2006/05/29

宇宙版IDについてのメモ


wiki:Fine-Tuned Universeによれば、次のような項目を挙げて、人類生存のために宇宙が微調整(ファインチューニング)されており、それを証拠として宇宙はデザインされと主張するのが、ファインチューニング論である:

  • 強い相互作用が2%弱ければ陽子が2個以上の原子が維持できなくて、宇宙には水素原子しか存在しない。1%強ければ、水素原子はほとんど存在せず、鉄原子より重い原子もほとんど存在しない。
  • 弱い相互作用がわずかに強ければ、中性子はもっと速く崩壊し、ビッグバンではヘリウム原子はほとんど生成されない。弱い相互作用がわずかに弱ければ、ビッグバンで水素原子はの大半が燃え尽くす。
  • 電磁場の結合定数が違えば、原子や分子は大きく異なる。
  • 電子と陽子の質量比が違えば、電子の軌道特性も大きく異なる。
  • 宇宙にはバリオン1個あたり10億個のフォトンがある。これよりエントロピーレベルが高ければ、銀河系は形成されない。低ければ、銀河系は分裂できず恒星を形成できない。
  • 重力は電磁力よりも10^40倍も弱い。電子と陽子の数の比が1/10^37よりも違っていれば、重力よりも電磁力が卓越し、恒星や銀河や惑星は形成されない。


[1] Robin Collins:"God, Design, and Fine-Tuning"
[2] Walter L. Bradley: Is There Scientific Evidence for the Existence of God?
[3] John Leslie: The Prerequisites of Life in Our Universe
[4] Robin Collins: Evidence for Fine-Tuning
[5] Taeil Albert Bai: The Universe Fine-Tuned for Life
[6]Stephen C. Meyer:The Return of the God Hypothesis

ファインチューニング論の支持者たちはこれらを証拠として挙げる。しかし、確率がありえないくらい小さいことだけを根拠とする"God of the gaps"論であるため、宇宙がデザインされたということを証明するものではない。


2つのファインチューニング論

TalkOrigins.orgにはインテリジェントデザインによるファインチューニング論への批判が載っている。

古い地球の創造論の主張は:
The cosmos is fine-tuned to permit human life. If any of several fundamental constants were only slightly different, life would be impossible. (This claim is also known as the weak anthropic principle.)

宇宙は人間が生きていけるようにファインチューニングされている。基本的な物理定数のどれかひとつが、わずかに違っているだけで、生物は存在し得ない。(この主張は"弱い人間原理"として知られる)

Ross, Hugh. 1994. Astronomical evidences for a personal, transcendent God. In: The Creation Hypothesis, J. P. Moreland, ed., Downers Grove, IL: InterVarsity Press, pp. 141-172.
反進化論における"古い地球の創造論"の立場である「生物は自然には大進化せず、神の介入を必要とする」と違って、宇宙誕生以降の神の介入を必ずしも想定しているものではない。

これに対して、インテリジェントデザインの主張は:
The conditions that enable life to exist also give the best overall setting for scientific discovery; habitability correlates with measurability. For example, the moon exists with the right size and distance so that a perfect total solar eclipse is observable, and the total solar eclipse of 1919 was crucial in testing general relativity.

生物が存在可能となるような条件は、科学的発見をするのに全面的に最良なセッティングとなっている。居住可能性は観測可能性と相関する。たとえば、月の大きさと位置は完璧な皆既日食を観測可能とし、1919年の皆既日食は一般相対論の検証にとって重要な役割を果たした。

Gonzalez, Guillermo and Jay W. Richards, 2004. The Privileged Planet. Washington DC: Regnery.
これは「宇宙は発展のある段階で観測者を登場させる」という"強い人間原理"と言えるだろう。

特徴的なことは「月の大きさと位置は完璧な皆既日食を観測可能とする」という、あいまいながらも、デザイナーの直接介入を示唆する表現を使っていることだ。これは、インテリジェントデザイン理論はデザイナーの直接介入があったと主張する[Dembski]ものなので、宇宙版でも同様な形をとろうとしたものだろう。

ただ、これは自爆攻撃になる。すなわち:

  • デザイナーが、知的生命が誕生できるように宇宙をファインチューニングしたのなら、何故、生物進化にデザイナーが介入する必要あるのか?
  • 知的生命を進化によって創造することが不可能だと主張するなら、それは宇宙がファインチューニングされていない証拠ではないか?


==>忘却からの帰還: 宇宙版IDを批判する天文学者William H. Jefferys
==>忘却からの帰還: 宇宙版IDを批判する宗教学者Dr. Hector Avalos

そのためか、宇宙版IDは、Gonzalez and Richards "The Privileged Planet"(2004)に続く本は出版されていない。


posted by Kumicit at 2006/05/29 00:01 | Comment(0) | TrackBack(1) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「ID〈27〉生命」「観測」の神秘的一致 /「大きな月」と地球は運命共同体
Excerpt: 【科学】ダーウィン進化論の終焉??科学の新パラダイム ID〈27〉 第一部 ID
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Tracked: 2006-07-03 15:24