2011/07/17

中国の石炭消費が温暖化を抑制いているかもしれない

今世紀に入って温暖化が止まっているように見える件について...
Kaufmann2011S2.png
(観測値は黒線)
[Kaufmann et al. 2011]

これまでメインストリームとしては、1998年を基準とした場合のみ、そう見えるということと、自然の変動範囲内と見ていたようである。確かに、移動平均を取れば別に止まっていない...
GlobalLandOceanTempratureIdexBBC.jpg
Annual data (black line) are smoothed by a five-year running mean (red) - a 10-year mean would smooth more. Graph from Nasa GISS
[Richard Black: "Climate: Cherries are not the only fruit" (2011/07/07) on BBC]
また、10年間の変化も基準点を1998年以外にした場合は温暖化は進行している数字になっている。
Temperature changes in recent decades, from Nasa

1991-2001: +0.12C
1992-2002: +0.43C
1993-2003: +0.42C
1994-2004: +0.25C
1995-2005: +0.26C
1996-2006: +0.26C
1997-2007: +0.19C
1998-2008: -0.12C
1999-2009: +0.25C
2000-2010: +0.30C
[Richard Black: "Climate: Cherries are not the only fruit" (2011/07/07) on BBC]
気候変動を語るにたる100年程度の時間スケールではそうだが、10年レベルで見たとき、ひと休みしているのは確か。

これについて、中国など硫黄酸化物の放出対策の進んでいない地域での石炭消費の急上昇によるエアロゾル増大が原因とする研究が発表された。
the new study, in Proceedings of the National Academy of Sciences, concludes that smog from the extra coal acted to mask greenhouse warming.

China's coal use doubled 2002-2007, according to US government figures.

Although burning the coal produced more warming carbon dioxide, it also put more tiny sulphate aerosol particles into the atmosphere which cool the planet by reflecting solar energy back into space.

The researchers conclude that declining solar activity over the period and an overall change from El Nino to La Nina conditions in the Pacific Ocean also contributed to the temperature plateau.

PNASに発表された研究は増加した石炭消費によるスモッグが温室効果ガス温暖化をマスクしていると結論している。米国政府の統計によれば、2002〜2007年で中国は石炭消費を倍増させている。

石炭の燃焼は温室効果な二酸化炭素を生成うるが、同時に硫黄酸化物のエアロゾルを大気に放出し、これが太陽エネルギーを宇宙空間に反射して、地球を冷却する効果を持っている。

研究者たちはここ10年の太陽活動の低下と太平洋のエルニーニョからラニーニャへの変化なども寄与していると結論似ている。

[Richard Black: "Global warming lull down to China's coal growth" (2011/07/05) on BBC]


原論文はこっち==>RobertK. Kaufmann et al: "Reconciling anthropogenic climate change with observed temperature 1998–2008", doi: 10.1073/pnas.1102467108, PNAS July 5, 2011, (Appendix)

PNASなので、とりあえず、そういう話もあると思っておく程度でいいかもしれないが、とりあえず、関連情報も。

まずは、硫黄酸化物の放出の推移は...
SulferEmision2005.png
[PNNL - Pacific Northwest National Laboratory (2011/02/09)]
欧米がピークを越えて減少に転じてから、中国方面が増大に転じている。

また、過去30年の石炭消費の推移でも...
CoalConsumption19802008.png
[World Coal Consumption, 1980-2008 (EIA)]
中国の石炭消費の増大は非常に大きなものになっている。

で、以前から議論されているが、硫黄酸化物で温暖化を抑制できるなら、意図的に放出すべきという考えがある(ただ、エアロゾルは数週間から数か月で失われるので、補給し続けていないといけないが)。

これについて、推奨じゃないという意見ものある。たとえば...
The sulfur dioxide produced by these coal-fired power plants is a pollutant that contributes to the production of acid rain. Forests, crops, buildings, aquatic life and human health are all negatively impacted by acid rain. In 1963, the U.S. Clean Air Act (CCA) established standards for regulating pollutants such as sulfur dioxide. However, it took until 1990 for the U.S. Congress to strengthen CCA to force the coal industry to significantly cut or trap sulfur emissions. The impact of this legislation successfully decreased sulfur dioxide emissions by 40% from 1990 levels. As a result, the reduction of sulfur dioxide emissions dramatically reduced the cooling effects associated with these gases. Thus, removing sulfur dioxide to protect crops, forests, wildlife and human health resulted in the warming trend observed between 1990 and 2002.

これらの石炭火力発電所による硫黄酸化物は酸性雨をもたらす汚染物質である。酸性雨は、森林や穀物や建築物や水中生物や人間の健康に悪影響を及ぼす。1963年に米国ではClean Air法による硫黄酸化物のような汚染物質の規制が成立した。しかし、石炭産業に硫黄酸化物の大幅な放出削減おあるいは回収を義務付ける規制強化に、米国連邦議会は1990年までかかった。この法規制は成功し、1990年レベルから40%の硫黄酸化物放出削減が実現された。結果として、硫黄酸化物放出削減が、冷却効果の縮小につながった。穀物や森林や野生動物や人間の健康を守るための硫黄酸化物削減により、1990〜2002年の温暖化トレンドを生み出した。

Given the negative effects of sulfur dioxide on the environment and human health, we should expect Chinese environmentalists to act to reduce these pollutants.

環境及び人間の健康に対する硫黄酸化物の悪影響を考えれば、中国の環境保護主義にこれらの汚染物質の削減を求める活動を期待すべきである。

[Jamie L. Vernon: "Environmentalists Caused Recent Global Warming Trends And Need To Do It Again" (2011/07/08) as Guest post on Intersection]
少し前の報道(2007/1)になるが、中国の大気汚染の状況はひどいものらしく、地域によっては...

[BBC News - China's Grime Belt Air Pollution Extreme (2007/1)]
また、中国やインドによる放出は欧米には影響はあまりないかもしれないが、日本だと中国からの放出で酸性雨の被害を受ける可能性がある。

硫黄酸化物による温暖化抑制というジオエンジニアリングは、あまり良い手段ではないと思われる。
posted by Kumicit at 2011/07/17 00:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | Sound Science | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 私もこの件を記事にしていました、詳細なご紹介ありがとうございます。
 健康被害や酸性雨の影響を低減させるために、成層圏に硫黄酸化物を散布するなんて提案もあるそうですが、これもやはり良い手段ではなさそうですね。
Posted by mushi at 2011/07/18 07:39
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