2013/01/02

核抑止力とキリスト教

2011年7月まで、米空軍の核兵器使用の倫理研修で使われていた資料の続き...

この研修資料では、キーを回しボタンを押すことで、数万・数十万が死ぬことをわかった上で、決断することを求めている。そのことについて、聖書は引用されていない。
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広島 1945年8月6日
最初の熱は太陽よりも900倍熱い
7万6000軒の建物のうち4万8000が破壊された
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広島の人々
8万人が即死した。
1950年までに20万人が死亡した。

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  • 幾十万の非戦闘員を殺すと知っていて、米国から核を放つことを正当化する状況を想像できるだろうか?
  • 大量破壊兵器・米国に向かってくる敵のミサイル・広島と長崎
  • 歴史的には、対抗措置、先制攻撃ではない、冷戦を思い出せ
  • 時系列的には、航空機及び潜水艦発射ミサイルが先行する
[Chaplain, Captain Shin Soh: ETHICS (copy on TruthOut)]
ここまでなら、キーを回さないという判断もありうるが、抑止力の観点からはそうでない。
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  • 抑止力を完遂するために、核兵器を発射する能力と意志を持たなければならない。我々はその意志を今持っているだろうか? 今から50年後はどうだろうか?
  • 追加質問:核のキーを誰かに託して、別の任務に就けば、倫理的に問題なくなるのだろうか?

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核戦争士官からの思考:
「戦略核抑止部隊にいる我々ひとりひとりが、我々の任務についての倫理的基礎を確立しなければならない。迷うことなく責務を果たす我々の意志が抑止力を高め、平和と自由を守る倫理的最善の選択となる」

[Chaplain, Captain Shin Soh: ETHICS (copy on TruthOut)]
米国が核攻撃を受けた後で報復攻撃を行っても、米国市民の生命を守ることにはならない。にもかかわらず、その時点で、迷うことなく、敵の非戦闘員を虐殺する。その意志こそが、抑止力の根源であり、結果として敵の先制攻撃を躊躇させ、平和を維持することになる。したがって、キーを回さないと決断すれば倫理的に問題がなくなるわけではない。研修資料は、その点を突きつけるものになっている。

このあたりは、Joseph S. Nye Jr.の主張の反映でもある。
Since innocent people pose no threat, we cannot justify killing them under the moral principle of self-defense. Yet unilateral disarmament would impose a risk of harm to innocent people in this country. Steps that seriously weaken deterrence merely shift risks from one group of innocent people to another and may raise risks to all.

[Joseph S. Nye Jr.: "Five conditions for a just nuclear deterrent" (1986/06/24) on Christian Science Monitor]


で、聖書は、矛盾する主張が幾らでも探せる都合の良い宗教文書だが、倫理研修資料の核抑止力についての部分には聖書は登場しない。ただ、それは核抑止力を語るために使える記述が聖書になかったからなのかは、わからない。ただ、キリスト教が核抑止力に必ずしも否定的というわけではない。宗派により、その立場は多様である。
Christian just-war thinkers generally were and remain less comfortable than secular thinkers with nuclear deterrence. Since deterrence relies on a nation's implied threat to use the weapons if it is attacked, deterrence relies on the implied threat to kill the innocent. A further worry is that should any mistake occur on either side, such as an accidental launching, the nuclear powers would slide down a path that leads to killing of innocent people. Still, Christians, both laity and church leaders, have advocated stances across a spectrum: pacifists such as the Mennonites advocate unilateral nuclear disarmament; the U.S. Methodist bishops have condemned nuclear deterrence; the U.S. Catholic bishops have argued for temporary deterrence as a step toward disarmament; many American Christians think that the American nuclear deterrent is ethically necessary in a dangerous world; and many evangelical and Pentecostal Christians believe that nuclear weapons are foreordained God's plan for the end of the world. It is fair to say that the extensive traditions of ethical reasoning in Christianity weigh against nuclear deterrence on anything but a provisional basis, while popular Christianity -- especially in the United States and especially among evangelicals and Pentecostals with a dispensationalist understanding of the end time -- accepts or even encourages the holding of nuclear arms.

