2006/04/20

Soberが衝いたもの

Soberが衝いたものは、最小インテリジェントデザイン理論が神の存在を要求していることというより、インテリジェントデザイナーを定義しないことがもたらす論理の破綻かも。


還元不可能な複雑なシステムをデザインするのは還元可能な単純なシステム?

Elliot Sober: "Intelligent Design and the Supernatural -- the 'God or Extraterrestrials' Reply.", Faith and Philosophy, forthcoming.

これでSoberが最小インテリジェントデザイン理論
If a system found in nature is irreducibly complex, then it was caused to exist by an intelligent designer.
自然界に見つかるシステムが還元不可能な複雑さを持つなら、それが存在する原因はインテリジェントデザイナーである

が神の存在を要求することを示すために提示した補助仮説のひとつ

Any mind in nature that designs and builds an irreducibly complex system is itself irreducibly complex.
還元不可能な複雑さ持つシステムをデザインし構築する、自然界にある心は、それ自体が還元不可能な複雑さ持つ


もし、この補助仮説が成り立たないなら、Daniel Dennettの言葉を借りれば
だからPaleyは、デザインは説明すべきすばらしいものだと語っただけでなく、デザインは知性を必要とするとも語った点で、正しかったのだ。彼がただ一つ見落としたのは、--- そしてダーウィンが提供してくれたのは --- この知性は、まるで知性とは見なされないほど小さくて愚かな断片に砕かれたあと、一連の巨大なネットワーク状のアルゴリズムのプロセスを通して、空間と時間に分散していくことができるのだという考え方であった。[Daniel C. Dennett: ダーウィンの危険な思想, 2001 (Amazon]


にもかかわらず、インテリジェントデザイン理論家Dr. William DembskiのブログUncommon Descentの執筆者のひとりDaveScotは、2006年4月16日付けのエントリ「Deconstructing Sober」で、この補助仮説を
We have no idea how many minds exist in nature much less whether they are all necessarily irreducibly complex. Another false premise given by Sober and his third flaw.

自然界にいくつの心が存在しているかわからず、ましてや、それらすべてが還元不可能な複雑さを必ず持つかわからない。これがもうひとつの命題の誤りであり、Soberの第3の誤り。
と反論し、さらに、2006年4月17日付けのDaveScotのエントリ「Sober and Irreducible Complexity」で
If no one can then Sober’s hypothesis is untestable, unfalsifiable pseudo-science. It doesn’t pass muster even as philosophy as demonstrated by my previous analysis and it certainly doesn’t qualify as science when its hypothetical conclusion can’t be tested in any conceivable way.
「心は還元不可能な複雑さを持つ」が証明不可能かつ反証不可能だから、科学ではないという反論を追加した。


DaveScotの自爆反論のそもそもの問題

「還元不可能な複雑なシステムを、還元可能な単純なシステムがデザイン可能」という仮定が成立するなら、「還元不可能な複雑なシステムは進化論の反証」というインテリジェントデザイン理論の根幹が失われる。これは「突然変異と自然淘汰」という還元可能な単純な「知性」によってデザイン可能になるからだ。つまり

「還元不可能な複雑さはデザインだ」AND「インテリジェントデザイナーは単純だ」==>「進化論」

すなわち、最小インテリジェントデザイン理論「自然界に見つかるシステムが還元不可能な複雑さを持つなら、それが存在する原因はインテリジェントデザイナーである」を成立させるには、「還元不可能な複雑なシステムは、還元不可能なシステムによってのみデザインされる」がなければならない。しかし、インテリジェントデザイン関連文献でこのような主張、あるいは仮説を提唱した者は見当たらない。

これは、インテリジェントデザイン理論が以下のものを定義していないから。

  • インテリジェンス
  • インテリジェントデザイナー
  • インテリジェントエージェント

あるいは暗黙のうちに、

  • インテリジェントエージェントとは、人間の技術者・職人および神である
  • インテリジェントデザイナーは神である
  • インテリジェンスは神と人間にのみ存在する
  • 人間は神が創った
を仮定しているから。

もちろん、そもそも「インテリジェンス」という概念が科学と対象として確定的定義があるかというと、そこまで固まっていないかもしれない。
でも、それはそれでも構わなくて、未検証あるは検証可能性不明であったとしても、理論がSelf-consistentであるために、必要な仮説としてリストアップしておけばよい。

それができないのは:

  • 「科学で説明できないことは神の直接介入」という機械論の初期の期待を言うと、宗教になる。
  • それを言い換えようとして、神をインテリジェントデザイナーに置き換えた。
  • インテリジェントデザイナーという言葉の意味を、置き換えた本人は神だと知っているから、定義不要。
  • しかし、他人にとってはそうではない



2006年4月17日付けのDr. William Dembskiのエントリ「Sober's "Progenic Fallacy"で、同僚の言葉として
First, ID’s denial of it being religious does not rest on the fact that it does not specify the identity of the designer, but rather, the identity of the designer is irrelevant to the detection of design.

インテリジェントデザインが宗教ではないのは、デザイナーの身元を特定しないからではなく、デザインの検出がデザイナーの身元と無関係であること。

と言っているが、"還元可能な単純なデザイナー"ではないことは暗黙のうちに仮定されているはず。

でなければ、Dennettの「この知性は、まるで知性とは見なされないほど小さくて愚かな断片に砕かれたあと、一連の巨大なネットワーク状のアルゴリズムのプロセスを通して、空間と時間に分散していくことができるのだ」に見事にはまってしまう。

posted by Kumicit at 2006/04/20 09:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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