2009/12/13

米国の温暖化否定を概観する (5) 温暖化否定論の立場をとる科学者たち

米国で温暖化否定論の立場をとる有名な科学者といえば....

  • Dr. S Fred Singer (1924/09/27-) 85歳, University of Virginiaの環境科学の名誉教授, 非営利法人Science & Environmental Policy Project (SEPP)主宰。温暖化否定論の全範囲をカバーする。
  • Dr. Syun-Ichi Akasofu (1930/12/4-) 79歳, 専門は宇宙空間および超高層大気物理。現在の温暖化は小氷期からの回復過程という自然現象であると主張。
  • Dr. Sallie Baliunas George C Marshall Instituteの宇宙物理学者で、専門は恒星物理。おそらく50歳代なかば。 Dr. Willie Soonとともに太陽変動の影響による気候変動を主張。

うち、Dr. S Fred SingerとDr. Sallie Baliunasはオゾン層破壊否定論でも登場した。いずれも、研究成果・経歴とも立派なのもの。

Dr. S Fred Singerは「温暖化は起きていない」から「自然現象」まで広く主張しているが、あとの2名は「自然現象」であるという立場である。決して、温暖化していないという立場をとっているわけではない。

以下、それぞれの主張概要:

Dr. Sallie Baliunas

The George C Marshall Instituteの宇宙物理学者であるDr. Sallie Baliunasは、Dr. SI AkasofuやDr. S Fred Singerと違って現役である。

Dr. Sallie Baliunasは1990年代なかばには温暖化否定論サイドに参加。当初は自然の変動範囲内と見ていたらしい:
[Dr. Sallie Baliunas: "Uncertainties in Climate Modeling: Solar Variability and Other Factors" (1996/09/17)]

The computer simulations of climate, which estimate a warming of roughly 1 C over the last 100 years, have overestimated the warming that has actually occurred by a factor of three or more. The same computer simulations projecting for the next 100 years (the time frame cited for the equivalent of a doubling of carbon dioxide) must be corrected for these overestimates of past warming. When corrected, the forecasted warming for the next 100 years is a few tenths C. That warming, spread over a century, will be negligible compared to the natural fluctuations in climate.

過去100年の温暖化をラフに1℃と推定した気候のコンピュータシミュレーションは、実際には3倍以上、過大評価していた。同じコンピュータシミュレーションで今後100年について(その期間に二酸化炭素が2倍になる)も、過去の温暖化も過大評価についての補正が必要である。補正すると、予測される今後100年の温暖化は0.数℃程度である。一世紀でこの程度の温暖化は自然の気候変動に比べて無視しうるほど小さい。
しかし、旧世紀末には、温暖化の原因は太陽変動などにあると主張するようになる:
[Dr. Sallie Baliunas: "Why So Hot? Don't Blame Man, Blame the Sun" (1999/08/05)]

New discoveries about the causes of climate change, like a varying sun, are the key to creating better models. Introducing the sun's impact in the models has shown that human effects on temperature are much smaller than first projected, and perhaps insignificant compared with natural temperature changes. Those who are worried about global warming can cool down.

太陽変動のような、気候変動の原因としての新たな発見は、良いモデルをつくるために鍵となる。太陽の影響をモデルに入れれば、人間の活動による気温への影響は当初の予測よりも、はるかに小さくなり、自然の気温変動に比べて有意ではなくなる。地球温暖化を気にやむ人々はクールダウンできるだろう。
もちろん、太陽放射の変動は気候変動を支配している。億年単位の長期スパンでみれば、5億年後くらいには地上の気温の上昇が哺乳類の存在を不可能にする。そして15億年後までには海洋は蒸発しつくし、わずかな微生物たちが残るだけと言われる。23億年後までOKという説などもあるが、いずれにせよ太陽の赤色巨星化を待つことなく、地表の気温は上昇し、海洋も失われ、生物はほぼ絶滅することは避けられそうにない。

でも、短期的な変動については、太陽変動の影響は小さいとみられている。また、他にもUniversity of New EnglandのRobert Bakerのように太陽の周期変動こそが気候変動サイクルを作ると主張する者もいるが、それは統計分析の誤りだと見られている

それはさておき、温暖化の原因が人間ではなく太陽変動であるなら、当然のこととして温暖化対策はムダだということなる。Dr. Sallie Baliunasは実際、そう主張している:
[Dr. Sallie Baliunas: "Combatting global warming would be a waste" (2003/07/25)]

The scientific history drawn from nature and man's observations over the last millennium suggests that a strong trend of human-induced warming does not exist. The scientific facts indicate that costly policies to combat global warming are unlikely to mitigate any of climate's ever-present natural risks, but they could reduce society's economic ability to cope with them.

自然から引き出された科学的歴史と、過去1000年の人間による観測から、人間による温暖化の強いトレンドは存在しないことが示唆される。科学的事実は、地球温暖化と戦うという金のかかる政策は、自然界のリスクを緩和することには役に立ちそうになく、むしろ地球温暖化とうまくやっていくための社会の経済力を損なうものであることを、示している。
Dr. Sallie Baliunasは温暖化が起きないと言っているわけでも、起きても問題なしと言っているわけでもない。



Dr. SI Akasofu

(2007/12/31のエントリ再掲)

宇宙空間・超高層大気・地球電磁気の思い切り著名な研究者にして、Univ. of AlaskaのInternational Arctic Research Centerの設立者でもあるDr. Syun-Ichi Akasofuの隠居後のお楽しみ?らしい「Notes on Climate Change」について。

目次には5項目が挙げられているか、実際にテクニカルな話をしているのは2.のみ:

  1. Response to Readers: Notes on Climate Change
  2. Is the Earth still recovering from the "Little Ice Age"? A possible cause of global warming
  3. Why has "global warming" become such a passionate subject? - Let's not lose our cool -
  4. Misleading Information on Global Warming
  5. Similarity between the Debate on Global Warming and on the Extinction of Dinosaurs: A Clash between the View of Physicists and of Naturalists

2.の結論として以下のような項目を挙げているが:

