[Matthias Breidert, Karl Hofbauer:"REVIEW ARTICLE - Placebo: Misunderstandings and Prejudices", Dtsch Arztebl Int 2009; 106(46): 751–5 DOI: 10.3238/arztebl.2009.0751]このうち、条件反射なプラセボを駆動しうるものには、視覚や言葉など様々なものがある。
SUMMARY
Background: The role of placebos is often misunderstood, leading both to overvaluation and to inappropriate disdain. The effect of a placebo that contains no pharmacologically active substance is often confused with the effect of administration by a physician. The aim of this article is to review the current data on placebos, evaluate these data critically, and provide a well-founded and understandable explanation of the effects that placebos do and do not possess.
Methods: Selective literature review.
Results: Recent studies employing modern imaging techniques have provided objective correlates of the effect of placebo administration for certain indications. A recent paper even suggested a genetic basis for it. Two main mechanisms underlie the effect of placebo administration: conditioned reflexes, which are subconscious, and the patient’s expectations, which are conscious. Further factors include the physician’s personality and the setting in which the treatment takes place.
Conclusions: The mechanisms of action of placebo administration, with which positive therapeutic effects can be achieved with little effort, should be consciously exploited by physicians when giving their patients pharmacologically active medications as well.
背景: プラセボの役割は誤解されることが多く、そのことが過大評価あるいは過小評価につながっている。薬効成分のないプラセボは、治療者による投与の効果と混同されてきた。本論の目的は、プラセボについての既存データをレビューし、批判的に評価し、プラセボができる効果とできない効果について、基礎を明らかにした、理解可能な説明をつけることにある。
方法: 選択的文献レビュー
結果: 最近のイメージング技術を使った研究は、プラセボ投与と特定症状の間の客観的相関を提示している。最近の論文一本が、これについての遺伝的基礎を示唆している。プラセボ投与の効果には二つの主要なメカニズムがある。すなわち、無意識な条件反射と、意識的な期待である。さらに、治療者のパーソナリティーと治療が行われる場所のセッティングが影響する。
[Fabrizio Benedetti, Elisa Carlino and Antonella Pollo:"How Placebos Change the Patient’s Brain ", Neuropsychopharmacology Reviews (2011) 36, 339–354; doi:10.1038/npp.2010.81; published online 30 June 2010]そして、これらはノセボについて、同様なようである。
Placebos are not inert substances, as thus far believed. They are made of words and rituals, symbols, and meanings, and all these elements are active in shaping the patient’s brain.
これまで信じられていたのとちがって、プラセボは、不活性な物質ではない。プラセボは、言葉や儀式やシンボルや意味で作られ、これらすべての要素は、患者の脳内で形成されて効果を持っている。
...
Important clinical implications emerge from these recent advances in placebo research. First, as the placebo effect is basically a psychosocial context effect, these data indicate that different social stimuli, such as words and rituals of the therapeutic act, may change the chemistry and circuitry of the patient’s brain. Second, the mechanisms that are activated by placebos are the same as those activated by drugs, which suggests a cognitive/affective interference with drug action. Third, if prefrontal functioning is impaired, placebo responses are reduced or totally lacking, as occurs in dementia of the Alzheimer’s type.
これら最近のプラセボ研究の進展から、重要な臨床上の意味が出ている。第1に、プラセボ効果は基本的に社会心理学的コンテキスト効果であり、これらのデータは、治療行為における言葉や儀式のような、異なる社会的刺激が、脳の化学と回路を変化させている可能性があることを示している。第2に、プラセボによって活性化されるメカニズムと、薬剤によって活性化されるメカニズムは同じであり、これは薬剤との認知的・感情的干渉を示唆している。第3に、アルツハイマー型認知症などで、前頭葉機能が損なわれると、プラセボ応答が減少または完全に失われる。
- 実体化したノセボは容易に消せるものなのだろうか?
プラセボ及びノセボについて注意すべきは、「気分」ではなく、生理的影響という実体を持っている。このことは、ノセボによって生じている病気があるとすれば、それは実体として症状がある。そして、それはノセボが条件反射として形成されている可能性があり、もしそうなら、その条件付けを解除しない限り、症状は消えない。さらに無意識的に学習・発動しているノセボであるなら、その条件付けを解除することは、とても困難だと思われる。
したがって、「気のせい」は実のところ、治療がとても困難な、すごく深刻な事態を引き起こしている場合がありうる。しかも、そのような病気では、患者は医師たちをネガティブな経験とともに見るようになり、Irene Tracey教授の研究にもあるように、医師からの治療効果は得られそうになくなっている。 - メモ「意識的な認識によらないプラセボ・ノセボの可能性」
PiPSの責任者で、研究の共著者であるTed Kaptchukは「これは患者が思ったことが起きたものではない。意識的思考に関わらず、無意識の心がもたらしたものだ。このメカニズムは自動的で、高速で、力強いものであり、熟慮や判断に依存しない。これらの発見は、プラセボの理解と医療の儀式行為について、まったく新たな扉を開いた。」と述べた。 - ノセボ...
