2006/12/13

Truth in Scienceの鞭毛

英国の創造論団体であるTruth in Scienceがばらまいた教材にある鞭毛ぱわぽを見てみることにする。


1ぺーじ:表紙

HOW DID LIFE GET HERE -- BY DESIGN OR BY CHANCE?
IRREDUCIBLE COMPLEXITY AND THE BACTERIAL FLAGELLUM

生命はいかにしてここに来たのか -- デザインか偶然か?
還元不可能な複雑さとバクテリアの鞭毛

出だしから創造論なパターン「デザインか偶然か?」が提示される。ここからして間違っている。デザインと同様なものなら、他に幾らでもある:
あと、「突然変異と自然選択」を「偶然」と呼ぶのは、創造論の習慣。もちろん、作成したのが創造論団体Truth in Scienceだから当然と言えば当然。


2ぺーじ:Learning Outcomes
You should learn:(以下を学ぶべき)

How explanations of many phenomena can be developed using scientific theories, models and ideas.
多くの現象の説明が科学的理論、モデル、考えを使って発展してきたか

To ... develop an argument and draw a conclusion, using scientific and technical language.
科学技術的言葉で、論を立てて、結論を書く

How uncertainties in scientific knowledge and scientific ideas change over time and about the role of the scientific community in validating these changes.
いかに科学的知識は不確実で、科学的考えは時代とともに変わり、これらの変化を確認する際の科学界の役割について
これは、前振り。


3ぺーじ:Is Darwinism True? (ダーウィニズムは真理か?)
In the Origin of Species, Darwin wrote:
種の起源で、ダーウィンは次のように書いた:

"If it could be demonstrated that any complex organ existed which could not possibly have been formed by numerous, successive, slight modifications, my theory would absolutely break down."

いくつもの軽微な変化が続いて形成されたとは考えられないよう複雑な器官が存在することを実証できれば、私の学説は絶対に成り立たなくなってしまうだろう。
これは"種の起源"の第6章「私の学説の難点」-- 「過渡的変化の形」の出だしの引用。この後には

We should be extremely cautious in concluding that an organ could not have  been formed by transitional gradations of some kind. Numerous cases could be given among the lower animals of the same organ performing at the same time wholly distinct functions; ...

何らかの過渡的な段階的変化をたどってある器官が形成されることはありえないと、安易に結論すべきではない。下等動物では、同じ器官がまったく違った機能を同時に果たしている例がある。...

[原文はOrigin of Species 6th Edition, 訳は吉岡晶子訳「新版図説種の起源」p.111から引用]
これは、遺伝のメカニズムも分子生物学もコオプション[Evowiki:Cooption,Evowiki:Citation of Coopition]も知らないダーウィンが、コオプションに近い考え方を既に記述している部分。"TypeIII Secretory System"のコオプション[Matzke 2003]という鞭毛への進化経路を見れば、「ある器官が形成されることはありえないと、安易に結論すべきではない」という指摘は色あせない。

で、話をもどすと、この引用部分は「中間形態は見つかっていないから、進化はない」という標準的な創造論者の主張の出だしにあたる。
Mark Isaak:Index to Creationist ClaimsのリストだとCC200シリーズ(移行形態の化石)にあって、Mark Isaakが反論収集済みな古いネタの山である。

それでも、あいもかわらず古いネタを使い続けても商売が成り立つのが創造論の世界。

==>Wesley R. Elsberry: How to Write an Antievolution Article
==>忘却からの帰還:Elsberry先生の反進化論本の書き方講座


4ぺーじ:How Bacteria Swim (バクテリアはどうやって泳ぐのか)
Certain bacteria have tiny propellers called flagella which they use to swim.
ある種のバクテリアは鞭毛と呼ばれる小さなプロペラをつかって泳ぐ。
Flagella look like hairs, but up close they are amazingly complex.
鞭毛は髪の毛のように見えるが、近くによって見れば驚くほど複雑だ。

まあ、これはこれでいいだけどね。


5ぺーじ:The Biochemical Challenge(生化学な挑戦)
In 1996, Mike Behe, a Professor of Biochemistry, saw that the flagellum system presented a big problem for Darwin's theory of evolution. He developed the term 'irreducible complexity' to describe this problem.
1966年に生物学教授Mike Beheはダーウィンの進化論にとって鞭毛が大問題であることを示した。

Since 1996, many other professional scientists have agreed with him -- including molecular biologist Scott Minnich.
1996年以来、分子生物学者Scott Minnichを含む多くの専門的科学者たちが、彼に同意している。
Dr. Scott Minnichは University of Idaho准教授であるとともに、インテリジェントデザインの本山たるDiscovery Instituteフェローであるが、インテリジェントデザインな執筆物は、論文はもちろんのこと新聞記事も含めて見当たらない。

また、"多数"(600名)のうち生物関連は25%程度で、かつ動機は福音主義という信仰に基づくもである[Kenneth Chang: "Few Biologists But Many Evangelicals Sign Anti-Evolution Petition", 2006]。

それから、しつこいようだが、鞭毛は創造科学の父Dr. Henry Morrisと仲間たちの持ちネタ。
==>
Henry Morris: The Design Revelation

そして、鞭毛還元ネタもある:

==>N. J. Matzke: "Evolution in (Brownian) space: a model for the origin of the bacterial flagellum", 2003.
==>Ian Musgrave: "Evolution of the Bacterial Flagella", 2000.



6ぺーじ:Irreducible Complexity (還元不可能な複雑さ)
Behe defined an IC System as:

'...a single system that is necessarily composed of several well-matched, interacting parts that contribute to the basic function, and where removal of any one of the parts causes the system to effectively cease functioning.'
Beheは還元不可能な複雑さを、基本機能に寄与する、相互作用する、適切にマッチした複数の部品によって構成されるシステムであって、ひとつでも部品を取り去れば機能を失うものと定義した。

To provide a simple illustration, Behe pointed to a mousetrap as the product of an intelligent design:
わかりやすい表現として、Beheはインテリジェントデザインの産物としてネズミ捕りを挙げる。
Beheはネズミ捕りとバクテリアの鞭毛のアナロジーでインテリジェントデザインを主張した。そして、もちろん、漸進進化するネズミ捕りというジョーク攻撃を浴びた:

==>John H. McDonald バージョンの還元可能なネズミ捕り
==> Alex Fidelibus バージョンの還元可能なネズミ捕り

それ以来、"還元不可能な複雑さ"についての議論とは、ネズミ捕りをいじりまわすものということになってしまった。これは、アナロジーがわかりやすさの手段ではなく、理論の一部だから。

==>IDEA Center FAQ: Is it appropriate to justify intelligent design theory via analogies?
==>忘却からの帰還:IDEAセンターのID理論FAQをながめる(1)

そんなお笑いを避けたかったのか、Truth in Scienceは「To provide a simple illustration」ということにしてしまった。

で、話を"還元不可能な複雑さ"にもどす。この概念自体は、Hermann J. Mullerが進化過程の必然的結果として論じたinterlocking complexityがオリジナルである:

==>Muller HJ: "Genetic variability, twin hybrids and constant hybrids, in a case of balanced lethal factors", Genetics, 3, 422-499, 1918.
==>
PvM (Panda's Thumb): Irreducible Complexity as an Evolutionary Prediction
==>忘却からの帰還:還元不可能な複雑さは進化の必然的結果

しつこいようだが、反進化論の言説として使われた例として有名で(おそらく初出)は、創造科学の父Dr. Henry Morrisと仲間たちの本"Scientific Creationism"の(1974,1985)である。そのときは、"Organized Complexity"という名称だった。


7ぺーじ:Have Parts Been Reused?(パーツは再利用されたか)
Parts of the flagellum, used for other functions, may have been re-used to evolve the tiny propeller without intelligent direction.
インテリジェントデザインなしに、他の機能で使われた鞭毛の部品が小さなプロペラへの進化に再利用された。

However, there are major problems with this idea:
この考えには大問題がある。

1. Many parts of this tiny propeller are unique to it alone.
小さなプロペラの多くの部品はひとつひとつが唯一無二のものである。

2. Assembly instructions for the flagellum also direct the sequence in which the parts will be built, and exactly how they will be assembled.
鞭毛の組み立て指示は、部品を組み上げる順序と、いかに組み上げるかを指示する。

3. These instructions are read and processed by a network which is itself irreducibly complex.
これらの指示は、それ自体が還元不可能な複雑さを持つネットワークによって読み取られ処理される。

4. The need to imagine many new part functions for natural selection to select, stretches the scientific credibility of this idea.
自然選択のための多くの新たな部分機能をイメージする必要性は、この考えの信憑性を大きくする。
うーん。なんか最後は脱兎のごとく...という感じ。

1個目の「unique to it alone」はおそらく、これ:Nick Matzke: Flagellum evolution in Nature Reviews Microbiologyによれば、「インテリジェントデザイン理論家たちは、バクテリアの鞭毛の40個のタンパク質のうち30はユニークだと嘘つき宣伝しているが、実際には、異体同形について27あり・12未解明・1なし。」
==>Table 1. Homologies of flagellar proteins

2個目と3個目の出所はわからない。無理やり4個目へ持ち込むために書いたものか。少なくともインテリジェントデザインなDembskiやBeheの文献で、RNAが還元不可能な複雑なものという記述を見たことはない。ここまでのパワポにも書かれていない。

そして、インテリジェントデザインに4個目で持ち込む。


8ぺーじ: 終わり

Assembly of the Flagellum
Where does the evidence lead? Design or Chance?

しつこいようだが、鞭毛還元ネタはある。

たとえ、それがなくても、科学で説明できないことのみを根拠とするだけなら、デザインでなくても、「シミュレーション・アーギュメント」でも「大宇宙の大いなる意思」でも「フライング・スパテゲティ・モンスター」でも「クイーンメーブ(先週木曜教)」(関連エントリ)でも成立する。どれが正しいか判断する方法は"科学の内側"には存在しない。何故なら、"科学で説明できないこと"なんだから。



タグ:創造論 英国
posted by Kumicit at 2006/12/13 01:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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