2013/12/14

エジプトで雪といえば14世紀前半の...

エジプトの降雪は特に珍しいものではなく、2-3年に1回くらいは見られる[カイロ空港の気象]。

ただ、本気に寒波と言えるものは、歴史的には14世紀前半の寒冷化だろう。
1323年1月、デルタのガルビーヤ(Gharbia)地方では大雨と強風に続いて巨大な雹が降り注ぎ、作物や家畜に被害があった。この時、ガルビーヤ地方の71の村、ブハイラ(Beheira)地方でも32の村が荒廃したという。同様の雹についての記事は1316年、1338年、1346年にも見られるが、1344-1345年の降雹は特に激烈な異常気象として詳述されている。この年、エジプトでは稲妻・雷とともに雹が降り続いた。その後激しい熱波が襲来し、次に大雨とともに膨大な数の雹が降った。そのため村々の地面は白くなり、寒さの厳しさから上エジプト地方でも死者を出した。この時、水害と風害は多くの場所で見られ、デルタのナスティラーワ湖やダミエッタ湖、カイロの「象池」などであまりの寒さから魚が大量に死んだという。

注目したいのは、こうした厳しい寒さについての記述が多いことである。14世紀前半のシリアについては、さらに数多くの冷害に関する情報を集めることが可能であるが、エジプトについても冬期の寒さが異常であるとする記事は少なくない。1337年11月には大量の降雪があった。以上のことから、世界的規模での寒冷化という14世紀の気候変動の影響がエジプトにも及んでいたことが推察されるのである。

ペスト大流行の直前に連続した異常気象・自然災害についても触れておかなければならない。特に1337年以降、エジプトの住民にとって自然環境の厳しさは度を越していたように見える。大雨・暴風・大雪・雹・洪水・渇水・熱風・ネズミの異常発生・地震などが絶え間なく続いた。そして、こうした異常気象をはじめとした自然災害の影響を最も強い形で受けたのが農業であったと考えられる。農民たちの中には村を棄ててカイロに向かう者が多くなり、そのためにカイロは乞食で溢れてしまったという。シリア・イラク・イランなどでも同様に自然災害が頻発したので、1340年代にはいると食糧価格の騰貴はこうした広い地域で慢性化した。シリアでは1342年と1346-1347年にイナゴの大群が農地を荒らしたことも特記しておかなければならない。つまり、エジプトだけでなく、近隣諸地域を含めて食糧の供給は極めて不安定な状態にあった。食糧供給の不安定さが疫病の流行に結び付きやすいという点からいえば、エジプトにおいてはペスト大流行の前提条件は、1337年以後の約10年間に完全に整えられていたのである。

[長谷部史彦, 14世紀エジプト社会と異常気象・飢饉・疫病・人口激減, 『歴史における自然』, 1989 pp.64-65]
このときは、欧州方面でも同様の状況に陥り、ペストの大流行にみまわれることになる。
posted by Kumicit at 2013/12/14 15:17 | Comment(0) | TrackBack(1) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013/12/11

南アフリカのHIV感染拡大は1990年から [Updated]

以前Chigwedere et al.[2008]による「南アフリカのThabo Mbeki前大統領[1998-2008]が自らの信じるニセ科学たるHIV否定論によって出した犠牲者数推定(死者33万, 母子感染35000)」をとりあげた。

33万という数を考えれば、「HIVはAIDSの原因ではない」というHIV否定論によって、死なずに済んだかもしれない人々を死へと追いやった、Thabo Mbeki前大統領責任は大きい。しかし、南アフリカにAIDSが蔓延することになった責任はThabo Mbeki前大統領にはない。

HIV感染拡大は、南アフリカ最後の白人政権のときに既に進行していた。HIVの感染の広まりを反映していると思われる産婦人科来院者のHIV感染率が、それを示している:
SouthAfricaHIVprevalenceantenatal women.png
南アフリカの産婦人科来院者のHIV感染率の推移
[The 2011 National Antenatal Sentinel HIV & Syphilis Prevalence Survey in South Africa (2012) by National Department of Health, South Africa]


