2010/06/01

Dr. S Fred Singer翁の、もうひとつの前哨戦"タバコ"

2010年5月18日からNewScientistが掲載している、否定論問題についてシリーズ「Special report: Living in denial」のRichard Littlemoreの記事は、企業による否定論をとりあげている。
These days we don't have to speculate as to whether industries have manufactured doubt. They have admitted it too many times.

In 1972, Tobacco Institute vice-president Fred Panzer outlined his industry's "brilliantly executed" defence strategy. A key tactic was "creating doubt about the health charge without actually denying it" while "encouraging objective scientific research."

"Objective scientific research": those words would almost make you believe that Panzer was talking about objective science. But when doubt is your goal, the misuse of language is just another way to confuse the public.

Where tobacco led the way, coal and chemicals followed. And, of course, the fossil fuel industry has been working overtime - and with shocking success - creating doubt about climate change.

今日、我々は企業が"疑い"を作り上げていないか推測する必要がない。幾度となく彼らはそれを認めている。

1972年に、Tabacco InstituteのFred Panzer副所長は、自分たちの産業の華麗に実行された防衛戦略の概略を述べている。カギとなる戦術は「実際には否定することなく、健康問題について"疑い"を作りだし、客観的科学的研究"を促進する」というものだった。

「客観的科学的研究」これらの言葉は、Panzerが客観的科学について語っていると信じさせるものだった。しかし、"疑い"が目的であるなら、用語の誤用は大衆を混乱させるための別なる手段にすぎない。

タバコ産業がそういう方向に進むと、石炭産業と化学産業も後に続いた。もちろん、化石燃料産業も庁か勤務の勢いで後に続いた。そして、気候変動に対する"疑い"を作りだすという、驚くべき成功を収めた。

[Richard Littlemore:"Living in denial: How corporations manufacture doubt" (2010/05/20) on NewScientist]
化学産業とは、フロンによるオゾン層破壊を否定する戦いを行ったデュポンのことである。

で、Yach etl al[2001]などによれば、オゾン層破壊否定論や地球温暖化否定論のさらな前哨戦としての、このタバコ産業の戦いにもDr. S Fred Singer翁が参加していた。
In addition to creating front groups and contributing funds to groups that have a mission broad enough to carry some of the tobacco industry's goals, the tobacco companies also use publications by allegedly independent think tanks, such as the Virginia-based Alexis de Tocqueville Institution. This group's 1994 report "Science, Economics, and Environmental Policy: A Critical Examination"[35] criticizes the US Environmental Protection Agency's risk assessment methods in 4 areas: environmental tobacco smoke, radon, pesticides, and hazardous cleanup. It dismisses in its first chapter the agency's risk assessment of environmental tobacco smoke, using arguments similar to the tobacco industry's "junk science" arguments described by Ong and Glantz.

This report has been widely used by the tobacco industry in its quest to dismiss the hazards of environmental tobacco smoke. And although no direct financial link has been established, several members of the report's academic advisory board have been involved with different tobacco companies' activities[.36] The report's principal reviewer, Dr Fred Singer, was involved with the International Center for a Scientific Ecology, a group that was considered important in Philip Morris' plans to create a group in Europe similar to The Advancement for Sound Science Coalition (TASSC), as discussed by Ong and Glantz[.37,38] He was also on a tobacco industry list of people who could write op-ed pieces on "junk science," defending the industry's views.[39]

フロントグループを形成し、タバコ産業の目的の幾ばくかを達成するに十分な使命を持つグループに資金援助するとともに、たばこ会社はバージニア州の本拠地を持つAlexis de Tocqueville Institutionのような中立と称するシンクタンクによる出版物を利用した。このグループの1994年の報告書「科学・経済・環境政策:批判的調査」は、米国環境保護庁のリスクアセスメント手法を、環境中のタバコの煙と、ラドンと、殺虫剤と、有害な洗剤の4つの分野について批判した。最初の章で、環境中のタバコの煙についての環境保護庁のリスクアセスメントを否定するのに、タバコ産業がOng and Glantzが描写した「ジャンクサイエンス」の論と良く似た論を使った。

