祈りの効果がないことは、神の不在を証明しない
「論文に記載された方法で祈ると、確実に病状を緩和してくれる」ような「神」の存在はおおよそ否定されるかもしれない。それ以外の「神」の存否について、Intercessory Prayer実験は何も語れない。たとえば、次のような神々については言及できない:
- 祈りは確実に聞くが、祈り方が違う神
- 実験対象にされた場合は、祈りを聞かない神
- そもそも、祈られても相手にしない神
- 病状の変更は祈りの対象外な神
- 他の諸条件との整合性を考慮する神
- その日の気分で聞いたり、聞かなかったりする神
- 人間の死亡原因と死亡時刻を予め決定している神
キリスト教の神は「実験対象にされた場合は、祈りを聞かない神」に該当するみたいなので、存在は否定されない:
And he brought him to Jerusalem, and set him on a pinnacle of the temple, and said unto him, If thou be the Son of God, cast thyself down from hence: For it is written, He shall give his angels charge over thee, to keep thee: And in their hands they shall bear thee up, lest at any time thou dash thy foot against a stone. And Jesus answering said unto him, It is said, Thou shalt not tempt the Lord thy God. [KJV: Luke 4:9〜12]
そこで、悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて言った。「神の子なら、ここから飛び降りたらどうだ。 というのは、こう書いてあるからだ。『神はあなたのために天使たちに命じて、/あなたをしっかり守らせる。』 また、/『あなたの足が石に打ち当たることのないように、/天使たちは手であなたを支える。』」イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』と言われている」とお答えになった。[日本聖書協会新共同訳 ルカによる福音書4章9〜12節]
The Pharisees also with the Sadducees came, and tempting desired him that he would shew them a sign from heaven. He answered and said unto them, When it is evening, ye say, It will be fair weather: for the sky is red. And in the morning, It will be foul weather to day: for the sky is red and lowring. O ye hypocrites, ye can discern the face of the sky; but can ye not discern the signs of the times? A wicked and adulterous generation seeketh after a sign; and there shall no sign be given unto it, but the sign of the prophet Jonas. And he left them, and departed. [KJV: Matthew 16:1-4]
ファリサイ派とサドカイ派の人々が来て、イエスを試そうとして、天からのしるしを見せてほしいと願った。イエスはお答えになった。「あなたたちは、夕方には『夕焼けだから、晴れだ』と言い、朝には『朝焼けで雲が低いから、今日は嵐だ』と言う。このように空模様を見分けることは知っているのに、時代のしるしは見ることができないのか。よこしまで神に背いた時代の者たちはしるしを欲しがるが、ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。」そして、イエスは彼らを後に残して立ち去られた。[日本聖書協会新共同訳 マタイによる福音書16章1-4節]
祈りの効果があっても神の存在を証明しない
祈りの効果がなくても、「論文に記載された方法で祈ると、確実に病状を緩和してくれる」以外の神様の存在は科学的には否定されない。では、祈りの効果があったら、神の存在を科学的に証明することにはなるだろうか。
もちろん、そんなことはない。せいぜいがとこ「論文に記載された方法で祈ると、確実に病状を緩和してくれる」ような「何かがある」ということが示されるだけ。これまでの"Intercessory Prayer"研究では、神様を含む、いかなるメカニズムも想定していない。だから、何も論文の著者たちは、たとえ祈りの効果があるという結果を得ても、「効果がある」以上のことは結論に書けない。実際、Byrd[1988]もHarris et al[1999]も何も記載がない。
「神様に祈ったのだから、効果があれば、神様の存在証明になる」という主張は成り立たない。というのは、「神様に祈った」という原因によって、「神様が介入する」という結果をもたらすとは示されていないからだ。それどころか、治療効果をもたらしたものが、神様であるかどうかも検証できていない。言えるのは、現在の科学の版図内で説明できないことが起きたというだけしかわからないというだけ。
そこで、「科学で説明できない」だけを根拠とするなら、神様以外にも治療効果をもたらすと主張できるものは幾らでもある。たとえば、Dr. Sheldrakeの"Morphic Field"を持ち出している:
If fields are the medium of mind then what you have in the brain is an interface between one kind of field and another kind of field. All organization in the body has morphic fields underlying it. Morphic fields in the brain interact with electromagnetic (EM) fields in the brain. However, the nature of this interaction is indirect. Rather than morphic fields working directly through the electromagnetic field, they interact through both affecting the same thing-in this case, physical activity within the brain.何でも説明できる万能理論たる"Morphic Field"と、何でもできる超越的な神のどっちの効果なのかを科学的に識別することは、まず無理だろう。
場が精神の媒体なら、脳にあるのは、1つの場ともう一つの場の接点である。体のすべての組織には、それらの基礎をなす"Morphic field"がある。脳の"Morphic field"は、脳で電磁場と相互作用する。しかし、この相互作用の声質は間接的である。"Morphic field"は直接に電磁場に働きかけるのではなく、両方が影響を及ぼす一つのものを介して相互作用する。それは脳の物理的活動である。
[Rupert Sheldrake: "Prayer: A Challenge for Science" Noetic Sciences Review, (Summer 1994 ), 30 4-9]
他にも、ほとんど超自然なクラウのリナクスも、祈りの効果の説明候補になれる。
従って、たとえ神の名前を挙げて祈って、治療効果があると確認されても、なお、神様の存在を証明できない。
祈りの効果を神の証拠という"古い地球の創造論"者Rich Deem
"古い地球の創造論"サイトGod and Scienceは主宰者Rich Deemによる記事「Evidence for Answered Prayer and the Existence of God」において、"Intercessory Prayer"の効果があったことを神の証拠と主張する:
Obviously, science has demonstrated in three separate studies[Byrd 1988; Harris et al. 1999, Leibovici 2001] the efficacy of Christian prayer in medical studies. There is no "scientific" (non-spiritual) explanation for the cause of the medical effects demonstrated in these studies. The only logical, but not testable, explanation is that God exists and answers the prayers of Christians. No other religion has succeeded in scientifically demonstrating that prayer to their God has any efficacy in healing. In fact, studies that have used intercessors from multiple religious backgrounds have failed to prove the efficacy of prayer.[Krucoff et al. 2005] The Bible declares that Jesus Christ has power over life and death and sickness and is able to heal us, both physically and spiritually. He gave this power to His disciples and those who follow Him.
