"intervention"(介入)は簡単で、超自然から何らかの形で自然界に手を出して、何かを置いたり操作したりすること。自然法則を無視しているので、人間が全知であれば奇跡として認識できる。もちろん、人間は全知ではないし、自らが全知であることを証明する方法もないので、"God of the gaps"論として、神の介入を主張することになる。
"Front Loading"(フロントローディング)とは、初期値・物理法則などの形で、創造主が手を入れること。もちろん、偶然、そういう初期値や物理法則になっているのか、神様が考え抜いた末にそうなったのか識別できない。この場合、神様がたとえ本当に考えまくっていたとしても、神様がいてもいなくても、科学上の説明には影響しないので、余計なものとして、オッカムの剃刀の原則に従って、神様は説明用には不採用となる。
証明可能かどうかは別として、神様の存在を主張するに"Front Loading"(フロントローディング)ではなく、"intervention"(介入)でなければならないわけだ。
さて、宇宙版IDだが、これがどっちだかわからない記述になっている。あくまでも、YEC(若い地球の創造論)ともOEC(古い地球の創造論)とも矛盾しないようにしようとして明言できなくなっているようなのだ。一応、明示的に介入したような記述にはなっていないので、宇宙版ID批判サイドは"Front Loading"(フロントローディング)と解釈して、批判している。
実のところ、通常版IDである反進化論も、明確ではない。エネルギー保存則を守ろうとすると、明示的な介入(鶏を置くとか、卵のDNAをこっそり修正するとか)ができない。YEC的な原則である「エネルギー保存則は創造6日間の後は完全に機能する」を捨ててしまえば、何でもありなのだが、そのあたりは明言されていない。ただ、適応関数とか突然変異の仕掛けとかの"Front Loading"(フロントローディング)の形でデザインを持ち込もうとすると、オッカムの剃刀の原則でデザイナーは科学の説明の中に居場所がなくなる。従って、"気分"的には、"intervention"(介入)だと思われる。
で、"Front Loading"(フロントローディング)な宇宙版IDと"intervention"(介入)な通常版IDを接続したときの、"科学"は.......何もない。初期条件と"God of the gaps"なので科学として何も内容はない。しかし、"神学"はある。それも、とってもNewtonな神学が。
Newtonな神学とは、宇宙は建て直しを必要とし、神の奇跡によって建て直しがなされないと維持できないという考えで神の存在を証明しようとしたもの。Newtonは惑星軌道の安定性にそれを求めた。そして、惑星軌道の安定性という隙間は、Lagrangeによって埋められてしまった。また、Leibnizからは、建て直しが必要な宇宙しか創れない神様は出来が悪すぎと批判された[J.H. ブルック: 科学と宗教 pp.161-165Amazon]。
そして、Leibnizのツッコミがそのまま宇宙版ID+通常版IDにあてはまってしまう。
- デザイナーは宇宙にほとんど生物が生存できないような自然法則を作った
- デザイナーは奇跡的なフロントローディングで1個だけ生存可能な惑星を確保した
- デザイナーはその惑星に生命が自発的に出現するような準備ができなかった
- デザイナーは最初の生命をその惑星に置いて、やっと生命の歴史が始まった
- デザイナーは進化によって、生命の多様性を創れなかった
- デザイナーはたびたび介入して、霊長類にたどり着いた。
- デザイナーはチンパンジー祖先とヒトの間にも、介入してやっとヒトを出現させた。
「一歩目からデザイナーは間違えているだろう」というのが神学的なツッコミ。どの段階にも、先見の明も、職人的技量も感じられないできの悪さである。
ラリー・ニーヴンとジェリー・パーネルにまかせれば、惑星1個なんてケチなことを言わずに、もっと広大な生存空間を創ることも可能だろう。しかし、デザイナーの想像力と創造力はチンケだったようだ。
結局は、高い技量を持つ賛美に値する神様は"顔が見えない"神様で、"顔の見える"神様は技量が低いという原則に立ち返るということだろう。
追記: 2006/07/10: Newtonの神とLeibnizの神
NewtonとLeibnizの論争は、進化論や宇宙における地球の位置などキリスト教と絡むネタについてでもなければ、神の存否についてものですらない。神の直接介入なしに現在の宇宙が存在しうるかどうかという、科学ではなく神学の戦いである。
そもそも、機械仕掛けの宇宙という機械論そのものは、そのような精緻な機械を創造できた神を讃えるものでもある。しかし、それは神をデザイナーにしてしまった。そうなってしまうと、「神の直接介入は神の職人としての技量の低さを示すもの」というLeibnizの主張はむしろ有神論的には適切だ。なお、Leibnizの主張はキリスト教の枠外たる理神論的であるが、Leibniz自身は理神論者ではなく、キリスト教の枠内にとどまる。
