2007/08/03

ひきつづき方法論的自然主義

wikipedia:Naturalism (philosophy)の記述は編集合戦にならないように中立なものになっている。従って、創造論およびインテリジェントデザイン側のポジションも併記されている。
創造論とインテリジェントデザイン

創造論支持者は、超自然の活動の可能性を不必要に、現在の科学の実行と理論から排除していると主張する。現在では、「自然界の幾つかの特徴はインテリジェンスの結果として最もよく説明される」と主張するインテリジェントデザイン支持者は、科学の実行のために自然主義者の現実の概念化は不要だと論じる。彼らの一般的な批判は、「自然界が神や超自然の介入とは独立した不可侵の法則による閉鎖系だとするのは、科学を誤った結論に導き、神や超自然の介入についての考えを含めようと主張する研究を不適切に排除している」というものである。

ある現象が科学的検証可能で、自然に説明できるなら、それは超自然ではなくなるというポジションは、このポジションは本質的に矛盾していると論じる、形而上学的超自然主義によって論破される。彼らは何かが発見される前に、科学によって何が発見可能かどうやって定めるのかと問う。計測装置が開発されて、新しい発見が可能になるまで、計測不可能なものは検証不可能である。しかし、現象を検証する新しい方法を発見し開発することを科学的正統が許容するためには、非科学的と考えられるものを科学的に探究することが許されなければならない(しかし、その通りなら、非科学は科学になる)。そうでないなら、知識は宗教教義によっては限定されないが、唯物論的パラダイムによって限定される。このポジションは、「自然主義は超自然を召喚しないことで科学を限定するもので、方法論的自然主義からの逸脱なしに真理を探究する学界としての科学という、あらゆるタイプの科学についての規範的原則として正当化できない」と主張するCenter for Science and Cultureのようなインテリジェントデザイン支持者がとる。

[wikipedia:Naturalism (philosophy) translated by kumicit]
これについて注釈をつけておく。

このポジション(方法論的自然主義に反対)をとる人々

Center for Science and Cultureとはもちろん、インテリジェントデザインの本山たるDiscoery Instituteのインテリジェントデザイン部門である。Dr. Stephen Meyer率いるこのCenter for Science and Cultureが、主として方法論的自然主義に反対している[ie. Johnson, 2007]と考えてよい。

ただいま内戦状態な若い地球の創造論ミニストリAnswers in GenesisCreation Ministries Internationalや、かつての創造科学の本拠地たるInstitute for Creation Researchなどは、あまり声高に叫んではいない。

これは"若い地球の創造論"では、創造7日目からは神様は自然界に介入しないことになっている[ie. AiG, 1990]ので、神様を召還しなくても論争になってしまうため。つまり、方法論的自然主義の枠内でも、既に進化生物学&地球物理&宇宙物理その他大勢と戦闘中...

ということで、反"方法論的自然主義"の主唱勢力はインテリジェントデザイン運動になる。


このポジションでも、ダメダメなインテリジェントデザイン

たとえば、Lenny Flankは超自然であっても、科学的研究法を適用するなら、科学になると主張している。
科学的研究法は非常に単純で、基本的な5ステップから成り立つ。それらは次のとおり:
  1. 宇宙のある様相を観察する
  2. 観察したものを説明できる可能性のある仮説をつくる
  3. その仮説で検証可能な予測をつくる
  4. それらの予測を検証できる観察あるいは実験を行う
  5. すべての観察や実験と予測が一致するまで、仮説を修正する

これらの5ステップのどれでも原理的に、先験的に、"超自然の原因"を排除しない。この方法により、非物質的なピクシーやゴーストや女神や悪魔やグレートパンプキンやお望み次第のものを仮説に注ぎ込んでかまわない。実際に、治癒に対する祈りの効果としての"超自然の原因"について、科学的実験が提案され、実施され、論文発表されている。その他に、ESPやテレキネシスや予知や遠望視のような非物質的あるいは非自然的現象についての研究が行われている。
[Lenny Flank: Does science unfairly rule out supernatural hypotheses? translated by kumicit]
しかし、インテリジェントデザインは「3.その仮説で検証可能な予測をつくる」でこけているというのが、Lenny Flankの指摘である。