  1. Natural components are important and significant, so they should not be ignored.
    自然変動成分は重要かつ大きいので、それは無視すべきではない
  2. Two natural changes after 1800 are identified in this note: a linear increase of about +0.5°C/100 years and fluctuations superposed on the linear change.
    1800年以降に、0.5℃/100年の線形な増加と、その線形変化の上に乗った揺動成分という、2つの自然変動成分が特定できた。
  3. It is likely that the Earth is still recovering from the LIA.
    地球は現在もなお小氷期からの回復期にあると思われる
  4. There is nothing unusual or abnormal about the present global warming trend and temperature.
    現在の地球温暖化トレンドに、なんら異常なものは見られない
  5. It is insufficient to study climate change on the basis of data from only the last 100 years.
    過去100年のデータを基礎とするのは気候変動研究には不十分である
  6. It is difficult to reach a conclusion about causes of the temperature rise after 1975 until we can understand the rise from 1920 to 1945.
    1920〜1945年の気温上昇を理解しないと、1975年以降の気温上昇の原因についての結論に到達するのは困難である
  7. Because of these deficiencies of the present global warming studies, the GCMs cannot prove that the warming (0.6°C/100 years) is caused by the greenhouse effect. This is because the present GCMs are adjusted or “tuned” to result in the 0.6°C/100 years increase.
    気候変動モデル(GCM)は0.6℃/100年の増加になるようにチューニングされているので、GCMでは0.6℃/100年の温暖化が温室効果ガスによるものか証明できない。
  8. Future prediction of warming by GCMs is uncertain, because computers are taught that the present warming is caused mostly by the CO2 greenhouse effect.
    CO2による温室効果によって現在の温暖化が進行していることに基礎をおいているコンピュータモデルGCMでは未来の予測は不確か。
  9. Two examples are presented in which GCM results can be used to identify natural changes of unknown causes.
    自然変動とも不明な原因とも解釈できる気候変動モデル(GCM)の結果を2例提示した。
主たる論点は:

  • 過去150年の変動は、データ解析上は、小氷期からの回復フェーズという線形増加トレンドの上に、短期変動がのっているとみてよい
  • GCM(Global climate model)は北極圏の気温変動を再現できていないので、定量的な議論には使えない
といったところ。一般的な温暖化論争ネタの範囲内にあって、特にAkasofuスペシャルな主張があるというわけではない。北極のUniv. Alaskaを本拠地としているので、北極圏の気温を重視してみたという程度。

論理の流れを追いかけてみると、まず全球の1800〜2000年の気温変化と、その5年移動平均と、線形近似を並べる。そして、線形近似の上下で色を分けて塗る:
Akasofu_Fig1b.png
Figure 1a: The global average temperature from 1800 to 2000.
Figure 1b: An intuitive approximation of the changes shown in Figure 1a. It is
shown as the red line.
Akasofu_Fig1c.png
Figure 1c: An interpretation of Figures 1a and 1b, showing temperature changes that consist of a straight line and “fluctuations” superposed on it. The red line is a smoothed version of the 5-year mean in Figure 1a.
直近200年の変動は、小氷期からの回復フェーズと思われる線形な上昇トレンドと、それにのった波だと解釈する。データは新規ではなく、その扱いも特に新奇なものでもない。

さらに超長期の変動から、次第に直近の変動へと過去気温の推定結果を見ていく:
Akasofu_Fig15.png
Figure 15: The contour plots of all the GISP temperature histograms as a function of time (Dahl-Jensen et al., Science, 282, 268, 1998.)
直近200年の変動は、50万年スケールの変動全体からみれば、自然変動の範囲内だと言う。しかし、これも特に新奇な主張ではない。

==>Coby Beck: "New Guides by Category Coming" (2006/10/23) on A Few Things Ill Considered /a>
==>
Andrew Dessler: "Recovery from the little ice age?" (2006/09/07) on Science and politics of global climate change

あと、お友達に作ってもらった(=private communication)観測データとシミュレーション結果:
Akasofu_Fig21.png
Figure 21: Upper ? the geographic distribution of temperature change between 1950 and 1998(Hansen et al., Science, 308, No. 5727, 1431-1435, 2005). Lower ? the geographic distribution of temperature change between 1986 and 2005 (Hansen, J., Private communication, 2006).
Akasofu_Fig22.png
Figure 23: Comparison of the observed distribution of temperature changes (ACIA, 2004) and the simulation (hindcasting) by the IPCC arctic group (Chapman, W., private communication, 2005).
これも定番。

==>Coby Beck: "The Models are Unproven " (2006/03/10) on A Few Things Ill Considered

高温プラズマ・弱電離気体中の電流・電磁場な世界と、中性大気・回転成層流体の世界は物理がまったく違うので、やっぱり簡単には手を出せないのだろう。定番に新たなネタを加えるに至っていない。

結局は...
Since I am not a climatologist, all the data presented in my Notes on Climate Change can be found in papers and books published in the past; that is why I do not want to publish Notes on Climate Change as a paper in a professional journal....

私は気候学者ではないので、私の"Notes on Climate Change"で提示するデータはすべて、過去の文献・本に載っているものだけである。なので、私は"Notes on Climate Change"を学術誌に掲載しようとは思わない。...
[1. Response to Readers: Notes on Climate Change]
というところ。

ということで、「人類による二酸化炭素排出による地球温暖化」に対して大きな異論があることの証拠として、SI Akasofu: "Notes on Climate Change"を引用しても、ただの水増しにしかなっていないと判断すべき。





Dr. S Fred Singer

(2009/02/26のエントリ再掲)

Dr. S. Fred Singer翁は1924年生まれの85歳。温暖化否定論を主張する中心的人物である。、1960年代にはEisenhower大統領の顧問をつとめたりして、地球観測衛星の初期の発展に寄与。National Weather BureauのSatellite Service Centerのセンター長(1962-64)や、University of MiamiやUniversity of Virginiaなどの地球環境関連の教授をやったり、地球環境関連の政府機関の責任者をつとめたりと立派な経歴を持つ科学者である。現在は自らが設立したThe Science & Environmental Policy Projectの代表者をしている。

Dr. S. Fred Singer翁が、温暖化否定論を主張し始めたのは、遅くとも1990年代末。基本的な考えは「地球は温暖化しているが、自然現象である」&「IPCCが予測するほどの温暖化は起きないだろう」&「温暖化そのものは人類にとって有益」というものであるが、論点としては次のようなものを挙げている

  • 地球が温暖化しているかどうかわからない
  • 温暖化しているが、それは自然現象である
  • 気候モデルは信頼できないので、現在予測されているような温暖化は起きない
  • 二酸化炭素の変動と気温の変動は相関しているが、どちらが原因かわからない
  • 京都議定書の効果は0.05℃とわずか
  • 我々がCO2排出量を減らしても、中国とインドの排出量が増大し、支配的な部分を占める
  • 蒸発や降水や極の氷などを考えれば、温暖化しても海面が上昇するかどうかわからない
  • 歴史記録からは明らかに温暖期は寒冷期よりも人類はよい生活をしていた
このあたりをまとめて一般向けに語ったのが、2000年のPBSのインタビュー。主張の重複などもあるが、わりと明瞭に考えを明らかにしている:
[Interview: Dr. S. Fred Singer, PBS, 2000]

P: PBSのインタビューアー, S: Dr. S.Fred Singer

P: 気候変動の脅威はあまりにも多く、私たちはエネルギー生産方法を根本的に変える必要があると主張している人々がいます。これについてどう思われますか?