問題は、機械仕掛けの宇宙そのものに神を感じることはできても、神の姿が見えないことだ。神の直接介入、すなわち奇跡がないなら、神の顔を人が見ることなどありえない。だからこそ、Newtonは機械論の隙間に神の姿を見出そうとした。
繰り返しになるが、結局は「賛美に値する技量の高い神は顔が見えない。顔が見える神は、技量が低い。」という問題に直面する。どちらの神学を選択するかは、科学とは無関係。神が賛美に値する高い技量を持つべきだと言うのも、あまたある神学のひとつであって、唯一絶対正しいものではないだろう。
そして、「宇宙版ID+通常版ID」の神学は「顔が見える神は、技量が低い」というものだ。そのような神学を選択することそのもに非はない。それを科学だと主張しない限り、何の問題もない。
タグ:フロントローディング id理論
例えば
>そして、Leibnizのツッコミがそのまま宇宙版ID+通常版IDにあてはまってしまう。
・デザイナーは宇宙にほとんど生物が生存できないような自然法則を作った・・・等々のくだりは、
以下は、私が感じる感想ですから、ご無礼はお許し下されたし。
何だか、子供が親に、文句を言うのに似ている。
1)なんで俺を生んだんだ。
2)神が万能なら、どうして世界はこんなに矛盾があり、非合理なんだ。
3)息子が、親に対する不平を言っているようにも受け取れる。
私は、大学では「電子工学(高電)」を選考しましたが、理論もそうですが感性(情緒)も重要に思います。
電子の世界から宇宙を見ていると、明確なデザイン性を感じます。
理論で検証する事も大切ですが、私の感性からすると、進化論の「偶然」「突然変異」「自然淘汰」よりも、ID理論の「明確なデザイン」がピッタリきます。
そしてその"神の顔"は、あくまでも機械論の隙間として、すなわち"God of the gaps"として存在していること。つまり、"神の顔"は、科学としては証明も反証もできないので、取り扱い対象外。機械論の隙間に神を見出すことそのものは非なのではない。それが科学だと言うのが非なだけだ。
科学的といっても所詮人間が頭で思考し、推論したものでしかないようだ。
ID理論を科学ではないと言うのであれば、「進化論」も科学ではないと私は言いたいのです。
2. 科学の顔をするために ID 論者が一生懸命避けようとしている「デザイナー=神」をのっけから主張して台無しにしてること
3. ひとこと「私はその立場を取らない」といえば膨大な化石記録その他の証拠もなかったことにできるらしいこと
などを考えると、ムーニーさんてば実は ID 論者のふりをしつつ支離滅裂な論理で自爆することによって ID の評価にダメージを与えようという目論見なんじゃないかと思います。というか、それくらいしか考えられない…
ここまでテンプレなムーニーさんだと、テンプレすぎて、テンプレなレスポンスしか返せなくて困ってしまいます。とはいえ、それでは面白くないので、意地でもKumicitらしく返しておきましょう。
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ムーニーさん:
科学の成果は、査読つき論文(peer-reviewed paper)の集合体として存在している。インテリジェントデザイン運動は、進化生物学というカテゴリに存在する、あまたある論文たちに対して攻撃した実績もなければ、攻撃する意志もない。
遠くから見ていると、"進化論"が存在していて、そこへ向かってインテリジェントデザインが攻撃をかけているように見えるだろう。しかし、少し近寄れば、進化生物学というカテゴリの論文群が存在しているだけ。そしてそこに無限に存在する隙間のほんのわづか数点に、インテリジェントデザインの領有権を示す旗をたてているだけだということが見える。
==> http://transact.seesaa.net/article/19705824.html
もちろん、領有権の根拠は"そこに隙間がある"ことのみ。だから、どんなものでもその隙間の領有権を主張できる。スパゲティモンスター、ロードサイドピクニックの残骸、プロトカルチャー、"大宇宙の大いなる意志"、クイーン・メイブ[先週木曜教]などなんでもあり。しかし、科学の隙間である以外の根拠がないので、インテリジェントデザインが正当なる領有者であることを科学的に示せない。すなわち、正しさを証明できない。
==> http://transact.seesaa.net/article/20300487.html
さて、ムーニーさん。進化論がどうのこうの言う前に、インテリジェントデザインが隙間の正当なる領有権者であることを示しみるのはいかがかな?
とりあえず、Kumicitは隙間に"大宇宙の大いなる意志"を置かせもらう。そして、超自然の力によって、望みの結果が出るまで時間をリセットかけ続けさせる。たとえ、10^10000回でもリセットさせる。さて、インテリジェントデザイナーは"大宇宙の大いなる意志"に勝利して、領有権を主張できるかな。
なお、"大宇宙の大いなる意志"については以下参照:
http://www.b-ch.com/cgi-bin/contents/freemv/list.cgi?pv=255&isp=101