2010/08/29

ホメオパシーの希釈の法則はそもそも間違いだったかも


ホメオパシーの始祖たるSamuel Hahnemannは、マラリアの特効薬キニーネを大量に服用したら、マラリアとよく似た症状がでたことから、ホメオパシーを思いついたことになっている、しかし、実際の服用量は通常の治療もしくは予防用1回の服用量にすぎず、経験した症状もキニーネ過敏症の症状だったのではないかという説がある[via Kuri_kurita]。
[Dr William.E.Thomas MD: "Hahnemann's allergy to Quinine" (2002/03/04) on AngelFire]

THE BASIS OF HOMEOPATHY (ホメオパシーの基礎)

ホメオパシーの根本的教義である「Similia Similibus Curentur(似たものが似たものを治癒する)」をHahnemannが最初に思いついたのは1790年、彼が45歳のときに、Cullenの"Materia Medica"を独逸語[1]に訳しているときだった。

キナの皮の医学的効果の問題について、Cullenはこの薬剤の効果が「胃に対する強壮効果」によるものだという古い意見を擁護していた。間歇熱の治癒に関するキナノキの皮の働きについてのCullenの説明に不満だったHahnemannは、自身の体を使って試すことで、問題を解決しようとした。

I took by way of experiment, twice a day, four drams of good China (Cinchona). My feet, finger ends, etc., at first became cold; I grew languid and drowsy, then my heart began to palpitate, and my pulse grew hard and small; intolerable anxiety, trembling, prostration, throughout all my limbs; then pulsation in the head, redness of my cheeks, thirst, and in short, all these symptoms which are ordinarily characteristic of intermittent fever, made their appearance, one after the other, yet without the peculiar chilly, shivering rigor, briefly, even those symptoms which are of regular occurrence and especially characteristic - as the dullness of mind, the kind of rigidity in all the limbs, but above all the numb, disagreeable sensation, which seems to have its seed in the periosteum, over every bone in the body - all these made their appearance. This paroxysm lasted two or three hours each time, and recurred if I repeated this dose, not otherwise; I discontinued it, and was in good health.[1]

私は実験として、1日2回、4ドラムの良質のキナ(キナノキ)を服用した。私の足と指端などが最初は冷たくなった。そして、気だるくなり、眠くなった。そして、私の心臓の動悸が高鳴り始めた。硬脈および小脈になった。耐えきれない不安、四肢の震えと疲労。頭部の鼓動、頬の紅潮、渇き。要するに、間歇熱に見られる特徴的症状すべてが次から次へと現われたが、独特な寒気や震えるような悪寒はない。それでも、精神の鈍さや、四肢のある種の硬直、麻痺、体内のすべての骨格上の骨膜に根ざすと思われる不愉快な感覚など、通常起きるがとくに特徴的なこれらの症状がすべて見られた。この発作は2〜3時間続き、服用するごとに繰り返されたが、服用をやめると回復した。

Hahnemannは何を、どれだけ服用したのか?

イエズス会士たちがキナの皮を欧州に持ち帰ったのは1632年のことだった。南米原産の様々なキナノキの皮が発熱に対して治療効果を持っていることが知られていた[2]。夫がペルー総督だったAnna Chincon伯爵夫人の名をとったキナノキへの最初の言及は、1643年の本だった。英国で最初に使われた記録は、1656年のNorthamptonの医師の事例集だった。

キナノキの皮はCortex peruvianis(ペルー樹皮)という名で1677年に、London Pharmacopoeia(ロンドン薬局方)に受け入れられた。リンネはキナノキ属を確立し、1753年にCinchona officinalisと命名した[3]。

キナノキは乾燥茎と根樹皮の形で輸入された。これは"druggists"あるいは"phamaceutical"樹皮と呼ばれる細くて大きな針の形で販売された。活性アルカロイドは樹皮組織に5〜8%の範囲で存在する。アルカロイドの量と種別比は、木の種類や樹齢や樹皮の収集方法により異なる。生薬として使う場合は、薬効成分が全アルカロイドの少なくとも6%は含んでいなければならず、そのうち半分がキニーネかシンコニジンでなければならない。

キナノキ属は20〜30の種があり、多くの変種や亜種がある。1790年頃に医療目的で欧州に輸入され、使われていたのは以下の種である。

種 全アルカロイド キニーネ
Cinchona officinalis 6% 3 %
Cinchona calisaya 5〜7% 3 〜4 %
Cinchona succirubra 6〜9% 1.3〜3.5%

Cinchona ledgerianaはどの親種よりもアルカロイド量が多いが、Hahnemannの時代には存在しなかった。現在使われているのは10〜14%のキニーネを含有している。

したがって、Hahnemannはキナノキの皮をそのままの形で、スプーン一杯の樹皮を赤ワインに入れるか、生薬の形で服用していたと考えられる。悪寒や発熱の治療薬としてキナノキの皮の服用のために、17世紀半ばから18世紀に、少なくとも3つの生薬が存在していた[4]。Hahnemannがどのような形でキナノキの皮を使ったとしても、キニーネ成分がどれだけあったかが問題である。生薬であれ、粉末であれ、キニーネ成分はわずか3%程度である。

以下の理由により、ホメオパシー文献に書かれているのと違って、純粋キニーネを服用したはずがないのは明白である:

  1. キニーネは1818年まで分離されたことがなかった。キナノキの皮の2つの活性成分が、PelletierとCaventouにより分離され、キニーネおよびシンコニンと名付けられた。
  2. 4ドラムは15グラムの純粋キニーネに相当し、それは致命的服用量に相当する。キニーネ8グラムの服用で死に至る。


