- 否定論とコントロールの回復 (2010/06/13)
- When seeing IS believing (2008/10/11)
- 自然現象としてのカウンターナレッジ選好 (2009/08/26)
予測のつかない事態に陥ると、「その事態に自分が影響を及ぼせるという感覚を回復させ」ようとする。
その理由は、AustinのUniversity of TexasのJennifer Whitsonと、Northwestern UniversityのAdam Galinskyによれば、理解できない力で制御不可能になったという感情を、パターン認識が埋め合わせていること。パターン認識は、生命はランダムだという感覚を均衡させ、何が起きているか理解し、その事態に自分が影響を及ぼせるという感覚を回復させる。株式市場の崩壊を巨大な陰謀論で説明する方が、金融システムが自分の理解を超えていると考えるよりも安心できる。陰謀論を信じれば事件の原因と動機が定まり、単なる偶発時と考えるよりも合理的だと思えるようになり、乱れて予測のつかない現実をコントロールのもとにおくことができる。そして、空想上の法則を信じたり、「陰謀論」という形で「誰かを敵と定めたり」する。
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人間の精神は、世界はランダムであると考えるよりも、神秘的で目に見えない力が秘かに働いていると信じたがる。Whitsonは次のように書いている「あらゆるデータに、人々は誤ったパターンを見出し、株式市場にトレンドを見出し、なじみの人間に陰謀を見出す。コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める。」
[Sharon Begley: "Feeling Powerless? Do I Have a Conspiracy Theory for You" (2008/10/02) on News Week]
否定論・カウンターナレッジはまさしく、その土壌の上に咲く花:
ひとつの仮説を提示しよう。否定論は普通の人の考え方から生み出される。大半の否定論者は普通の人々で、自分が信じているものが正しいと考えている。... 何を否定していても、否定運動は使っている戦術のみならず、多くの共通点を持っている。彼らはすべて自らを、真実を抑圧したり、悪意あるウソを人々に押しつけようとする陰謀に加担する腐敗したエリートたちに対して、勇敢に戦いを挑む弱者だとみなしている。陰謀は多くの場合、不吉な政策を推進するものだと主張される。たとえば、過剰福祉国家、世界経済の支配、政府による個人の支配、金融利益、無神論など。おそらく、今、「誰かが悪い。その誰かを打ち倒せば、問題はすべて解決する」と思うことは、コントロール喪失状態から脱出にはとても効果的だ。しかし、実際には「問題は解決しない。」
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この共通の場は、否定論の根底にある原因について多くを知らせてくれる。まず知るべきは、否定論が最も繁殖しやすいのは、科学を信じるしかない分野である。抗生物質否定論が存在しないのは、実際に抗生物質が効くのを見れるからだ。しかし、ワクチン否定論は存在する。それはワクチンが病気を予防すると言われているだけだからだ。ワクチンが効いているために、我々の多くはその病気を実際に見ることがない。
同様に、地球温暖化、進化論、タバコと癌の関係も、科学者や医者やその他の専門技術者の言葉を信じるしかない分野である。
[Debora MacKenzie:: "Living in denial: Why sensible people reject the truth " (2010/05/19) on New Scientist]
それでも、「誰かを敵と定めたい」のであれば、少なくとも実働な人々を対象とすべきではない。「地位があるが、実働とは関係のない人物」にすべき。