2006/03/20

メタファーの問題

諸般の都合で紡ぎ出されたメタファーは、わかりやすさとともに誤解を生み出す。


誤解を招くメタファー「利己的遺伝子」

Kumicitが何か言うよりも、英国の心理学者Robin Dumberが「科学がきらわれる理由 (1997)」(訳本,原書 1995) の「p213 鏡の国の科学 メタファーの問題」で述べている説明がわかりやすい:
日常用語をユーモラスに使う例は、この20年の進化生物学にもある。リチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子」という用語は、この種の語の典型例である。...
ドーキンスの「利己的遺伝子」という概念における「利己的」という語は、文字どおりとってもらおうというものではない。遺伝子が利己的にふるまうことができないのは当然のことだ。利己的というのは道徳的な特性であり、それはおそらく人間だけが所有するものだろう。ドーキンスもこのことは誰よりもよく知っている。彼が言いたいことは、アナロジーによるものだ。遺伝子はそれが利己的であるかのように、遺伝子は自分の利益だけを気にしているかのようにふるまっている(もちろん数学的な意味で)ということである。実は、もちろん、遺伝子が何かするわけではない。遺伝子は単なる無力なDNAによる小片で、その唯一の機能的能力は、自らの複製を作るということだけである。しかし、ダーウィン的自然選択の過程は、遺伝子が次の世代の自分を複製できる効率が能動的な選択に見えるように、遺伝子に作用する。ドーキンスは、我々が行動(あるいは他の何でも)の進化について問うときには、遺伝子の側から見なければならないということを指摘しているだけである。この論点は訓示的なもので、進化論研究においては、与えられた遺伝子の次の世代に現れる複製の数という観点から説明されなければならないということを意識させるものだ。
 こうした用語のいずれも、それを文字どおりに解釈するとナンセンスになる(さらには出されている主張と矛盾する)ことになる。.... ドーキンスの用語がどうして日常的な含意をもちえようか。これらの用語は、しばしば数学を用いて、正確に定義されているのだ。


「利己的」という言葉を、字義通りに受け取った人々がどれだけいたことか。

しかし、それでもメタファーを使うのは、必要なことなのだ。

進化生物学は、我々がふだん世界を見ているのとは全然別の方向から世界を見ている。加えて、素粒子物理学も進化生物学も、高度に数理的であり、そこで言及されている現象の多くは、現実には見ることができない数理的に定義された実体である。日常経験にぴったりした言語がないのに、物理学者も生物学者も日常言語を使わざるを得ない(それしかないのだから)が、それを比喩的な意味で使うし、そのことを意図的に語呂合わせを使って示すことも多い。



言葉は...

2006年3月19日時点のWIKI「利己的遺伝子」も適切な説明になっている:
影響:
遺伝子という機械的なシステムに対して、「利己的」のような擬人的な形容を使ったことが目新しく、生物学よりむしろ、それ以外の一般メディアで広がってしまった。

元の意味はさておき、あたかも遺伝子自体が意志をもって、利己的に振る舞うかのごとくイメージされたりすることがあるが、全くの誤読である。このような誤読が生じる事態をみると、もう遺伝子に「利己的」のような誤解されるような形容をつける時代は終わったのかもしれない。


ただ、「利己的」のような言葉を使わなくても、やはり誤解は起きるのではないかと思う。

  1. 何かの概念に名前をつける。
  2. 名前は言葉の組み合わせで作る。
  3. 組み合わせに使った言葉には別の意味がある。
  4. その別の意味が、誤解を招く。

というパターンで誤解が起きる。なので、名前に無意味な文字列を使うしか誤解を避ける方法はないだろう。



posted by Kumicit at 2006/03/20 00:52 | Comment(2) | TrackBack(0) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TBどうもです。インテリジェント氏との議論ご覧になってましたか。(^_^;
誤解という意味では「進化」という言葉のもつ進歩的なイメージも結構困りものですよね。
言葉の使い方というのは難しいものです。
Posted by 黒影 at 2006/03/20 01:37
釣の邪魔をしないように静かに見てました。

「進化」という言葉ですが、もともとDarwinが"Origin of Species"で
使った言葉は"theory of descent with modification"でした。
"evolution"に変えなければ"進歩"という誤解はなかったでしょう。

でもきっと、別な斜め上の誤解をする人が出てきそう...
直訳すると「修正による降下の理論」だし。
Posted by Kumicit 管理者コメント at 2006/03/20 03:16
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。