2009/12/13

米国の温暖化否定を概観する (1) 前哨戦 あるいは オゾン層破壊否定の戦い

地球温暖化否定(温暖化していない・温暖化しているが自然現象・温暖化に二酸化炭素は効いていない・温暖化した方がいい)の戦いと良く似た形での戦いが旧世紀末にあった。あらためて見返すと、やってることが変わっていないという印象を受ける。

今日は、まず以前取り上げたときオゾン層破壊否定サイドが何をやったかの部分を項目だけ挙げたJeffrey Mastersの解説を読み直してみる:

[Jeffrey Masters, Ph.D.: "The Skeptics vs. the Ozone Hole" ]

証拠に反論する広告キャンペーンの開始

世界のCFC生産の1/4を占めるDuPontは数百万ドルを使って、CFCがオゾン層を損ねるという証拠は存在しないと主張する全面広告を1975年にうった。DuPont社長は「オゾン層破壊理論はSFであり、ゴミの山であり、まったくのナンセンスだ」と述べた[Chemical Week, 16 July 1975]。

エアロゾル産業も広告を展開し、CFCによるオゾン層破壊は理論であって、事実ではないというプレスリリースを出した。これらの産業に都合のよいプレスリリースやニュースストリーがエアロゾル産業によって作られ、New York TimesやWall Street JournalやFortune magazineやBusiness Weekやthe London Observerに掲載された[Blysky and Blysky, 1985]。「空が落ちてくる」と主張するChicken Littleのシンボルは、非常に効果的にPRキャンペーンで使われ、様々な新聞のヘッドラインを飾った。

そのようなバイアスのかかった報道は米国のジャーナリズムでは、まれなことではない。幾つかの調査で、米国の新聞の記事の40〜50%はプレスリリースに基づいている[Lee and Solomon, 1990; Blysky and Blysky, 1985]。掲載された記事は新聞社の記者によるものだが、プレスリリースとほとんど違いがない。


自分の視点を支持する、既に否定された科学研究や神話を科学的事実として宣伝する

否定論者たちはまず、査読のない新聞・雑誌・本・シンクタンク出版物で発表した。これら査読を受けていない執筆物は、しばしば事実の間違い、歪曲、独断に満ちていて、科学的不確かさがない問題について、人々を大いに惑わせた。たとえば、多くの否定論者たち[e.g., Singer, 1989, Bailey, 1993; Bast et. al., 1994]は、1956年に南極でGMB Dobson教授がオゾンホールを観測しており、したがって南極のオゾンホールは普通の自然現象だと主張する。この神話は、レビュー論文[Dobson 1968]からの文脈を無視した引用の誤った解釈によるものである。Dobson[1968]は「初めてHalley Bayで春季オゾンレベルを計測した時、150 Dobson Unitも北極の春季オゾンレベルよりも低かったことに驚いた」と書いていたのだが、否定論者たちは繰り返し「1957年に正常レベルよりも150 Dobson Unit低いオゾンホールが発見されたが、事実は1957年に観測されたレベルは南極では正常だった」と引用している。British Antarctic Surveyのサイトを見れば、そのようなオゾンホールが1950年代に観測されていたことを確認できる。もうひとつ、否定論者が繰り返す神話に、フランスの科学者が南極のオゾンホールを1958年に発見したというものがある[Bailey 1993]。この1958年の観測で大きなオゾン減少が南極で見つかったが、これは観測機のエラーによる誤りだと判明している。Science magazineに掲載された研究{Newman 1994]は、オゾンホールが1958年に発見されたという信頼できる証拠は存在しないと結論した。

公平のために言うなら、環境保護主義者もまた、自分たちの立場を支持するために、否定された神話を使っていた。たとえば、1992年に、New York Timesはチリ南部でのオゾンの減少により、パタゴニアで白内障の羊やウサギが見つかったとか、盲目のウサギやシャケが見つかったといったと報道した[Nash, 1992]。このストーリーは1993年7月1日のABCのPrime Time Liveなど多くの機会に繰り返された。Al Goreの本"Earth in the Balance"でも、この神話が繰り返された「パタゴニアではハンターが盲目のウサギを見つけ、漁師が盲目のシャケを獲ったりしている」[Gore, 1992]