3つの独立した医療研究において、キリスト教の祈りの効果の有効性を科学的、明らかに示している。これらの研究において、科学的(非精神的)な因果関係の説明はない。唯一つの論理的な説明は、検証不可能であるが、神が存在してキリスト教の祈りに応えたというものだ。他のいかなる宗教も、神への祈りが治療効果を持つことを証明していない。事実、複数の宗教を背景とする"Intercessors"を使った研究では、祈りの効果は見出せていない。聖書によれば、イエスキリストは生と死と病に対する力を持ち、我々を肉体的にも精神的にも癒すことができる。イエスキリストはその力を弟子たちに与えた。
Byrd, R.C. 1988. Positive Therapeutic Effects of Intercessory Prayer in a Coronary Care Unit Population. Southern Medical Journal 81: 826-829.
Harris, W.S., et al. 1999. A Randomized, Controlled Trial of the Effects of Remote, Intercessory Prayer on Outcomes in Patients Admitted to the Coronary Care Unit. Arch Intern Med. 159:2273-2278.
Krucoff, M. W., et al. 2005. Music, imagery, touch, and prayer as adjuncts to interventional cardiac care: the Monitoring and Actualisation of Noetic Trainings (MANTRA) II randomised study. Lancet 366:211-217.
Leibovici, L. 2001. Effects of remote, retroactive intercessory prayer on outcomes in patients with bloodstream infection: randomised controlled trial. British Medical Journal, 323, 1450-1451.
Rich Deemが挙げたByrd[1988]は二重盲検が破れており、Harris et al[1999]もほとんど効果を見出せていない。
==>"Intercessory Prayer"動向(1/7) はじまり、そして二重盲検
数多くの"Intercessory Prayer"研究があるが、ほとんどで祈りの効果は確認されていない。
==>"Intercessory Prayer"動向(2/7) 効果は見出せない by Matthews et al
これらの研究をまとめて分析しても、祈りの効果は確認されない。
==>"Intercessory Prayer"動向(4/7) Mastersたちによるまとめ
そして、残るLeibovici[2001]は、ほとんど冗談なもの。あるいはクリスマス記念記事。
==>"Intercessory Prayer"動向(5/7) あっち側な"時間遡行研究"
なお、祈りの効果がないという結果を得たBenson et al.[2006]について:
Ultimately, the results showed that groups 1 (prayer) and 2 (no prayer) were identical, whereas group 3 (those who knew they were being prayed for) did worse than the other two groups. The lack of efficacy of intercessory prayer in this study could be due to theological problems with the study design.と言い訳をしている。そもそも、祈りの効果を確認できなかった研究結果は多くあるので、これだけに言い訳したところで、意味はない。報道で話題になったので触れただけだろう。
最終的に、結果はグループ1(祈り)と2(祈りなし)が同じで、グループ3(祈られると知っている)はその他の2つのグループより症状が悪かった。この研究で"Intercessory Prayer"に効果が見られなかったのは、研究デザインに関する神学上の問題によるものかもしれない。
Benson H, et al. 2006. Study of the Therapeutic Effects of Intercessory Prayer (STEP) in cardiac bypass patients: a multicenter randomized trial of uncertainty and certainty of receiving intercessory prayer. Am. Heart J. 151:934-942.
==>祈りの効果についての報道
もし、Intercessory Prayer研究がByrd[1988]とHarris[1999]とLeibovici[2001]とKrucoff[2005]しかなく、Rich Deemの主張どおりに前3つが成功で、Krucoffだけ失敗なら、神の存在を証明するだろうか?
もちろん、科学的には証明しない。Rich Deem自身も書いている通り、神の存在を科学的に検証不可能だ。確認できることは、「キリスト教スタイルで祈ると効果がある」ということだけ。それが、いかなるメカニズムによって起きるのか、あるいは超自然の介入かについては、わからない。科学の取り扱い対象外である超自然だと特定することは、"科学的"には不可能。もちろん、数ある超自然ネタのどれであるか特定できるわけもない。
なお、Dr. Hugh Rossの"古い地球の創造論"サイトReason to Believeも、Ken Hamの"若い地球の創造論"サイトAnswers in Genesisも、はたまたインテリジェントデザイン運動も、神あるいはデザイナーの存在する証拠として、"Intercessory Prayer"を挙げていない。
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