2007/08/12

米国の肥満メモ

日本でも、経済新聞やら一般新聞やらTechnobahnやらで報じられた、Framingham Heart Studyのデータを使った、社会ネットワークでの肥満の広がりの研究について、WiredのBrandon Keimによれば、229件のニュース記事が執筆されたという。Brandon Keimは、データや統計もまっとうだし、"I'm OK, You're OK "メカニズムももっともらしいが、229本は騒ぎすぎだと評している。そして、Brandon Keimは、何だかんだ言っても所詮、「食いすぎ+運動不足」ではないかと言い放っている。
Whether or not obesity is "contagious," the causes of obesity are very clear: too many calories, too little activity. So is the solution: eat less and be more active.


WIRED==>
Brandon Keim: "Infectious Obesity Findings are Full of Empty Calories", 2007/07/26
Christakisの論文==>
Christakis NA et al.: "The Spread of Obesity in a Large Social Network over 32 Years", New England J. Med., 357, 370-379, 2007.
Kumicitによる関連エントリ==>
忘却からの帰還: 「肥満は人から人へと伝染する」についての調べ物


米国の肥満

「食いすぎ+運動不足」なのは事実ではあるが、それをどう対策するかが、おそらく米国での関心事ではないかと思う。Brandon Keimは騒ぎすぎだというが、米国National Center for Health Statisticsのデータを見ると、もはや個人の自己責任にゆだねる時期は終わっている。

2000年の年齢構成を基準として年齢調整された肥満(Obesity: BMI>=30)と過体重(Overweight: BMI>=25)の比率の推移を見ると、1980年には過体重な人々が半数以下だったのに、2000年には2/3になっている。

OverWeighted2004.png
年齢調整済み20-74歳のBMI>=30 および 30>BMI>=25 の比率の推移
[Prevalence of Overweight and Obesity Among Adults: United States, 2003-2004
Flegala et al., Int. J. Obesity, 22, 39-47, 1998]

特定の肥満世代が年をとることで、高年齢へと肥満が伝播しているのではなく、年齢によらず肥満な人々の比率が増加している。従って、「子どものときの食生活が...」といった論で説明をつけきれないようである。
ObesityMale2004.png
ObesityFemale2004.png
[Health, United States ,2006]

過体重が多数派になってしまった米国だと、なんか肥満対策のヒンジポイントをさがしたくもなるというもの。あたれば研究成果として大きい。

たとえば、州別に見てみると、1991年を初期値として、すべての州で肥満の人口比率が増加している。東海岸から肥満が伝染しているかのように見えるが、それは???
ObesityMap_Mokdad_1999JAMA.gif
州別の肥満(BMI>=30)の人口比率の推移
[Mokdad AH et al.:"The Spread of the Obesity Epidemic in the United States, 1991-1998", J. Am. Med. Assoc., 282, 1519-1522, 1999.]


人種・性別に見てみると、男性にはあまり見られない人種依存性が、女性には明瞭に見られる。じゃあ、それは何かといえば???
OverWeightedRaceSex2004.png
年齢調整済み20-74歳のBMI>=30 および 30>BMI>=25 の人種性別ごとの比率(2001-2004)
[Health, United States ,2006]
[Mokdad AH et al.:"The Spread of the Obesity Epidemic in the United States, 1991-1998", J. Am. Med. Assoc., 282, 1519-1522, 1999.]


肥満の原因ではなく、肥満拡大の原因を求めて

「食いすぎ+運動不足」はそれとして、この急速な肥満拡大の原因を、社会ネットワークに求めるというのは、ひとつの考えらしい。たとえば...

Burke MA and Heiland F: "Social dynamics of obesity", Economic Inquiry, 45, 571-591, 2007

Burke MA and Heiland Fは、ポップカルチャーにおける理想体型が痩せたままだったとしても、それとは関係なく、人々がこうありたいと思う理想体重は増加していると主張する。
Perceptions of 'normal' weight may rise as average weight increases, magnifying effects of falling food prices.
"標準体重"の認識が重い方にずれることが、食品価格の下落とともに、平均体重の増加に影響しているかもしれない。
...
“Some people have objected to our claim that social norms governing acceptable body weight are on the rise, on the grounds that the idealization of thinness in popular culture appears as pronounced, if not more so, than ever,” say Burke and Heiland. “While we do not dispute this last fact, we believe there is strong evidence that a gap exists between the cultural imagery and the weights that most people consider acceptable for themselves and others.”