ノセボであろうとも、痛みは本物である。まれには死をもたらすことすらあるかもしれない。そんな強力なノセボは、訴訟回避のためのインフォームドコンセントで、患者に副作用を発生させているかもしれない。さらに現在は、メディアの報道によってノセボを量産することさえある。「騒ぎすぎと言われようと安全側に判断を倒して報道する」ということが、別な実害を創りだしてしまうという困った事態である。そして、発症しても自分ではノセボか否かを識別できそうにない。まさしく、21世紀最大の病気なのかも。
- 化学療法の条件付けのノセボの威力には驚く他ない
条件付け: 過去に患者にネガティブな経験や副作用の発生があると、その治療に関係する光景や音や他の契機で、同じ反応が起きるかもしれない。たとえば、患者の最大3人に1人は、化学療法を直近に受けた部屋に入ると吐き気をもようし、場合によっては嘔吐する。
二重盲検プラセボ対照群実験で、生理機能が症状と相関が見出されなかったMCSも、このようなノセボの可能性がある。
[Bornschein S, Hausteiner C, Römmelt H, Nowak D, Förstl H, Zilker T.:"Double-blind placebo-controlled provocation study in patients with subjective Multiple Chemical Sensitivity (MCS) and matched control subjects.", Clin Toxicol (Phila). 2008 Jun;46(5):443-9. doi: 10.1080/15563650701742438.]このような二重盲検は、1993年にも行われており、そのときも、MCSと化学物質の関連性は見出されなかった。
Abstract
INTRODUCTION:
Multiple Chemical Sensitivity (MCS) is an acquired disorder with recurrent symptoms referable to multiple organ systems. No widely accepted test of physiologic function correlates with symptoms and it has not been recognized as a distinct entity by the scientific community. Few double-blind placebo-controlled studies have been done. The objectives of this study were to test two hypotheses: that patients with MCS can distinguish reliably between solvents and placebo, and that there are significant differences in objective biological and neuropsychological parameters between solvent and placebo exposures
METHODS:
Twenty patients with MCS and 17 controls underwent six exposure sessions (solvent mixture and clean air in random order, double-blind) in a challenge chamber. Positive reactions were defined as subjective perception of being exposed to solvents, blood pressure or heart rate change of > or = 10%, rash or clinical signs of hypoxia, or symptom severity rise after exposure.
RESULTS:
No differences between the groups with regard to sensitivity, specificity, and accuracy were found. Cognitive performance was not influenced by solvent exposure, and did not differ between the groups. There was no difference between the groups in serum cortisol levels measured before and after exposures.
CONCLUSION:
The hypotheses were not confirmed.
MCSは、複数の器官系に及ぶ後天的疾病である。生理機能が症状と相関することを示す、認められた実験はなく、科学界に受け入れられた実体もない。二重盲検プラセボ対照群実験はほとんど為されていない。この研究の目的は2つの仮説の検証である。MCS患者は溶媒とプラセボを区別できるか? 溶媒曝露とプラセボで、客観的な生物学的及び神経心理学的パラメータに有意差が見られるか?
方法: 20名のMCS患者と17名の対照群が6回の曝露セッションを部屋を変えて、(溶媒曝露とクリーンエアをランダムに二重盲検で)行った。ポジティブな反応を、溶媒曝露したという主観認識と、血圧もしくは心拍数の10%以上の増加、酸素欠乏症の臨床的兆候もしくは溶媒曝露後の症状悪化と定義した。
結果: 集団間に感度、特異度、精度の差異は見られなかった。認識パフォーマンスは溶媒曝露には影響されなかった。曝露前後の血漿コルチゾールについて、集団間に違いは見られなかった。
結論: 仮説は証明されなかった。
[Staudenmayer H, Selner JC, Buhr MP.: "Double-blind provocation chamber challenges in 20 patients presenting with 'multiple chemical sensitivity'", Regul Toxicol Pharmacol. 1993 Aug;18(1):44-53.]むしろ、MCSが条件反射であることを示唆する結果も最近、出ている。
Abstract
A clinical algorithm was used to discriminate verifiable chemical sensitivity from psychological disorders in patients referred for evaluation of polysomatic symptoms attributed to hypersensitivity to workplace and domestic chemicals. These patients believed that they were reactive or hypersensitive to low-level exposure to multiple chemicals. Some had previously been evaluated and managed by the tenets of "clinical ecology" and diagnosed as having "multiple chemical sensitivity." Double-blind provocation challenges with an olfactory masker were performed in an environmental chamber on each of 20 patients. A variety of chemicals was employed, one or more per subject, dependent on individual clinical history. Clean air challenges with the olfactory masker were used as placebo or sham controls. As a group, probability analyses of patient symptom reports from 145 chemical and clean air challenges failed to show sensitivity (33.3%), specificity (64.7%), or efficiency (52.4%). Individually, none of these patients demonstrated a reliable response pattern across a series of challenges. Implications for future research in assessment methodology incorporating neurophysiologic and neurobehavioral measures are discussed.
