2006/08/07

疑似科学と未科学を識別するのに参考となる16の質問 by Lee Moller


BC Society for Skeptical Enquiryのおそらく主宰であるLee MollerがニューズレターRational Enquirerに書いた「Pseudoscience or Protoscience (疑似科学か未科学か)」という記事に、疑似科学と未科学を区分けの参考となるであろう質問リストを書いた。1989年の時点では12個の質問[copy]だったが、1994年に改訂された16個[コピー]となっている。

このProtoscience(未科学)の言葉の定義および該当する例については、wiki:Protoscienceおよびプロトサイエンスとも定めることができず、"disputed"あるいは"編集保護"状態にある。

Lee Moller自身は「a new science trying to establish its legitimacy (正当性を確立しようとしている新しい科学)」という意味で使っている。"未検証の仮説"とも言える。で、Lee Mollerは、この未科学と疑似科学の線引きは無理だが、疑似科学の特徴はリストアップできると考えた。そして、提示されたのが「疑似科学と未科学を識別するのに参考となる16の質問」である。(なお、Lee Mollerは1989年の時点では疑似科学として、超能力やUFOや心霊現象などの超常現象を想定していた)。

16の質問は以下の通り:

  1. Has the subject shown progress?

    その主題は進展しているか?

    [ちっとも進んでいないなら、誰も研究していない]
  2. Does the discipline use technical words such as "vibration" or "energy" without clearly defining what they mean?

    その主題は"波動"や"エネルギー"など、どういう意味か明確に定義されない専門用語を使っているか?
  3. Would accepting the tenets of a claim require you to abandon any well established physical laws?

    その見解を認めるには、確立された物理法則を放棄しなければならないか?
  4. Are popular articles on the subject lacking in references?

    その主題の文献は、参考文献を挙げていないか?

    [最近の研究で明らかにされたとか言いながら、誰が言ったか書いてないとか]
  5. Is the only evidence offered anecdotal in nature?

    提示される証拠は、事実上、伝聞だけか?

  6. Does the proponent of the subject claim that "air-tight" experiments have been performed that prove the truth of the subject matter, and that cheating would have been impossible?

    その主題の支持者は、主題が正しいことを証明する"気密"な実験をしていて、不正行為は不可能だったと主張するか?

    [超能力の実験ではそう主張されるが、マジシャンが見ればミエミエだったりする。]
  7. Are the results of the aforementioned experiments successfully repeated by other researchers?

    その実験の結果は他の研究者によって再現されるか?

    [再現できなければインチキ]
  8. Does the proponent of the subject claim to be overly or unfairly criticized?

    その主題の支持者は過剰にあるいは不公正に批判されていると主張するか?
  9. Is the subject taught only in non-credit institutions?

    その主題は非公式な学校だけで教えられるか?

    [成人向けセミナーとかカルチャースクールとか]
  10. Are the best texts on the subject decades old?

    その主題の最良のテキストは数十年前のものか?

    [参照しているテキストが、既に陳腐化しているのに、新しいものを見ない]
  11. Does the proponent of the claim use what one writer has called "factuals" - statements that are a largely or wholly true but unrelated to the claim?

    その主張の支持者は、"factuals"と呼ばれる、ほとんどあるいはまったく真実だが、主張とは関係のない言明を使っているか?

    [心霊現象の説明に不確定性原理を持ち出すとか]
  12. When criticized, do the defenders of the claim attack the critic rather than the criticism?

    批判された時、その主題の支持者は批判よりも批判した者を攻撃するか?
  13. Does the proponent make appeals to history (i.e. it has been around a long time, so it must be true)?

    その主題の支持者は歴史に訴えるか?(長い間この主題が存在しているので、正しいはずだ)
  14. Does the subject display the "shyness effect" (sometimes it works, sometimes it doesn't)?

    その研究題目は「はにかみ効果 (shyness effect)」を示すか? (ときには働き、ときには働かない)
  15. Does the proponent use the appeal to ignorance argument ("there are more things under heaven … than are dreamed of in your philosophy …")?

    支持者は無知の論に訴えるか?(天と地にはあなたの哲学が夢見るよりも多くのものがある)[訳注: ハムレットの一節 There are more things in Heauen and Earth, Horatio, Then are dream't of in our Philosophy.]
  16. Does the proponent use alleged expertise in other areas to lend weight to the claim?

    支持者は主張の重みを増すために他の分野の怪しい専門知識を使うか?

