2007/09/28

欧州評議会の「創造論とIDの危険性についての決議」の再始動(5/5) そして我々は...

2007年6月26日に予定されていた採決が流れていた欧州評議会の「創造論とIDの危険性についての決議」[siam]に関して、2007年9月17日付で欧州評議会に、「The dangers of creationism in education (Doc.11375)」という決議案と報告書が出現した。ということで、決議案本文と進化論について述べた部分は飛ばして、報告書として添付された部分を昨日まで読んできた。

読み返すと、以下の3点が、この報告書の特徴と見られる。

  1. 「Harun Yahyaによる豪華本ばらまき」に対する危機感
  2. インテリジェントデザインを含む創造論ファミリを証拠なき論として、徹底批判
  3. 民主社会の擁護として、進化論を含む科学教育の必要性

第1のHarun Yahyaは、主として「フランス語版のHarun Yahyaの豪華本の無償配布」にあると思われる。

英国は言語障壁がないため、米国から創造論やインテリジェントデザインの出版物が流入する。創造論教育を行う私学や、創造論サイト"Truth in Science"などもある。これに対して、欧州大陸、特にフランス語圏は平穏だったようだ。それが、教育機関へのばらまきという攻撃を受けて他人事ではなくなったということだろうか。

もちろん、Harun Yahyaの主張には目新しいものはない。Institute for Creation ResearchAnswers in Genesisなどの創造論出版業者たちが撒き散らしてきた書籍/DVDなどと何ら違いはない。聖書が無謬であるという信仰を持っていなければ、SFとしても説得力を欠く。

そして、聖書と神への言及を完全に消し去ったインテリジェントデザインは究極のNegative Argument「進化論で説明できない、意味ありげなものはデザインだ」である。
==>忘却からの帰還: 何にもないインテリジェントデザイン理論

そのようなものが"科学理論"と呼べるものではないのは明らか。それをそのまま書いたと思われるのが第2の特徴である徹底批判。


第3の「民主社会の擁護」はこれ:
The theory of evolution constitutes a body of knowledge fundamental for the future of our democracies and cannot be arbitrarily challenged.
進化理論は、我々の民主主義の将来のために基礎知識の集合体であって、好き勝手に疑問を呈することができるものではない。
...
Education has a duty to be a means of enabling children, young people and adults to become important players in the transformation of societies, whereas adopting a denialist stance on scientifically proven theories constitutes a brake on education and the intellectual and personal development of thousands of children.
教育には、子供たちと若者たちと大人たちが、社会の変革の重要なプレイヤーとなれるようにするという義務がある。ところが、科学的に証明された理論に対して、否定論者のスタンスを採用すれば、幾千の子供たちの教育と知的かつ個人の成長を妨げることになる。
間違いかと言われれば、そうではない。確かに進化論も基礎知識の集合体の一部をなすものだ。一通り学んだあとで、確立された理論を疑ってみることは意味があるかもしれないが、確立された理論の否定論を習うことは「知的かつ個人の成長を妨げる」というのも間違いではない。

"future of our democracies"とまで言うのは表現強すぎな気もする。


民主的に

しかし、視点を米国に移してみると、「民主社会の擁護」という論点は重くなる。

1968年のEpperson v. Arkansas裁判で、進化論教育を禁じたアーカンソー州法が違憲だと判断された。そして、1987年のEdwards v. Aguillard裁判で、進化論と創造科学を同じ時間をかけて教えることを義務付けるルイジアナ州法が違憲であり、創造科学は宗教であると判断された。

これらアーカンソーの反進化論州法も、ルイジアナ州の同一時間州法も民主的手続きによって制定されたものである。それらは民意に反して政治家たちが決定したものではない。

2005年の世論調査を見ても、むしろ違憲判決を受けたルイジアナ州法のようなものを支持している人が半数を占める:
Harris Poll. June 17-21, 2005. N=1,000 adults nationwide. MoE ± 3.

"Regardless of what you may personally believe, which of these do you believe should be taught in public schools?
個人的に信じていることとは関係なく、公立学校ではどれを教えるべきか?

%
Evolution only 12 (進化論のみ)
Creationism only 23 (創造論のみ)
Intelligent design only 4 (インテリジェントデザインのみ)
All three 55 (3つとも教える)
None of these (vol.) 3 (どれも教えない)
Unsure 3 (わからない)
[PollingReport]
そのような世論を背景に、州議会議員たちが繰り返し反進化論州法案を提案する。しかし、その多くは、会期不足でうやむやに葬られる。否決までだとりついたは少ない。

そうなるのは、たとえ世論に従ったとしても、裁判になれば違憲判決が出ると予想されるような州法を成立させるようなカッコ悪いことをする州議会議員が共和党・民主党ともに、少ないからだろう。



かつて、インテリジェントデザインの父たる法学者Phillip Johnson[1993]は、"Guided by God"と"God Created in Present Form"を足せば、進化論を圧倒すると主張した。そのために、地球の年齢に言及しないインテリジェントデザインを創ったのだと。Phillip Johnsonは学術的にではなく、"民主的"に進化論を打ち倒すことを目指した。
Gallup Poll. May 8-11, 2006. N=1,002 adults nationwide. MoE ± 3.

"Which of the following statements comes closest to your views on the origin and development of human beings?

Guided God Had God Created in Other/
by God No Part Present Form No Opition
% % % %
5/8-11/06 36 13 46 5
11/04 38 13 45 4
2/01 37 12 45 5
8/99 40 9 47 4
11/97 39 10 44 7
6/93 35 11 47 7
1982 38 9 44 9
[PollingReport]
それは、ペンシルバニア州Dover学区教育委員会で過半数をとって、インテリジェントデザインの教育の実現というかたちで、ひとたび成功した。これは、2005年のKitzmiller v. Dover学区裁判で、連邦裁判所John E. Jones III判事により覆された(学区教育委員会も改選時にインテリジェントデザイン支持が過半数をとれなかった)。

以上のように、「"民主的"に進化論を打ち倒す」vs「司法あるいは議会レベルで民意に反する」という構図がときどき現れる。こんなことを続けていれば、いずれ米国では、「科学の内容を"民主的"に決定する」ようになってしまうか、「世論は無視しろ」になるか。

「民主社会の擁護」という論点は重い。

欧州はまだそこまでの状況にはない。予防措置をとることは重要だろう。


そして、我々は...

日本では、こと創造論およびインテリジェントデザインに関しては、問題化するには遠い状況である。

しかし、ニセ科学「水伝」「ゲーム脳」などが教育の場に侵入してきた。
世論がニセ科学サイドにつきかねない状況もある。
==>Kikulog: WHOよりも浜六郎氏の言っていることを選ぶのはおかしいでしょう (2007/04/07)

日本もネタは違うかもしれないが、欧州評議会の決議案登場みたいな反応をする必要が出てくるかもしれない。



関連エントリ

欧州評議会の「創造論とIDの危険性についての決議」の再始動(1/5) 欧州の創造論 (2007/09/24)
欧州評議会の「創造論とIDの危険性についての決議」の再始動(2/5) 教育への侵入状況 (2007/09/25)
欧州評議会の「創造論とIDの危険性についての決議」の再始動(3/5) 宗教界の反応 (2007/09/26)
欧州評議会の「創造論とIDの危険性についての決議」の再始動(4/5) 報告書の結論 (2007/09/27)
欧州評議会の「創造論とIDの危険性についての決議」の再始動(5/5) そして我々は... (2007/09/28)
欧州評議会は、創造論とIDの危険性についての決議案投票を中止 (2007/07/02)



posted by Kumicit at 2007/09/28 00:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | News | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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