2012/04/12

「ブアメードの血」Revisited

以前取り上げた都市伝説「ブアメードの血」...

1883年、オランダにおいてブアメードという国事犯を使って一つの実験が行なわれた。表面上、一人の人間からどれだけ血液をとったら人間は死ぬものかというものである。医師団はブアメードをベッドの上にしばりつけておいて、その周りで話し合いをする。「三分の一の血液を失ったら人間は死ぬでしょう」という結論に達した。医師団は、「これから実験をはじめます」といって、ブアメードの足の親ユビにメスを入れた。用意してある容器に血液がポタポタとしたたり落ちはじめた。数時間が過ぎた。医師団は「どれぐらいになりましたか?」「まもなく三分の一になります」と会話する。それを聞いたブアメードは静かに息を引きとったという。実は、医師団は心理実験をしていたのであった。ブアメードの足にメスを入れるといって痛みだけを与えたのである。ブアメードはメスで切られるといわれれば、それこそ、ちょっとした痛さでも、メスで足を切られたと思うだろう。容器に用意しておいた水滴をたらしていたのであった

[笠巻勝利: "眼からウロコが落ちる本"(1999/09) (PHP文庫), pp.46-47]
既に10年前に別バージョンもあり...
ヨーロッパのある国にブアメードという名の死刑囚がいました。彼はある医師から、「人間の全血液量は体重の10パーセントが定説になっているが、それを証明する実験をしたいので協力してほしい」と持ちかけられます。申し出を受け入れた彼は目隠しをされ、ベットに横たわり、血液を抜き取るため足の全指先を小さく切開されました。足元には容器が用意され、血液が滴り落ちる音が実験室内に響き渡ります。やがて、実験開始から5時間、総出血量が体重の10パーセントを越えた、と医師が大喜びしたとき、哀れこの死刑囚はすでに死亡していました。
ところがこの実験、実は血液など抜き取っていなかったのです。彼にはただの水滴の音を聞かせ、体内の血液が失われていると思い込ませただけだったのです。彼は暗示をかけられ、その事により命をおとしたのです。

[長谷川淳史: "腰痛は<怒り>である", 2000]
都市伝説な感じが漂っていた。

で、rosemaryさんによれば、谷口雅春:"生命の実相・2巻"(生長の家)に引用がある:
ある時 死刑囚を実験に使いました。まずその男に目隠しをしまして、身体を厳重に椅子に縛り付け、さて『これからなんじの頸部から一滴ずつ血液をしたたらしてじょじょになんじの全身の血を搾り取ってしまうぞ』と宣告しました。こういう宣告をして 恐怖の暗示を与えた後、実験者は囚人の頸部に針の先をもって微細な傷をつけ、あたかも局所から血がしたたっているかのように、彼の頸部に水を伝わらせて、床の上に一滴ずつ音を立てて落ちるようなしかけをしておいたのであります。六分間ほど経過して、『サァおまえは全身の血液の三分の二を失ってしまった』 と暗示しますと死刑囚はそれを信じて恐怖のあまり絶命してしまったのであります。(フラマリオン:"未知の世界")

[谷口雅春:"生命の実相・2巻" (1962) quoted by rosemary]
「ブアメード」という名や「オランダ」という場所もない。

この「フラマリオン(大沼十太郎 訳) 未知の世界へ, 1924」は気が向いたら国会図書館で確認するとして、1900年の英訳版を見てみた。
An idea, an impression, a mental commotion, while entirely internal, can produce in another direction physiological effects more or less intense, and is even capable of causing death. Examples are not wanting of persons dying suddenly in consequence of emotion. The power which imagination is capable of exercising over life itself has long been established. The experiment performed in the last century in England on a man condemned to death, who was made the subject of a study of this kind by medical men, is well known. The subject of the experiment was fastened securely to a table with strong straps, his eyes were bandaged, and he was then told that he was to be bled from the neck until every drop of his blood had been drained. After this an insignificant puncture was made in his skin with the point of a needle, and a siphon arranged near his head in such a manner as to allow a continuous stream of water to flow over his neck and fall with a slight sound into a basin placed on the floor. At the end of six minutes the condemned man, believing that he had lost at least seven or eight quarts of blood, died of terror.

ひとつの考え、ひとつの印象、そしてひとつの精神的動揺が、内的ではあっても、別の方向の生理現象を大なり小なり引き起こし、ときには死に至らしめることもある。感情の帰結として突然死した人々の例には事欠かない。生命さえも奪ってしまう想像の力の存在は確立された事実である。前世紀に英国で、医師たちによる、この種の研究の被験者となった死刑囚に対して行われた実験はよく知られている。実験の被験者は丈夫なベルトで台に縛り付けられ、包帯で目隠しされて、血液を首から最後の一滴まで流出させると告げられた。そのあと、男の皮膚に針が刺され、目立たない音を立てられた。そして、男の首をつたって水が流れ、床に落ちて目立った音を立てるように、サイフォンが配置された。6分後に、少なくとも7〜8クォートの血液を失ったと信じた死刑囚は、恐怖で死亡した。

[Camil Flammarion: L'inconnu= The unknown, 1900, p.236]
Albert B. Olston: "Mind Power and Privileges"(1903, p.136)Yogi Ramacharaka:"The Science of Psychic Healing"(1906, p.117)では、上記の部分をそのまま引用している。ここでは、「前世期の英国」が舞台である。

しかし、ここで奇妙なものを見つけた。フランス語版では...
Une idée, tout intérieure, une impression, une commotion mentale peut, à l’inverse, produire des effets physiologiques plus ou moins intenses, et même amener la mort. Il ne manque pas d’exemples de personnes mortes subitement à la suite d’une émotion. La preuve est donnée depuis longtemps des effets de la puissance de l’imagination sur la vie elle-même. Personne n’a oublié l’expérience faite à Copenhague en 1750 sur un condamné, livré à des médecins pour une étude de ce genre, et qui fut observé jusqu’à la mort inclusivement. Ce malheureux avait été solidement attaché à une table avec de fortes courroies ; on lui avait bandé les yeux ; puis on lui avait annoncé qu’il allait être saigné au cou et qu’on laisserait couler son sang jusqu’à l’épuisement complet ; après quoi une piqûre insignifiante fut pratiquée à son épiderme avec la pointe d’une aiguille, et un siphon déposé près de sa tête, de manière à faire couler sur son cou un filet d’eau qui tombait sans interruption avec un bruit léger, dans un bassin placé à terre. Le supplicié convaincu qu’il avait dû perdre 7 à 8 litres de sang, mourut de peur.

ひとつの考え、ひとつの印象、そしてひとつの精神的動揺が、内的ではあっても、別の方向の生理現象を大なり小なり引き起こし、ときには死に至らしめることもある。感情の帰結として突然死した人々の例には事欠かない。生命さえも奪ってしまう想像の力の存在は証明された事実である。1750年にコペンハーゲンで行われた、この種の研究のために医師たちのもとに送られ、死ぬまで観察された死刑囚に対する実験は誰も忘れていないだろう。実験の被験者は丈夫なベルトで台に縛り付けられ、目隠しされて、血液を首から最後の一滴まで流出させると告げられた。そのあと、男の皮膚に針が刺され、目立たない音を立てられた。そして、男の首をつたって水が流れ、床に落ちて目立った音を立てるように、パイプが配置された。6分後に、少なくとも7〜8リットルの血液を失ったと信じた死刑囚は、恐怖で死亡した。

[Camille Flammarion: "Línconnu" quoted in Blog União Fraterna Bezerra de Menezes]
「1750年のコペンハーゲン」になっていた。

これらを並べると...
出典場所年代針の場所固定場所流出したと信じた量
Flammarion (1900)[F}コペンハーゲン1750台(table)7-8リットル
Flammarion (1900)[E]英国前世紀台(table)7-8クォート
谷口雅春 (1962)-あるとき頸椎椅子全身の2/3
笠巻勝利 (1999)オランダ1883足の親指ベッド全身の1/3
長谷川淳史(2000)ヨーロッパのある国第2次大戦前足の全指ベッド全身の10%

最初から既に都市伝説な様相を呈している。

で、このFlammarion(1900)で「ブアメードの血」についてのネタは途切れているのだが、Walter B. Cannon(1942)によれば類似した記載が19世紀半ばにあった。
[Walter B. Cannon: "Voodoo death", American Anthropologist, Volume 44, Issue 2, pages 169–181, April-June 1942]

