2010/03/12

インテリジェントデザイン(還元不可能な複雑さ)のアウトライン

「還元不可能な複雑さ」とはインテリジェントデザイン理論家Dr. Michael Beheが1996年に、漸進進化不可能性の証拠として提唱した概念である。

Systems are irreducibly complex if removing any one part destroys the system's function. Irreducible complexity in organisms indicates they were designed.

もし、部品を一個でも取り除くとシステムの機能が失われるなら、そのシステムは還元不可能に複雑である。生物器官にある還元不可能な複雑さは、それがデザインされたことを示す。

[Michael Behe: "Darwin's Black Box", New York: The Free Press. 1996]

このときBeheは、アナロジーとしてネズミ捕りを、生物器官の例として細菌の鞭毛を挙げている。これについての、インテリジェントデザイン運動側の簡単な解説が以下にある。



あまり言うことがないのか、同じセンテンスが繰り返されている。

それはさておき、この「還元不可能な複雑さ(Irreducible Complexity)」の定義が1974年に出版された"若い地球の創造論"(創造科学)の本"Scientific Creationism"に書かれている。

The problem is simply whether a complex system, in which many components function unitedly together, and in which each component is uniquely necessary to the efficient functioning of the whole, could ever arise by random processes. The question is especially incisive when we deal with living system. Although inorganic relationships are often quite complex, living organisms are immensely more so. The evolution model nevertherless assumes all of these have arisen by chance and naturalism.

問題は、多くの部品がいっしょになって機能し、全体が効率的に機能するには個々の部品が代替不可能な必須である複雑なシステムが、ランダムな過程によって形成されるかどうかだ。この問題は我々が生物システムを取り扱うときに痛烈な問いとなる。非有機的な関係でもしばしば複雑になるのだから、生物でははるかに複雑になる。進化モデルはこれらすべてが、偶然と自然主義によって起こったと仮定する。

[Henry M. Morris: "Scientific Creationism", 1974, 1985, p.71]

また、Beheが例として挙げた鞭毛も、すでに創造科学のネタとして使われている。つまり、Beheの還元不可能な複雑さは、創造科学のパクリ、あるいは再包装である。



ただし、Beheは還元不可能な複雑さの例として、鞭毛以外に、血液凝固系、免疫系などを挙げており、それらについては創造科学のネタではなく、Beheオリジナルである。

これらの例は、実際にはどうかというと、何らかの形で分解されている。鞭毛はType III Secretory Systemのコオプションの可能性が指摘され、ヤツメウナギの血液凝固系は半分でも機能していることが示され、免疫系も分解されている(末尾参照)。



このことは、たまたまBeheが挙げた例が進化可能だったということにとどまらない。もっと重要なことは「部品を一個でも取り除くとシステムの機能が失われる」ことが「進化不可能」を意味しないことが示されていることだ。


アナロジーが理論の一部になっているインテリジェントデザイン


「還元不可能に複雑な」ものが分解されてしまうと、「還元不可能な複雑さ」は何の意味もない概念になってしまった。

これとともに、そもそもの「還元不可能な複雑さ」には、「アナロジーが理論の一部を構成」しているという問題がある。実際、インテリジェントデザイン運動側は「アナロジーの例と実際の例に十分な類似性があるなら、アナロジーによる議論は有効でありうる」とIDEA FAQなどで堂々と述べている。



しかし、そもそも、アナロジーは可能性の示唆はできても、証明にならないと既にHumeが論じている

アナロジーは、科学的な仮説と同じように、可能性を「示唆」するだけであって、決して証明にはなりえないのである。科学の仮説は実験によって検証しうる。しかし、創造の背後にある知性についての仮説が同じようなやり方で検証し得ないのは明らかだ。世界が創造される現場を目撃した人はいないからだ。

我々が知っているのは一つの世界だけである。もし様々な世界を比較検討できるのであれば、「この」世界のほうが「あの」世界よりも機械に似ているとか似ていないとか言えるだろう。しかし、世界の単一性を奉じている我々に、どうしてこのような優劣の選択が正当化できるのか。

