宇宙が完全に機械仕掛けの時計であるとしても、すなわち、自然法則で記述しつくせたとしても、それは神の不在を意味しない。そのような"完全"な機械仕掛けを設計(design)した知性(intelligent agent)の存在は否定されないからである。実際、いささか、あいまいではあるが、宇宙版インテリジェントデザインは、微調整された機械仕掛けの宇宙の設計者として知性(intelligent agent)の存在を主張している。
完全な機械仕掛けの宇宙には、神が直接介入する必要性がない。しかし、そのような神は、「宇宙を創造したら、いなくなった」理神論の神に限りなく近くなる。理神論の神はキリスト教の神ではないので、これは護教的な立場からは容認できない。
しかし、一方で、Gottfried Leibniz [ 1646-1716]が強く主張したように、神の介入が必要な宇宙とは二流の時計仕掛けであり、神の介入はその修理行為である。創り損ねた宇宙を修理し続けるようでは、宇宙の設計者としての力量を問われることになりかねない。
設計者としての力量と直接介入を並び立たせようとした人々の中で、冠絶した人物がIsaac Newton[1643-1727]だった。万有引力の法則によって太陽系を機械仕掛けとして記述した。しかし、Newtonは神の介入を信じ、惑星軌道の安定性にそれを求めた。
"...the motions which the planets now have could not spring from any natural cause alone, but were impressed by an intelligent agent ... To make such a system with all its motions, required a cause which understood and compared together the quantities of matter in the several bodies of the sun and the planets, and the gravitating powers resulting from thence; the several distances of the primary planets from the sun, and of the secondary ones from Saturn, Jupiter and the earth, and the velocities with which those planets could revolve about those quantities of matter in the central bodies; and to compare and adjust all these things together in so great a variety of bodies, argues that cause to be not blind and fortuitous, but very well skilled in mechanics and geometry."しかし、Newtonの死から半世紀ほど後に、惑星軌道の安定性に神の介入が必要ないことが、Joseph Louis Lagrange[1736-1813]たちによって示された。
惑星の運動は今や、自然因のみで動くのではなく、インテリジェントエージェントの影響を受ける。すべての天体の運動を含むシステムを創るには、太陽や惑星など多くの天体の質量や、これによって生じる重力とともに、理解し比較する必要がある原因を必要とする。太陽からの主要惑星の距離、土星や木星や地球の衛星の距離や、中心質量のまわりを巡る速度。これらをすべての多様な天体をまとめて比較し調整するためには、盲目や偶然ではなく、機械と幾何に熟達していることを論じる」
[Letter from Isaac Newton to Dr. Richard Bentley]
神の力量を過小評価すること
Sir Isaac Newtonは生前に神の介入の証拠たる「惑星軌道の安定性」を見出し、それが誤りだと示されたのが死から半世紀後。死ぬまで神の証拠を握っていたと信じられたであろうNewtonは幸いであるというべきだろうか。
ただ、結果として、Newtonは「惑星軌道の安定性を実現できない自然法則と初期値しか創れない神」という、神の力量を貶めるような主張をしたのことになる。Newtonの信じた神が、神の力量を貶めた者をどう評価するのかはわからないが、少なくとも、一時的真理たる科学に依拠して、神を語ることの愚かさの実例となったことは明らか。
それでもなお、一時的真理たる科学に隙間を見出して、神の介入を主張する者があとを絶たない[Mark Isaak: Index to Creationist Claims" on TalkOrigins.Org]。
- 細菌の鞭毛 [Behe, Michael J. 1996. Darwin's Black Box, New York: The Free Press, pp. 59-73.]
- 血液凝固 [Behe, Michael J. 1996. Darwin's Black Box, New York: The Free Press, pp. 74-97.]
- 意識や自由意志 [Johnson, Phillip, 1990. Evolution as dogma: The establishment of naturalism. First Things, Oct. 1990, 15-22.]
- ホモセクシャル [Macks, Steven, 2000. Madd Macks debate archives. ]
- 利他行動 [Dembski, William A., 2004. Reflections on human origins.]
- 感情 [Morris, John D., 2003. Is man a "higher" animal? Acts & Facts 32(7) (July), d.]
彼らの信じる神は
あるいは、神の介入を主張する者たちは、神を貶めること、ためらいや懸念を持たないのかもしれない。それは...
- 無神論者と戦うための手段など、神は気にしないのだと、彼らは考えている。
- 時計職人としての力量が低い神の方が、賛美に値すると、彼らは考えている。
- そもそも、彼らは、神は存在しないと考えている
- いちいち、神のことまで考えている暇はないと思っている。