許容可能な体重を決めている社会的な標準体重が増大方向だという我々の主張に対して、「ポップカルチャーにおける痩せた体形の理想体重が、これまでより増大していない。だから、そんなことはない」という反論があった。「我々はポップカルチャーの理想体重について異を唱えないが、ポップカルチャーのイメージと、人々が許容可能だと思う体重にはギャップがあるということを支持する強い証拠があると考えている。」
[Rise of obesity exacerbated by 'social multiplier' effects (2007/08/01)]

The researchers also looked at self-reports of women’s real weights and desired weights. In 1994, the average woman said she weighed 147 pounds but wanted to weigh 132 pounds. By 2002, the average woman weighed 153 pounds but wanted the scales to register 135 pounds, according to data from the Centers for Disease Control and Prevention’s Behavioral Risk Factor Surveillance System.
女性の実体重と理想体重の自己申告を調べた。"Centers for Disease Control and Prevention"の"Behavioral Risk Factor Surveillance System"によれば、1994年の自己申告の実体重は66.7kgで理想体重は59.9kgであった。これが2002年では、実体重が69.4kgで理想体重が61.2kgになっていた。
[Fat is the new normal, FSU researcher says (2007/08/06)]
断言できるほどの数値とは思えない。また、人々は自分の現在の体重を基準に理想体重を考えるかもしれない。

しかし、いずれにせよ、スリムな芸能人たちでテレビを埋め尽くしたところで、肥満対策にはまったく効かないという冷たい可能性を示唆している。



かと思えば、肥満対策商品が肥満を生み出すのだとUniversity of AlbertaのDr. David Pierceは主張する。
A team of researchers contends that animals learn to connect the taste of food with the amount of caloric energy it provides, and children who consume low-calorie versions of foods that are normally high in calories may develop distorted connections between taste and calorie content, leading them to overeat as they grow up.
動物は食物の味とカロリーの関係を学習する。子供が本来は高カロリーな食品の低カロリー版を食べていると、味とカロリーの関係の学習が狂ってしまって、成長とともに食べ過ぎになる可能性がある。
...
The researchers conducted a series of elaborate experiments that proved substituting low-calorie versions of foods and drinks led to overeating in a sample of young rats, including ones that were lean and ones that were genetically obese. Although both lean and obese rats overate during their regular meals, the added calories have more serious health implications for obese animals.
痩せた若いラットと遺伝的に肥満になる若いラットに、低カロリー版の餌を与える実験を行った。痩せたラットも肥満ラットも、通常版の餌を与えると食べ過ぎになったが、過剰カロリーの健康に対する影響は肥満ラットの方が大きい。

Adolescent rats that were also fed diet foods did not display the same tendency to overeat. The researchers believe the older rats did not overeat because they, unlike the younger rats, relied on a variety of taste-related cues to correctly assess the energy value of their food.
成人ラットにも同じ実験をしたが、食べ過ぎ傾向は見られなかった。これは、若いラットと違って、食品の味とカロリーの関係を正しく評価できるからだと考えられる。
[Diet foods for children may lead to obesity (2007/08/08) on EurekaAlert]
米国における低カロリーおよびダイエット食品は2006年には27億ドル規模になっている[米国の減量市場、2007年には580億米ドルの規模へ (2007/08/06) on 株式会社グローバル インフォメーション]。これが肥満の再生産を始めているかもしれないというDr. David Pierceの研究が人間にもあてはまるなら、ちょっと深刻。



ちなみに日本は

米国が肥満(BMI>=30)が人口の30%を超えているのに対して、日本は3.2%程度。深刻さがまるで違っている。
==>成人肥満比率の各国比較 on Honkawa Data Tribune 社会実情データ図録

しかし、それはおそらく女性のダイエットによるもの。男性の平均体重は増加し続けている。

==>日本人の体格の変化(BMIの推移) on Honkawa Data Tribune 社会実情データ図録

関連エントリ:
「肥満は人から人へと伝染する」についての調べ物 (2007/07/31)
Obesity in America(2007/08/14)
posted by Kumicit at 2007/08/12 12:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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