[JH ブルック: 科学と宗教, pp.201-203]




「ネズミ捕り」のアナロジーで語られた「還元不可能な複雑さ」をめぐる論争は、生物器官の進化可能性という生物学の世界とともに、アナロジーの世界でも進むことになってしまった。

Beheの提示した部品5個で構成されるネズミ捕りについて、部品1個からの漸進進化や、ネクタイピンからのコオプションなど「進化可能」な経路が提示された。



新しいところでは「血液凝固系」をめぐる論争がある。人間などが持つ血液凝固系の半分の部品でヤツメウナギの血液凝固系が構成されていることがわかったとき、インテリジェントデザイン支持者Casey Luskinは格調高く、「一輪車が機能しても、前輪のない自転車は機能しない」と述べた。Casey Luskinnは、かっこよく決めたつもりだったが、血液凝固系ではなく自転車ネタで対抗されて、笑われてしまうことになった。




「還元不可能な複雑さ」は"God of the gaps"詭弁となる



いまひとたび、「還元不可能な複雑さ」の定義を見てみよう。

もし、部品を一個でも取り除くとシステムの機能が失われるなら、そのシステムは還元不可能に複雑である。生物器官にある還元不可能な複雑さは、それがデザインされたことを示す。

ここで問題となるのは、進化不可能性を示すとBeheが主張する「還元不可能な複雑さ」という概念によって検証できるのは、まさに進化論ではないのかという点である。還元不可能に複雑な生物器官がデザインだと結論する理由・論理がどこにも示されていないのだ。



そうなると、「還元不可能に複雑な生物器官は進化不可能なので、デザインだ」と言ってしまうと、それはまさに「科学で説明できないものは神様のせいなのさ」という"God of the Gaps"詭弁そのものになってしまう。

実際、インテリジェントデザイン理論家(数学・神学)は、インテリジェントデザインの反証可能性として、「還元不可能に複雑な生物器官について進化過程が示される」を挙げている。




哲学者Soberが還元不可の複雑さを斬る



「還元不可能な複雑さ」という概念でデザインの存在の証拠を示したとみなしているインテリジェントデザイン運動だが、ちっともそうでないことを哲学者はSoberは明らかにした。



「還元不可能な複雑さ」を創れるインテリジェントデザイナーは「還元不可能に複雑な」のかと言う点を誰も語っていないこと。もし、
「還元不可能な複雑さ」を創れるインテリジェントデザイナーは「還元可能に単純」だったとしたら、どうなるだろうか?

論理的には、突然変異と自然選択というシンプルな「デザイナー」によってでも進化は可能だと言っていることになる。すなわち、「還元不可能な複雑さ」は進化論を支持することになってしまう。

それが嫌なら、「還元不可能な複雑さ」を創れるインテリジェントデザイナーは「還元不可能に複雑」であると明示する他ない。そうなると、そのインテリジェントデザイナーもまた、「還元不可能に複雑な」存在によって創られないと存在しえなくなる。最終的には「還元不可能に複雑な」第一原因がなければならない。すなわち、現実がどうであれ、概念の定義上、超越的神の存在を仮定することになる。





Dr. Michael Beheは還元不可能な複雑さに関して、次のように豪語していた:
There has never been a meeting, or a book, or a paper on details of the evolution of complex biochemical systems.

複雑な生化学系の進化の詳細についての学会や本や論文はまったく存在しない。

[Michael Behe: "Darwin's Black Box", 1996]
しかし、Kitzmiller v. Dover裁判で、免疫系につい、こんなやりとりがあった。
ERIC ROTHSCHILD. And when I say new, I just meant different from the eight that I identified with Dr. Miller.

私が新しいものと言ったのは、Dr. Millerが挙げた8つの論文とは別にあるという意味です。

MICHAEL BEHE. Yes, that's right.