ここで、観察あるいは実験は、必ずしも直接的に現象を捉えるものでなくてもよい。たとえば、重力波やグラヴィトンを捕捉しなくても、ニュートンの万有引力の法則は検証可能であり、反証も可能である。実際はもうちょっと複雑で、水星の近日点移動から内側に惑星の存在を予測し、見つからなくて一般相対性理論へつながった場合とがあるけどね。

で、インテリジェントデザインによる検証可能な予測だが、これが一見それらしく偽装しているものの、実はとっても変である。

(1) High information content machine-like irreducibly complex structures will be found.
(2) Forms will be found in the fossil record that appear suddenly and without any precursors.
(3) Genes and functional parts will be re-used in different unrelated organisms.
(4) The genetic code will NOT contain much discarded genetic baggage code or functionless "junk DNA".

FAQ: Can we positively say something was designed? on IDEA Center]



(1) High information content machine-like irreducibly complex structures will be found.
高度情報を含む機械のような還元不可能に複雑な(生物器官)構造が見つかる


生物の器官なんて、たいがい「高度情報を含む機械のような」もの。さらに「還元不可能に複雑」の表向きの定義が「複数のパーツが同時にそろわないと機能しないもの」なのだが、実はちょっと違う。一見「還元不可能に複雑」であっても、進化経路が見つかれば「還元不可能に複雑」ではなくなる。血液凝固カスケードや免疫系や鞭毛などがこの例。

ここで問題なのは、「還元不可能に複雑だと主張されたものが、そうでないと示されたこと」ではなくて、「還元不可能に複雑=進化論では説明できないもの」であること。つまり...

(1) 進化論では説明できない、複雑な生物器官が見つかる


(2) Forms will be found in the fossil record that appear suddenly and without any precursors.
化石記録に突如、先行形態のなしに出現したものがみつかる。


古典的な中間化石が見つからないというもの。すなわち...

(2) (中間化石が見つからなくて) 進化論では説明できない化石が見つかる


(3) Genes and functional parts will be re-used in different unrelated organisms.
遺伝子や機能が関係のない別の生物で再利用される


これも類似器官が別の生物にあっただけでは成り立たない。それが進化で説明できたら、この(3)には該当しない。つまり...

(3) 進化論では説明できない、異なる種にある類似した器官・機能・遺伝子が見つかる


ここまでの3つは、結局のところ「進化論で説明できないものが見つかる」以上のことは言っていない。それだと、「進化論」の検証になるかもしれないが、「インテリジェントデザイン」の検証にはならない。つまり「その仮説で検証可能な予測をつくる」になっていない。


(4) The genetic code will NOT contain much discarded genetic baggage code or functionless "junk DNA"
ゲノムにはそんな多くの使われないコードや機能のないjunk DNAはない。


この主張は論理や根拠なく主張されていているものであり[エントリ]、インテリジェントデザイン運動が始まる前に、既にjunk DNAに機能がある[Battey et al. 1983<.a>] via Denialism Blog]と言われており、種の分岐がいつかを推定できるくらいにjunkな場所がある。

ということで、(4)はただの間違い。でも、そもそもが、「論理や根拠なく主張されて」いては「検証可能な予測」ではない。



ということで、超自然を論じる前に、「その仮説で検証可能な予測をつくる」に至っていない。このため、せっかくwikipedia:Naturalism (philosophy)の中立的な記述があるのに、それがインテリジェントデザインを正当化するのに効いてこない。


ということで、インテリジェントデザインは

科学の原則たる方法論的自然主義を否定していて、しかも超自然をOKにしてあげても、科学にならない。

posted by Kumicit at 2007/08/03 00:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | ID Introduction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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