臨床アルゴリズムを使って、職場や住居の化学物質への過敏性に関する症状の評価について、検証可能な化学物質過敏と心身症を識別を行った。これらの患者は、多種化学物質への低レベル曝露に対する反応あるいは過敏であると信じていた。彼らの一部は、以前に「臨床生態学」学派に評価・管理され、MCSと診断されていた。20人の患者に対して、環境室内で、臭覚マスカーによる二重盲検を実施した。臨床履歴に依存して、多様な化学物質を使用し、それぞれ一人以上の患者に対して実験した。クリーンエアをプラセボあるいはシャム対照群として使用した。
145の化学物質とクリーンエアによるチャレンジについての患者の症状報告の確率分析から、集団として、感度(33.3%)と特異度(64.7%)と有効度(52.4%)を示せなかった。個人単位にも、一連のチャレンジに信頼できる応答パターンを示した者はいなかった。神経生理学的および神経行動措置を組み込んだ評価手法における今後の研究への意味を論じた。
メモ「MCS PET」の繰り返しになるが、MCS患者は健常者比べて、臭いに対して反応しておらず、より危険回避行動をとっていることを示唆する研究が、最近、PLoS One.に掲載されていた。
[Hillert L, Jovanovic H, Åhs F, Savic I.:"Women with multiple chemical sensitivity have increased harm avoidance and reduced 5-HT(1A) receptor binding potential in the anterior cingulate and amygdala., PLoS One. 2013;8(1):e54781. doi: 10.1371/journal.pone.0054781. Epub 2013 Jan 22.]これは、MCSが二重盲検で化学物質に反応していないことが示されている[ie Bornschein et al 2008]ことと整合している。
Abstract
MCSとは、悪臭に曝された時の身体的苦痛に特徴づけられる一般症状である。他の本態性環境非寛容症(IEI)と同様に、根本的メカニズムはわかっていない。予想に反して、MCSの人は対照群に比べて、悪臭を処理する脳領域を活性化させておらず、前帯状皮質をより活性化させていることが、最近わかった。このフォローアップ研究は、MCS患者はセロトニン系の危険回避と偏差を増大させていて、これが患者を環境悪臭に非寛容にしているという仮説を検証するようにデザインされている。
12人のMCS患者と11人の対照群は、勤労者もしくは学生である22-44歳の女性で、(11)C]WAY100635ボーラス注射後に、5-HT(1A)受容体結合ポテンシャルを評価するPET研究に参加した。心理プロファイルは、TCI(気質性格検査))と、Swedish universities Scales of Personalityにより評価された。MCS全員と12人の対照群が、音響驚愕テストで感情的驚愕調整を評価された。MCS患者は対照群に対して、有意に、危険回避と不安感を増大させた。彼らは、扁桃体(p = 0.029)と前帯状皮質(p = 0.005) と島皮質(p = 0.003)の5-HT(1A)受容体結合ポテンシャルが小さく、不安感と扁桃体の結合ポテンシャルに負の相関が見られた。驚愕テストでの感情カテゴリの違いはみられなかった。
危険回避の増大と、観察された危険回避を処理する脳領域の5-HT(1A)受容体結合ポテンシャルの変化は、MCSで見られる症状についての尤もらしい病理生態的基礎を与え、本態性環境非寛容症(IEI)の理解についての価値ある情報を与える。
メモ「MCSにも共通するかもしれないこと」に繰り返しになるが、もし、MCSが条件反射であるなら、QuackwatchのStephen Barrett, M.Dが指摘するように、事態は深刻である。
MCSと診断された多くの人々は非常に苦しんでおり、その治療は非常に困難である。しっかりデザインされた調査は、MCSと診断された人々の多くが心身症であり、ストレスに応じて多くの症状を生み出していることを示唆している。これが正しければ、そして私は正しいと考えているが、臨床環境医療患者たちは、誤診、誤治療、金銭収奪、適切な医療や精神療法の遅延などのリスクを抱えて行くことになる。さらには、疑わしい障害や被害についての主張によって、保険会社と雇用者と納税者、最終的には市民全員が負担させられることになる。公衆を守るために、政府許認可委員会は、臨床環境医療者たちの活動を精査し、診断の全体品質が医療行為としてあり続けるに十分であるか判断を下すべきである。
[Stephen Barrett, M.D.:"Multiple Chemical Sensitivity: A Spurious Diagnosis" (2011/03/18) on Quackwatch]