2005/09/10

「百匹目の猿」塩水ですか?


と私のエントリ「百匹目の猿の原論文には百匹目の猿はいない」
「百匹目の猿の嘘を暴いた"The Hundredth Monkey Phenomenon"by Ron Amundson」
で終わったと思っていたのだが...

まだ続いていたようだ。

福田氏の解釈では

SPWの初期的獲得について問題としているわけではないことが分かります。そうではなくて、その先の段階としての「“海で”洗う」という行動こそがここでは問題とされているわけです。

ということで、「"海で"洗う」がLyall Watsonの主張だそうである。
これを整理すると

  • サツマイモを洗うという行動には閾値はなくて徐々にしか広まらない
  • 淡水を塩水に切り替えるのには閾値があって、それを超えると一気に広まる。
  • 閾値を超えると一気に広まる範囲は、大人9匹とNamiの子供4匹と赤ちゃんたちを除いた群の残りである。

ということになる。そしてその論拠は「否定するデータがない」。

これに対しては、原論文(Kawai 1965)では観察記録には

  • 個々のサルの記録はない
  • 1952〜1953年には塩水を使っていない
  • 1957〜1958年には、ぼすべてのSPW-サルが塩水を使っていた
  • 1962年にはすべてのSPW-サルが塩水と淡水を使っていた。

塩水を使うようになった理由は
  • 渇水期には小川が干上ってしまうなど、十分な淡水がなかったこと。
  • 塩水により味がよくなることを覚えたこと。

    によるものと推定している。

    以下に該当部分を示す。

    3. さまざまなSPW(サツマイモ洗い)行動

    1) 淡水から塩水へ
    1953〜1954年の間のSPW行動は、海に流れ込む小川べりで行われた。サルたちは塩水をまったく使わず、淡水で洗っていた(Kawamura 1954)。1957年と1958年の調査で、我々は多くのサルが塩水でサツマ一もを洗っているのを発見した。個々のサルについての記録はないが、淡水でしかサツマイモを洗わないサルはいなかったようだ。1961年12月の調査では、SPW-サルはすべて海水でも淡水でもサツマイモを洗っていた。しかし、淡水を使うのは特定の場合に限られていた。たとえば、淡水のそばでイモを与えられた場合や、下位のサルが上位者(dominant)を恐れて海岸に近づけない場合など。言い換えるなら、SPW-サルは(サツマイモ洗い)行動において、淡水より塩水をはるかに好んだということだ。ひとつには、淡水の量が少なかったこと。渇水期には海に流れ込む小川が干上がってしまっていた(人為的に作った水場[30cm×60cm]はあったが、スペースが十分ではなく、多くのサルがサツマイモを洗うには十分ではなかった。)。もうひとつの理由はサルたちが塩水に親しむようになれば、それがサツマイモの味をよくすることを知るから。これらがおそくらサルたちを淡水よりも塩水を好ませたのではないかと思われる。

    Kawai_3-1a.jpg

    Kawai_3-1b.jpg

    2) 味付け行動
    上述のSPW行動は、サツマイモを片手に持って水に浸し、もう片方の手で砂を洗い落とすものだった。SPW行動の発明者Imoはその典型行動をしている。しかし、砂を洗い落とすために必ずしもサツマイモをブラッシングする必要はない。しばしば彼らはサツマイモを浅い水に落として片手で回すことで砂を洗い落としていた。第1期(1958年まで)では、Eba, Sango Sasがサツマイモをブラッシング(brushing)するよりも回す(rolling)ことが多かった。したがって、ブラッシングとローリング(rolling)という2種類のSPW行動があったことになる。

    しかし、第2期(1958年以降)では3種類目が現れた。1回か2回かじるとサツマイモを水に浸すものであった。これはサツマイモから砂を洗い落とすのとはまったく違う行動だ。彼らはサツマイモを集めると、海岸へ持っていった。この行動に塩水でサツマイモを味付けする以外にどんな理由があるだろうか。ということで、この行動を「味付け行動」と呼ぶことにする。

    しかし、味付けだけをするサルがいるわけではない。たとえば、Sabaに対して10回テストしたところ、7回は味付け行動をし、2回はローリングし、1回はブラッシングをした。興味深いことに、砂まみれにしたサツマイモを与えられると、彼は必ずブラッシング行動をした。彼はブラッシング行動を習得していたが、彼がブラッシングするのは、彼がそれを必要だと感じたときだけだった。

    Table.3は個々のサルを3種類のSPW行動に分類したものである。30匹のテスト対象(11匹のオスと19匹のメス)のうち、11匹がブラッシング型(B-Type)、12匹がブラッシング=味付け型(BS-Type)、7匹が味付け型(S-Type)に属していた。B-Typeに属する、すなわち古い形式にとどまっていたのは第1期に習得したサルたちだった。後の第2期にSPW行動を習得したサルたちはS-Typeに偏っていた。

    Table.3は個々のサルを3種類のSPW行動に分類したものである。30匹のテスト対象(11匹のオスと19匹のメス)のうち、11匹がブラッシング型(B-Type)、12匹がブラッシング=味付け型(BS-Type)、7匹が味付け型(S-Type)に属していた。B-Typeに属する、すなわち古い形式にとどまっていたのは第1期に習得したサルたちだった。後の第2期にSPW行動を習得したサルたちはS-Typeに偏っていた。

    その理由は、第1期の伝播では、前述のように、個体間のつきあい関係により伝播したものであり、B-Typeの行動を第1期に習得したのはSPW-サルたちの内輪で固定していた。一方、SPW行動を第2期に習得した個体は、赤ちゃんのときから水の中でサツマイモを食べていた。したがって、彼らは始めからサツマイモを塩水で味付けするか、水でぬらして食べていて、その後で砂を落とすためのブラッシング行動を習得している。したがって、BS-TypeやS-Typeは特に若いサルたちに見られる。

    他にも行動型の伝播において銘記すべき現象は、同じ血縁関係内では、同じ行動型をとる傾向が強く見られることである。顕著な例はAomeの血族と、Tsuruとその弟妹に見られる。Aomeはブラッシングに長けており、彼女の妹Nogiと子供たちZabonとZaiはB-Typeに属している。Zaiは第2期のSPW-サルたちで唯一B-Typeに属しており、血縁関係で行動が伝播するという考え方を支持している。Natsuの3匹の子供たちはすべてS-Typeに属しており、同じくこの考えを支持している。これらと異なるのはHarajiroの血族である。4匹のSPW-サルがその血族にいるが、Typeは様々である。Ebaの血族も血縁関係での伝播を示していない。従って、SPWの行動のTypeは血縁関係で伝播する場合とそうでない場合があると考えるのが適切だろう。

    我々は味付け行動をSPW行動に含めて議論してきたが、厳密には別にすべきだろう。SPW行動はある種の調理である。調理を物理的なものと化学的なものにわけるなら、SPW行動は前者(物理)に、味付けは後者(化学)だろう。言ってよいなら、サルたちはサツマイモから砂をとりのぞくという物理的な調理を始め、次に味付けという化学調理を知るようなった。

    Kawai_3-2a.jpg

    Kawai_3-2b.jpg


    Kawai-Table3.jpg

  • posted by Kumicit at 2005/09/10 17:35 | Comment(6) | TrackBack(1) | Hundredth Monkey | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
    この記事へのコメント
    こんばんは。
    論文読みと翻訳お疲れ様です。
    福田氏の新解釈(珍解釈?)はあっさり否定されてしまったようですね(笑)
    データを見てそこから結論を出すのが科学の常道なのに、先に結論ありきでデータをそこに当てはめようとするから彼のような珍説が飛び出すんでしょうね。
    Posted by 黒影 at 2005/09/10 21:56
    あるいは、原論文を読まずに「Lyall Watsonが正しいことを言っている」ことを証明しようとしているからでしょうか。
    Posted by Kumicit 管理者コメント at 2005/09/11 03:00
    >Kumicitさん