そのとおりです。

ERIC ROTHSCHILD. A minimum of fifty, and you're right they're not all new. Some go back as early as 1971, and they go right through 2005, and in fact there's a few that are dated 2006, which I guess would indicate a forthcoming publication.

少なくとも50の論文があります。それらがすべて新しいわけではないということについては、あなたは正しい。いくつかは1971年の論文であり、2005年のものまであります。そして、2006年のものは少しあります。これは、さらに新しい論文が登場することを示していると考えられるでしょう。

MICHAEL BEHE. I assume so.

私もそう思います。

ERIC ROTHSCHILD. Okay. So there's at least fifty more articles discussing the evolution of the immune system?

はい。したがって、免疫系の進化について論じた論文が、少なくとも50あることになります。

MICHAEL BEHE. And midpoint I am, I certainly haven't had time to look through these fifty articles, but I still am unaware of any that address my point that the immune system could arise or that present in a detailed rigorous fashion a scenario for the evolution by random mutation and natural selection of the immune system.

私は確かに時間がなくて、これら50の論文に目を通していませんが、免疫系が出現可能あるいは、免疫系のランダムな突然変異と自然選択による進化についての詳細かつ厳密な形でシナリオを提示したものという私が指摘点に該当するものを知りません。

...

ERIC ROTHSCHILD.. And in addition to articles there's also books written on the immune system?

これらの論文に加えて、免疫系について書かれた本がありますね?

MICHAEL BEHE lot of books, yes.

多くあります。

ERIC ROTHSCHILD. And not just the immune system generally, but actually the evolution of the immune system, right?

そして、それらは免疫系について書いているだけでなく、実際に免疫系の進化について書いてありますね?

MICHAEL BEHE. And there are books on that topic as well, yes.

そのようなトピックについての本はあります。

ERIC ROTHSCHILD. I'm going to read some titles here. We have Evolution of Immune Reactions by Sima and Vetvicka, are you familiar with that?

本の題名をいくつか読み上げます。Sima and Vetvickaの"Evolution of Immune Reactions"はご存知ですか?

MICHAEL BEHE. No, I'm not.

知りません。

ERIC ROTHSCHILD.. Origin and Evolution of the Vertebrate Immune System, by Pasquier. Evolution and Vertebrate Immunity, by Kelso. The Primordial Vrm System and the Evolution of Vertebrate Immunity, by Stewart. The Phylogenesis of Immune Functions, by Warr. The Evolutionary Mechanisms of Defense Reactions, by Vetvicka. Immunity and Evolution, Marchalonias. Immunology of Animals, by Vetvicka. You need some room here. Can you confirm these are books about the evolution of the immune system?

これらは免疫系の進化についての本ですね?

MICHAEL BEHE. Most of them have evolution or related words in the title, so I can confirm that, but what I strongly doubt is that any of these address the question in a rigorous detailed fashion of how the immune system or irreducibly complex components of it could have arisen by random mutation and natural selection.

ほとんどの題名に進化か、進化に関連する言葉が入っているので、そうだと言えます。しかし、これらが、厳密かつ詳細な形、あるいは免疫系や還元不可能に複雑な部品がランダムな突然変異と自然選択によって出現した方法を指摘していないのではないかと思います。

immune_evolution_michael_Behe.jpg

[Kitzmiller v. Dover Area School District
Trial transcript: Day 12 (October 19), PM Session, Part 1
]
研究者ひとりが読める文献の量は無限ではなく、Dr. Michael Beheが免疫系の進化についての論文や本を読み通していないことは何ら不思議ではない。それは問題でもなんでもない。

ただ、「複雑な生化学系の進化の詳細についての学会や本や論文はまったく存在しない。」というBeheの記述は、関連する大半の文献に目を通すことなく書かれたものである。そして、それが、「還元不可能な複雑さが進化不可能性を示す」根拠となっている。それが問題。
posted by Kumicit at 2010/03/12 07:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | ID Introduction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。