2010/06/12

フリンジ・フロンティア・コアと否定論

科学的アイデアを「フリンジ・フロンティア・コア」の3つの領域に配置するという見方がある。これはJames Trefilによるもので、Eugenie Scottによれば以下のようなものである:
In principle, all scientific ideas may change, though in reality there are some scientific claims that are held with confidence, even if details may be modified. The physicist James Trefil (1978) suggested that scientific claims can be conceived of as arranged in a series of three concentric circles (see Figure 1.1). In the center circle are the core ideas of science: the theories and facts in which we have great confidence because they work so well to explain nature. Heliocentrism, gravitation, atomic theory, and evolution are examples. The next concentric circle outward is the frontier area of science, where research and debate are actively taking place on new theories or modifications and additions to core theories. Clearly no one is arguing with the basic principle of heliocentrism, but on the frontier, planetary astronomers still are learning things and testing ideas about the solar system. That matter is composed of atoms is not being challenged, but the discoveries of quantum physics are adding to and
modifying atomic theory.

原則として、すべての科学的アイデアは変化する可能性がある。しかし、実際には、詳細レベルが修正されるとしても、自信を持って維持されている科学的主張が存在する。物理学者James Trefil[1978]は、科学的主張を3つの同心円に配置されると考えた。内側の円は「科学のコアアイデア」である。これは非常にうまく自然界を説明できるので、大いに自信を持っている理論や事実である。太陽中心説、重力理論、原子理論、進化論がその例である。その外側の円は科学のフロンティア領域である。ここでは新理論や、コア領域の理論の修正・追加について、研究や論争がアクティブに行われている。明らかに誰も太陽中心説の基本的な考えを論じることはないが、フロンティアでは惑星物理学者が太陽系についての研究し、アイデアを検証している。物質が原子によって構成されるという考え方を疑問視する者はいなかったが、量子物理の発見は原子理論を追加・修正した。

The outermost circle is the fringe, a breeding ground for ideas that very few professional scientists are spending time on: unidentified flying objects, telepathy and the like, perpetual motion machines, and so on. Generally the fringe is not a source of new ideas for the frontier, but occasionally (very occasionally!) ideas on the fringe will muster enough support to warrant a closer look and will move into the frontier. They may well be rejected and end up back in the fringe or be discarded completely, but occasionally they may become accepted and perhaps eventually become core ideas of science. That the continents move began as a fringe idea, then it moved to the frontier as data began to accumulate in its favor, and finally it became a core idea of geology when seafloor spreading was discovered and the theory of plate tectonics was developed.

一番外側の円はフリンジ領域で、ここはアイデアの繁殖域で、極少数のプロの科学者が時間を費やしている。未確認飛行物体やテレパシーや永久機関などがこれにあたる。一般的にはフリンジ領域は、フロンティア領域の新たなアイデアの源泉となることはない。ただし、非常にまれに、フリンジ領域の考えが、深く探求するにふさわしいと十分な支持を集めて、フロンティア領域に移動することがある。そして、否定されてフリンジ領域にもどるか、完全に破棄される。しかし、時には受け入れられ、最終的には科学のコアアイデアとなる。大陸移動説はフリンジ領域の考えとして始まり、これを支持するデータが集まってきて、フロンティア領域に移動した。そして最後には、海洋底拡大の発見と、プレートテクトニクス理論の発展により、地質学のコアアイデアとなった。
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Figure 1.1
Scientific concepts and theories can be arranged as a set of nested categories with core ideas at the center, frontier ideas surrounding them, and fringe ideas at the edge (after Trefil 1978). Courtesy of Alan Gishlick.

Trefil, James. 1978. A consumer’s guide to pseudoscience. Saturday Review, April 29, 16–21.

[EUGENIE C. SCOTT: "Evolution vs. Creationism --An Introduction --Second Edition" Chap 1]
ここで例に挙げられている重力理論だと、ニュートンの万有引力の法則はコア領域に存在する。その後、一般相対性理論がフロンティア領域で論争となり、最終的に、ニュートンの万有引力の法則の追加・修正としてコア領域に入っている。

「間違った科学」「非科学」「未科学」といった分類方法との対応はきれいにはいかないが、次のように考えられる。
  • 間違った科学: フロンティアかコア領域のどこかに存在していたが、今は存在しないか、フリンジ領域に存在している。あるいはフリンジ領域で消滅して、今は存在しない。(フリンジ・フロンティア・コアは生存しているアイデアの領域なので、破棄されたアイデアは、どこにも入らない)
  • 非科学: 主として、この円の外側。一部は、フリンジ領域に存在しているかもしれないが、決してフロンティア領域に入ってくることはない。
  • 未科学: フリンジかフロンティア領域。


ちなみに、「Quackery」や政治課題/市民運動と化した「Denialism(否定論)」はこの平面上にはマップできない。

「HIV否定論」や「ワクチン否定論」や「温暖化否定論」や「創造論/インテリジェントデザイン」は、科学の平面上に存在しないか、フリンジに存在するものに根ざしているが、実体としては、現実社会に存在する活動(市民運動・政策課題・いんちき商売など)である。

確かに、「HIVはAIDSの原因ではない」というProf. Peter Duesbergの研究や、「保存料に水銀を使ったワクチンが自閉症の原因である」というAndrew Wakefieldの主張や、「温暖化は自然の変動範囲内」というDr. S.-I. Akasofuの主張はフリンジ領域に入れるべきもの。極少数の人々がフリンジ領域のネタを探求していること自体は、見込みが無に等しいネタに銭と人を投入すること以上の問題ではない。

しかし、それが現実社会に「フロンティア領域あるいはコア領域に存在するもの」と偽装して出現したとき、犠牲者を出し始めたりする。HIV否定論をThabo Mbeki大統領[在職1999-2008]が信じたことによる南アフリカでの犠牲者数は33万人と推定されている。ホメオパシーによる犠牲者も出ている(これとかこれとか)。

そして、米国における福音主義キリスト教との連鎖などにより問題が巨大化した「創造論/インテリジェントデザイン」と「温暖化否定論」、そして宗教非依存で広がる「HIV否定論」をあわせて、特に問題視されている


posted by Kumicit at 2010/06/12 12:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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