2009/09/13

ホメオパスたちは自らホメオパシーの未来を閉ざす(1)

The Guardianにも連載を持つBad ScienceのBen Goldacreは、2007年11月にLancetに次のような記事を書いた。

  • メタアナリシス研究の結果は、ホメオパシーに治療効果なし
  • それでもホメオパシーは過去に有効だったし、今でも役に立つことがある
  • ホメオパスたちは、通常医療を中傷するというマーケティングを日常的に行っており、これは実害がある。
  • この問題は、明確かつオープンに議論すれば解決可能だが、ホメオパスたちは扉を閉ざしている。
[Ben Goldacre: "Benefits and risks of homoeopathy", The Lancet, Volume 370, Issue 9600, Pages 1672 - 1673, 17 November 2007 [LANCET, Bad Science]

ホメオパシー実験について5つの大規模なメタアナリシスが行われた。そして、それらの結果はすべて同じだった。実験方法が不適切なものを除外し、公表バイアスを考慮した場合、ホメオパシーはプラセボを超える統計的に有意な効果は見られなかった[1-5]。しかし、それでもホメオパシーは臨床的に役に立ちうる。

19世紀のコレラの流行のとき、London Homeopathic Hospital(ロンドンホメオパシー病院)の死亡率は、Middlesex Hospital(ミドルエセックス病院)の1/3だった[6]。コレラ流行におけるホメオパシー成功の理由は、プラセボ効果よりも興味深い。当時、コレラの治療法はなく、治療といえば瀉血のように有害なものだったが、ホメオパシーの治療は少なくとも何の薬理効果もなかった。

同様に、様々な背中の痛み・仕事のストレス・医学的に説明のつかない疲労・大半の一般的な風邪などについて、現代医学は大したことはできない。医学的治療を通過して、本に載っている薬品をすべて試しても、副作用を誘発するだけだ。これらの症状には、薬理効果のない錠剤が、分別のある選択のようだ。

しかし、ホメオパシーには予期せざる有益な効果がある一方で、予期せざる副作用もある。まさに錠剤を処方することそのものにリスクが伴う。すなわち、医療対象化・病気に逆効果な振る舞いの強めること・社会的問題や強くないウィルス性病気に対して錠剤が適切な治療法だという考えを広めることである。同様に、どのような開業医であっても、プラセボ以上の効果がないことを自身が知っている錠剤を処方し、その事実を患者に知らせないのは、インフォームドコンセント(告知に基づく同意)および患者の自主性を犯すものである。そのようなコストは容認できると論じる者もいるが、そのような旧態依然たる父親的温情主義はいずれは、医師と患者の関係を蝕みかねない。

さらに具体的な実害がある。日常的に行われるホメオパスのマーケティングの特徴は、主流医療に対する中傷である。ある調査で、全ホメオパスの半数が患者に対して、麻疹・流行性耳下腺炎・風疹のワクチンを子供に接種させないように助言していたことがわかった[7]。あるテレビニュースの調査で、ほぼすべてのホメオパスが、マラリアに対する役に立たないホメオパシー予防を推奨し、医学的予防を攻撃し、蚊に噛まれないようという助言をまったくしていないことがわかった[8]。医学を攻撃することはホメオパスにとって、有効な商業的判断である。というのは、調査データによれば、主流医療への失望が、代替医療を使おうとする判断と相関する、数少ない特性のひとつだからである。しかし、それは責任ある判断ではないだろう。

ホメオパスは公衆衛生キャンペーンの土台を崩すことも可能だ。そして、患者を深刻な病状のまま放置し、極端な場合、致命的な徴候を見逃したり、無視したりする。さらに、重篤な病状に対する医学的治療を止めるように患者に、医学的に教育を受けたホメオパスが助言した後で、患者が死亡したケースもある[9,10]。

これらの問題すべては、ホメオパスの治療の主張を推奨したいという社会の熱意と、代替医療に自己批判のカルチャーが欠落していることによって、悪化した。代替医療雑誌における公表バイアスは大きい。2000年に補完医療あるいは代替医療雑誌に掲載された研究のうち、たった5%がネガティブなものだった[11]。私の知る限り、自主性とプラセボについての倫理問題について論じられたことはない。ホメオパスは日常的に、ネガティブなメタアナリシス研究結果に対抗して、ポジティブな研究だけを選択的に取り上げてきた。顧客満足度調査以上のものではない、ひとつの観察研究[12]が、あたかもランダムサンプリングした実験であるかのように宣伝されてきた[13]。

