2009/10/13

Dembskiの情報保存則 Revisited

情報量保存則



インテリジェントデザイン理論家Dr. William Dembskiは、その後に忘れ去ってしまうのだが、旧世紀末には情報量保存則を提唱していた。それは...
To see that natural causes cannot account for CSI is straightforward. Natural causes comprise chance and necessity (cf. Jacques Monod's book by that title). Because information presupposes contingency, necessity is by definition incapable of producing information, much less complex specified information. For there to be information there must be a multiplicity of live possibilities, one of which is actualized, and the rest of which are excluded. This is contingency. But if some outcome B is necessary given antecedent conditions A, then the probability of B given A is one, and the information in B given A is zero. If B is necessary given A, Formula (*) reduces to I(A&B) = I(A), which is to say that B contributes no new information to A. It follows that necessity is incapable of generating new information. Observe that what Eigen calls "algorithms" and "natural laws" fall under necessity.

CSI を自然の原因で説明できないことをわかるのは簡単だ。自然の原因は(Jacque Monodの本の表題である)偶然と必然から構成される。情報は偶発性を前提とするので、必然は情報の、言うまでもなく"複雑な指定された情報"の、生産を定義上できない。そこに情報があるためには、複数の有効な可能性のうち、一方が現実化され、それ以外が除外されなければならない。これは偶発性だ。しかし、もしある結果Bが前提条件Aによって必然的に与えられるなら、Aが与えられたときのBの確率は1であり、Aが与えられたときのBの情報量はゼロである。もしBがAから必然的に与えられるなら、公式はI(A&B)=I(A)に還元される。すなわちBは新しい情報をAに与えない。Manfred Eigenが"アルゴリズム"と"自然法則"と呼ぶものは"必然"に帰着することがわかる。

[William A Dembski: "Intelligent Design as a Theory of Information" (1997)]
というもので、整理すると:

  • Aが起きたら、必ずBが起きるなら、Bは新しい情報ではない。
  • 自然法則による必然とは「Aが起きたら、必ずBが起きる」というものである
  • よって、自然法則による必然からは、新しい情報は生み出されない
  • 従って、情報は"偶発性"(contingency)からしか生み出されない

これは、時間発展の数値シミュレーションとしてはまったく正しい。初期値(初期乱数)が同一であれば、途中で乱数を参照しないプログラムであれば、シミュレーションを繰り返しても結果は同一である。その場合、数値シミュレーションは、「プログラムとして実装されたルール(自然法則)と初期値」という圧縮された情報を、解凍する過程ということになる。シミュレーション結果に違いがあるとしたら、時間発展過程で乱数を参照するプログラムな場合。

ただ、ここで注意すべきは「情報」とは何かである。Dembskiの言っている世界は、まさに数値シミュレーションとして解釈される宇宙である。その場合の「情報」とは、クォークやレプトンの下位にどれくらいの階層が存在するのかわからないが、その最下層の状態(質量・運動量・エネルギー・確率分布など)以外のものではない。

すりかわる「情報」



このあと、Dembskiは「情報」をDembski用語「CSI = Complex Specified Information」として定義する。

そして、シミュレーション開始後に取り込む乱数について、Dembskiは"偶発性(contingency)"と"自然法則に従う偶然(chance)"に分けて、偶然(Chance)からCSIが生み出せないと言う:
Since information presupposes contingency, let us take a closer look at contingency. Contingency can assume only one of two forms. Either the contingency is a blind, purposeless contingency--which is chance; or it is a guided, purposeful contingency--which is intelligent causation. Since we already know that intelligent causation is capable of generating CSI (cf. section 4), let us next consider whether chance might also be capable of generating CSI. First notice that pure chance, entirely unsupplemented and left to its own devices, is incapable of generating CSI. Chance can generate complex unspecified information, and chance can generate non-complex specified information. What chance cannot generate is information that is jointly complex and specified.

情報が偶発性を前提とするので、偶然のより詳細な観察をしよう。偶発性には2つの形式の1つしか仮定できない。ひとつは、盲目の目的のない偶発性すなわち偶然。もうひとつは指導された目的のある偶発性、すなわちインテリジェントな原因である。既に、インテリジェントな原因がCSIを生産可能であることがわかっているので、"偶然"がCSIを生産できるか考えてみよう。何も補給されなずに、それ自身で勝手に働くように放置された純粋の偶然は、CSIを生産できない。"偶然"は複雑な指定されない情報と、複雑でない指定された情報を生産できる。偶然が生産できないのは、複雑かつ指定された情報である。
ここでDembskiが語る「情報」は最初に想定された、数値シミュレーションな宇宙を記述する「情報」とは別物になっている。