1790年にHahnemannは4ドラムのキナノキを服用した。これは、そのままの形でのペルー樹皮15グラムに相当する。1790年の製薬は3%程度のキニーネ成分を含む主としてCinchona officinalisの粉末樹皮だった。これは約0.4グラムのキニーネであり、1回の治療用服用量に相当する。100%で14.904グラムであれば、3%は0.447グラムである。

Chinidin sulphuricumの一回の服用量は0.2グラムで、1日当たり1.5グラムである。1回の最大服用量は0.5グラム、1日当たりの最大服用量は2グラムである。

PONDUS MEDICUM NORICUM
(Hahnemannの時代のニュルンベルク重量)

1ドラム = 60グレイン
1グレイン = 0.0621グラム
60グレイン = 0.0621 x 60 = 3.726 グラム
3.726グラム x 4ドラム = 14.904グラム
4ドラム = 15 グラム

キニーネ硫酸塩は現在でも、特定条件のもとではマラリアに対して用いられている。治療用には0.65グラムを1日3回、7〜10日間。流行地域での予防用には1日0.3〜0.65グラム。

しかし、少量のキナノキアルカロイドの服用で、中毒症状を引き起こす、過敏症[5]が知られている。特定の人々が過敏である。キニーネ中毒は、キニーネの完全な服用を繰り返した時に起きる症状である。

オーストラリアで1972年11月〜1988年3月[6]における、キナノキアルカロイド(キニーネやキニジン)の最も一般的な副作用は、血小板減少、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、皮膚発疹、発熱、悪寒、肝機能障害、不整脈、低血圧、関節痛、死亡だった。

キニーネの毒性作用は、耳鳴り、めまい、視覚障害、発疹、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱、低血圧、痙攣、呼吸抑制、心臓の不整脈、虚弱、血圧低下、無尿を伴う腎不全である。

Hahnemannが1790年に「4ドラムの良質のキナ」服用後に経験し鮮明に記述した症状は、キニーネ過敏症のすばらしいレポートとなっている。Hahnemannの「4ドラムの良質のキナ」は、キナノキの皮の粉末15グラムであり、400〜500ミリグラムのキニーネを含有している。これは治療もしくは予防服用1回分であり、過去150年に何百万人が服用した量であり、その副作用はわずか、もしくは副作用なしである。

では、1790年にHahnemannが4ドラムのキナノキの皮、約0.447グラムのキニーネを服用後に経験した症状は何だったのか? 彼は気だるさと眠気を感じたが、これは血圧低下に相当する。彼は動悸、不整脈に気付いたが、これはおそらく心室性頻拍症である。頭部の動悸は頬の紅潮とあわせて、頭痛の適切な表現である。四肢の硬直は虚弱を意味する。発熱すれば誰でも渇きを感じる。Hahnemannもそうだった。指や足の冷たさは典型的なアレルギー反応である。Hahnemannの「不愉快な感覚」は、普通に体の具合が悪いと感じたことを意味する。

Hahnemannはキニーネ過敏症を経験したと結論できるだろう。これはホメオパシーの根本教義である「Similia Similibus Curentur(似たものが似たものを治癒する)」が、キニーネ過敏症だった創始者Dr. Samuel Hahnemannのアレルギー反応に基づくものだったことを意味する。ここで述べた見方では、「Hahnemannにとってのキナノキの皮は、ニュートンにとっての樹から落ちるリンゴ、ガリレオにとっての揺れるランプである」という一文は、ホメオパシー教義全体に新た光をあてることになるだろう[8]。

Literature
[1] Cullen, W.: 'Abhandlung uber die Materia Medica. Ubersetzt und mit Anmerkungen versehen von Samuel Hahnemann.' 2 Bande. Im Schwickertschen Verlag. Leipzig 1790.
[2] Grier, J.: 'A History of Pharmacy.' London 1937, pp.94-104.
[3] Squires Companion to the British Pharmacopoeia. London 1899.
[4] British Homoeopathic Pharmacopoeia. London 1876.
[5] Bayr, G.: 'Hahnemann's Selbstversuch mit der Chinarinde im Jahre 1790.' Haug Verlag, Heidelberg 1989. [Bayr mentions the possibility of Hahnemann being hypersensitive to Quinine (pp.9-10; 62) ].
[6] Australian Adverse Drug Reactions Bulletin. December 1988, Canberra City, ACT 2600, Australia.
[7] The sentence "Cinchona Bark was to Hahnemann what the falling apple was to Newton, and the swinging lamp to Gallilleo" comes from: Clarke, J.H.: 'A Dictionary of Practical Materia Medica'. In two volumes. The Homoeopathic Publishing Company, London 1900 (Vol.1. p.478). An Indian post-stamp carried the sentence to commemorate the XXXII. Congress of the Liga Medicorum Homoeopathica Internationalis at Delhi in 1977. It also appears on the cover of Richard Haehl's book 'Samuel Hahnemann' (New Delhi 1989 edition).
[8] Thomas, W.E.: 'Homeopathy - Historical Origins and the Present'. Melbourne (private) 1995
この推定が正しければ、ホメオパシーの希釈の法則そのものが最初から間違っていたことになる(そもそも希釈していないし、症状は過敏症によるもの)。

なお、HahnemannによるCullenの"Materia Medica"の独逸語訳注釈部分の英訳はホメオパシーサイトにも存在する。


posted by Kumicit at 2010/08/29 07:02 | Comment(1) | TrackBack(0) | Quackery | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白い!

よくぞこんな所まで調べたものですね。

ドラムとかグレインとか、今や死語になったような単位でしょうに。
こんな研究も面白いですね。
Posted by anetaka at 2010/08/30 00:14
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