2013/08/18

MCS患者が心因性であるか識別する必要性

これまでも、MCSが心因性であることを示唆する研究は、それなりに積もってきている。同様のことを示唆する、「臭気のある、実際には無害な化学物質が、有害だという情報を与えられると、その物質に曝露されたときに不快に感じ、ワーキングメモリーと注意力に負担のかかる作業の効率が低下する」という研究が、最近発表されている。
[Steven Nordin, Anna-Sara Claeson, Maria Andersson, Louise Sommar, Jakob Andrée, Klas Lundqvist, Linus Andersson: "Impact of Health-Risk Perception on Odor Perception and Cognitive Performance", Chemosensory Perception, July 2013]

Abstract
Indications of adverse effects of nontoxic malodorous chemical exposure on work performance and safety and the role of health-risk perception on odor perception motivated the present study of the impact of health-risk perception on odor perception and cognitive performance. Healthy young adults were informed that they were to be exposed to an odorous substance that is either potentially health-enhancing (positive information bias, n = 24) or hazardous (negative information bias, n = 25). The two groups, screened for loss in odor-detection sensitivity, were matched for age, sex, chemical intolerance, and negative affectivity. During each of 14 trials of exposure to 433 mg/m3 of n-butanol, the participants rated the intensity and valence of odor perception and performed a cognitive task that taxed working memory and attention. The results showed that the negative-bias group rated the odor perception as more unpleasant than did the positive-bias group during the entire session, but significantly more unpleasant only during the first half of the session. The negative-bias group was also found to perform significantly poorer on the cognitive task during both halves of the session. No effect of information bias was found on perceived odor intensity. The results provide experimental support for the hypotheses that belief that exposure to an odorous chemical is hazardous contributes to the odor perception being more unpleasant and to poorer cognitive performance.

無毒悪臭化学物質への曝露が有害な作用を持つと指摘されることの作業効率及び安全性への影響や、健康リスク認知の臭気知覚への影響が、健康リスク認知の臭気知覚及び認知能力への影響という本研究の動機である。

健康な若年成人は、潜在的に健康増進効果のある臭気物質(ポジティブ情報バイアス、N =24)または潜在的に危険な臭気物質(ネガティブ情報バイアス、N =25)に曝露されると知らされた。この2集団は、嗅覚障害をスクリーニングし、年齢と性別と化学的耐性と負の情動についてマッチさせてある。433 mg/m3のn-ブタノールに曝露される14回の試験で、各試験ごとに、被験者は臭気の強さと誘発性をレイティングし、ワーキングメモリーと注意力に負担のかかる認知タスクを実行した。
 
結果は、ネガティブ情報バイアス群は、ポジティブ情報バイアス群よりも、全試験において、臭気をより不快だとレイティングしたが、有意差があるのは前半の試験だけだった。ネガティブ情報バイアス群は前半後半ともに、認知タスクの成績が低かった。与えられた情報による、臭気認知の強さに有意差はなかった。この結果は、悪臭化学物質への曝露が有害な作用を持つという信条が、臭気を不快と感じさせ、認知タスクの成績を下げるという仮説を支持している。
このような研究はDalto [1996]も行っており、同様の結果が得られている。

また、既に心理的問題をかかえている人々が、IEI/MCSになりやすいのかについて調べた研究では、「主観的には健康問題を感じていて、ストレスや緊張感があり、労働状況に不満なこと」は、IEI/MCSに先行しているようである。

とするなら、少なくとも、MCS患者の症状の原因が心因性であるか否か、個別に識別する必要がある。そのような識別を試みた症例報告がある。
[Zucco GM, Militello C, Doty RL.: "Discriminating between organic and psychological determinants of multiple chemical sensitivity: a case study.", Neurocase. 2008;14(6):485-93. doi: 10.1080/13554790802498948.]

Abstract
Multiple chemical sensitivity (MCS) is a controversial disorder characterized by a diverse set of debilitating symptoms purportedly induced by environmental chemicals. Many cases of putative MCS are believed to have a strong psychogenic component, making it difficult to differentiate between organic and psychogenic causes. In this case report we describe a procedure that can aid in this differentiation. A patient who met a strict set of criteria for MCS was tested on two test occasions. On the first, the patient was found to have no olfactory dysfunction, as determined from standardized olfactory tests. On the second, odorants, as well as a blank stimulus, were presented to the patient with instructions as to whether they were harmful or harmless. The patient's task was to estimate the intensity of each odorant and report any induced MCS-related symptoms. Potentially harmful odorants presented as harmless were judged significantly less intense, and triggered fewer symptoms, than harmless odorants presented as harmful. When an odorless stimulus was presented as harmful, the patient provided higher intensity evaluations and exhibited more symptoms than when it was presented as harmless. These phenomena were not present in three non-MCS controls. This straight-forward procedure allowed us to determine that the MCS symptoms of this patient were largely psychological and may be of general value for identifying psychogenic cases of MCS.


多種化学物質過敏症(MCS)は、環境化学物質によって誘発されると噂される、多様な衰弱症状によって特徴づけられるContoversialControversialな疾患である。MCS見なされる多く症例で、心因性の部分が強いと考えられており、それが器官原因および心因性を区別することを困難にしている。この症例報告では、この識別を手助けできる手法を説明する。

MCSと診断する厳格な規準を満たした患者に対して、2つの試験を実施した。最初に、患者は、標準化された嗅覚試験により、嗅覚障害を持たないことがわかった。次に、臭気物質と無臭刺激が、それらが有害か無害かについてに情報とともに、患者に提示された。患者の課題は、各臭気の強さを推定し、何らかのMCS関連症状があれば報告することである。

患者は、無害として提示された潜在的に有害な臭気物質について、有害として提示された無害な臭気物質よりも、臭いは弱いと評価し、誘発症状も少なかった。無臭刺激が有害として提示されたとき、無害として提示されたときよりも、患者は臭いは強いと感じ、症状も多く出た。これらの現象は、3人の非MCSの対照群には見られなかった。

このストレートフォワードな手法で、我々は、この患者のMCS症状が、主として心因性であることを判断可能にするとともに、その他の患者一般についても心因性MCSの症例識別する役立つと思われる。
この症例報告は一患者についてであり、他のMCS患者の症状も原因について何か言えるわけではない。しかし、少なくとも、現在の規準でMCSと診断される患者が、実際には心因性であると判断できる場合があるという実例である。

そのことは、現在の規準でMCSと診断される患者が、心因性であるか否か識別する必要性があることを示唆している。

ただし、心因性である場合も、その症状も、患者個人の負担も違ってくるわけではないだろう。
posted by Kumicit at 2013/08/18 06:09 | Comment(2) | TrackBack(0) | Quackery | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
翻訳の部分ですが、

> 多様な衰弱症状によって特徴づけられるContoversialな疾患である。

の箇所で、原文の "controversial (議論/論争のある)" という語が、訳文では5文字目の "r" が欠落しているため、意味が取りにくくなってます。

また、"straight-forward" もカタカナ語だと違和感があるので、「率直な」あるいは「簡潔な」などの訳をあてると読みやすいかもしれません。
Posted by nrt at 2013/08/19 07:31
どうもです。

straightforwardは、論文だと"proceeding in a straight course or manner : direct, undeviating"という意味合いなので、そのままストレートフォワードでいいようなきがしています。
Posted by Kumicit at 2013/08/20 06:29
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック