2005/11/03

インテリジェント・デザインは"God of the Gaps"ではないと言い訳するが

インテリジェント・デザイン理論は"God of the Gaps"論だと批判される。もちろん私もそう考えている。で、この"God of the Gaps"論とは

  • 科学には解明できないことがある
  • それは「神様」のせいなのさ

というもの。「神様」のかわりに「心霊現象」「超能力」「UFO」などいろんなものが入れて、似非科学を量産可能。積極的に自分の領土であることを言わずに、既存の自然科学の領土でなければ自分の領土という国境線紛争論なので、「科学」ではありえない。

そもそも、「科学」には「隙間や欠落」などわんさかある。その「隙間や欠落」が当面の「科学」の研究ネタとなる。その「隙間や欠落」に「神様のせい」というラベルを貼り付けたところで何か解明できたわけではない。「To Do リスト」を「神様の成果リスト」と名称変更したところで「To Do リスト」であることに違いはないからだ。

インテリジェント・デザイン理論は、「神様」のかわりに「住所不明・氏名不詳の知的存在」を使う。多くの"God of the Gaps"な似非科学と同じく、"God of the Gaps"論であって科学ではないと言われるのも当然のこと。それに対して反論しておかないと、米国憲法を乗り越えて、キリスト教を(科学)教育の場へ侵入させるというインテリジェント・デザイン運動の目的は果たせない。

そこで、インテリジェント・デザインの有名どころは何らかの反論をしている。

IDEA CenterFAQ: Is ID a "god-of-the-gaps" argument?


FAQ: Is ID a "god-of-the-gaps" argument?
ID理論は"God of the Gaps"論ですか?

Not at all. Intelligent design works off positive predictions about where experience tells us that intelligent design is the cause at work. Furthermore, the "gap" in Darwinian evolution is not a gap in knowledge, but a fundamental theoretical gap that represents an aspect of biology which Darwin's theory is simply incapable of bridging.

まったく違います。インテリジェント・デザイン理論は、インテリジェントなデザインが実際に原因となっていると経験的に示せる現象について積極的な予測ができます。さらに、ダーウィン進化論の"Gap"は知識の欠落(gap)ではなく、ダーウィンの進化論では説明できないような生物学の局面を示すような根本的な理論的欠落(gap)です。


欠落(gap)があったら、「知的存在によるものなのさ」と言っていること再確認しているだけ。「根本的な理論的欠落」と「知識の欠落」なんて区別したところで、「未解明な事柄」であることに変わりはない。「未解明な事柄=知的存在による現象」という"God of the Gaps"なだけ。

さすがにIDEA Centerの執筆者も、それでは足りないと思ったか、「科学の要件たる、予測可能かつ検証可能」という主張を加えている。なお、この「予測可能」とはたとえば、「一般相対論の予測するとおりに、恒星の見かけの位置と実際の位置とのずれが日蝕のときの観測されたことで、理論の正しさを検証する」ようなものを言う。IDEA Centerが挙げたのは...

Predictions of Design (Hypothesis):
インテリジェント・デザイン理論のよる予測
(1) High information content machine-like irreducibly complex structures will be found.
機械のように高度の情報量を持つ還元不可能な構造が見つかる

(2) Forms will be found in the fossil record that appear suddenly and without any precursors.
祖先もない生物形態の突然の出現が化石の記録に見つかる

(3) Genes and functional parts will be re-used in different unrelated organisms.
遺伝子や機能部品が異なった関係のない生物で再利用される

(4) The genetic code will NOT contain much discarded genetic baggage code or functionless "junk DNA".
遺伝情報には使われなくなったコードや機能のないジャンクDNAはほとんど含まれない