    どうも、福田です。拙論に応答して頂きありがとうございます。

    誤解なきよう申し上げますが、私は「Lyall Watsonが正しいことを言っている」ことを証明しようなどという意図は特にありませんのでご容赦ください。私は拙ブログのコメント欄でも述べましたが、ワトソン説が「実証性に乏しい」ことは認識していますし、単にウソ派の方たちの論拠が希薄である点を指摘してきただけです。

    今回新たに資料をご提示頂きましたが、残念ながらワトソンの記述が「ウソ」であることを示すものであるとは言い難いと思います。というのも明確なのはSPWの種別とその内訳だけだからです。

    サルたちが物理的接触を伴ってサツマイモを「“海で”洗う」習慣を獲得したかどうかや実際の獲得年数等は不明ですし、その理由付けも推測の域を超え出るものではありません。

    結局この話は、私の最初のエントリで述べたように、やはりどちらの説を支持するかというスタンスの違いでしかないように思いました。
    Posted by 福田 at 2005/09/11 14:46
    >黒影さん

    >福田氏の新解釈(珍解釈?)はあっさり否定されてしまったようですね(笑)

    ウソ派の方たちの論旨は「詳細なデータがないなんてウソだ」とか「コロニーのほぼ全員に広まったなんてウソだ」というものですよね。

    上記にも述べましたが、ここでKumicitさんが提示された資料で明確なのはSPWの種別とその内訳だけですから、詳細なデータとは言い難いと思います。必要とされる詳細データは「どのような浸透の仕方をしたか」ですから。

    そしてワトソン説が「“海で”洗う」ことを指しているのだとすれば、むしろ原論文の「1961年12月の調査では、SPW-サルはすべて海水でも淡水でもサツマイモを洗っていた」という記述は「ほぼ全員に広まった」を確かなものにしていると言えるでしょう。

    >データを見てそこから結論を出すのが科学の常道なのに、先に結論ありきでデータをそこに当てはめようとするから彼のような珍説が飛び出すんでしょうね。

    常道うんぬんにはあまり興味はありませんが、データを見てそこから結論を出すというスタンスに重きを置くとすれば、黒影さんの一連のエントリでも長らくデータへの参照はなかったように思います(いずれも二次資料への言及)。まあエントリは常道に沿う必要はない、と言われればそれまでなんですが。
    Posted by 福田 at 2005/09/11 15:07
    福田さん

    本文中に書きましたが、原論文では「1957年と1958年の調査で、我々は多くのサルが塩水でサツマイモを洗っているのを発見した。個々のサルについての記録はないが、淡水でしかサツマイモを洗わないサルはいなかったようだ。」です。
    Lyall Watson "Lifetide"では「1958年までには、全ての若者は汚れた食べ物を洗うようになっていたが、5歳以上の大人では、子供たちから直接に真似て覚えたものだけだった。そして、何か普通ではないことがおきた。」です。

    つまり、「海水によるサツマイモ洗い」であれば、時間が逆転しています。
    Posted by Kumicit 管理者コメント at 2005/09/12 01:32
    逆転していないと思いますよ。

    引用なさった箇所の注釈を見て頂ければ分かりますが、河合氏の調査は1957年と1958年、それとは別に1958年と1959年にAzuma氏とYoshiba氏による調査報告があります。

    「淡水でしかサツマイモを洗わないサルはいなかったようだ」の部分は河合氏は「it seems」と述べていますね。もし1957年と1958年の河合氏による調査で明らかだったのであれば「it seems」とは言わなかった筈です。つまりこの部分はAzuma氏とYoshiba氏による調査報告を参照している可能性が高いわけです(でなければ注釈の必然性もないわけですから)。

    だとすれば「何か普通ではないことがおきた」のが1958年以降であると予測できますので、ワトソンの記述との時間的整合性が取れてないとは言い難いと言えるでしょう。
    Posted by 福田 at 2005/09/13 04:11
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    100匹目のサルの新説登場?
    Excerpt: 福田氏はたった二つ前のエントリのコメント欄で自分が述べたことをもう忘れたのでしょうか? 自分の都合が悪くなってからそんな主張のすり替えを行ったところで、恥の上塗りでしかありませんよ? いい加減みっとも..
    Weblog: 幻影随想
    Tracked: 2005-09-11 19:16
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