2006/03/09

1993年のいんちきドキュメンタリーに登場した"専門家"たち

昨日のエントリ「1993年のSun International PicturesとCBSのノアの箱舟」のつづき。

創造論者と明示されないで、もっともらしい専門家として紹介された創造論者たち。
1993年のいんちき番組"The Incredible Discovery of Noah's Ark"において登場した"専門家"たち。科学的コンセンサスとは逆で、番組に登場した専門家は圧倒的にノアの洪水とアララト山の箱舟の信奉者であった。40人の支持サイドとたった3人の批判サイド。そして支持サイドのうち6人は:

  • John Morris: ICR(かつての創造科学の本拠地)副所長だが、地質学教授と紹介
  • Ken Cumming: ICR所属だが、生物学教授と紹介
  • Henry Morris: ICR所長だが、水利工学教授と紹介
  • Larry Vardiman: ICR所属だが、大気科学教授と紹介
  • Walt Brown: Center for Creation Scienceというサイトで自著を宣伝するが、物理学名誉教授と紹介
  • Carl Baugh: Creation Evidence Musiumを設立運営している(Paluxy Riverの恐竜と人類の足跡の化石を宣伝している)が、古人類学者と紹介
と正体を隠蔽したクレジットだった[Jim Lippard: "Sun Goes Down in Flames:The Jammal Ark Hoax", 1993-1997]。他にも、Henry Morrisと共著で"Genesis Flood"を執筆したJohn Whitcombなども含まれている。

いんちきがばれてしまった後にどうしたかというと...

忘れてしまいたいDr. John Morris@ICR

かつての創造科学の本拠地Institute for Creation Science(ICR)のDr. John Morrisは、いんちきドキュメンタリー"The Incredible Discovery of Noah's Ark"のことは忘れてしまいたいようだ。見事にGeorge Jammalに騙されて、お人好しぶり&馬鹿をさらけだしてしまったのだから。

1977年5月1日付けで、Dr. John Morrisは「Noah's Ark Goes to Hollywood (#47)」という記事を書いている。前年に劇場公開された"In Search of Noah's Ark"がこの記事の翌日に放映されているので、事前に言い訳を書いたものらしい:

I Touched It, recognized serious problems in the original script. Balsiger was acquainted with the work of the personnel of the Institute for Creation Research, and frequently consulted this writer and other ICR scientists as he rewrote major portions of the script. The final product suffered somewhat in the hand of editors and advertising men who were more interested in a sensational movie than in strict factuality but, all things considered, the movie has had an overall positive effect, in informing people of the search and of the fact that serious scientific investigators are involved.

ICRによってかなりよくなったが、センセーショナルを求める商業主義で変になったと言っている。といっても、ICRの言うとおりに作ったところで、トンデモ作品になることは違いはないのだが。

しかし、Dr. John Morrisは1993年の"he Incredible Discovery of Noah's Ark"についての記事は書いていない。ICRのWebサイトをぐぐっても、いんちきドキュメンタリーのことは出てこない。

"古人類学の専門家"Carl Baugh

1993年当時は56歳だったが、いまや69歳であるCarl Baughは、Creation Evidence Musiumであいかわらず、恐竜と人類の足跡の化石を扱っている。

いんちきドキュメンタリーとの関わりについては経歴ページ

Appeared on CBS TV Network Special: “The Incredible Discovery of Noah’s Ark”
Appeared on CBS TV Network Special: “Ancient Secrets in the Bible”

と書かれているだけ。誇るでもなく、忘れるでもなくというところ。

ちなみに、Carl Baughの持ちネタであるPaluxy Trackの恐竜と人類の足跡の化石は、恐竜と人類は共存していたと主張する"若い地球の創造論"サイトAiGの創造論者が使ってはいけない論でも、証拠にならないと否定しているシロモノ。というか、AiGを主宰するKen Hamは
Carl Baughが嫌いなのか、Carl Baughの出す証拠なんか信用するなとまで書いている。



Dr. Walt BrownのHydroplate TheoryのQuickTime

MITにて機械工学でPh.Dを取得したDr. Walt Brown退役空軍大佐は少し違っている。Dr. Walt Brownは1990年に、創造科学の父たるDr. Henry MorrisのVapor Canopy Modelなんか全然ダメダメと、自信満々で登場し、"In the Beginning: Compelling Evidence for Creation and the Flood"という本(7th Edition 2001,1st Edition 1990)を書いている。

そして、創り上げたHydroplate Theoryをいんちきドキュメンタリーで取り上げられた。そのときの出演部分のQuicktime Movieへのリンクを、本の宣伝サイトCenter for Creation Scienceに貼っている。

===> QuickTime

このQuick Time Movieの最後に
"This animation was part of Sun Picture's 1993 film, The Incredible Discovery of Noah's Ark and is used with permission."
というクレジットが表示されている。かの"The Incredible Discovery of Noah's Ark"の一部だと明示しているわけだ。

番組の構成上、Dr. Walt Brownはこの5分では、Vapor Canopy Modelを批判していない。しかし、彼の本では、完全に成り立たないと攻撃。
後に、創造論者RushとVardimanが、降水量50cm分の水蒸気でも地上温度は100℃を超えてしまい、Vapor Canopy Modelは成り立たないことを示した[Rush, D.E. and Vardiman, L., Pre–Flood vapor canopy radiative temperature profiles; in: Proceedings of the Second International Conference on Creationism, Volume 2, Creation Science Fellowship, Pittsburgh, Pennsylvania, pp. 231–245, 1990]。

Vapor Canopy Modelが撃墜されたからといって、Dr. Walt BrownのHydroplate Theoryの正しさが証明されるわけでもない。やっぱり無理矢理なので科学的には成り立たない[2006年2月21日のエントリ: 創造科学にとって神様は勝手な初期条件を用意するためのもの参照]。

なお、別にいんちきドキュメンタリーの一部を使ったことがマイナスになることはなく、Dr. Walt Brownは順調に自著を売り続けたようだ。1990年の初版から改訂をくりかえし、2000年には第7版を出している。その後は特に動きはないのは、Dr. Walt Brownも79歳と老いたことによるものだろうか。
posted by Kumicit at 2006/03/09 00:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | Creationism | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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