発性"という単語を使い、"自然法則に従う偶然"と区別する。)

自然の原因は"自然法則による必然(necessity)"と"偶然(change)"であるので、続いて、Dembskiは偶然(Chance)からCSIが生み出せないと言う:
Since information presupposes contingency, let us take a closer look at contingency. Contingency can assume only one of two forms. Either the contingency is a blind, purposeless contingency--which is chance; or it is a guided, purposeful contingency--which is intelligent causation. Since we already know that intelligent causation is capable of generating CSI (cf. section 4), let us next consider whether chance might also be capable of generating CSI. First notice that pure chance, entirely unsupplemented and left to its own devices, is incapable of generating CSI. Chance can generate complex unspecified information, and chance can generate non-complex specified information. What chance cannot generate is information that is jointly complex and specified.

情報が偶発性を前提とするので、偶然のより詳細な観察をしよう。偶発性には2つの形式の1つしか仮定できない。ひとつは、盲目の目的のない偶発性すなわち偶然。もうひとつは指導された目的のある偶発性、すなわちインテリジェントな原因である。既に、インテリジェントな原因がCSIを生産可能であることがわかっているので、"偶然"がCSIを生産できるか考えてみよう。何も補給されなずに、それ自身で勝手に働くように放置された純粋の偶然は、CSIを生産できない。"偶然"は複雑な指定されない情報と、複雑でない指定された情報を生産できる。偶然が生産できないのは、複雑かつ指定された情報である。

これまたわかりにくい。まず、インテリジェントな原因については、Dembskiは「偶然にこぼれたインクと、誰かが万年筆で紙に文字を書く」という例で説明している。少なくとも、人が文章を書くことは"意味のある情報"の生産ではあるだろう。

次に、「"偶然"は、複雑かつ指定された(意味のある)情報=CSIは作れない」について。これは、もともとCSIの定義が「"偶然"では説明でなきない」ことになっているので定義上自明。

で、整理すると、「自然法則の必然でも、偶然でも説明できない、意味のある情報(CSI)」は「自然法則の必然でも、偶然でも生産できない」と言っているだけ。いやあ、まったく数学と哲学を専門とするDembskiならではの、むつかしい表現だ。

これにより、次のことが言えるのだそうだ:
Natural causes are therefore incapable of generating CSI. This broad conclusion I call the Law of Conservation of Information, or LCI for short. LCI has profound implications for science. Among its corollaries are the following: (1) The CSI in a closed system of natural causes remains constant or decreases. (2) CSI cannot be generated spontaneously, originate endogenously, or organize itself (as these terms are used in origins-of-life research). (3) The CSI in a closed system of natural causes either has been in the system eternally or was at some point added exogenously (implying that the system though now closed was not always closed). (4) In particular, any closed system of natural causes that is also of finite duration received whatever CSI it contains before it became a closed system.

従って、自然の原因ではCSIを生み出せない。この明白な結論は私が情報量保存則あるいは略してLCIと呼ぶものだ。LCIは科学に深い影響を与える。以下は当然の帰結である:

  1. 自然に起因する閉鎖系では、CSIは、一定のままであるか、減少する
  2. CSIは自発的に発生することができないか、内生的に起因しないか、(生命の起源の研究で使われる用語である)自己組織化できない。
  3. 自然に起因する閉鎖系のCSIは、永続して系にあるか、ある時点で外因的に加えられたか(系は現在は閉じているが、常に閉じていたわけではない)である
  4. 特に、有限の期間存在する、自然に起因する閉鎖系は、その系が閉鎖系になる前に受け取ったCSIを含む

....
CSI demands an intelligent cause. Natural causes will not do.
CSIにはインテリジェントな原因が必要である。自然の原因では創られえない。

むつかしげに書いているが、「CSIは神様が自然界の外から補給したものだ」ということ。

言い直すと、「自然法則の必然でも、偶然でも説明できない」=「科学で説明できない」ものは「神様のせいなのさ」という"God of the gaps"論。

posted by Kumicit at 2006/02/02 00:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | Dembski | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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