2013/09/11

メモ「1999年の米国職業環境医学会(ACOEM)のMCSについてのポジションステートメント」

米国の環境医学研究の学会であるAmerican College of Occupational and Environmental Medicine (ACOEM)は1999年に、多種化学物質過敏症(MCS)についてのポジションステートメントを出している。基本的には...

  • 環境汚染物質とMCSの関連は証明されていない
  • MCSに効果があると科学的実証された特異的治療法は存在しない
  • MCSの診断・原因・管理に関する科学的不確かさに関わらず、影響を受けた人々の幸福・生産性・ライフスタイルに対する、これらの症状のインパクトは劇的でありうる。
論争の状況によらず、MCSと合致した苦情を呈している患者への心のこもったケアを排除すべきではないとした上で、治療については:

  • 特異的な診断検査や治療法が有効だと示されていないが、他の非特異医学的症状の管理に有効な一般臨床アプローチは、さらなる科学的知見を留保して、採用してもよい
としている。
[Acoem Position Statement -- "Multiple Chemical Sensitivities: Idiopathic Environmental Intolerance", Journal of Occupational & Environmental Medicine, November 1999 - Volume 41 - Issue 11 - pp 940-942]
米国職業環境医学会ポジションステートメント「多種化学物質過敏症: 本態性環境不耐性症」



米国職業環境医学会(ACOEM)の以前のポジションステートメントの公表[1,2]以来、多種化学物質過敏症(MCS)の診断・治療・病因評価は、個人・意思・政府・団体にとって、面倒な医学及び社会的懸念であった。1952年に最初に記述されて[3]以降、この症候群は、環境病・総合アレルギー症候群・20世紀病・化学AIDSなど20以上の名前を生み出してきた[4]。これらの用語は、患者は低レベルの科学・生物・物理要因への曝露によって誘発される[5]と考えている、複数の器官系に及ぶ非特異症状の再発の苦情を指す。MCS患者を他の人々から識別する、一貫した身体的所見や検査値異常はない[6-13]。

慣例により科学界はMCSという用語を使っているが、これは「状態が免疫系への影響し、その必須条件が化学物質への曝露である」と誤って意味している。実際に、これらの患者たちに免疫不全は特定されておらず、苦情における環境の役割はコントロヴァーシャルである[6,14-19]。この疾患の進行と維持に寄与する可能性のある病理学的及び心理学的メカニズムは、決定的には解明されていない。ACOEMは多くの著名な医療機関とともに、独立した存在としてMCSを定義する証拠が存在していないという点で意見を一致させている[15,20,21]。原因及びこの病態の病理についての不確実性の故に、ACOEMは、本態性環境不耐性症(IEI)が、現状の知見を正しく反映したものだと考える[10,15]。しかし、進捗した理解により、ACOEMの以前のポジション・ステートメントは改訂される。

MCSの症例定義についてのコンセンサスには未だ到達していない[22]。提唱された全ての定義は、重要な基準が異なっている。明瞭な症例定義ができてきないことが、MCSの有病率・自然史・原因・診断・管理を明確化するデータを入手するために必要な、疫学及び臨床研究を阻害し続けている。

単一症例定義がないことに加えて、幾つかの方法論的問題により、公表されたMCS研究の解釈が限定的になっている[23]。これらの問題には、調査と自己申告症状への過度の依存・選択バイアス・盲検が実施されていないこと・実験室検定の品質保証の一貫性のなさなどがある。提唱された多くのアウトカム指標いついての検証が必要である。

公表研究に関するこれらの制約に留意し、ACOEMは、MCSについての何らかの暫定的結論を支持するデータが蓄積されていることを認識している。証拠は、MCSが免疫系によるもという考えを強く否定している[6,16-18]。研究は、MCSと慢性疲労症候群と繊維筋痛症と他の歴史的な非特異症状と重なりがあることを指摘している。調査データは、嗅覚関連症状が一般人に広く見られることを示唆している[25-27]。これらの研究からは、これらの症状に関連する障害の程度と有病率は明確ではない。MCS発症前あるいは同時に存在する精神疾患の有病率は、未だ非常にコントロヴァーシャルである[28]。研究は、MCS患者のすべてではないにしろ、多くが不安と抑鬱とともに、心理障害の症状が、健常者よりも多いことを示唆している[17,29-31]。最良デザインの研究の一つは、一部のMCS患者において、発症前の身体の苦情が健常者よりも多いことを示唆している[17]。証拠は、条件反射の病理的役割を支持している[32-34]。しかしながら、MCS研究は心理効果と生理効果の識別に、最終的に到達しないかもしれない[23,35]。確かに、現代医学は心身二元論をもはや支持していない[36]。