科学的な不確定さを指摘し、即時対応したときの経済減少を主張

科学の背後にあるオゾン減少の推定には不確実性があった。そして今もある。1976年初めに、Rowland and Molinaは、以前の推定7〜13%だった硝酸化塩素によるオゾン層破壊を約7%であることを見出した。1976年のNew York Daily Newsの社説は「今や、科学者はオオカミが来たと叫ぶ立場に自らを置いた。誰が新たな警告をまじめに受け取るだろうか」と結論した。米国NAS(科学アカデミー)によるレポートでの最終的なオゾンの減少の推定がゆれていることを指摘して、否定論者たちは科学が不確かな間は、対策をとるべきではないと主張した。


米国NASの長期的オゾン減少の推定

Year Depletion Estimate
1976 2-20% (7% most likely)
1979 16.5%
1982 5-9%
1984 2-4%

もちろん、最終的には、これらのオゾン減少の推定は誤っていたことがわかった。これらは過小評価すぎた。南極のオゾンホールでオゾンの70%減少や、北極のオゾンホールでのオゾン30%減少などという驚くべき数字を予測した科学者はいなかった。これから学ぶべきは、現実性が不確かだということは、対策を先送りする言い訳にはならないということだ。実際には予想よりもずっと悪いこともあるのだ。


自分たちの視点を支持するローカルなデータを使い、全地球的な証拠を無視する

多くの否定論者は幾つかの米国の都市で実際に1980年代と1990年代にUV-Bのレベルが減少したことを指摘する。これは事実だが、大気汚染エアロゾルレベルが高いことによるもので、夏季にはUV-Bを20%程度減少させることが分かっている[Wenny et. al., 2001]。しかし、オゾン減少とUV-Nの増加は確立された科学的事実である。オゾンレベルが1%減少すれば、大気圏下部に到達するUV-Bは1%増大する[WMO 2002]。中高緯度に到達するUV-Bの6〜15%増加が過去20年で観測されている[WMO 2002, McKenzie 1999]。幾つかの観測点では、この増大の半分がオゾン減少によるものだと考えられる。この変化には雲やアルベドも影響する。


「予算獲得のために大災厄の不確かな予測を利用している」と、科学者を批難する

あるCFC業界誌は1975年に「研究資金全体および、これをめぐる科学者たちの競争は、オゾンの政治のひとつの要素として考えるべきである」と述べた[Roan 1985]。保守系シンクタンクCato Instituteは自らの刊行物で「NASAによる1992年の北半球うでのオゾンホールの可能性の警告は、予算獲得のための補強として、タイミングを狙ったものだ」と論じた[Bailey 1993]。


「イデオロギー的ゴールを推進するために環境問題を誇大宣伝している」と環境保護主義者を批難する

Dr. Fred Sigerは環境保護主義者たちのMolina and RowlandによるCFCとオゾン減少を関連づけた研究に対する反応を次のようの評した「エコフリークたちは熱狂的だ。最後は、巨悪なDuPontと同族たちが作る、工業化学だ。」[Siner 1989]。


「米国だけ規制したら、競争力を失う」と主張する

もちろん、CFCの最大の製造国にして排出国である米国がこの問題にリーダーシップを発揮して、対策をとるまで、対策を獲りたくないと諸外国は主張している。


「対策をとるためには、さらなる研究が必要だ」と主張する

1974年から1987年まで、CFC産業と政府当局は、さらに3年の研究が必要だと言い続けてきた。Molinaはこの戦術を「3年スライド」と呼んだ。


影響とともに生きていく方が費用がかからないと論じる

1987年にレーガン政権の当局者はCFC排出を規制する代わりに"Personal Protection Plan"を主張した。この主張は「日焼け止め2本と帽子とサングラスを米国人全員に買うのに80億ドルかかる。植物や動物にも紫外線は良くないので、牛やトウモロコシにも日焼け止めや帽子が必要だろう」と嘲られた。


