2006/04/27

複数デザイナー理論をめぐって

インテリジェントデザインの本山たるDiscovery Instituteはインテリジェントデザインを高校生物で教えろと主張し続けている。ところがいざ教えようとすると、教えるものがないという状況が続いている。

教えるものがないインテリジェントデザイン

2003年2月21日付のThe Dartmouthの記事「Intelligent design' may underlie life」によれば、Discovery InstituteのシニアフェローであるPaul NelsonのDartmouthでの講義で、
However, responding to a question after the lecture, Nelson said that he opposed the teaching of intelligent design in public schools.
"It isn't a fully-fledged theory -- there isn't yet enough there to actually teach," Nelson said.

しかし、講義の後の質問に対する答えで、Nelsonは公立学校のインテリジェントデザインを教えることに反対だと言った:
「それは成熟した理論ではなく、まだ実際に教えるため十分なものがない」

1990年代前半に立ち上がったインテリジェントデザインは2003年になっても、教えるものがなかったのだ。

この状況は2006年になっても解決していない。
BILL GAITHERによるRegister-Mailの2006年2月18日付けの記事「Intelligent design founder argues against evolution」によれば、イリノイ州GalesburgのKnox Collegeで行われたインテリジェントデザインについてシンポジウムで、2006年2月17日にインテリジェントデザインの主導者Dr. Phillip Johnsonが講演した。
GALESBURG - The father of intelligent design says his child is not ready for school.
The hypothesis of intelligent design, while being developed, is not complete enough to be taught in the classroom, Phillip Johnson, professor emeritus of law at the University of California at Berkeley, said during a lecture at Knox College Friday.
インテリジェントデザインの父は、彼の子供がまだ学校へ行く準備ができていないと言った。インテリジェントデザイン仮説は発展途上であり、授業で教えるに十分には完成していないと、カリフォリニア大学バークレー校の法学名誉教授Phillip Johnsonは、金曜のKnox Collegeでの講義で発言した。



そこで登場するのが、複数デザイナー理論(Multiple Designers Theory)だ。これは、Richard B. Hoppeが、インテリジェントデザイン理論サイトAccess Research NetworkInternationl Society for Complexity, Information and Designで議論し、2004年に進化論ブログPanda's Thumbに投稿したものである。もちろんこれは、理論なき理論たるインテリジェントデザインに対して、"インテリジェントデザイン理論家たちが絶対に受け入れることができない"理論でありながら、インテリジェントデザイン理論というほかない理論を提示するという、インテリジェントデザインに対する嫌がらせである。

プロテスタント根本主義系のインテリジェントデザインは当然のことながら神様はひとりでなければならない。だから、複数デザイナーは絶対に認められないというわけ。

今日はRichard B. Hoppeの序文だけ紹介する。


Introduction to Multiple Designers Theory
複数デザイナー理論入門
Richard B. Hoppe posted Entry 509 on September 23, 2004 11:55 PM.

序文

ここ十数年、生物学現象はデザインのように見えるので、それらの生物学現象にはインテリジェントデザイナーがいるはずだという、Payley主義者のデザイン論(Argument from Design)の再来が見られる。最近十年間にわたる(Discovery Instituteに率いられた)Wedge戦略に基づくインテリジェントデザイン運動の執拗な焦点は生物進化の代替理論を教えるように州議会や州教育委員会および学区教育委員会を説得することだった。Discovery Instituteはモンタナ州Darbyの学区教育委員会からオハイオ州教育委員会さらには米国議会にまで、メッセージを運ぶ使者を送った。

残念ながら、教えるべき進化論に対する科学的代替理論は存在しない。Phillip JohnsonやWilliam Dembskiや Michael Behe,やStephen Meyerやその同僚たちによる公表文献に代表される主流のインテリジェントデザイン理論は、それがないことが明らかである。"何かがこれをデザインしたはずだ"という剥き出しの主張以上に主流のDembskiやBeheやJohnsonやMeyerのインテリジェントデザイン"理論"の合理的な広範な記述を見たことがない。また、"これはデザインされた"という剥き出しの主張以上に生物学現象についてのインテリジェントデザインの"説明"を見たことがない。データによって検証可能なインテリジェントデザインの仮説はなく、従って系統的あるいは首尾一貫したインテリジェントデザイン研究プログラムもない。