13〜16が1994年に追加された項目。いかにも超常現象系ではありがちなもの。


インテリジェントデザインの場合は

インテリジェントデザイン理論は、「自然法則でも偶然でも説明できなくて意味ありげなものはデザインだ」という典型的な"God of the gaps"論として構築されている。従って、論そのものが疑似科学なのだが、超常現象を想定いているLee Mollerの16の質問に、どれくらいあてはまるだろうか。


  1. その主題は進展しているか?

    Dr. Michael Beheは1996年の"Darwin's Black Box"以降は特に成果なし。Dr. William Dembskiは大量に執筆している[DesignInference.Com]。今のところ、Dembskiは自らの作った用語"Complex Specified Information"の"Specified"の定義に成功したとはいえない状態[Dembskiの2005年版Specificationの定義を批判するMark Frank]。

  2. その主題は"波動"や"エネルギー"など、どういう意味か明確に定義されない専門用語を使っているか?

    ==>"Complex Specified Information"[Dembskiの情報量保存則]とか、"Intelligence"とか。大半の用語はDr. William Demskiひとりの手によるもの。

  3. その見解を認めるには、確立された物理法則を放棄しなければならないか?

    ==>科学の隙間にいる"God of the gaps"論なので、物理法則の放棄は基本的には必要ない。ただし、デザインを自然界に持ち込む際にエネルギー保存が崩れるかどうかは定かではない[Dembski:Intelligent Design Coming Clean,2000]。

  4. その主題の文献は、参考文献を挙げていないか?

    ==>正確な引用かどうかはともかくも、参考文献は挙げられている。

  5. 提示される証拠は、事実上、伝聞だけか?

    ==>「自然法則でも偶然でも説明できなくて意味ありげなものはデザインだ」というDembskiの説明フィルタ[ie. IDEA FAQ]という"God of the gaps"なので、該当しない

  6. その主題の支持者は、主題が正しいことを証明する"気密"な実験をしていて、不正行為は不可能だったと主張するか?

    ==>インテリジェントデザインは実験しないので該当しない。

  7. その実験の結果は他の研究者によって再現されるか?

    ==>インテリジェントデザインは実験しないので該当しない

  8. その主題の支持者は過剰にあるいは不公正に批判されていると主張するか?

    ==>[eg. Elsberry and Perakh, 2006]などによれば、該当する主張をしている。

  9. その主題は非公式な学校だけで教えられるか?

    ==>公立学校への侵入を図るも挫折中...[eg. カンザス予備選で、州教育委員会は進化論サイドが優勢に]
  10. その主題の最良のテキストは数十年前のものか?

    ==>古くても10年前のDr.Michael Beheの"Darwin's Black Box"である。とはいえバクテリアの鞭毛[Matzke,2003]とか血液凝固[Matzke, Panda's Thumb 2006/04]とか陳腐化進行中...
  11. その主張の支持者は、"factuals"と呼ばれる、ほとんどあるいはまったく真実だが、主張とは関係のない言明を使っているか?

    ==>遺伝的アルゴリズムの収束性についてのNFL定理を、生物進化にあてはめたDembskiの主張[Dembski: No Free Lunch]がこれにあたるかも[NFL定理をめぐるDembski]。どちらかと言えば、定理の間違った適用、すなわちアホにあたるかもしれない。
  12. 批判された時、その主題の支持者は批判よりも批判した者を攻撃するか?


  13. その主題の支持者は歴史に訴えるか?(長い間この主題が存在しているので、正しいはずだ)

    [Dembski, 2005]によれば、インテリジェントデザイン的な考え方はギリシア時代から存在すると言う。ただし、これは正しさを主張するための根拠にしていない。

  14. その研究題目は「はにかみ効果 (shyness effect)」を示すか? (ときには働き、ときには働かない)

    ==>インテリジェントデザインは、現在も起きている超常現象ではないので、該当しない

  15. 支持者は無知の論に訴えるか?(天と地にはあなたの哲学が夢見るよりも多くのものがある)

    ==>言ってないような...

  16. 支持者は主張の重みを増すために他の分野の怪しい専門知識を使うか?

    ==>他の分野の怪しい専門知識を使った例はみあたらない

Lee Mollerの質問のうち、明確にヒットするのは「その主題は"波動"や"エネルギー"など、どういう意味か明確に定義されない専門用語を使っているか?」と「その主題の支持者は過剰にあるいは不公正に批判されていると主張するか?」くらい。

"God of the gaps"論として構築され、デザイナーの属性やデザイン持ち込み方法など具体論に言及しないインテリジェントデザイン。現に起きると主張される超常現象(心霊とかUFOとか超能力とか)とはかなり違ったものになっていることがわかる。

posted by Kumicit at 2006/08/07 00:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | Skeptic | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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