S: 気候変動は自然現象だ。気候は絶えず変化し続けておる。気候変動そのものは脅威などではないぞ。過去、人類はあらゆる気候変動をくぐりぬけてきた。

P: 論点は気候変動の新しい要因があり、それが人類だということです。変動の次元が自然の範囲あるいは正常の範囲を逸脱したかもしれないことです。

S: 人類が地方レベルの気候に影響を与えられることに疑問の余地はない。街中が郊外や周囲の田舎よりも暖かいことは誰もが知っておる。これは、人類がエネルギーを生産し、生活し、熱を発生させていることの証しだ。我々はもはやエネルギーなしの生活には戻れんだろう。

重要な問題は、人類が地球の環境を変えられるかどうかだ。これにはまったく決着がついておらん。これを決着させられるのは実際の観測、データだけだ。だが、データはあいまいだ。たとえば、ずっと人類は長きにわたってエネルギーを大量に使ってきたが、データでは1900年から1940年は温暖化が見られる。ところが、1940年から1975年は逆に寒冷化が進んだ。そして、短期間、ほんの5年ほどの温暖化だ。しかし、1979年以降は我々の最良の観測では、わずかながら気候は寒冷化しておる。確かに温暖化しておらん。

P: しかし、地表気温の観測記録は、上昇し続けています。

S: 地表気温は上昇し続けておる。しかしだ、地表気温の観測記録をちゃんと見ないといかん。多くの温度計は街中かその近くに設置されておる。街が大きくなれば、それだけ温暖になる。したがって、気温の記録に影響する。この効果、いわゆる都市ヒートアイランド効果を除去するのはとてもむつかしい。そこで、わしは気象観測衛星の方を信用しておる。

P: あなたの手には100年遡れる、データ収集に問題のあるデータがります。一方、それよりもはるかに短期間のデータ収集に問題のあるデータ、衛星観測データがあります。統計的観点からは、短期間の記録より長期の記録を重視すべきではありませんか?

S: もし、長期トレンドがあれば、一般的には、長期の記録は統計上、より多くのことがわかるだろう。しかしだ、実際は、地表気温は寒冷化傾向も見せておる。では、どの地表気温の記録を信用するのだ?1940年以前の温暖化か、1940年以降の寒冷化か?これはジレンマなのだ。

P: 気候モデル研究者なら、気温のカーブには3つの区間があるというでしょう。すなわち、陸地地表の、温暖化期、寒冷化期、そして現在の急温暖化期です。そしてそれが彼らの問題です。

S: 未来を予測するに我々はモデルを使っておる。それ以外に未来を予測する方法がないのだ。そこで重要な問題は、これらのモデルが観測結果によって有効性が確認されているのか?そのモデルでは、現在、10年あたり華氏1F[0.55℃]という対流圏中層すなわち地表のすぐ上の大気の温暖化率を明瞭に示しているが、これは観測結果とは一致しておらん。観測結果とモデルが一致するか、どちらかの問題が解決されるまでは、もちろん、現状のモデルによる予測を容易には信じられんだろう。モデルは次第によくなってきておる。10年もすれば、観測結果と一致するような、信頼できるモデルができるだろう。

P: 基礎的な物理法則に立ち戻りましょう。ジョン・チンダルのような人々は19世紀に実験を行って、チューブにさまざまな気体を充填してみて、二酸化炭素や水蒸気のような気体が赤外線を遮ることを確認していました。そして、この基礎的な物理が効くなら、自然の温室効果となり、現在の気候の変化の原因の一部となってなるわけです。もし、これらの気体の工学的な厚みが増せば、より多くの熱を捕えられるでしょう。この観点については、異論はないのではありませんか?

S: 基礎的な物理は何も間違っておらん。実験室での測定などの実験物理も間違っておらん。実験は外部条件をコントロールした上で厳密に行えるのだ。しかし、大気圏ははるかに複雑だ。二酸化炭素の増加による温暖化と、他の原因、たとえば太陽の変化による温暖化をどうやって識別するのだ。これは決着させねばならん重要な問題だ。たとえば、二酸化炭素が増えれば、温暖化が進むと考えよう。しかし、これは同時に、より海洋からの蒸発が増えたことによる温暖化あるいは少しの温暖化も加わってしまう。これは避けられない。それは誰もが同意しておる。では、この増えた分の水蒸気の大気圏への影響はどうなのだ。モデルで計算されているように温暖化を進めるのか?それとも雲となって、太陽光を反射し、温暖化を弱めるのか?それとも何か別な効果が現れるのか?、わかるだろうが、雲はモデルには入っていない。今のモデルでは、雲をちゃんと記述するどころか、雲の生成する議論できるようなしろものではないのだ。だから、今はまだ、二酸化炭素の増加によってどれだけ温暖化が進むか示せる段階ではないのだ。

個人的には少しだけ温暖化を進めるものだと考えておる。しかし、今のモデルが予測するような温暖化よりはるかに小さいものだと考えておる。ほんの小さなものだと。さらに言うなら、測定できないほどの小ささだと考えておる。実際のところ、測定できるかもしれず、できないかもしれずだ。確かに重大なものではないのだ。つまりは、人間には大した違いはでない。結局のところ、地球のどこかでは華氏100Fの気候変化が起きるときに、100年で1Fの変化など何が違うというのだ。

P: 熱膨張で海水の体積が増えると思われます。したがって、時間がたてば自然と海面が上昇すると思われます。

S: 海洋が暖まれば、海水が膨張し、海面が上昇することには疑問の余地はない。しかし、それは要因のひとつに過ぎん。もうひとつは山岳氷河が融けて、河川の水量が増加し、これが海洋に流れ込んで海面上昇を起こすこと。

しかし、今より温暖になれば海洋からの蒸発量が多くなることがこれを相殺するだろう。そして蒸発した水は全世界に雨となって降り注ぐ。その一部は南極に降り注ぎ、氷となって蓄積される。でここで問題はどちらが大きいかだ。海洋から蒸発した水が極冠の氷となって貯えられて海面を降下させるか、他の要因が海面を上昇させるか。これは理論的には決められん。計測しかないのだ。わしは計測結果を見て、分析したところ、氷の蓄積の方が大きいことがわかった。そして、実際データを見たところ、強く温暖化していた20世紀初期には、原因はわからないが1900〜1940年の強い温暖化と同時期に、海水位は降下していたのだ。これが君が言うところの、実測による検証だ。氷の蓄積の方が大きいという考えを緩やかな温暖化について検討だ。もちろん、温暖化が極端に進めば、極冠の氷はすべて融けて、すべて海水面上昇につながるだろう。しかし、そんな話は誰もしとらん。