主流のインテリジェントデザインが自らを科学的に無であることを証明している。Dembskiには説明フィルタと複雑で指定された情報や指定された複雑さがあり、Beheには還元不可能な複雑さがあるが、これらの概念を使った実際の研究プログラムは主流のインテリジェントデザイン運動からは出てこない。従って、その経験的・理論的な仮眠から目覚めさせ、中学校で教えられる現代の進化論の代替理論を求める教育委員会および州議会に適切な教材を供給するために、インテリジェントデザインの概念において革命的な変化が必要である。複数デザイナー理論はまさに革命的な変化である。

複数デザイン理論小史

数年前、私は複数デザイナー理論の初期バージョンを主流のインテリジェントデザインサイトである国際複雑情報デザイン学会(International Society for Complexity, Information, and Design)のWebフォーラムであるISCIDのブレインストームで発表した。ISCIDのURLは、ISCIDの代表であり、主流インテリジェントデザインの主導者であるWilliam A. Dembskiが所有している(最近DembskiはSouthern Baptist Theological Seminaryの学部にポストを得た)。少し初期の複数デザイナー理論について、主流インテリジェントデザインのサイトであるAccess Research Networkでも言及した。

ISCIDで複数のデザイナーを識別する方法論の実証についての注意を発表し、読者から挙げられた多くの問題について回答した。最近、数人から、より多くの人々のために複数デザイナー理論の初期のプレゼンテーションを行った投稿を見直して読みやすくするように奨められた。この投稿と次の投稿はその結果である。

この複数デザイナー理論の入門記事は3つの部分からなる。この序文と"複数デザイナー理論入門"をこの投稿で、"デザイナー識別方法の実証"を次の投稿で公表する。"複数デザイナー理論入門"では、複数デザイナー理論の中核部分およびこれと合致すると考えられる生物学的証拠の幾つかを記述する。さらに複数デザイナー理論を応用する研究の方向性についても記述する。"デザイナー識別方法"についての投稿では、複数デザイナーの創造物を識別する機械論的方法の発展と実証についての初期の成果を記述し、これに関するいくらかの試験的なデータを報告する。

なぜ複数デザイナー理論なのか?

単一デザイナーを想定するJonathan WellsやWilliam A. DembskiやMichael Beheなどの著名人や彼らのDiscovery Instituteの同僚たちのインテリジェントデザイン推論の拡張が、複数デザイナー理論である。"複数デザイナー理論入門"で私が後述するのは、任意の支持されない仮定である。一時的に正しいと仮定して、系統的に検証可能性と理論的適用を探求することが、科学的思考における古くからのそして非常に有効な実現方法である。主流の単一デザイナーのインテリジェントデザイン運動の指導者たちがほんとうに科学するつもりなら何をすべきかを複数デザイナー理論は例証する。彼らは、成果の大きい研究プログラムを作れるか彼らの推論を探求してもよかった。それを彼らは未だしておらず、彼らが今後実施する見通しもほとんどない。2002年にDembskiは次のように論じた
Why should ID supporters allow the Darwinian establishment to indoctrinate students at the high school level, only to divert some of the brightest to becoming supporters of a mechanistic account of evolution, when by presenting ID at the high school level some of these same students would go on to careers trying to develop ID as a positive research program? If ID is going to succeed as a research program, it will need workers, and these are best recruited at a young age. The Darwinists undestand (sic) this. So do the ID proponents. There is a sociological dimension to science and to the prospering of scientific theories, and this cannot be ignored if ID is going to become a thriving research program. (bolding and italics added)

