2006/02/03

Dembski用語CSIをわかっていないID理論家Dr. Stephen Meyer

インテリジェントデザインの数学担当Dr. William DembskiのID理論用語CSI (Complex Specified Infromation = 複雑な指定された情報)。これの定義は「自然法則の必然でも偶然でも説明できない、複雑で意味のある情報」である。

しかし、Meyerはその定義をわかっていないらしい。ふつうに「複雑かつ機能のある情報」だと思っているようなのだ。既に、自然法則で説明がついているかどうかは関係なく、"複雑"なものを"CSI"と呼んでいるのだ。


Alan Gishlick, Nick Matzke, and Wesley R. Elsberry: Meyer's Hopeless Monsterによる
Stephen C. Meyer:The origin of biological information and the higher taxonomic categories, Proc. Bio. Soc. Washington, 11,213-239, 2004
に対する批判によれば、Dr. Stephen C. Meyerはカンブリア爆発に関してCSI(Complex Specified Information=複雑で指定された情報)という言葉で論じているが、そもそも彼はCSIがわかっていないようだ。Gishlickらは次の4点を指摘する:

  1. Dembski用語の"複雑で指定された情報(CSI)"の定義には、"複雑"で、"指定された(機能がある)"という普通の意味に加えて、"確率的にありえない"ことが含まれている。しかし、Meyerはふつうに"複雑で機能がある"という意味で使っている。
  2. CSIを検出するDembskiの説明フィルタはそもそも機能しない[Elsberry and Shallit, 2003]。機能するとしても、Meyerが使ったことが示されていない。
  3. Meyerはカンブリア爆発がCSIにおける注目すべきジャンプだと言っているが、Dembskiの「一般的な偶然を排除する議論」をしていなければ、CSIの意味でも実証したことにならない。
  4. Meyerは新しいCSIの量を評価するには、出現した新しい種類の細胞の数を数えればよいといっている。しかし、Dembskiはそんなことはまったく言っていない


MeyerのCSIに関する記述を見てみる

Stephen C. Meyer:The origin of biological information and the higher taxonomic categories, Proc. Bio. Soc. Washington, 11,213-239, 2004
にあるCSIとカンブリア爆発の記載部分を見てみよう。

The Cambrian Information Explosion(カンブリア情報爆発)

The Cambrian explosion represents a remarkable jump in the specified complexity or “complex specified information” (CSI) of the biological world. For over three billions years, the biological realm included little more than bacteria and algae (Brocks et al. 1999). Then, beginning about 570-565 million years ago (mya), the first complex multicellular organisms appeared in the rock strata, including sponges, cnidarians, and the peculiar Ediacaran biota (Grotzinger et al. 1995). Forty million years later, the Cambrian explosion occurred (Bowring et al. 1993). The emergence of the Ediacaran biota (570 mya), and then to a much greater extent the Cambrian explosion (530 mya), represented steep climbs up the biological complexity gradient.

カンブリア爆発は、生物界における"指定された複雑さ"あるいは"複雑な指定された情報(CSI)における注目に値するジャンプである。30億年以上にわたって、生物界はバクテリアと藻類くらいしかいなかった[Brocks et al.1999]。その後、5億7000万年前から5億6500万年前の地層から、海綿や刺胞動物たエディアカラ生物群を含む最初の多細胞生物が見つかる[Grotzinger et al. 1995]。エディアカラ生物群の出現(5億7000万年前)と、それよりもはるかに大きなカンブリア爆発(5億3000万年前)は、急峻な生物の複雑化を示している。

「"複雑な指定された情報(CSI)」と言っているだけで、何も示されない。まあ、ここは出だしなので、こんなもの。

One way to estimate the amount of new CSI that appeared with the Cambrian animals is to count the number of new cell types that emerged with them (Valentine 1995:91-93). Studies of modern animals suggest that the sponges that appeared in the late Precambrian, for example, would have required five cell types, whereas the more complex animals that appeared in the Cambrian (e.g., arthropods) would have required fifty or more cell types. Functionally more complex animals require more cell types to perform their more diverse functions. New cell types require many new and specialized proteins. New proteins, in turn, require new genetic information. Thus an increase in the number of cell types implies (at a minimum) a considerable increase in the amount of specified genetic information. Molecular biologists have recently estimated that a minimally complex single-celled organism would require between 318 and 562 kilobase pairs of DNA to produce the proteins necessary to maintain life (Koonin 2000). More complex single cells might require upward of a million base pairs. Yet to build the proteins necessary to sustain a complex arthropod such as a trilobite would require orders of magnitude more coding instructions. The genome size of a modern arthropod, the fruitfly Drosophila melanogaster, is approximately 180 million base pairs (Gerhart & Kirschner 1997:121, Adams et al. 2000). Transitions from a single cell to colonies of cells to complex animals represent significant (and, in principle, measurable) increases in CSI.