最初の論にしたがえば、人間を超自然な魂がコントロールするという形で、自然界の外側からの作用をとりこまない限り、人間が小説を書いても(Dembskiの最初の定義上の)情報量は増加しない。というのは...
  • 宇宙が決定論的であれば、初期値から同じ結果が再現可能
  • 量子力学レベルの乱数を使っていたところで、Dembski定義ではそれは情報量ゼロ



でも、Dembskiはこれらを組み合わせて...
Natural causes are therefore incapable of generating CSI. This broad conclusion I call the Law of Conservation of Information, or LCI for short. LCI has profound implications for science. Among its corollaries are the following: (1) The CSI in a closed system of natural causes remains constant or decreases. (2) CSI cannot be generated spontaneously, originate endogenously, or organize itself (as these terms are used in origins-of-life research). (3) The CSI in a closed system of natural causes either has been in the system eternally or was at some point added exogenously (implying that the system though now closed was not always closed). (4) In particular, any closed system of natural causes that is also of finite duration received whatever CSI it contains before it became a closed system.

従って、自然の原因ではCSIを生み出せない。この明白な結論は私が情報量保存則あるいは略してLCIと呼ぶものだ。LCIは科学に深い影響を与える。以下は当然の帰結である:

  1. 自然に起因する閉鎖系では、CSIは、一定のままであるか、減少する
  2. CSIは自発的に発生することができないか、内生的に起因しないか、(生命の起源の研究で使われる用語である)自己組織化できない。
  3. 自然に起因する閉鎖系のCSIは、永続して系にあるか、ある時点で外因的に加えられたか(系は現在は閉じているが、常に閉じていたわけではない)である
  4. 特に、有限の期間存在する、自然に起因する閉鎖系は、その系が閉鎖系になる前に受け取ったCSIを含む

....
CSI demands an intelligent cause. Natural causes will not do.
CSIにはインテリジェントな原因が必要である。自然の原因では創られえない。
ということで、こいつは証明されないが、これまでの論理とは無関係に、言葉の定義上は正しい。というのは、CSIの定義が...
  • 自然法則でも偶然でも説明できないもの
だから。

「進化不可能な生物が存在したら、それは超自然の介入」と言うのは正しいわけで、つまるところ、情報量保存則は、それを数学のように見せているだけ。


情報理論を知らない



かつても、そして今も、創造論者は熱力学第2法則が大好きだ。しかし、彼らにとっての熱力学第2法則は熱力学や統計力学とは何の関係もない「秩序は無秩序から生まれないので、生物は進化できない」というものである。

同様に、Dembskiの情報保存則も「進化不可能な生物が存在したら、それは超自然の介入」をエレガントに表現しようとしたもの。実際には"インテリジェントデザイン情報理論"であっても、"情報理論"ではない。

最近も、Jeffrey Shallitによれば、統一教会信者Dr. Jonathan Wellsが"インテリジェントデザイン情報理論"な主張をしている:
Intelligent design creationists love to talk about information theory, but unfortunately they rarely understand it. Jonathan Wells is the latest ID creationist to demonstrate this.

In a recent post at “Evolution News & Views” describing an event at the University of Oklahoma, Wells said,

インテリジェントデザイン創造論者は情報理論について話すのが好きだが、残念ながら、それをほとんど理解していない。それを示した最新のインテリジェントデザイン創造論者は、Jonathan Wellである。

University of Oklahomaでのイベントを書いた、"Evolution News & Views"(Discovery Institute公式ブログ)での最近のエントリで、Jonathan Wellsはこう言っている:
I replied that duplicating a gene doesn’t increase information content any more than photocopying a paper increases its information content.

遺伝子重複は、紙のコピー以上に、情報を増やさないと言っておこう。

[Jonathan Wells: "Storming the Beaches of Norman" (2009/10/03)]


Wells is wrong. I frequently give this as an exercise in my classes at the University of Waterloo: Prove that if x is a string of symbols, then the Kolmogorov information in xx is greater than that in x for infinitely many strings x. Most of my students can do this one, but it looks like information expert Jonathan Wells can’t.

Jonathan Wellsは間違っている。これを私はよく、University of Waterlooの授業の演習に使っている。「xが文字列であれば、無限長文字列xに対して、xxのKolmogorov情報量は、xの情報量よりも多いことを証明せよ」 私が教えている学生たちの大半はこれに正解を出せる。しかし、情報理論の専門家Jonathan Wellsには無理なようだ。

[Jeffrey Shallit: "Jonathan Wells: Another ID Creationist Who Doesn’t Understand Information Theory" (2009/10/04) on Panda's Thumb]
インテリジェントデザイン支持者にとっての"情報理論"は、創造論者にとっての"熱力学第2法則"と同じで、実際の情報理論とは何の関係もない。

もっとも、インテリジェントデザイン支持者たちは、創造論者でもあるため、"熱力学第2法則"も好きだが....

タグ:id理論
posted by Kumicit at 2009/10/13 08:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | Dembski | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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