P: ということは、問題は作動している特定のフィードバック機構の種類に依存しているということですね。あなたが言われる事実は、とても複雑で非線形で、温暖化が寒冷化を招き、寒冷化が温暖化を招き、あらゆる現象が起きうるということですね。しかしですね、基本的には支配的な強制力が存在しえます。たとえば、現在よりも非常に温暖な時期が歴史上何度かありましたが、その頃は今より二酸化炭素が多かったわけです。

S: 基本的には強く温暖化を進める強制力も、強く寒冷化を進める強制力もありえるだろう。たとえば、火山噴火は強い寒冷化を招く。これには疑問の余地はない。太陽放射の変化は温暖化も寒冷かも招くが、これはその方向性による。しかし、フィードバックこそが最も重要だ。フィードバックがどう働くかよくわかっておらんので、いまのモデルではフィードバックを適切には記述できん。これは、我々は、もっともっと大気について物理的研究が必要だということだ。もっと観測して、フィードバックがどんなものか、そしてどう働くか発見しなけれんばならん。ポジティブフィードバックがかかって温暖化を進めるのか、それともネガティブフィードバックがかかって温暖化を抑制するのか。わしが言える限りでは、証拠からはネガティブフィードバックの方が大きいということだ。それは現在の二酸化炭素量の増加から予測される温暖化が起きていないからだ。

P: システムには慣性があるという人もいるでしょう。私たちがその他の人類起源の強制力、大気中に放出したエアロゾルのようなものによって、直接に、あるいは雲を作る、あるいは海洋の遅延などによる遅延を観測していて、温暖化が進まないのは、それらが温暖化に影響しないからではないのでは。ほんとうに不安なことは、実際に影響が出たときには取り返しがつかなくなっていることです。これについてはどうでしょうか?

S: 海洋の熱容量による遅延を見分けねばならん。これはひとつの問題だ。しかし、エアロゾルのように寒冷化を進めるような人類の活動も忘れてはならん。エアロゾルはどうやってできるか。ひとつは石炭を燃やして硫黄分を大気中に放出することだ。幸い、クリーンコールの使用が始まった。煙から硫黄分が除去されるので、エアロゾルの発生はもはや重要ではない。同じく、バイオマスの年少や山火事でも、大量の煙が出て、大気中に粒子が放出される。農業は地表を荒らして、風で塵が吹き飛ばされやすくする。そのような塵も大気中ではエアロゾルとなる。

大気中のこれらの粒子は全て気候に影響する。どれかは寒冷化を、どれかは温暖化を進めるだろう。違う種類の粒子は違う効果を持つ。粒子が黒く煤けていれば、太陽エネルギーを吸収し、そうでなければ反射し、太陽エネルギーを宇宙空間へ反射する。だから、注意深く見なければならん。主導的な気候モデル研究者にジム・ハンソン(Jim Hanson)がいる。彼は実際、10年前に孤立無援の状況で、温室効果が確実に強まっていると言っていた。しかし、今や彼ははっきりとは言えないと言っておる。彼は、気候モデルよりも強制力があまりに不確定であることの方が大きいと言っている。言い換えるなら、強制力がわからないと、気候モデルは意味のある予測ができんということだ。それが基本的に彼が言っていることだ。

P: しかし、これには疑問があります。確かにエアロゾルは存在し、強まった温室効果を減殺する効果があるかもしれません。しかし、エアロゾルは数日で失われますが、二酸化炭素は蓄積され続けます。二酸化炭素は100年にわたって残るのです。したがって、それらは実際にはバランスしません。少しくらいはバランスするとしても、長い時間をみれば、二酸化炭素が放出され続ける限り、二酸化炭素は蓄積され続け、エアロゾルは消えてしまいます。将来にわたって化石燃料を使い続けるとすれば、その他の強制力は圧倒されてしまわないのでしょうか?

S: 大気圏でのエアロゾルは寿命はとても短く、典型的には二週間程度、あるいそのあたりだ。そして雨に洗い流されて、あるいは地上に降り落ちる。二酸化炭素の寿命は数十年と測定されておる。幾らかは100年以上残るだろう。したがって、二酸化炭素の効果は大きく、もしかすると支配的になるかもしれん。

しかし、問題がある。エアロゾルの効果に比べて大きいのかということだ。あるいこういえばいいだろう。エアロゾルは現在、二酸化炭素の効果が隠れるほど効いているのかと。これには答えられる。気候データに残された形跡を見れば、これの答えは見つけられるのだ。工業活動が激しい北半球にエアロゾルが大量に放出されるので、温暖化の進行は南半球よりも北半球の方が遅いはずだ。実際に、北半球は寒冷化すると予測される。しかし、データでは逆だ。地上観測データも衛星データも一致して、過去20年、北半球の方が南半球よりも温暖化が進んでおる。エアロゾルが大きな違いをもたらすという考えと矛盾しておる。これは気候モデル屋にはとても都合が悪いだろう。彼らはモデルと観測が一致しないのはエアロゾルのせいだと言ってきたのだからな。彼らはまた別の言い訳をさがさねばならんだろう。

P: モデルについて伺います。コンピュータモデルには何ができて、何ができないのでしょうか?モデルを使う目的は何でしょうか?

S: コンピュータモデルにはいろいろある。しかし、最近、多くの者が議論しているのは、大気圏全球を3次元でモデル化したジャイアントモデルだ。これらのモデルは全球の格子点上の重要はパラメータを計算する。格子点の間隔はおおよそ200マイルで、垂直方向に複数の層を持つ。気温と風とその他を200マイル間隔で計算すると考えれば、雲どころか雲の集団さえも小さすぎて捕えられん。雲を記述できるくらいにモデルが高精度にならないと、とてもモデルを信用できない。

P: しかし、それでも、モデルはこの議論で重要な役割を演じています。モデルがどのような予測をしてきたかの経緯を教えてください。これまであなたが言及してきた、モデルによるいつくかの予測をスケールダウンしなければならなかったのか。そして、モデルには何ができて、何ができないのかにについて。

S: モデルが季節変動を再現できるように調整されていることを知っておかんといかんだろう。言うなれば、モデルは、現在の気候と季節変化を再現できるように調整されておるのだ。

P: あなたはモデルをフェイクだと言っているのですか?

S: モデルはひねられておる。それが正しい物言いだと思う。モデルは調整され、あるいはひねられて、現在の気候と現在の短期の変動を再現できるようになっておる。さらに、知っておかんといかんことは、気候モデルは世界中に24個ばかりあるということだ。それらの答えは一致しているかといえば、そうではない。これらのモデルはどれもすぐれた気候学者と途方もないコンピュータによって作られたものばかりだ。では何故、答えが一致しない?何故、二酸化炭素濃度が2倍になったとき、あるモデルは5℃、華氏で言うと8Fも温暖化するといい、別のモデルは1Fくらいだとい言うのか?