  1. Bailey, R., "Eco-Scam: The False Prophets of Ecological Apocalypse", St. Martin's Press, New York, 1993.
  2. Bast, J.L., Hill, P.J., and R.C. Rue, "Eco-Sanity: A common-Sense Guide to Environmentalism", Madison Books, 1994.
  3. Blyskal, J., and M. Blyskal, "PR: How the public relations industry writes the news", William Morrow and Co., New York, 1985.
  4. Cogan, D.G., "Stones in a Glass House", Investor Responsibility Research Center, Washington D.C., 1988.
  5. Dobson, G.M.B., Forty Years' research on atmospheric ozone at Oxford, Applied Optics, 7, 387, 1968.
  6. Gelbspan, R., "The Heat is on", Perseus Books, Cambridge, 1998.
  7. Glas, J.P., "Protecting the ozone layer: a perspective from industry", In Technology and Environment (ed. by Ausubel, J.H. and H.E. Sladovich), Washington D.C., 1989.
  8. Gore, A., "Earth in the Balance: Ecology and the Human Spirit", Houghton Mifflin, Boston, 1992.
  9. Kurtz, H., "Dr. Whelan's Media Operation", Columbia Journalism Review, March-April 1990.
  10. Lee, M.A., and N. Solomon, "Unreliable sources: A guide to detecting bias in the news media", Carol Publishing Company, New York, 1990.
  11. Manins, P., R. Allan, T. Beer, P. Fraser, P. Holper, R. Suppiah, R. and K. Walsh. "Atmosphere, Australia State of the Environment Report 2001 (Theme Report)," CSIRO Publishing and Heritage, Canberra, 2001.
  12. McKenzie, R., B. Connor, G. Bodeker, "Increased Summertime UV Radiation in New Zealand in Response to Ozone Loss", Science, 285, 1709-1711, 1999.
  13. Michaels, P.J., S.F. Singer, and P.C. Knappenberger, "Analyzing ultraviolet-B radiation--is there a trend?", Science, 264, 1341-1342, May 27 1994.
  14. Molina, M.J., and F.S. Rowland, "Stratospheric Sink for Chlorofluoromethanes: Chlorine Atom-Catalyzed Destruction of Ozone" (PDF File), Nature 249, 810-812, 1974.
  15. Nash, N.C., "Ozone Depletion Threatening Latin Sun Worshipers", New York Times, 27 March 1992, p. A7.
  16. Newman, P.A., "Antarctic Total Ozone in 1958", Science, 264, April 22, 1994, 543-546.
  17. Pearce, F., "Ozone hole 'innocent' of Chile's ills", New Scientist, 1887, 7, 21 Aug. 1993.
  18. Roan, Sharon L., "Ozone Crisis: The 15-year Evolution of a Sudden Global Emergency", John Wiley & Sons, Inc., New York, 1989.
  19. Singer, S.F., "A re-analysis of the nuclear winter phenomenon", Meteorology and Atmospheric Physics, 38, 228-239, 1988.
  20. Singer, S.F., "My adventures in the ozone layer", National Review, June 1989.
  21. Smith, D.A., K. Vodden, L. Rucker, and R. Cunningham, "Global Benefits and Costs of the Montreal Protocol on Substances that Deplete the Ozone Layer", Applied Research Consultants report for Environment Canada, Ottawa, 1997.
  22. Stockholm Environment Institute, "Costs and strategies presented by industry during negotiation of environmental regulations", Stockholm, 1999.
  23. United Nations Environmental Programme (UNEP), "1994 Report of the Economics Options Committee for the 1995 Assessment of the Montreal Protocol on Substances that Deplete the Ozone Layer", UNEP, Nairobi, Kenya, 1994.
  24. Vogelsberg, F.A., "An industry perspective - lessons learned and the cost of CFC phaseout", HPAC Heating/Piping/AirConditioning, January 1997, 121-128.
  25. Wenny, B.N., V.K. Saxena, and J.E. Frederick, "Aerosol optical depth measurements and their impact on surface levels of ultraviolet-B radiation", J. Geophys. Res., 106, 17311-17319, 2001.
  26. WMO/UNEP, "Scientific Assessment of Ozone Depletion: 1994 Executive Summary", World Meteorological Organization Global Ozone Research and Monitoring Project, Report No. 37, 1994.
  27. World Meteorological Organization, "Scientific Assessment of Ozone Depletion: 2002 Global Ozone Research and Monitoring Project - Report #47",2002.
オゾン排出を二酸化炭素排出に、オゾン層破壊を地球温暖化に置き換えれば、そのまま現在進行中の温暖化否定論をやっていることに違いがない。



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posted by Kumicit at 2009/12/13 16:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | Sound Science | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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