  • Frederik Willem de Klerk (15 August 1989 – 10 May 1994)
    在職1年経過した1990年には産婦人科来院者のHIV感染率は0.7%だったが、政権を去る前には4%を超えていた。
  • Nelson Mandela (27 April 1994 – 14 June 1999)
    Nelson Mandela大統領は、人種融和を最優先にしていて、AIDS対策には消極的だった。そのため、在職最後の1999年には感染率は22%を越えてしまっている。まさにアウトブレーク。
  • Thabo Mvuyelwa Mbeki (14 June 1999 – 24 September 2008)
    感染率はさらに増大するが、感染拡大なアウトブレークから、平衡状態なエンデミックに移行している。Thabo Mbekiが政権を獲得した時点では、HIV感染は拡大しつくしていた。
  • Jacob Zuma (9 May 2009 – )
    引き続き、エンデミック状態。

FW_de_Klerk.jpg.Mbeki_SAJacobZuma.jpg

南アフリカ初の黒人政権誕生を祝っていた時、HIV感染が拡大していた。
そして、ドキュメンタリー映画"Angels in the Dustが伝えるような状況に。


私たちはティーンエイジャーたちを埋葬している。
私たちの友達。
週末には数百人の人々が埋葬される。
墓地はいっぱいで、空きがなくなってしまった。
20年後には本当にここには誰もいなくなってしまう。

(2010年までに、HIV/AIDSによって親を亡くす子供たちの数は最大2500万人になるだろう)
(しかし、南アフリカのある一家が500人の子供たちの面倒を見ている)
....
posted by Kumicit at 2013/12/11 23:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013/12/02

UFO目撃データを見てみる

2010年までのUFO目撃証言を収録したデータセットがここで公開されている。総件数は6万件を超える。大半は米国だが、欧州や中国もある(証言は英訳済み)。

ということで、とりあえず、さらっと整理してみた。

まずは月齢と目撃件数の関係。ほとんど依存性は見れない。満月と新月に大きな差があるわけでもない。
UFO_Moon.png

曜日依存は大きく、週末に偏っている。暇な土曜の夜には目撃が多いようだ。
UFO_weekly.png

月別だと(月の日数は補正してないので2月が不利だが)、夏から初秋にかけてが多い。夜間外出の季節ということだろうか?
UFO_Monthly.png

そして、経年変化。これは証言の集めやすさにも依存する。ネットの発展によるものかもしれない。
UFO_annual.png

UFO形状の流行などを見ていくと面白いかもしれない。
posted by Kumicit at 2013/12/02 22:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013/11/19

だうじんぐマシンADE651の製造販売業者の控訴棄却

爆発物探知機として、だうじんぐマシンAD651を製造販売したJim McCormick(57)が、英国で2013年4月に有罪評決を受け、2013年5月に懲役10年の判決を受けた。その後、Jim McCormickは控訴したが、2013年11月12日に棄却された。
Court of Appeal judges rejected an application from convicted fraudster James McCormick, 57, from Somerset, for leave to appeal against the sentence. His barrister argued the term was excessive and the previous judge had put too much weight on lives lost in Iraq because of his bomb detectors.

有罪判決を受けたSomerset在住の詐欺師James McCormick,(57)からの控訴を、控訴裁判所裁判官は棄却した。彼の法廷弁護士は、刑期は長すぎ、裁判官は爆発物検知器による、イラクでの犠牲者数を過大評価していると論じた。

Judge Elgan Edwards said McCormick knew what he was doing and profited hugely. "The circumstances were quite appalling. The applicant knew precisely what he was doing," he told the court. "He did it for enormous profit and that conduct simply cannot and will not be tolerated." He added: "If this case does not merit the maximum possible sentence, I don't know what does."