これは意味が違うだろう。どれも、「理論的予測と検証」ではない。
(1) 「高度の情報量を持つ還元不可能な構造」がそもそもの「インテリジェント・デザイン理論の論拠」。「現在はどう進化してきたか、わからない」なら「インテリジェント・デザイナーのせい」という「God of the Gap」な主張。
(2) 「祖先不明の生物の化石」はときどき見つかり、そのうち決着がついたり、つかなかったり。
既存の事実を予言してどうする?というか、これぞ「祖先不詳はインテリジェント・デザイナーのせい」という「God of the Gap」な主張。
(3)はそもそも「進化によって同一祖先から分岐したから、遺伝子や機能部品が異なった関係のない生物でも見られる」に対して、それはインテリジェント・デザイン理論の反証にならないという主張だ。既存の事実を予言してどうする?
(4) ジャンクDNAがジャンクどうかの研究が行われているから、何らかの機能が見つかることがある。別にインテリジェント・デザイン屋に言われるまでもない。というか後付け。

どうも、IDEA Centerの中の人は、ごまかしに走ったようだ。

数学系理論担当のDr. William Dembskiは
Dr. William Dembskiの反論(出典 2000/11/17)は


There is no logical contradiction here. Nor is there necessarily a god-of-the-gaps problem here. It’s certainly conceivable that a supernatural agent could act in the world by moving particles so that the resulting discontinuity in the chain of physical causality could never be removed by appealing to purely physical forces. The “gaps” in the god-of-the-gaps objection are meant to denote gaps of ignorance about underlying physical mechanisms. But there’s no reason to think that all gaps must give way to ordinary physical explanations once we know enough about the underlying physical mechanisms. The mechanisms may simply not exist. Some gaps might constitute ontic discontinuities in the chain of physical causes and thus remain forever beyond the capacity of physical mechanisms.

いかなる論理矛盾もない。"god-of-the-gaps"問題もあるわけではない。超自然的なエージェントが粒子を動かす形で世界に関与すると考えてみよう。それなら、物理的因果律の連鎖の中に結果として残る不連続は、純物理的な力では取り除けないかもしれない。"god-of-the-gaps"という反論における"gap"とは、背後に存在するはず物理的メカニズムについて未知であることを意味する。しかし、あらゆる"gap"は、不確かな物理メカニズムをよく知れば、普通の物理的説明がつくはずだと考える理由はない。メカニズムが単に存在しないだけかもしれない。いくつかの"gap"は、物理的な原因結果の連鎖に不連続があって、物理的メカニズムでは永遠に"gap"のままかもしれない。


「ほんとに"gap"がある」かもしれず、それなら「その"gap"はインテリジェント・デザイナーのせい」と言っても、"god-of-the-gaps"問題ではないという主張だ。さすが、Dr. William Dembski、他のID支持者とは違って巧妙さで、論理的には正しい。

しかし、「真の"gap"」と「未解明」を識別できればこの主張は通るのだが、これは原理的に無理だろう。しかも、現在のID理論サイドは「既知の理論を積み上げると、確率が小さすぎる」という論拠でものを言っているだけ。積極的に「真の"gap"と未解明の識別」をしていない。


インテリジェント・デザイン・ネットワークのハリス博士とカルバート法学博士は

Intelligent Design: The Scientific Alternative to Evolution
()において、

Is ID a “god of the gaps” theory? The charge has been made that ID proposes
design for whatever cannot be explained by law and chance. Hence all gaps in our knowledge are filled by design—by God. That is simply not the case. A design
inference can be falsified simply by showing a lack of any apparent design or meaning
in the pattern, or by demonstrating (not imagining) that unguided natural processes
can produce the pattern or object in question.

IDは"god of the gaps"理論でしょうか?自然法則と偶然によって説明できないものは何でもデザインだとIDは提案したと告発されました。従って、私たちの知識の隙間はすべて神によるデザインだと。それにはあたりません。指導されない自然の過程でそのパターンあるいは物体を創れないかを(想像ではなく)論証して、明らかなデザインや意味がそのパターンに欠けていることを示せば、デザイン推論を論破できます。

「明らかなデザインや意味」があったら、インテリジェント・デザイナーのせいなのさ...という主張。あらゆる隙間すべてを自国領と主張するわけではないから「God of the Gap」ではないということらしい。しかし、「進化論の隙間・欠落(gap)」はすべからく「明らかなデザインや意味があある」からすべてインテリジェント・デザイン理論の領土となるので、まったく「God of the Gaps」。

さすがに、ちょっと不足と思ったか、ハリス博士とカルバート法学博士は

On the other hand, without design as a competing hypothesis, a naturalistic
explanation is effectively a “chance of the gaps” or “environment of the gaps”
explanation. Anything we cannot explain by law and chance today will be explained
by law and chance tomorrow, when we find such a law or some way to inflate our
probabilistic resources (like positing infinite parallel universes). There must be such
a law and chance explanation because that is the only one allowed.