疑うことを知らない、科学リテラシーのない人々に対して、ホメオパスたちは自由に科学的証拠を歪曲して提示できる。しかし、そんなことをすることによって、治療についての証拠があるということが何を意味するかについての人々の理解を蝕んでいく。研究者たちがこれまでになく、多くの人々に研究についての本物の理解をしてもらおうと取り組み、大半の良い医者たちが患者たちに治療法の選択について教育し、慣用してもらおうとしているとき[14]には、特にこのようなホメオパスたちのアプローチはひどいものである。

ここで行った私の批判はすべて、問題について明確かつオープンな議論によって対処可能である。しかし、ホメオパスたちは学術的医学に対して扉を閉ざしてきた。そして、ホメオパシーに対する批判は議論されるよりも、回避されてきた。欧州のホメオパシー協会(The Society of Homeopaths)は、ブロガーたちを訴えると脅迫した[15]。さらに、大学の代替医療についての講義に対して、ホメオパスたちが何をどのように教えているかといった基本情報の提供を拒んでいる[16]。これ以上に不健全なものは考えられない。

プラセボが治療の役割を持ちうるので、ホメオパシーを法的に禁じることは行きすぎだろう。しかし、ホメオパスたちによってプラセボ効果が最も有効に利用されるかどうかは、これらの倫理問題と副作用が解決するまでは、疑わしいままである。


  1. Kleijnen J, Knipschild P, ter Riet G. Clinical trials of homoeopathy. BMJ 1991;302: 316–23.
  2. Boissel JP, Cucherat M, Haugh M, Gauthier E. Critical literature review on the effectiveness of homoeopathy: overview of data from homoeopathic medicine trials. Brussels, Belgium: Homoeopathic Medicine Research Group. Report to the European Commission. 1996: 195–210.
  3. Linde K, Melchart D. Randomized controlled trials of individualized
    homeopathy: a state-of-the-art review. J Alter Complement Med 1998; 4: 371–88.
  4. Cucherat M, Haugh MC, Gooch M, Boissel JP. Evidence of clinical efficacy of homeopathy: a meta-analysis of clinical trials. Eur J Clin Pharmacol 2000; 56: 27–33.
  5. Shang A, Huwiler-Müntener K, Nartey L, et al. Are the clinical effects of homoeopathy placebo effects? Comparative study of placebo-controlled trials of homoeopathy and allopathy. Lancet 2005; 366: 726–32.
  6. Hempel S. The medical detective. London, UK: Granta Books, 2006.
  7. Schmidt K, Ernst E. Aspects of MMR. BMJ 2002; 325: 597.
  8. 8 Jones M. Malaria advice ‘risks lives’. Newsnight, BBC2 July 13, 2006.
  9. General Medical Council Fitness To Practise Panel. Dr Marisa Viegas. 2007.
  10. Sheldon T. Dutch doctor struck off for alternative care of actor dying of cancer. BMJ 2007; 335: 13.
  11. Schmidt K, Pittler M, Ernst E. Bias in alternative medicine is still rife but is diminishing. BMJ 2001; 323: 1071.
  12. Spence DS, Thompson EA, Barron SJ. Homeopathic treatment for chronic disease: a 6-year, university-hospital outpatient observational study. J Altern Complement Med 2005; 11: 793–98.
  13. Grice E. Keep taking the arsenic. Daily Telegraph Nov 25, 2005.
  14. Evans I, Thornton H, Chalmers I. Testing treatments: better research for better healthcare. London, UK: British Library, 2006.
  15. Goldacre B. Threats, the homeopathic panacea. Guardian Oct 20, 2007.
  16. Giles J. Degrees in homeopathy slated as unscientific. Nature 2007;446: 352–53.



つづく...

posted by Kumicit at 2009/09/13 00:00 | Comment(0) | TrackBack(1) | Quackery | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

[医学]良心的なホメオパシー
Excerpt: ■JBpress(日本ビジネスプレス)のホメオパシーの記事についてのコメント欄でも述べたが、私はホメオパシーに関しては消去的容認の立場に立っている。安全で、安価で、現代医学を否定しないのであれば、代..
Weblog: NATROMの日記
Tracked: 2009-11-30 15:42
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。