この報告書は環境中のタバコの煙の害を否定するために、タバコ産業によって広く使われた。直接的な資金の関係は確立されなかったが、報告書の学術諮問委員会のメンバー数名が、別のタバコ会社の活動に参加していた。報告書の主要なレビューアーであるDr Fred Singerは、Ong and Glantzが論じたTASSCと同様のグループを欧州に形成するというPhilip Morrisの計画において重要と考えられるグループInternational Center for a Scientific Ecologyに関与していた。さらに、彼はタバコ産業の見方を擁護し、ジャンクサイエンスについて論説をかける、タバコ産業の人物リストに載っていた。

35. Jeffreys K. Science, economics, and environmental policy: a critical examination. a research report conducted by the Alexis de Tocqueville Institution. August 11, 1994. Available at: http:// www.pmdocs.com. Document no. 2048901932/2008. Accessed February 20, 2001.
36. The Tobacco Institute. Inventory of comments received by the Tobacco Institute on the costs and benefits of smoking restrictions: an assessment of the Smoke-Free Environment Act of 1993 (HR 3434). Available at: http:// www.pmdocs.com. Document no. 2047232462. Accessed February 26, 2001.
37. APCO Associates Inc. Memorandum from T. Hockaday and N. Cohen to Matt Winokur. Re: thoughts on TASSC Europe. March 25, 1994. Available at: http://www.pmdocs.com. Document no. 2024233595/3602. Accessed February 26, 2001.
38. International Center for a Scientific Ecology. Guidelines for the seminar on linear relationship for risk assessment of low doses of carcinogens. January 1993. Available at: http://www.pmdocs.com. Document no. 2501013825. Accessed February 26, 2001.
39. APCO Associates Inc. Memorandum from T. Hockaday to Ellen Merlo et al. Re: opinion editorials on indoor air quality and junk science. March 8, 1993. Available at: http://www.pmdocs.com. Document no. 2021178205. Accessed February 26, 2001

[Derek Yach, MBChB, MPH and Stella Aguinaga Bialous, DrPH, MScN, RN: "TOBACCO, LAWYERS, AND PUBLIC HEALTH -- Junking Science to Promote Tobacco", November 2001, Vol 91, No. 11 | American Journal of Public Health 1745-1748].
Dr. S Fred Singerによるタバコ産業擁護の戦いは、間接的にはPhilip Morrisの要請によるものだった。
He also had connections with the tobacco industry. In March 1993, APCO sent a memo to Ellen Merlo, the vice-president of Philip Morris, who had just commissioned it to fight the Environmental Protection Agency: "As you know, we have been working with Dr Fred Singer and Dr Dwight Lee, who have authored articles on junk science and indoor air quality (IAQ) respectively ..."

Singer's article, entitled Junk Science at the EPA, claimed that "the latest 'crisis' - environmental tobacco smoke - has been widely criticised as the most shocking distortion of scientific evidence yet". He alleged that the Environmental Protection Agency had had to "rig the numbers" in its report on passive smoking. This was the report that Philip Morris and APCO had set out to discredit a month before Singer wrote his article.

また、Dr S Fred Singerはタバコ産業とも関わりがある。1993年3月に、Phillip Morrisの副社長であるEllen Merloは環境保護庁との戦いをAPCOに依頼していた。APCOはEllen Merloに次のメモを送った「知っての通り、我々はDr Fred SingerやDr Dwight Leeとともに仕事をしている。彼らはそれぞれ、ジャンクサイエンスおよび室内空気のクォリティについて記事を書いている」

「環境保護庁のジャンクサイエンス」というタイトルのSingerの記事は「最新の危機たる環境中のタバコの煙は、いまだかつてない科学的証拠の歪曲として広く批判されている」と主張した。彼は環境保護庁が受動喫煙について報告書で数字を操作しなければならなかったと主張した。その環境保護庁の報告書とは、Philip MorrisとAPCOが信用を落としたかったもので、Singerの記事が書かれる1か月前に公表されていたものだった。

[George Monbiot:"The denial industry" (2006/09/19) on The Guardian]
その後も、Dr S Fred Singer翁は副流煙につてい忘れ去ったわけではなく、2006年7月22日付けのニュースレターで、副流煙の害について批判を取り扱っている。

その後、企業による否定論の展開とともに、Dr. S Fred Singer翁は歩み続けて、オゾン層破壊と戦い、続いて地球温暖化との戦っている。

以下は復習など...