理由はこうだ。これらのモデルは雲の記述がそもそも違っておる。あるモデルでは雲はさらなる温暖化効果がある。他のモデルでは寒冷化効果がある。どっちのモデルが正しいのか?答えるすべはない。それぞれのモデルを作った科学者たちはそれが最良のモデルだと考えておる。だから、モデルの結果が違いが小さくなって、結果が一致するようになり始めるまで、待つしかないだろうというのがわしの考えだ。

P: これらのモデルを使って過去の気候、強制力が知られている氷河期などを再現しようとするとどうなるでしょうか?それはうまくいくのでしょうか?

S: たとえば氷河期が何故始まり、あるいは何故終わるのかを説明することに劇的に失敗する。最新の成果は1999年初のものだ。たとえば、氷河の融解つまり氷河期から間氷期への遷移が劇的であること、氷河期が急に終わって、温暖化が始まることが知られておる。そして同時に二酸化炭素が増加することが記録されておる。この記録はアイスコアから採取されたもので、適切な測結果だ。

P: 気温と二酸化炭素はそろって増減しています。

S: 確かに二酸化炭素の変動と気温の変動は相関している。科学者たちは注意深くこれを相関していると言い、どちらが原因でどちらか結果かは言わない。政治家はそこまで注意深くない。実際。我らが副大統領アル・ゴア[2000年時点ではクリントン大統領・ゴア副大統領の民主党政権] は、南極のアイスコア、いわゆるヴォストークコアの結果たる、気温の変化と二酸化炭素の変化をプレゼンにいつも使っている。そして、この相関を指して、「わかりますか?これら二酸化炭素の変化が過去の気温の上昇を引き起こしているのです。」と言っておる。

それは間違っておる。実際、1999年初に、サイエンス誌に出た論文では、気温の変化が先か二酸化炭素の変化が先か、どちらであるかを計測できるだけの適切な解像度を実現しておる。でどうだったか。気温の変化が先で、約600年遅れて二酸化炭素が変化していた。これは何かが原因で気温が変化したのであって、二酸化炭素が原因ではないということだ。気候が温暖化すれば、海洋に吸収されていた二酸化炭素が大気中に放出されるということなのだ。

P: 基本的にはもちろん、いずれもフィードバックしますね。

S: そう予測はされるだろう。しかし、どれだけフィードバックするかは何も言えん。言い換えるなら、どれだけの気温の上昇が、二酸化炭素の増加によるものなのかという問題に立ち戻ることになる。

P: 私の質問に答えてください。モデルには何ができるのですか?モデルは期間と外部条件を適切にとれば過去に何が起きたか再現できるのではありませんか?

S: 多くの研究者が実際に過去の気候を再現させるべく気候モデルを使った。そしてある程度はうまくいった。しかし、それ以上は、気候の感度についての再現は無理だった。言い換えるなら、次に必要なことはこれらのモデルを評価する方法なのだ。知りたいことは大気中の二酸化炭素が2倍になったら、気温がどれだけ変化するかだ。これがいわゆる気候感度だ。気候感度はどうだ。前に言ったように、あるモデルでは1℃程度である、他のモデルでは5℃、華氏で言うと8Fだ。これは大きな違いだ。まったく違っておる。

正しいものがあるとして、どの数字が正しい?中央値や平均値をとってもだめだ。平均値が正しい結果だという理由はなにもない。最大値がいいかもしれず、最小値がいいかもしれないが、それはわからない。どれが正しいかを知るには、観測して、大気圏で何が起きるかを理解しなければならん。

P: それには、慎重になるには、もう時間がなく、少なくとももっともらしいシナリオから私たちは今、何かをすべきだという人々もいます。あなたも言われるように、これらの計測はあまりにも困難だからです。そうするには長い時間がかかり高い精度が必要となります。それには15年かかるか、20年あるいは25年かかるかもしれません。それまで、私たちは何もしなくてよいのでしょうか?

S: その質問は何かを「すべきか」ということだね。わしは、リスクが小さくてプレミアム(保険料)が高い保険を買うほどの信者ではない。普通に考えれば、誰もそんなことはせん。このケースでもそうだ。とても小さなリスクに対して、とても高いプレミアムを払わねばならんような保険政策を買えと言われているわけだ。我々はエネルギー消費を節約し、それも数%ではなく、京都議定書に従えば10年で35%も節約せねばならん。これでは1/3のエネルギー消費をあきらめる、つまり電力消費を1/3にし、1/3の車を捨てねばならんことになる。これは我々の経済に大きな混乱をもたらし、人々の生活に大きな打撃を与える。特に最低水準の者たちに。

何のために。京都議定書では二酸化炭素の増加率を現在よりほんのわずか下げるだけだ。そして実際、国連の科学アドバイザリグループはその結果を公表しておる。それによれば明らかに温暖化を抑制できるが、それには議定書が発効し、遵守すべき国すべてが遵守しても、今から50年後の2050年までに、予想される気温上昇を0.05℃抑制するだけなのだ。それだけでは観測できるほどの大きさではない。これを買えといっているわけだ。

P: モデルによる予測レンジが1℃〜5℃だとして、気候がそれほど二酸化炭素への感度がないとしても、次世紀[インタビュー時点での次世紀=21世紀]には二酸化炭素は2倍、もしかすると3倍にもなるでしょう。人口増加率と生活水準の上昇率のもっともらしい値を見れば、そして化石燃料への依存度 85〜90%を考えれば、3倍あるいは4倍になってもおかしくないでしょう。そうなれば、いかに感度が小さいといっても気候変動に影響を与えるのではありませんか?温室効果ガスの効果が顕著となるときがくるでしょう。それはいいのですか?あなたが生きている間に、そのときは来るかもしれません。

S: まずは、大気中の二酸化炭素濃度の将来の水準について片付けよう。これについて意見の一致は見ていない。ある専門家は大気中の二酸化炭素は2倍になることすらありえないと考えている。我々の経済のいわゆる脱炭素化が進み続けると考えておる。つまり、同じGNPあたりで、我々は次第に化石燃料を使わなくなるだろうということだ。

彼らはまた、化石燃料が枯渇してくれば、価格が上がって、自然と非化石燃料でエネルギーをつくるようになるだろうと考えている。原子力が良い例だ。原子力は二酸化炭素をまったく排出しない。米国やいくつかに国では原子力の評判は良くない。しかしフランスでは電力の75%が原子力だ。日本では今後10年で、あらたに20基の原子炉をつくることを決めたところで、原子力依存度は50%は増加し、ほぼ原子力だけになるだろう。

P: しかし、人口が最も多い二つの国、インドと中国が、石炭に大きく依存しています。それはさらに大きくなり30〜50年で米国よりもはるかに多くのの石炭を燃やし、多くの二酸化炭素を排出するようになるだろうことに、大半のエコノミストが一致しています。短期的には、二酸化炭素の大気中への排出について、とても楽観的な根拠は見られません。