MCSに効果があると科学的実証された特異的治療法は存在しない[22,23]。これらの知見及び既存研究の制約を考えれば、ACOEMは診断と治療についての以下のステートメントを支持する:
  • MCSの診断・原因・管理に関する科学的不確かさに関わらず、影響を受けた人々の幸福・生産性・ライフスタイルに対する、これらの症状のインパクトは劇的でありうる。詐病や補償欲求を強調した仮説だけによって問題を扱うのは、何ら有効性も適切性もない。
  • MCSの特定理論や診断アプローチや治療法についての論争は、MCSと合致した苦情を呈している患者への心のこもったケアを排除すべきではない。
  • 特異的な診断検査や治療法が有効だと示されていないが、他の非特異医学的症状の管理に有効な一般臨床アプローチは、さらなる科学的知見を留保して、採用してもよい[37,38]。このアプローチは以下の点を強調する。(1)機能回復に向けた目標との治療同盟の確立 (2)提示された苦情と身体所見についての適切な医学的評価の実施 (3)患者の苦痛や症状を大きくする可能性がある「効果のない、コストのかかる、危険性のある、実証されていない」診断検査や治療法を避ける (4)診断可能な医学的及び心理的問題を治療する (5) 症状管理に役立つ、医学的及び行動対処政略の個人化 (6) MCSについて現状知見について患者を教育する。
  • MCSについての様々な意見を提示する、論争選好な社会運動によって、オープンな科学的議論、心のこもった治療、社会的利益の公正な裁判、合理的な政策立案が制約されてはならない。


病理的特性を説明し、よりよく記述し、臨床治療のアプローチを定義することを支援するために、MCSの現象についての科学的研究をACOEMは支持する。この研究は、科学探究の確立された原則に従うべきであり、結果は認められた査読学術誌に投稿されるべきである。

ACOEMは以下の研究課題を推奨する:

  • 研究資金の制約及び、慢性疲労症候群や繊維筋痛やMCSの類似性は、これらの課題の共同研究の必要性を指摘している。しかし、これらの症状が同じ現象だと言う仮定を置くべきではない。
  • いかなる医学症状の研究と同様に、「診断基準を確立し、誰を研究の被験者とするかを決定する」明確な症例定義についてのコンセンサスに到達しなければならない。症例定義のコンセンサスに至っていない場合は、研究者は、公表研究の確認をしようとする他の研究者たちによって再現可能なように、自分たちが用いた定義を十分に詳細に記述しなければならない。
  • 記述疫学調査は、誰が影響を受けていて、その人口統計学的特性、関連する危険因子及び、それらの症状のパターンを決定するために開始すべきである。
  • この症状を進行させることにつながる病理学的メカニズムを探求する必要がある。まずもっての関心は、低レベル化学物質曝露への器官の反応に対する中枢神経系の影響について、さらなる研究である。
  • おそらく最も重要なことは、研究は治療法の有効性と副作用にフォーカスしなければならないことである。多様な治療法によって治療された患者たち及び治療を受けなかった患者たちの、長期的な経過を研究しなければならない。


現在の利益構造・法制度・社会政策は、医学的症状が外因性か内因性か、症状が心因性か生理的かを明確に特定する医学の能力に強く依存している[23]。しかし、現代の研究技術と洗練された疫学は、思考・気分・社会的相互作用・心理学の強い関連を求める生物心理社会モデルを支持する[23,25,40]。科学的研究は、生理学的疾患と心理学的疾患の整然とした区別を結論できそうにない[41]。

ACOEMは、「依然として環境汚染物質とMCSの関連は証明されていない」という立場を支持し続ける。MCSの発症あるいは重症化を最小化するというゴールについて、環境の調査・規制・管理するための科学的基礎は現在のところ存在していない。一方、ACOEMは「人間を病気や不快症状にする屋内空気品質問題が存在しうる」ことを認識している[42]。ACOEMは、公衆衛生に害となるリスクを最小限に抑えるために、室内空気と環境の国家レベルの規制を行う規制当局の努力を強く支持する。

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posted by Kumicit at 2013/09/11 23:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | Quackery | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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