Also in New Zealand there are tales of death induced by ghostly power. In Brown’s New Zealand and Its Aborigines (1845) there is an account of a Maori woman who, having eaten some fruit, was told that it had been taken from a tabooed place; she exclaimed that the sanctity of the chief had been profaned and that his spirit would kill her. This incident occurred in the afternoon; the next day about 12 o’clock she was dead. According to Tregear (1890) the tapu (taboo) among the Maoris of New Zealand is an awful weapon. “I have seen a strong young man die,” he declares, “ the same day he was tapued; the victims die under it as though their strength ran out as water.”

ニュージーランドにも精神的な力で死をもたらす話がある。Brownのニュージーランドとアボリジニ(1845)によれば、マオリ族の女性が、ある果物を食べた後で、それが禁じられた場所で獲られたものだと告げられた。彼女は「聖なる主の神聖さを汚したので主の精神が自分を殺す」と叫んだ。事件は午後に起きた。翌日12時頃、彼女は死亡した。Tregear(1890)によれば、ニュージーランドのマオリ族のタブーは非常に強力な武器である。「私は、タブーを犯したその日に、屈強な若者が死ぬのを見た。犠牲者は水のごとくに力が流出したかのように死んでいた」と書いている。

Brown, W. New Zealand and Its Aborigines (London, 1845), p. 76
Tregear, E. Journal of the Anthropological Institute (1890, 19 ), p. 100
一方、Jack Kevorkianによれば、死刑囚を使った実験が近代にも行われている。
The next instance of experimentation performed before execution was in France in 1834. Previously injecting himself with material from plague victim in order to describe the illness in detail, a physician requested that he be allowed to extend his research on live condemned men. Permission was granted; five prisoners volunteered. Details of the experiments are not given. Only one of the subjects died before execution; it is not certain that the research itself was the specific cause.

次の死刑執行前の実験はフランスで1834年に行われた。ペストで死亡した患者から採取した物質を自分自身に注入した医師が、病状を詳細に記述するために、生きた死刑囚に対する実験の許可を求めた。許可は降りた。5人の囚人が志願した。実験の詳細は残っていない。被験者の一人が死刑執行前に死亡した。研究自体が特別な原因だったのかは定かではない。

[Jack Kevorkian, MD: "A brief history of experimentation on condemned and executed humans]
また、1890年には米国で電気による死刑実験が行われている。

==>FAR WORSE THAN HANGING; KEMMLER'S DEATH PROVES AN AWFUL SPECTACLE. THE ELECTRIC CURRENT HAD TO BE TURNED ON TWICE BEFORE THE DEED WAS FULLY ACCOMPLISHED. (1890/08/07) on New York Times

こういった死刑囚に対する実験例よりは「ブアメードの血」は穏当なものだ。記録は残っていないが、似たような実験があったとしても不思議ではない。また、あるいは、これらの死刑囚に対する実験とアボリジニの話が結びついてできた19世紀の都市伝説なのかもしれない。

とりあえず今日のところはこれくらい。また、何かネタがあれば、追っかけてみたい。

posted by Kumicit at 2012/04/12 22:03 | Comment(2) | TrackBack(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フラマリオン「未知の世界へ」翻訳版p.277には「先世紀の英国」とあり、英語版からの翻訳である。谷口による引用はうろ覚えによるものらしく、表現などに差異がある。

今のところ「1883年・オランダ・ブアメード」は笠巻勝利氏による創作と思われる。

また、英語版とフランス語版で時期や場所が違っているFlammarionの記述も信頼できず、実際にこのような実験があったとは言えない。
Posted by Kumicit 管理者コメント at 2012/05/01 16:00
とても役に立ちました。
たくさんの情報がまとめられていてありがたいです。お疲れ様です。
やはりブアメードに行われたようや実験は実際にはなかったようですね。何かでその情報を得た友人が得意げにその話を何度もしてくるので、ウザいのと信じられないのとで真偽が気になっていました。
そのような事実があり、しかもそれが比較的近代であるならば、論文なども残っているはず。しかしそのような物の存在は、少なくともネットでは出てきません。私はこの話を嘘と断じます(笑)
Posted by アポロ at 2013/01/19 22:25
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