S: わしは予言者ではない。将来の二酸化炭素レベルを予想しようとは思わん。しかし、公表された文献を読んで報告はできる。で、確かに中国とインド、特に中国は、我々が何をしようとも、二酸化炭素排出量を増やすだろう。そして、すぐに、おそらく2010年までに、遅くとも2020年までに世界の排出量の支配的な部分を占るようになるだろう。これに対しては、我々が何をしようとも関係がない。これは中国とインドにどれだけの人々が住んでいるかによって、石炭を使うか他の化石燃料を使うかによらずエネルギー消費量は決まる。これは所与と考える。問題は、我々がこれに何故かかわるべきかだ。大気中の二酸化炭素が我々に危険な水準にあるとでも。

P: それは私が聞きたいことです。モデルシナリオは2倍についてものでした。3倍あるいは4倍になったら、感度の低いモデルであっても重大な影響の出る気候変動を起こすのではありませんか? 5℃の変化は明らかにとても大きいものですから、どうでしょう?

S: さきほど言ったように、大気中の二酸化炭素が増えれば、地球全体の気温が上昇することには疑いを持っておらん。問題はどれだけかだ。この問題に答える方法はある。二酸化炭素濃度は既に工業化時代、すなわち過去100年に50%増加しておるからだ。これによる気温上昇はどこへいった。何故観測できないのだ。これが答えだ。

さらに、実際に新たに放出された二酸化炭素による気温上昇を過去の記録から見つけたと、いかにして確信できるのか?気候は自然に温暖化したり、寒冷化したりすることがわかっておる。他の原因、たとえば太陽の変化による温暖化と二酸化炭素増加による温暖化をどうやって区別するのだ。これらは決着する必要のある重大な問題だ。

その前に、さらにもうひとつ疑問がある。二酸化炭素が4倍、あるいは5倍、君の好きな数倍だけ増えたとしよう。過去にそれで何が起きた?過去6億年で化石の記録では今より20倍もの二酸化炭素濃度であり、それが次第に減少してきたという地質学的証拠がある。つまり二酸化炭素濃度は減少し続けておる。地球は、今よりもはるかに二酸化炭素濃度の高い時代を経験しておるが、大なる被害は受けていない。というおは生命は順調に発展しているからだ。実際、カンブリア紀のはじめには開花している。

そして、我々が心配しているのは二酸化炭素濃度が低くなりすぎないことだ。何故なら二酸化炭素濃度が下がれば、たとえば現在の1/2、最後の氷河期の水準は1/2以下だが、そうなれば植物には甚大な影響が出る。結局のところ、二酸化炭素は植物にとっての食料なのだ。二酸化炭素が大気中になければ、植物は生きてはいけん。したがって動物もだ。よって人類もだ。言い換えるなら、大気中の二酸化炭素濃度が低くなりすぎないようにすることに責任を負い関心を持っている。二酸化炭素濃度が高いことは問題ではない。それなら植物が元気よく生長する。農業の生産性が高まることだろう。それは動物の多様性をも推進するだろうし、おそらく人類の生活もよくなるだろう。明らかに安くて豊富な食料があるということは、高くて乏しい食料があるよりも良い状態だ。

P: ある気候学者たちは、恐竜時代に戻れば確かに二酸化炭素は多かったが、世界には氷があったが、この数百万年では、それほどの氷はなかったと論じています。二酸化炭素濃度が増えれば、氷と二酸化炭素の関係が問題となるはずです。さらに彼らは、世界には膨大な数の人間が生活しており、したがってかつてよりも影響に対する対応がむつかしいとも考えています。

S: 人口があまりにも多すぎて世界が気候変動に対応しにくくなっているという、一見もっともらしい主張について論じたい。適応可能性は技術と関連していると考えられる。明らかに、人類が氷河期に適応できていたなら、人類はとても低い気温に適応していたわけであり、前の間氷期、おおよそ12万年前には確かにほとんどいかなる考えうる気候変動にも適応できていたはずなのだ。それは我々がそれだけの技術を持っているからだ。さらに、人類は移動できるし、実際に移動する。歴史の記録を見えば、たとえば過去3000年だと、寒冷期にそれが見られた。人類はよく耐えた。小氷期の間、1400年から1800年ないし1850 年まで、欧州はとても寒かったことが記録されている。収穫はなく、食料は不足し、人々は飢え、疫病がはやった。とてもみじめな時代だった。

それより前、中世気候最適期と呼ばれる時代があった。"最適"という言葉は気候学者が使った言葉だ。1100年前後は気候は暖かかった。バイキングはグリーンランドに定住できた。実際、グリーンランドでも小麦が収穫できた。欧州の生活はよかった。聖堂が建設された。十分な食料があり、十分な余剰があった。歴史記録からは明らかに温暖期は寒冷期よりも人類はよい生活をしていたと言えよう。来るべき寒冷期に適応するほうが、来るべき温暖期に適応するよりもずっと大変なのだ。

P: 他にも驚くような議論があります。歴史上、急激な気温変化があり、特に氷河期が終わった後で、一部の研究者は海洋循環の変化と結び付けようとしていますが、10℃, 15℃, 20℃の気温降下が10年程度起きています。また、このことは気候システムはある程度不安定であり、擾乱により状態が急速に遷移しうることを示しています。あなたの言うことが正しいとしても、その状態遷移の引き金を引き、大きな変動をもたらしてしまうような、火遊びをしているのではないかという議論もあります。これについて、どうお考えですか?

S: 気候は確かに急速に変化する。しかし、銘記すべきは人類が介入しなくても起きるということだ。実際、気候変動についての歴史記録には、国連科学グループのどんな予測よりも、急速かつ大きなものが記録されている。たとえば、海洋堆積物から得られる高解像度の記録では、年単位の気温変化を解析できる。確かに、人類が介入しなくても、気候変動がほんとうに急速であることがよくわかる。このような気候変動は今後も起き続けるだろう。興味深いことに気候は、二酸化炭素が少なく寒冷な時期の方が変動が大きいということだ。これはまさに歴史的事実だ。データを解析すれば、最後の氷河期の間の気候変動は、現在の間氷期よりもはるかに大きいことがわかるだろう。これを信じるならば、大気中の二酸化炭素を増やして温暖化すれば、気候がより安定するという考えも成り立つ。

P: あなたと同じ見方をする科学者がいる一方で、非常に多くの科学者があなたとは違った見方をしています。ここに問題があると熱く感じている多くの科学者がいるからこそ、政府間パネルの終了にあたって科学者の多数派がこれやあれやを信じているという声明を出している見地から何が起きているのか、あなたのご意見をおきかせください。何が進行しているとお考えですか?モデル開発には膨大な人々が参加していますが、あなたが考えているのは、彼らがこれまでに作成したものに限られているのではありませんか?彼らはこれからよりうまくやっていくのではありませんか?

