「創造説再評価HP」には「(警告:これを見るとあなたの世界観が変わるかもしれない)」と書かれたページがある。
==>創造論による新しい世界観
この5枚の画像とささやかな文字からなるページだが、サイト開設者が謎めいていることを感じさせる。
(1) 画像ファイル
画面キャプチャーだと==>
Examining some Scientific Theories
これに対して、「創造論による新しい世界観」は、どう見ても、テレビ画面をデジカメで撮影したとしか思えない。
これからわかることは、「テレビ画面をデジカメで撮影」する習慣があることと、これらの画像がテレビ番組もしくはビデオ/DVDであること。
(2) 画像ファイルの元となる番組
これらの画像のうち、3枚に相当が切り取られたと思われる元の動画は、創造論者Dr. Walt BrownのCenter for Scientific CreationにリンクがあるDr. Walt Brown自らが語るQuick Time Movie
==> http://www.thetaxpayerschannel.org/graphics/creation/fonte23.mov
であり、これは以下のエントリでとりあげた、ノアの箱舟を見つけたという"いんちきドキュメンタリー"の一部である。
1993年のSun International PicturesとCBSのノアの箱舟(2006年3月8日)
1993年のいんちきドキュメンタリーに登場した"専門家"たち(2006年3月9日)
いんちきドキュメンタリーシリーズのいんちきぶりを暴くべく、George Jammalが仕掛けたイタズラ。線路わきで拾った木片をテリヤキソースをかけてローストして古く見せたものを証拠として提示。それをまともに調べることもせずに、Sun PicturesとCBSは番組に使った。そして、彼によっていんちきが暴かれ、CBSのシリーズ放映は打ち切りになった。
その画像を出典明記せずに使用している。
このことから、サイト開設者は
- いんちきドキュメンタリーを真実だと信じている
- いんちきだと知っているので、出典を明記しなかった
(3) 2つめの画像はVapor Canopy
5つの画像のうち2つめは、創造科学の父たるDr. Henry MorrisのVapor Canopyの説明図。ノアの洪水前には地球大気上層に水蒸気層(Vapor Canopy)があったというもの。これで洪水のうち深さ8メートル分の水源とし、さらに温室効果で地上を温暖だったと考える。
これに対して、創造論者RushとVardimanが国際的な創造論者の集まりで、どうやっても2メートル分しか水蒸気層を維持できないこと、50cm分の温室効果で地上は100℃を超えると発表。
D.E. Rush and L. Vardiman, “Pre-flood Vapor Canopy Radiative Temperature Profiles,” Proc. Fourth ICC, Pittsburgh, PA, 1990, 2:231-245.
創造論者たちは無理のありすぎるVapor Canopy Modelを放棄していった(AiG: Noah’s Flood - Where did the water come from?)。
そして、創造論を教義として掲げるSeventh-Day Adventistの系列団体であるGeoscience Research Institute(ノアの洪水の証拠をさがす洪水地質学を研究?する研究職員7名の研究所)も、自らが発行する雑誌Origins 1995年2号の「THE CANYON OF CANYONS」という書評記事で:
In promotion of the Canopy Theory, Chapter 9 moves from observation and good scientific analysis into speculation. Although widely advocated in creationist literature, this theory is based on questionable exegesis of Genesis 1:6-8, and is thoroughly contradicted by basic considerations of natural science. To have the pre-Flood atmosphere contain 40 ft3 of water per square foot of Earth surface would require either surface temperatures greater than 220F (water as vapor), or an unsustainable cloud cover (water as droplets or ice crystals supported by upward air currents).
Canopy理論の説明である第9章は、観察とよい科学分析ではなく、憶測になっている。創造論者の文献で支持されているとはいえ、この理論は創世記1章6〜8節の疑わしい解釈に基づいているとともに、自然科学の基本的な考え方に反している。洪水前に1平方フィートあたり40立方フィート分の水があったなら、地上気温が220F以上(水は水蒸気になる)になるか、維持不可能な雲(水滴か氷の結晶が上昇気流で維持される)が必要となる。
今は亡きDr. Henry Morrisが設立したInstitute for Creation Scienceは、Vapor Canopy Modelが成り立たないことを認めながらも、ノアの洪水の原因としてVapor Canopy Modelを掲げ続けている[Glenn R. Morton, 2000]。なので、G.R. Mortonは:
Why? Do they not care about the truth? It was that concern which caused me to leave young-earth creationism.