キリスト教徒の正戦思想家は、核抑止力について、世俗思想家よりも、一般に楽天的ではなかったし、今も楽天的ではない。抑止力は攻撃されれば核兵器を使用するという国家の暗黙の脅威に基づいているので、抑止力は無実の人々を殺すという暗黙の脅威に依存している。さらに、偶発的な誤射など、どちらか一方の誤りによって、核兵器が無実の人々を殺戮するという事態につながるという懸念がある。それでも、信徒も指導者もキリスト教徒は多様な立場を主張している。

メノナイトのような平和主義者は一方的な核軍縮を提唱している。メソジストの聖職者たちは核抑止力を非難する。米国カトリックの聖職者たちは、軍縮に向けた一歩として、一時的な核抑止力を論じている。米国の多くのキリスト教徒は、危険な世界では、米国の核抑止力は倫理的に必要だと考えている。多くの福音主義キリスト教徒やペンテコステ派キリスト教徒は、核兵器が世界の終りについての、予め定められた神の計画だと考えている。キリスト教の倫理的推論の広範な伝統では、暫定的であっても核抑止力には否定的である。しかし、多くのキリスト教徒たち、特に、世界の終りについて、天啓史観論の理解をとる、米国のキリスト教徒たち及び、福音主義キリスト教徒やペンテコステ派キリスト教徒たちは、核兵器保有を受け入れ、さらには積極的に核兵器保有を支持している。

[The Encyclopedia of Christianity: Volume 5: Si-Z - Page 722, 2008]
Steven G. Mackeによれば、キリスト教の立場は5つに分かれる:
"five christian responses to the nuclear deterrent"
核抑止力に対するキリスト教徒の5つの反応:

1. The nuclear deterrent can be justified in spite of the just war theory in defence of
(a) nation states and
(b) liberal and so-called 'Christian' values.

2. The nuclear deterrent is justifiable on the basis of the just war theory and the conditional use of nuclear weapons is not immoral, provided
(a) it is counter-force
(b) in self-defence and
(c) prevention of nuclear war is seen as the over-riding duty.

3. The nuclear deterrent is an unsound basis for peace but is provisionally permissible, if:
(a) there is no first use;
(b) no war-planning;
(c) no destabilising systems, and
(d) simultaneous progress towards disarmament.

4. The nuclear deterrent must be rejected as irreconcilable with just war theory, because:
(a) a conditional intention to act immorally is itself immoral;
(b) nuclear weapons are essentially indiscriminate and potentially disproportionate;
(c) the risks of escalation and proliferation are too great; and
(d) even the (much exaggerated) Communist threat could not justify the use of such weapons.

5. The just war theory is outmoded and the nuclear deterrent must be rejected, either on the basis:
(a) that all wars are wrong and Christian values cannot be defended by force; or
(b) that the intention to use nuclear weapons corrupts society, and their use would be a blasphemy against God's creation.

1。核抑止力は、正戦論にもかかわらず、以下の擁護のために正当化できる:
 (a)国民国家
 (b)リベラルと、いわゆるキリスト教の価値観

2。核抑止力は正戦論に基づいて正当化でき、以下の使用条件であれば、核兵器使用は非倫理的はない: (a)対抗力
 (b)自己防衛
 (c)核戦争抑止は最優先の義務

3。核抑止力は平和のための正しくない基礎であるが、以下の場合に、暫定的に許容できる:
 (a)先制使用しない
 (b)核戦争を計画しない
 (C)システムを不安定にしない
 (d)核軍縮と同時進行。

4。核抑止力は、正戦論とは相いれないものとして拒絶しなければならない:
 (a)条件付きで非倫理的行動をするという意図そのものが非倫理的
 (b)核兵器は本質的に無差別であり、潜在的に不均衡である
 (c)戦争のエスカレーションおよび拡大のリスクがあまりにも大きい
 (d)はるかに誇張された)共産主義の脅威は、核兵器の使用を正当化することができない

5。正戦論は時代遅れであり、核抑止は以下の理由のいずれかにより、拒絶されなければならない:
 (a)すべての戦争は間違っており、キリスト教の価値観を力で守ることができない
 (b)核兵器使用の意図は社会を崩壊させ、核兵器使用は神の被造物に対する冒涜でる

(SD. Bailey "Christian Perspectives of Nuclear Weapon" 1981; Robin Gill "The cross against bomb" 1984; Richard Harries "Christianity and the War in Nuclear Age" 1986; 133-44; Howard Davis "Ethics and Defence" 1986; 22-59, 241-56;PJO, O'Mahony "Swords and Plougshares" 1986)

[Steven G. Macke: "Christianity, War and Peace"
in ed Philip Esler: Christianity for the Twenty-First Century"
]
この立場が多様であるということが、核抑止の倫理教育に聖書を持ち出していない理由かもしれない。



posted by Kumicit at 2013/01/02 06:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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