カンブリア紀の動物とともに出現した新しいCSIの量を推定するひとつの方法は、出現した新しい細胞のタイプを数えることである[Vakentine 1995:91-93]。現代の動物についての研究から先カンブリア紀後期に出現した海綿は、たとえば5種類の細胞タイプを必要としており、カンブリア紀に出現した、さらに複雑な動物(たとえば節足動物)は50種類以上の細胞タイプを必要としている。機能的にもっと複雑な動物は、その多様な機能を実現するために、さらに多くの細胞タイプを必要とする。新しい細胞タイプは多くの新しくかつ特別のタンパク質を必要とする。従って、細胞タイプの増加は(少なくとも)少なからぬ量の"指定された"遺伝情報を必要とする。分子生物学者たちは最近、最低限の複雑さを持つ単細胞生物が、生命を維持するために必要なタンパク質を作るために318〜562 KベースのDNA塩基対が必要であると推定した[Koonin 2000]。より複雑な単細胞生物は数百万の塩基対が必要になるかもしれない。三葉虫のような複雑な節足動物を維持するために必要なタンパク質をつくるには、さらに桁違いのコード列が必要となるだろう。現在の節足動物であるショウジョウバエのゲノムの大きさはおよそ1億8000万塩基対である[Gerhart & Kirschner 1997,p121, Adams et al. 2000]。単細胞から細胞集団、そして複雑な動物への遷移は、著しい(そして原理的に測定可能な)CSIの増加を示す。
文献をサイトしつつ、情報量の増大を述べ立てている。
そして、確かに「CSIの量を推定するひとつの方法は、出現した新しい細胞のタイプを数えることである」と言っている。その細胞がDembskiの定義に従って、自然法則の必然および偶然によって説明されないことを示す議論はまったくない。

本来、問題なのは、その情報が自然法則による必然および偶然で説明できるかどうかである。しかし、そのことは気にならないらしい。すべてをCSIと呼んでしまったら、それはDembskiの定義上はインテリジェントデザイナーによる補給以外にありえなくなる。それでは、何でも神様のせいにできてしまう。それでは宗教でしかない。宗教といわれないために、Dembskiが提示したCSIなのだ。しかし、Meyerはまったく、Dembskiの定義を無視している。

ついでだが、Stephen Meyerがサイトしている[Valentine 1995]について:
Valentine, J. W. 1995. Late Precambrian bilaterians: grades and clades. Pp. 87-107 in W. M. Fitch and F. J. Ayala, eds., Temporal and mode in evolution: genetics and paleontology 50 years after Simpson. National Academy Press, Washington, D.C.)

ブログ"Panda's Thumb"の記事「Nick Matzke:The DI Strikes Back (2004/10/12)」のコメントによれば[Valentine 1995]には:
Cell-phenotype numbers in living phyla, and a model of cell-phenotype number increase, suggest an origin of metazoans near 600 my ago, followed by a passive rise in body-plan complexity. Living phyla appearing during the Cambrian explosion have a Hox/HOM gene cluster, implying its presence in the common ancestral trace makers. The explosion required a repatterning of gene expression that mediated the development of novel body plans but evidently did not require an important, abrupt increase in genomic or morphologic complexity.
...
At present there is no evidence of a major step in body-plan complexity during the Cambrian explosion.

生物門の細胞表現型および細胞表現型のモデルの増加は、6億年近く前に後生動物の起源と、それに続くボディプランの増加があったことを示唆する。カンブリア爆発の期間に出現した生物門はHox/HOM遺伝子集団を持っていて、共通祖先のトレースメーカーの存在を意味する。(カンブリア)爆発は、新しいボディプランの発展を実現する遺伝子表現のリパターンを必要とするが、明らかに遺伝子および形態の複雑さの重要かつ突然の増加を必要としなかった。

...
現在、大きなステップの証拠が、カンブリア爆発におけるボディプランの複雑さに大きなステップがあったという証拠はない。
とあって、科学哲学が専門のMeyerが斜め読み程度で適当にサイトしたら、思わぬ記述があったらしい。

反進化論の話をするついでに、インテリジェントデザイン用語も混ぜてみて、それらしい論文もサイトしてみただけ。というところだろうか。

posted by Kumicit at 2006/02/03 00:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | DiscoveryInstitute | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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