たとえば、HIV否定論を信じたChristine Maggioreは、HIVに感染していることがわかっていながら、母子感染リスクを下げるための抗レトルウィルス剤の使用を拒否し、感染のリスクのある母乳養育を行って、娘Eliza Janeに母子感染させた。そして、2005年春にEliza JaneはAIDS関連肺炎を3歳で亡くした。しかし、彼女はHIV否定論を取り下げることはなく、娘の死因はAIDSではないと主張し続けた。そして、自らも過去半年ほど肺炎を患い、2008年12月27日に死亡した。
==>HIV否定論者Christine Maggioreの訃報 (2008/12/31)
このエントリをKunicitは「それにしても、娘Eliza Janeの生命、そして自らの生命をも、HIV否定論の生贄に捧げたChristine Maggioreの執念は恐るべきものである」と結んでいる。何が、Christine Maggioreをそうさせるのか、まるで想像もつかなかったからだ。
それから半月後に、HIV否定論を信じかけた女性の記録(2007年末)を見出した。この"momma2girls82"という女性は、HIV検査を事前に受けなかったという自分の"過失"によって、既に娘にHIVを感染させてしまったか、あるいは感染防止のため母乳で育てられなくなるという状況にあった。
==>HIV否定論によろめく過程 (2009/01/11)
そのような状況下で、ネットを調べていた"momma2girls82"は、HIV否定論に遭遇していた。もし、HIV否定論が正しければ、娘にHIVを感染させていたとしても問題ではなく、母乳で育てることも問題ないことになる。なので、彼女は、その支持者のひとりChristine Maggioreのページを見て、メールでコンタクトしていた。
そして、HIV否定論のMSNコミュで、この女性と、HIV否定論者の対話が進む。しかし、対話の途中で、娘のHIV検査の結果が出て、陰性だったことから、この女性はHIV否定論者との対話をやめた。その後の様子を見る限り、最終的にHIV否定論を信じるところまでいかなかったようである。
この対話過程を見ると、HIV否定論によろめく理由を「愚かである」とするわけいはいかないことが見えてくる。
そして、今世紀の心理学の成果は次のように語る。「あらゆるデータに、人々は誤ったパターンを見出し、株式市場にトレンドを見出し、なじみの人間に陰謀を見出す。コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める。」と。
==>コントロールの回復と否定論
「HIV検査で陽性が出て、娘に感染しているかもしれない」という不確定な状況、対処方法がわからないという状況、すなわちコントロールの喪失状態にあって、人は「HIVはAIDSの原因ではなく、AIDSを発症させない方法はここにある」というHIV否定論によってコントロールの回復をはかろうとするのは自然なことなのだと。(たとえそれが虚構だとしても)HIV否定論支持者Christine Maggioreもまた、そのようにしてHIV否定論を信じたのかもしれない。