S: まずはじめの科学的コンセンサスについての質問だが、こういうことは気をつけて言わねばならんが、そもそも科学は投票で決めるものではない。投票によって何が正しい答えかを決めてはいかん。科学は観測によってその理論や仮説が確認されたり否定されたりするものなのだ。理論が確認されれば、さらに観測を続けて、なお正しいかどうか確認する段階へ進む。仮説に反していたら、新たな仮説を作り直す。

これが科学の発展のやりかただ。

実際、歴史的には、たとえわずかな科学的進展であっても、観測や実験的事実が現在の理論を支持しなかったからこそなのだ。そして、ふつう、新しい実験が小さなグループで行われたり、新しい理論は一個人によって提示されたりするのだ。たとえば、科学界の大半の大いなる反論に抗して、アルベルト・アインシュタインは正しかったのだ。だから科学は面白いのだ。おのずと答えは出る。真実は突如現れる。これがわしの信条だ。

気候分野では、状況は複雑で、政治的要素、率直に言えば、お金が絡んでくる。これは科学ではふつうのことではない。たとえば、相対論ではそこの政治勢力もからんでいなかった。しかし気候科学にはある。相対論には大きなお金は絡んでいないが、気候科学には絡んでいる。気候研究に連邦政府は毎年20億ドルも投入している。いまやこのお金は誰かが使わねばならん。この金で多くの職が維持されておる。多くの人々が生活の糧を得ている。そして必然的に、これらの人々の多くは、彼らのしていることがものすごく重要かつ不可欠なことであると感じておる。彼らの仕事は人類がある種の問題に対処するための手助けをしているのだと自画自賛している。

P: あなたは彼らが不正直だとは言わないでしょうね?

S: 彼らが不正直だなどとは言っておらん。まったくだ。誰もデータを改竄しようなどとはしておらん。誰も計算結果を改竄しようとはしておらん。しかし、必然的に、ある特定の見方を持っていると、それが両方に働く。自分の見方に合わない事実やデータを隠し、自分の見方を支持する観測やデータを好むものだ。観測結果を提示するときにそのような選択をしてしまうものなのだ。

例を示そうか。国連サイエンスアドバイザリグループ、つまりIPCCを見てみよう。彼らの報告書においては、とても出来の良い報告書なのだが、6000 ページ近くもあって索引もないので、わしのような専門家でもなければ、誰も読みはせん。報告書の5ページの要約があるので、政治家やメディアも含め、皆そこだけを読む。もし要約だけを読むなら、過去20年の気象衛星による観測で地球温暖化が見られないという事実には気づけないだろう。実際のところ少し寒冷化しておる、。実際、要約には衛星観測のことすら書いてないのだ。

それは何故か?これらだけが地球全体の観測データなのだ。これらが入手可能な最も良い観測データなのだ。全球をカバーしておる。地上観測では全球をカバーしておらん。地上観測は全球の多くの部分を漏らしている。全球の70%を占める海洋をカバーしておらん。つまりは、要約で使われたデータは選択的なものであるか、少なくも報告書において証明しようとしているパラダイムに合わない都合の悪いデータを隠しているというわけだ。不幸にしてこういうことはよく起きる。

もうひとつ知っておいてもらいたいことは、地球温暖化に批判的な人々は、ふつう研究のための支援を政府から受けていないことだ。彼らは政府機関に研究費を求めて提案書を書く必要はない。彼らは他に収入源を持っていることが多い。彼らは既に引退して年金生活をしていたり、他に収入源があって連邦機関に研究提案書を書かなくてもよいのだ。そして、連邦機関に送られ研究提案書を読んで、「私は地球温暖化が本当の脅威でないことを示す研究をします」と書かれた提案書が見つけたら、それは政府機関のどこからも資金提供を受けられないだろう。

P: とすると、あなたは、この分野がもはや正常な科学としては機能していなくて、なにか病的なメカニズムが働いているとお考えですか?

S: 気候科学が病的なものになっていきており、利用可能な資金によって誘導されているという意味で異常だと考えておる。資金提供を受けている者たち責めはせん。資金提供を受けて研究をしている人々は多くは非常に立派な研究をしておる。しかし、注意深く彼らの物言いを聞けば、彼らが地球温暖化の"脅威"に反することを言っていないことがわかるだろう。もちろん"脅威"を強調した。もし反したことを言えば、多くがそうなるのだが、重大な結果を被るだろう。彼らは資金を失う。例を挙げることもできる。あるいは不愉快な結果となるだろう。もし君が大学の若き教授であり、終身在職権を得ようとしていたら、あるいは恒久的な研究ポストをい手にしようとしていたらな、論文を発表せねばならん。研究を発表するには、提案書を書いて研究のための資金を手に入れねばならん。そうなれば、この悪循環にとらわれてしまう。地球温暖化は脅威だという現在の見識に従うしかなくなるのだ。でなけば、手にしたいと思うポストを手に出来ない。

P: あなたが正しく、彼らが間違っているのであれば、それは反証可能ですか?たとえば、次の10年が異常に寒ければ、彼らの理論をあきらめさせられるでしょうか?

S: 気候分野では実験科学が通用しない。次の10年が寒かったとしても、何も証明することにはならん。それは地球温暖化の重大さが少し小さくなるだけなのだ。それは、「いまや20年の衛星データではなく、30年の衛星データが必要だ」と言うだろうからだ。彼らは「それでは十分な長さではない。100年の衛星データがなければ寒冷化しているとは言えない。」と言うだろう。次の100年では必然的に温暖化が見られるだろう。それは常に気候が変動し続けているからだ。実際、。太陽放射は強くなったり弱くなったりする。そして太陽放射は11年周期およびもっと長い周期で変動していることもわかっておる。

P: 私の質問は、何があれば、あなたが間違っていると納得しますか?です。そして、何があれば彼らが間違っていると納得させられますか?この論争を決着させ、誠実な科学者を満足させるには実際に何が必要ですか?彼らが起きた現象を彼らのモデルで解釈するなら、どうやって解決できるのでしょうか?

S: 我々はモデルをもっとよいもにせねばならず、それらのモデルがあっているかどうかわかるような観測、いわば特定の形跡をもっと見つけねばならん。それには地球全体の平均気温では不十分だ。それでは地理的な変化、高度による変化、一時的な変化あるいはもっと詳細な計測を基にせねばならん。確かにモデル同士でも一致しておらん。したがって、まずもってその違いが何故起きるのかを見つけ、少なくともモデル間の差異を解決し、続いてモデルと観測の差異を解決すべきだと思う。

P: 最後に、ある人々が天気と気候を混同している点について、お話を伺わせてください。アル・ゴアがフロリダの山火事の前に立っている姿を見て、あるいはテキサスの旱魃について演説しているときに、また「昨夏は異常に暑かった」と言っているとき、これらは地球温暖化の証拠となるのでしょうか。あるいは1998 年の暑い夏は、地球温暖化の証拠でしょうか?はい、いいえのどちらですか?何が起きているのでしょうか?

S: 猛暑あるいは暖冬は地球温暖化の証拠ではない。米国では暖冬だったが、欧州とロシアの気温は異常に低かったことを忘れないでいただこう。我々がこういうことを知らないのは米国の天気のことを書いている米国の新聞を読んでいるからなのだ。だから、我々い突きつけられるこれらの観測結果は逸話になりがちだ。もし寒い天気であっても、それは氷河期が来ることを意味しない。しかし、たとえば1940年から1975年のように寒い時期がもし延々と続き、全球の気温が下がってくれば、人々とはほんとうに氷河期が来ることを怖れるようになる。わしはその頃のことを覚えておる。面白いのは、温暖化による破局を怖れていたものたちの多くが、かつては寒冷化による破局を怖れていたということだ。

そして彼らは何を奨めたか。政府はこれについて何かをすべきだと。国家科学アカデミー(NAS)は1971年に報告書を公表し、言える限り、これから 100年以内に氷河期が来る確率は確実だと言えると書いていた。さらに国家科学アカデミーは....最良の科学者を集めて、この問題に対処していきたいと。この研究をするために選ばれた特定パネルと同程度に良いメンバーだ。

P: 他の何か? . . .

S: 科学的コンセンサスについて、まず言わせてもらおう。それは数で決めてはいかんということだ。誤解を正すのが先決だと考えておる。2500人のIPCCの科学者は、地球が温暖化し、2100年までに2℃上昇するということで一致したという誤解だ。まったくそうではない。まずは、IPCCの報告書に載っている名前を数えてみれば、2000に満たないことがわかる。うち気象科学者を数えれば、おおよそ100だ。何人のうち何人が同意していると訊けば、陶業したわけではないのでわからないというのが答えだ。これらの科学者は報告書のために実際に研究をした。彼らはその報告書に、特に自分が執筆した章には明らかに同意している。彼らは要約には必ずしも同意しているわけではない。というのは要約は別のグループ、ひとにぎりの特定の見方をもつ政府の科学者が書いたもので、彼らの見方にあった事実だけを報告書から抜き出して書いたのだ。

たとえば、1966年の報告書の結論にだけあるのだが、気候には認識しうる人類の影響がある(there's a discernible human influence on climate.)と結論している。わしにはその意味がわからん。誰もその意味するところを知らんだろう。逆に、「地球気候に認識できる人類の影響(a discernible human influence on global climate.)」という文ならよくわかる。もちろんだ。夜は暖かくなってきておる。それだけのことだ。他方、政治家はそう考えるだろうが、気候モデルは検証されており、次世紀(21世紀)には顕著な温暖化が進むということは意味しない。そんなことは意味しない。そんなことは彼らは言っていない。示唆しているだけだ。

P: 「大半の科学者がどうしている」という声明などが信頼できないとするなら、この複雑な問題について、人々はそれに関する意見をどう持てばよいでしょうか?

S: 科学者たちが同意できていない何か結論について人々がどうすればよいか。これは人々が自ら問うべきだと考えておる。最悪の場合どうなるのかと問うべきだ。もし科学者が温暖化は正しいと言ったとしよう。ならばそれは良いことか、悪いことかと問うことだ。そして答えは温暖化なら、良いことだと。ならば心配することではない。たとえ温暖化して、温暖化が認識できるほどのものであったとしても、予想通りであり、計測可能であるなら、経済的な損害を意味しない。実際、その逆が正しい。

P: しかし、たとえば、バングラデシュやモルジブ諸島あるいは米国南部で洪水があれば、どうでしょうか。それもシナリオに入っていなければならないはずです。もし温暖化が進み、4℃か5℃上昇すれば、考えられないことではないでしょう。

S: 問うべきは、温暖な気候の影響がどんなものかだ。温暖化そのものは心配することではない。影響だ。だから次のように問うべきだ。農業への影響は?ポジティブだ。よくなる。高い二酸化炭素濃度と高い気温の森林への影響は?よくなる。水の供給はどうだ。中立。海水位への影響は?海面上昇を抑制する。あるいは海水面は上昇しない。レクリエーションには?さまざま。スキーはだめだろう。しかし、よりよい日差しとビーチ向きの天気は増えるだろう。

面と向き合おうではないか。人々は暖かい気候が好きだ。だからこそ米国の多くの人々がサンベルトに引っ越したがる。それも引退した人ばかりではない。
以上の論点に「気候変動は太陽活動の変化によるもの」がないのは、Dr. Sallie Baliunasのネタだからと思われる。

ところで、Dr. S. Fred Singer翁が温暖化否定論を主唱している理由は定かではない。少なくとも創造論や福音主義キリスト教と関連性はまったく見られない。EXXON, Shell, Unocal, Sun Oil, ARCOといった石油関連企業に原油価格についてのコンサルティングをしていたことがあるが、それは1970年代後半。また自らが設立したSEPPが、ExxonMobileから寄付を受けたことがあるが恒常的なものではない。また、気候変動関連の世界から排除されているわけでもなく、IPCC Report作成にレビュアーとして参加している。なので、2007年のノーベル平和賞の0.1%相当受賞したことになる。

また、これまでに、CFCによるオゾン層破壊の理論を批判したり、タバコの副流煙は有害という主張を批判したりと、分野違いの世界でメインストリームの逆を行くことで名が知られている。ただし、オゾン層破壊公聴会は71歳のときで、温暖化否定論はその後であり、隠居世代になってからのネタである。

老後の趣味のようでもあるが、実際は誰もわからない....
U.S. Air Force Academyの準教授(数学・物理・計算機科学)などの仕事を引退してから、老後の趣味で創造論者をやってたりするDr, Walt Brownみたいな人もいるので、老後は変なネタで楽しもうという可能性もなくはない。

なお、Dr. S. Fred Singer翁はこんな人:




posted by Kumicit at 2009/12/13 23:36 | Comment(0) | TrackBack(1) | Sound Science | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

辻詩音
Excerpt: 忘却からの帰還: 米国の温暖化否定を概観する (5) 温暖化否定論の立場 ... ■19世紀末から20世紀初頭の発明家Elmer Gatesの怪しいネタ ⇒ 韓国籍の女性歌手・詩音 ケタミン使用で逮..
Weblog: ニュース速報。今日の見所
Tracked: 2009-12-14 14:54
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。