何故だ。彼らは真理などどうでもよいのか?だから私は"若い地球の創造論"を離れた。
そんな、Vapor Canopy Modelが平然と掲載され続けている。
このことから、サイト開設者は
- 1990年代以降の創造科学の動向をまったく知らない
- 真理などどうでもよいと考えている
(4) 間違ったキャプション
3つめの画像の説明(キャプション)として
地面に浸透した水分は地殻とマントルの境界にも層をなしていたと考えられます。
と書かれている。しかし、Dr. Walt Brownは「地面に浸透した」とは言っていない(Quick Time Movieの英語は少し聞き取りにくいかもしれないが)。Dr. Walt BrownのWebサイトの該当ページには次のように書かれている:
Assumption: Subterranean Water. About half the water now in the oceans was once in interconnected chambers about 10 miles below the earth’s surface. Excluding the extensive solid structure of these chambers, which will be called pillars, the subterranean water was like a thin, spherical shell, averaging about 3/4 of a mile in thickness. Above the subterranean water was a granite crust; beneath the water was a layer of basaltic rock.Dr. Walt Brownはもとからあったと主張している、というか仮定している。これがどうやって形成されたかは問わない。
仮定: 地下水。海洋の水の約半分が、地下10マイルにある互いにつながった地下洞に貯えられていた。ピラーと呼ぶべき地下洞の強固はな構造をのぞき、地下水は薄い球殻のように平均3/4マイルの厚みだった。地下水の上は花崗岩の地殻。地下水の下は玄武岩層。
浸透できるなら、地殻の重みで圧された水は、地上へと浸み出してしまう。だから、Dr. Walt Brownは水が浸み出さない屁理屈をこね続けている。
ついでだが、そのページには説明図の改訂版がでている==>これ
このことから、サイト開設者は
- 米国在住だが、番組放映時は、まだ聞き取りがあやしかった
- うろおぼえで書いた
いんちきドキュメンタリーを信じ、創造科学の動向にうとい、聞き取りがあやしいのか?
それとも、いんちきを知り、真理などどうでもよく、うろおぼえでものを書くのか?
その判別をつけるために、別の例を観察してみよう。
擬似考古学者Ron Wyattの"契約の聖櫃"発見を信じる
日本のnifty.comと米国のconcentric.netにまたがって存在している「嵯峨野教会」
==>米国のconcentric.netに置かれた「創造説再評価HP」
==>日本のteacup.comに置かれた「創造論(科学的)再検証会議室」
という構造になっている。
サイトのリンク関係の最上位に位置している嵯峨野教会とは、ネット上に開設されているバーチャルSeventh-Day Adventist教会である。"嵯峨野"は日本の京都嵯峨野(さがの)ではなく、サイト開設者の住んでいる米国ミシガン州City of Saginawのこと。この嵯峨野教会には:
あなたの信仰が変わります!保証します:SDAが見つけた聖櫃
という項目がある。これはSDA信者である擬似考古学者Ron Wyattの契約の聖櫃の発見を紹介したもの。もちろん、これまでKumicitが取り上げてきたように、Ron Wyattの発見物はなにひとつ信用できない。トンデモ批判者たちだけではなく、Answers in GenesisやInstitute for Creation Reseachのような"若い地球の創造論"者たちも、Ron Wyattを信用していない。
擬似考古学者Wyattを斬る"若い地球の創造論"サイトAiG(2006年2月26日)
創造論者が使ってはいけないRon Wyattのノアの箱舟 by AIG(2006年2月28日)
反進化論を掲げる宗派のひとつSeventh Day Adventistについて(2006年3月10日)
なお、創造論を教義に掲げるSeventh-Day Adventistは「The Ark of the Covenant: Will It Be Found?(契約の聖櫃: それは見つかるか?)」という記事で、聖櫃の出現のときを次のいずかと述べている:
Just Before the Second Advent. In describing what takes place immediately after the first six of the seven last plagues have fallen, and just before the falling of the seventh and the second coming of Christヨハネ黙示録10章17節直前あたりまでは、聖櫃が見つかるわけがないようだ。また、Seventh-Day AdventistサイトにはRon Wyattについての記述はない。すなわち、「SDAが見つけた聖櫃」という表現は、Seventh-Day Adventistが認めるところではない。
再臨の直前。7つの最後の災厄のうち、はじめの6つが落ちて、7つめが落ちる直前でキリスト再臨の直前
At the Final Coronation of Christ. In describing the final coronation of Christ and the final judgment of men at the close of the millennium
キリストの戴冠。キリストの戴冠と千年期の終わりの最後の審判
もっとも、ヨハネ黙示録を重視しているというSeventh-Dat Adventists自体もあまりまともとは言えないが。
このことから、サイト開設者は
- 同じSeventh-Day Adventist信者ということで、今は亡きRon Wyattを信じている
- Ron Wyattがいんちきでも気にしない
うーん。もう少し見てみよう。
カンボジアのアンコールワットのステゴサウルス
昨年末のネタ。
via NATROMの日記 2005-12-21 [トンデモ]ステゴザウルスは千年位前まではカンボジアにもいた!
