人口4300万の南アフリカでは、1日に1000人近くがAIDSで死亡し、1400人近くが新たにHIVに感染している[AP]。
南アフリカの不幸は、アパルトヘイト撤廃の頃にHIV/AIDSの流行が拡大したこと。撤廃と和解という課題をかかえた最後の白人政権de Klerk大統領[1989-1994]と最初の黒人政権Nelson Mandela大統領[1994-1999]はAIDS対策に気が回らず、妊娠女性のHIV感染率は25%を上回ってしまった。
さらに、不幸だったことは、現政権Thabo Mbeki大統領[1999-]が、HIVはAIDSの原因ではないというAIDS再評価運動な考えを信じていること。そしてMbeki大統領は政権発足時に、ガーリックやレモンでAIDSが防げるのだと主張するDr Manto Tshabalala-Msimangを厚生相に任命したこと。
そのためAIDS対策は遅滞し、その結果が、国民のHIV感染率は10%を超え、妊娠女性の感染率30%になるという事態だった。
2007年初にTshabalala-Msimangを厚生相が肝臓障害で入院したことで、Madlala-Routledge副厚生相がAIDS対策の指揮をとるようになって、やっとAIDS対策がまともに進むかと思われたが、6月にTshabalala-Msimangを厚生相が復帰。そして、8月にはMbeki大統領が適当な口実をつけてMadlala-Routledge副厚生相を解任した。
また、逆戻りか...
反撃開始?
これで話が終るかと思っていたら、南アフリカで最も売れている週末新聞Sunday TimesがTshabalala-Msimang厚生相についての3ページにわたる批判記事と、Tshabalala-Msimangは厚生相に不適格だという社説を掲載した。英国の新聞Scotsman(2007/08/19)によれば、指摘は次のようなもの
- Tshabalala-Msimangは自己免疫性肝炎だったが、Donald Gordon Medical Centreの医療関係者たちは、その病名を公表したらクビになるという文書にサインしていた
- Tshabalala-Msimangは厚生相だという理由だけで、移植用肝臓を手に入れた。移植を受けられなければ死亡していたかもれない
- 1970年代に、Tshabalala-MsimangがボツワナのLobatse Public Hospital病院長だったときに、患者の宝石や帽子やハンドバックを盗んだ罪で有罪判決を受けて、移民禁止を宣告された
- HIVはAIDSの原因ではないと考える
- 国際的に有効性が認められている抗レトロウイルス薬を有害だと主張
- Eastern Capeの地方紙Daily Dispatchが、公立病院の惨状を告発した報道に対して、現地で問題なしと発言
また、米国も、婉曲的ながら懸念を表明した。Mike Leavitt米国保健福祉省長官の南アフリカ訪問を伝えるThe Associated Pressの2007/08/20の報道によれば、Mike Leavitt長官は
- 解任されたMadlala-Routledge副厚生相のもとで策定された、南アフリカのAIDS対策5か年計画を高く評価
- 解任に直接は触れなかったが、次のように発言
Leavitt would not comment on the dismissal, but warned that "any country that does not aggressively move" to address the epidemic "will bear the unhappy results."
AIDS流行に対して積極的に動かない国は不幸な結果に至るだろう」
BBCの2007/08/20の報道によれば、野党民主連合はTshabalala-Msimang厚生相の肝臓移植問題について、さらに踏み込んでいる。
The opposition Democratic Alliance is now calling for an investigation into claims that President Thabo Mbeki contacted the surgeons at a Johannesburg medical centre to insist that they approve a transplant for the minister.
The opposition leader, Helen Zille, says if this is true, it's "a disgraceful abuse" of the president's public position.
野党民主連合は、Thabo Mbeki大統領が、厚生相の肝臓移植を承認するようにヨハネスバーグ医療センターの外科医に連絡をしたとう主張について調査を要求している。
野党党首Helen Zilleは、「こらが真実なら、大統領権限の恥ずべき悪用だ」と述べた。
しかし、Mbeki大統領は一歩も引かない
Reutersの2007/08/20の報道によれば、Mbeki大統領のスポークスマンMukoni RatshitangaがSAFMラジオに対して、大統領は報道に基づいてTshabalala-Msimang厚生相を解任することはなく、またTshabalala-Msimang厚生相の職務能力に問題はないと答えた。
自らの権力を守るためなのか、HIVはAIDSの原因ではないという信念によるものなのかは理由は不明だが、Mbeki大統領は一歩も引くつもりはないようだ。
関連エントリ
ニセ科学「AIDS再評価運動」〜南アフリカの場合〜 (2007/08/15)
ニセ科学「AIDS再評価運動」とID理論 (2007/07/05)