他方で、競合する仮説としてのデザインではなく、自然主義的説明が"chance of the gaps"あるいは"environment of the gaps"な説明をしています。今日、自然法則と偶然で説明できないことは何でも、(無限の並行宇宙のような)確率のリソースをインフレさせる法則や方法を見つけて、明日には自然法則と偶然で説明できるようなると。それ以外に許されないという理由で、そのような自然法則や偶然による説明があるはずだと。

と追加した。物理定数が何故この値なのかという問題に対して、「他の値をとっている宇宙もあるかもしれないが、うちはこうなのさ」という科学に対して、「インテリジェント・デザイナーがこの値にしたのさ」というのがインテリジェント・デザイン理論だから同罪でしょ?ということらしい。「自然法則や偶然による説明があるはずだ=未解明」と言っているものを、「現在の科学で未解明だから」という理由で「インテリジェント・デザイナーによる」と言ったら、やっぱり「God of the Gaps」。


インテリジェント・デザインを支持するEvidence for God from Scienceは

Evidence for God from Science(God And Science.org)は"God of the Gap"について触れていない。GoogleではQuotes from Scientists Regarding Design of the Universeというページがヒットするが、
Does science lead us down a road that ends in the naturalistic explanation of everything we see? In the nineteenth century, it certainly looked as though science was going in that direction. The "God of the gaps" was finding himself in a narrower and narrower niche.

科学は、私たちが見るものすべてに自然主義的な説明をつけつくすのでしょうか?19世紀には確かにその方向に科学は進んでいました。"God of the gaps"は次第に小さくなっていました。

ということで、科学は多くのを解明し続けていた時代だったと語る際の慣用句として"God of the gaps"を使っているだけ。関係なし。


結局...

「聖書を論拠に、宇宙や生命の起源は神様のせい」を、「聖書と神様」ぬきで主張せよという要求仕様のもとに作られたのが、インテリジェント・デザイン理論。失われた「聖書と神様」を補うには、「確率的に科学で説明できないからインテリジェント・デザイナーのせい」という「God of the Gap」論を展開するしかないというところだろうか。





posted by Kumicit at 2005/11/03 18:23 | Comment(2) | TrackBack(1) | ID: General | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>「聖書を論拠に、宇宙や生命の起源は神様のせい」を、「聖書と神様」ぬきで主張せよという要求仕様のもとに作られたのが、インテリジェント・デザイン理論。失われた「聖書と神様」を補うには、「確率的に科学で説明できないからインテリジェント・デザイナーのせい」という「God of the Gap」論を展開するしかないというところだろうか。

と言われますが、科学とは何を論拠に絶対真理のように主張されるのでしょうか?
聖書を根拠におく人生感と同じように、科学と言う一方の「聖書」を真理としての人生感が、科学的と言う表現になるのかな?と素朴な疑問が生まれます。

進化論も仮説の1つと思いますが、違いますか?
これが絶対に正しいなんて、存在しますか?

Posted by 疑問? at 2006/06/21 10:54
難しい話は明日以降にしよう。
今宵はともにDembskiを楽しもうではないか。

http://transact.seesaa.net/article/19643484.html

進化論なんか知らなくても、Dembskiは十分に楽しめるぞ!!

Posted by Kumicit 管理者コメント at 2006/06/22 00:08
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「ダーウィン進化論の終焉??科学の新パラダイム ID」<16>
Excerpt: 「ダーウィン進化論の終焉??科学の新パラダイム ID」16 第1部 ID理論の実像
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Tracked: 2006-06-21 08:22