米国の温暖化否定を概観する



1970年代から1990年代にかけての「CFCによるオゾン層破壊」をめぐる戦いで、否定論者たちは次のような行動をとった。

  1. 証拠に反論する広告キャンペーンの開始
  2. 自分の視点を支持する、既に否定された科学研究や神話を科学的事実として宣伝する
  3. 科学的な不確定さを指摘し、即時対応したときの経済減少を主張
  4. 自分たちの視点を支持するローカルなデータを使い、全地球的な証拠を無視する
  5. 「予算獲得のために大災厄の不確かな予測を利用している」と、科学者を批難する
  6. 「イデオロギー的ゴールを推進するために環境問題を誇大宣伝している」と環境保護主義者を批難する
  7. 「米国だけ規制し たら、競争力を失う」と主張する
  8. 「対策をとるためには、さらなる研究が必要だ」と主張する
  9. 影響とともに生きていく方が費用がかからないと論じる
これは、温暖化否定論で行われていることと、まったく同じである。

==>米国の温暖化否定を概観する (1) 前哨戦 あるいは オゾン層破壊否定の戦い(2009/12/13)


この戦いの最後に登場した否定論者サイドの科学者Dr. S Fred SingerとDr. Sallie Baliunasはいずれもオゾン層の専門家ではなかった。そして、地球温暖化問題でも否定論者として登場した。

==>米国の温暖化否定を概観する (2) オゾン層破壊否定の終わり あるいは温暖化否定論者の登場(2009/12/13)
==>米国の温暖化否定を概観する (5) 温暖化否定論の立場をとる科学者たち(2009/12/13)

温暖化否定論の主張はDr. S Fred Singerひとりで尽くされてしまっている。その主張を、理系スタッフのほとんど存在しない保守系シンクタンクが出版物などの形で広めていく。専任やフェローなどの形で理系のPhDを関与させているのは、Dr. Sallier Baliunasの所属するThe George C Marshall Instituteや、Dr. S Fred Singerが自ら主宰するSEPPくらいである。

==>米国の温暖化否定を概観する (5b) 温暖化否定シンクタンク (2009/12/18)

そして、それらの宣伝を受けて、温室効果ガス排出規制に対抗する政治家(共和党Inhofe上院議員)がいる。

==>米国の温暖化否定を概観する (6) 温暖化否定の政治家Jim Inhofe(2009/12/14)

Jim Inhofe連邦上院議員の行動は、2002年のLuntzメモにしたがったもの。その助言は、かつてのオゾン層破壊否定のときに行われたものと同様なものだった。

==>米国の温暖化否定を概観する (6b) 2002年のブッシュ政権への助言 Luntzメモ (2009/12/17)

地球温暖化否定とオゾン層破壊否定はまったく同じ形で進行しているように見える。しかし、その2つには巨大な違いがあった。それは福音主義キリスト教である。聖書創世記をかかげて、温暖化を否定する連邦下院議員や牧師たちもいる。

==>米国の温暖化否定を概観する (3) 聖書に基づく温暖化否定論(2009/12/13)

「人間は1万年前までに神よって現在の姿で創造された」と信じる人にが40%以上という、福音主義キリスト教(南部バブテスト)の影響のもとで、20〜30%が温暖化していないと回答し、15〜30%が人間が温暖化の原因ではないと回答する。

==>米国の温暖化否定を概観する (7) 温暖化否定論に立つ米国人たち(2009/12/15)

ただし、創造論者たちは、温暖化否定というわけではない。

==>米国の温暖化否定を概観する (4) 温暖化否定の立場に立つわけではない創造論者(2009/12/13)

また、世論調査結果は、夏が涼しいとか、Climate Gateとかで変動するものの、長い目で見れば趨勢はほとんど変わっていない。福音主義キリスト教の影響が大きい人々は考え方を変えないようである。

==>米国の温暖化否定を概観する (7b) ゆるがない米国の世論(2009/12/16)

以上のように温暖化否定論には、Philip Morrisと「副流煙と癌」、Dupontと「CFCによるオゾン層破壊」、Exxonと「CO2による温暖化」と登場人物と問題は変われど、「企業と問題と保守系シンクタンクと常連"科学者"の存在」という構図がある。と同時に、温暖化否定論の支持者たちは、福音主義キリスト教徒という、創造論の支持者と重なっている

==>米国の温暖化否定を概観する (8) まとめ (2009/12/20)


posted by Kumicit at 2010/06/01 00:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | Sound Science | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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