ダーウィン学派が高校レベルの最優秀な生徒たちの一部が進化の機械論的説明の支援者となるようにしているのを黙ってみていなければならないのか。高校レベルでインテリジェントデザインを提示すれば、その同じ生徒たちの一部は、肯定的研究プログラムとしてのインテリジェントデザインを発展させる仕事につくかもしれないのに。インテリジェントデザインが研究プログラムとして成功するには、研究者が必要であり、そのためには若い人材の獲得が最善である。ダーウィニストはこれをわかっている。そしてインテリジェントデザイン支持もわかっている。科学と科学理論の隆盛には社会的な面があり、インテリジェントデザインが隆盛な研究プログラムとなるにはこれを無視できない。(強調追加)


インテリジェントデザイン研究プログラムがないことをDembskiは明確にわかっており、これを軌道に乗せるには高校生の獲得が必要だというのが彼の見方だ。これは、これまでインテリジェントデザイン批判者が書いてきたどんなものよりも、主流インテリジェントデザインを徹底批判している。Dembskiの記述から引き出せることは、(情報理論のIsaac Newtonであり、高名で、この世代の最も優れた科学哲学者のひとりであるDembski自身を含む)主流インテリジェントデザインの上級メンバーは、彼らの理論それ自体を検証する科学的研究プログラムを立案し実行する能力がないということだ。少なくともNewtonはプリズムをどう操作するかを知っていたのだが。

複数デザイナー理論を教える

既に述べたように、中学校で進化論の代替理論が教えるようにという執拗な努力がインテリジェントデザイン運動の一部にある。最近のカンザス州教育委員会選挙候補Katht Martinはカンザスの雑誌Salinaで、進化論の代替理論が教えられるべきだという発言を報じられた。Martinは選出されたので、複数デザイナー理論は明らかに彼女にとっての選択肢のひとつだ。ミズーリ州では州議会が進化論の代替理論を教えるべきだと促した。Phillip E. Johnsonが、代替理論を教えることこそがオハイオ州の科学教育を強化することになると発言したことが報じられた。私はオハイオ州に住んでいるので、そのためなら何でもしよう。

不幸なことに、代替理論として何を教えるべきか問われたとき、主流インテリジェントデザイン提唱者からは進化論に対する不満を除けば、まったくの沈黙しかなかった。オハイオではインテリジェントデザイン提唱者であるJonathan WellsとStephen Meyerは、オハイオの学校でインテリジェントデザインを教えろという州教育委員会への提案を不意に撤回した。Discovery InstituteのCenter for Science and Cultureのフェローであり、インテリジェントデザイン提唱者であるPaul Nelsonが、Dartmouth Universityで学生たちに、インテリジェントデザイン理論は学校で教えるべきものをまったく持っていないと説明したことで、それは明らかになった。
“It [ID] isn’t a fully-fledged theory --- there isn’t yet enough there to actually teach,” Nelson said.

「インテリジェントデザインはまだ羽根の生えそろっていない理論であり、実際に教えるべきものはまだ十分ではない」とNelsonは言った。


この欠落は今や解決される。複数デザイナー理論は("なんたらはデザインではない"というむき出しの主張以上に何もない)主流インテリジェントデザイン理論よりもはるかに発展している。複数デザイナー理論は(何一つない)主流インテリジェントデザイン理論よりも本質的に多くの詳細な理論的な構造を提供する。主流インテリジェントデザイン運動と違って、複数デザイナー理論には、中心的な主張のひとつである、複数のデザイナーの創造物を系統的に識別することが可能("デザイナー識別方法の実証"参照)を確認する実データがある。さらに、複数デザイナー理論は教育的に重要な強みである、高校生でも手が届くような興味深い研究の方向性を提供する。

複数デザイナー理論はの無視できない利点は、これが明らかに憲法修正第1条国教樹立禁止条項に低所しないことである。これは単一インテリジェントデザイナーを想定しないので、キリスト教根本主義の創造論の偽装であると解釈されることがない。複数デザイナー理論はは従って、公立学校での進化論に対する理想的な代替理論である。私はPanda's Thumbの読者が、進化論の代替理論を教えたいという州議会議員や学区教育委員や教育者に対して、このPanda's Thumbへの投稿を提供することを奨める(もちろん、著作権表示および適切な属性つきで)。

posted by Kumicit at 2006/04/27 10:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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