- 効果のないホメオパシーを、法的に「効果がある」ことにすべきではない
- 効果のないホメオパシーを、医療として合法化すべきでない
- 効果のないホメオパシーのみに従事するホメオパスを国家資格化すべきではない
と考えるが、あらゆる場合にそうだとは言えないかもしれない。2.と3.を引っ込めることを政府の検討の俎上に載せる必要がある事態・状況はありうるかもしれない。とうことで、想定をつくってみた。
ホメオパシー汚染の拡大と、非常時のホメオパシー(2.)およびホメオパス(3.)合法化
想定背景:
- ホメオパシーは医療として認められておらず、通常医療機関でも使用されていない。
- もはや通常医療機関がホメオパシーレメディを使っても、使わなくても、ホメオパシー支持の拡大に何ら影響を与えなくなっている
- 既に国民の相当数(たとえば10%以上)がホメオパシーのビリーバーとなり、通常医療を使わなくなっている。
- ビリーバーにはグラデーションがあり、通常医療にかかるより死を選択するコアなビリーバーから、苦しくなれば通常医療にかかりたいと思うユルいビリーバーまで連続分布している。
- ホメオパシー側から見ると通常医療との溝は深く、ユルいビリーバーでも"軽い気持ち"で通常医療を使う気になれない。
- 国民の相当数が、ホメオパシーセッションおよびレメディの供給を断たれることを嫌って、政府によるホメオパシー団体への攻撃を支持しない。
- ホメオパシー団体は、通常医療否定宣伝を繰り返している。
- ひとたびビリーバーが通常医療側に行くと、もどってこないと考えて、ホメオパスはビリーバーが死んでもいいからエンクロージャーをかける。
想定イベント1:
- とある感染症のパンデミック・死亡率20%超
- ワクチンは準備できたが、完全予防できるわけでもなく、副作用がないわけでもない
- ホメオパスたちはその点を衝いて、ワクチン否定宣伝を行っている
- ユルいビリーバーから通常医療になだれこむが、中間レベルのビリーバーは躊躇っている
死体の山が積みあがってもワクチン否定宣伝をするホメオパスという想定及びビリーバーがワクチン使用になだれ込む想定は、「ワクチンに抵抗したが、死体の山が積みあがってカトリックが敗北した」前例に基づく。
==>ワクチン否定論メモ: 予防接種と麻酔に抵抗したキリスト教 (2009/02/06)
==>死への恐れの前に敗北する神 (2009/05/20)
この想定状況において、より多くの人々を救いために次の2点が必要となる:
- 中間レベルのビリーバーが躊躇わずに、少なくとも"この感染症"について通常医療の受ける気になるようにすること
- 狂信的でなければ、良心が麻痺しているわけでもないホメオパスを通常医療の敵対者から、少なくともH5N1について通常医療の支援者に転換すること
このためには...
- 中間レベルのビリーバーに対して
- 受け入れ側の通常医療機関は、ホメオパシー・ホメオパシーの使用・ホメオパスに対して批判的な言動を行わないことを保証すること
- ホメオパシーとの決別にならないことを保証すること。(ホメオパスから通常医療機関利用を推奨される等)
- 受け入れ側の通常医療機関は、ホメオパシー・ホメオパシーの使用・ホメオパスに対して批判的な言動を行わないことを保証すること
- ホメオパスに対して
- 顧客に通常医療を受けることを推奨しても、それにより通常医療側に顧客を奪われることがないと保証すること。
- 顧客に通常医療を受けることを推奨することで、商売上のメリットを提供すること。
- 顧客に通常医療を受けることを推奨しても、それにより通常医療側に顧客を奪われることがないと保証すること。
この場合、実効性はともかくも、少なくとも政府の選択肢として、「ホメオパシーを医療の一部として位置づけ、ホメオパスを医療専門職あるいは国家資格に準ずるものとして扱う」を検討せざるを得ない。
ホメオパシー汚染の拡大と、平時のホメオパシー合法化(2.)およびホメオパス非合法化
想定イベント2:
- 想定背景は上記と同じ。
- 想定イベント1は起きていない。
- この状況を放置していると、想定イベント1で、出さなくてもいい犠牲者を出すことになる。
- 政府は危機に備えて、通常医療否定宣伝を行うホメオパシー団体を撲滅もしくは無力化することにしたが、方法は未定。
この想定では、同じくホメオパシー汚染が進行しており、「国民の相当数が、ホメオパシーセッションおよびレメディの供給を断たれることを嫌って」いるため、ホメオパシー療法の継続を国民に対して保証できない政策は選択できない。
一方、市場拡大のために「通常医療否定宣伝を行う」、収益拡大のために「重篤な病気でもホメオパシー療法を続ける」形で、患者との間で利益相反となるホメオパスの存在を容認できない。
この場合、実効性はともかくも、少なくとも以下が政府の選択肢に入れざるをえない:
- ホメオパシーセッションの実施およびレメディ処方を医師に限定する(治療法の選択において利益相反は生じないようにする)。ホメオパスは非合法化。
- 通常医療機関でのホメオパシー利用の推進(フランス程度に){A survey of 10 countries where homeopathy is being practised 3.6 France]。これにより国民に対してホメオパシー療法の継続を保証する
ただし、「ホメオパスの非合法化」を実効あるものにできないなら、「ホメオパシーの医療としての合法化」は選択できない。
もちろん現時点の日本は、上記想定のようなエクストリームな状況にはなく、「ホメオパシーを医療として合法化」するような選択はありえない。
また、たとえそのようなエクストリームな状況になったとしても、「ホメオパシーの医療としての合法化」は、「麻薬戦争が泥沼化し人口1.1億人の国家で年間12000人が麻薬がらみの殺人事件で殺される」ような状況で「麻薬を合法化することで、麻薬カルテルの影響力を弱めよう」と主張するに、等しいものである。迷うことなく選択できるような政策ではない。
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