2006/02/18

インテリジェントデザインの理論家Dembskiの鞭毛への未練か

インテリジェントデザインの数学および哲学担当Dr. William A. Dembskiは自らのブログUncommon Descentの2006年2月15日付けの記事「Amazing how natural selection mastered the physics of the flagellum(鞭毛の物理を自然淘汰が理解するとは驚きだ)」で、タイトルのあと、ぺちょっと引用を張った。

引用先は:
Propulsion with a Rotating Elastic Nanorod.
Manoel Manghi,1 Xaver Schlagberger,2 and Roland R. Netz2 1Laboratoire de Physique Th´eorique, IRSAMC, Universit´e Paul Sabatier, 31062 Toulouse, France 2Physik Department, Technical University Munich, 85748 Garching, Germany
(Dated: February 9, 2006)
The dynamics of a rotating elastic filament is investigated using Stokesian simulations. The filament, straight and tilted with respect to its rotation axis for small driving torques, undergoes at a critical torque a strongly discontinuous shape bifurcation to a helical state. It induces a substantial forward propulsion whatever the sense of rotation: a nanomechanical force-rectification device is established.

回転する弾性フィラメントの力学をストークスシミュレーションで研究した。小さな推進トルクの回転軸に対してまっすぐなフィラメントと斜めのフィラメントはクリティカルなトルクを受けると、形状を大きく螺旋状に変える。それは、回転の方向性によらず前進する推進力を生成する。すなわち、ナノメカニカルな整流デバイスを実現している。
張られた先は学術誌発表論文ではなく、その手前なのか、あるいは予算措置の都合による報告書のようなもの。

とはいえ、これは面白い。鞭毛の流体特性を、鞭毛を弾性体の球の結合で近似することで計算しようというMangi et al.のアイデア。構造屋と流体屋の土地鑑が必要なモデルだ。
  • 球の間の相互作用は、position Langevin方程式
  • 弾性体球と流体の相互作用はRotne-Prager mobilityテンソル
  • 流体は、粘性流体近似(ミクロなので希薄気体扱い。ただし、粒子モデルを使わなくてもよい程度の希薄流体)

旧世紀末1990年代半ばから本格化した流体構造連成解析分野の成果のひとつ。アイデア勝負だけでもいいものだ。

さて、ここでDembskiのタイトル「鞭毛の物理を自然淘汰が理解するとは驚きだ」にもどろう。

インテリジェントデザインの生化学担当Dr. Michael Beheが1996年に出版した"Darwin's Black Box"(amazon)で高らかに「還元不可能な複雑さ」(すなわち進化では説明できない)の例として主張した「バクテリアの鞭毛」。これが2003年にMatzke 2003により撃墜された。これに対してDembskiは、"Irreducible Complexity Revisited"で、
Minimally what's required are detailed, testable reconstructions or models that demonstrate how indirect Darwinian pathways might reasonably have produced actual irreducibly complex biochemical machines like the bacterial flagellum.

最低でも必要なことは、いかに間接的なダーウィン進化の経路が、いかにバクテリアの鞭毛のような実際に還元不可能な複雑さを持つ生化学マシンを合理的に創ったかを詳細かつ検証可能な再構築あるいはモデルだ。
と、"Argument from ignorance"(相手が完全に正しさを証明できない限り、自分が正しいと主張する論)を繰り出していた。かなり未練がましい。

で、ネットで鞭毛の話を見つけて、ちょっと喜んで「鞭毛の物理を自然淘汰が理解するとは驚きだ」と言ってみたというところだろう。

で、Dembskiは数学および哲学の人なので、おそらくは流体力学や弾性体力学の数値計算には疎いのだろう。まったくわかっていないことがばれている。それは:

人間が鞭毛の流体特性をモデル化し、数値実験することは簡単ではない。しかし、それと自然淘汰の何の関係があるのか?

ということだ。
posted by Kumicit at 2006/02/18 01:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | Dembski | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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