インテリジェント・デザイン論(ID論)が大流行の中で、地道に若い地球の創造論を支持する長谷川さん@創造論再評価HPの掲示板*1経由の情報。千年ほど前に建設されたと見られるカンボジアのアンコールワット寺院遺跡の壁に装飾で彫られたステゴザウルスを紹介します。これは全く化石の形態と同じです。ということはステゴザウルスは千年位前まではカンボジアにもいたということを意味します。
http://3.dtiblog.com/c/cognitivedamage/file/DSCN1658.jpg
ムーな創造論者?(2005年12月22日)
2005年7月30日 そこそこムーな有償サイトUnexplained Earthの無償記事「The Fantastic Creatures of Angkor」に、ステゴサウルスのように見える彫刻の画像が掲載されていた。
捏造品か本物かは不明(撮影場所を明示していないし、彫刻が遺跡のどこにはまっているのかを示す画像もない)。しかも画像を見る限り、なんか遺跡っぽくないきれいなかんじで、最近つくられたようにも見える。記事は、恐竜の生き残りネタをリストアップしているが、アンコールワット方面に恐竜の生き残りがいた証拠というほどのノリではない。化石でも見つけたのではという程度の扱い。ただし、ステゴサウルスの生息地は北米方面とされており、インドシナ方面でステゴサウルスの化石は見つかっていない。
このネタがテレビで伝えられたのを撮ったもののようだ。
そして、サイト開設者は「これは全く化石の形態と同じです。ということはステゴザウルスは千年位前まではカンボジアにもいたということを意味します。」と書き込んでいる。かなり思い込みが激しいように見える。
謎は深まるばかりだ
結局のところ、「創造論(科学的)再検証会議室」主宰者であり、「創造説再評価HP」開設者は「(警告:これを見るとあなたの世界観が変わるかもしれない)」と仰々しく書いた「創造論による新しい世界観」というページをどういうつもりで書いたのだろうか?
アンコールワットのステゴサウルスに対する反応振りから見て、Ron Wyattなどのムーなネタに飛びついているだけなのようにも思える。
○同じSeventh-Day Adventist信者ということで、Ron Wyattを信じている
×Ron Wyattがいんちきでも気にしない
しかし、Seventh-Day Adventistの教義からすれば、契約の聖櫃が見つかるはずはない。ということはSeventh-Day Adventist牧師を自称していながら、教義よりもRon Wyattを信じている。あるいはRon WyattがSeventh-Day Adventist信者なので、教義と合わないかもしれないという疑義は浮かばなかったのか。
であるなら、
○いんちきドキュメンタリーを真実だと信じている
×いんちきだと知っているので、出典を明記しなかった
というところだろうか。だが、次はわからない。
△1990年代以降の創造科学の動向をまったく知らない
△真理などどうでもよいと考えている
どちらも考えにくい。あるいはVapor Canopyは創造科学の父Dr. Henry Morrisの説なので、敬意を表して掲げ続けているのだろうか。それにしては、2006年2月25日のDr. Henry Morrisの死去にあたって弔意を表した形跡もない。
△米国在住だが、番組放映時は、まだ聞き取りがあやしかった
△うろおぼえで書いた
これはいずれにせよ、Dr. Walt Brownのサイトを見ればよいのだから、思い込みだけの執筆ということか?
謎は深まるばかりだ....
ぶった斬り、感服致しました。
NATROMの日記 謎はすべて解けた!
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/?of=20
ご覧になられているとは思いますが念の為紹介です。
かつて死闘を繰り広げたNATROMさんによれば、完全なる"自己狂信者"なのですね。
とすると、創造説再評価HPのノリが創造論者に擬態したトンデモフリークサイト
http://www.s8int.com
に近いのも、創造論の動向と無関係に自己狂信で創造論を定義しているからなのでしょうか。