Elgan Edwards裁判官はMcCormickが自分自身にやっていることを自覚しており、巨大な利益を上げていたと述べた。「状況は極めておぞましい。控訴者は自分が何をやっているか正確にわかっていた。彼は巨大な利益を得るために行っており、その行為は容認できるものではなく、容認しない。この件が最高刑に値しないなら、どのような行為が最高刑に値するかわからない」

During the hearing, McCormick's barrister said there was no evidence that lives were lost in Iraq because of his detectors and argued that they may still have deterred terrorists from attempting to carry bombs through checkpoints.

尋問で、McCormickの法廷弁護士は、彼の爆発物検知器のせいでイラク人の生命が失われたという証拠はなく、検問所を爆弾を持って突破しようというテロリストたちへの抑止力になっている可能性があると論じていた。



[Bomb detector conman James McCormick loses appeal bid(2013/11/12) on BBC]







関連エントリ


posted by Kumicit at 2013/11/19 06:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013/10/19

妊娠中絶禁止を強く言い過ぎる共和党議員や候補たち

妊娠中絶禁止をめぐる共和党議員や候補のレイプ発言は、まだ有望な共和党大統領候補の一人だったRick Santorumの2012年1月の発言から話題になり始めていた。
Morgan pressed Santorum on the issue and asked how the right-wing candidate would feel if his daughter came to him begging for an abortion after being raped. Santorum said, “I think the right approach is to accept this horribly created − in the sense of rape − but nevertheless a gift in a very broken way, the gift of human life, and accept what God has given to you.” He added that rape victims ought to “make the best of a bad situation.”

Morganはこの問題でSantorumを問い詰め、レイプされた娘が妊娠中絶を求めたとき、右翼候補がどう感じるか問うた。Santorumは「レイプという恐ろしい方法で創られたもの、しかし、非常にブロークンな方法でのおくりもの、人間の生命という贈り物を受け入れること、神が与えたものを受け入れることが正しいアプローチだと思う。レイプの被害者は、最悪の状況で最善を尽くすべきだ」と述べた。

[Rick Santorum: Rape babies are gifts from God(2012/01/24) on SFgate]
このときは、Rick Santorumに特にダメージはなかったようだ。

しかし、この2012年の秋に、レイプによる妊娠は少ないという表現で、妊娠中絶禁止を強く言いすぎた連邦上院議員候補たちは6名とも落選した。これについて...
"Part of the reason Democrats had a good day was some conservative Republicans said some stupid things and it made some issues more salient than they usually are," said Andra Gillespie, an associate professor of political science at Emory University in Atlanta.

"When people are making comments about legitimate rape ... it scares women who might not have thought about it. Even the conversation about contraception ... this was a way to make women's health issues very, very personal," Gillespie said.

アトランタのEmory Universityの政治科学のAndra Gillespie准教授は「民主党が有利になった理由のひとつは、共和党候補が愚かなことを言って、ある問題をいつもより際立たせたことにある。誰かが正統なレイプについてコメントすれば、それについて考えていない女性たちをも怯えさせることになる。妊娠中絶について保守的であっても、そのようなコメントにより、とても個人的な女性の健康問題に変わってしまう。

[How women ruled the 2012 election and where the GOP went wrong(2012/11/08)on CNN]
レイプに言及することで、女性の共和党支持者を失う可能性があるという。従って、レイプに言及しないことが正しい対応となると、ブッシュ政権のときに大統領のカウンセラーだったKaren Hughesは書いている。
And if another Republican man says anything about rape other than it is a horrific, violent crime, I want to personally cut out his tongue. The college-age daughters of many of my friends voted for Obama because they were completely turned off by Neanderthal comments like the suggestion of “legitimate rape.”

さらに共和党の男性がレイプについて、恐ろしい暴力犯罪であること以外のことを言ったら、舌を引っこ抜きたい。私の友人たちの大学生な娘たちは、正統なレイプといったネアンデルタール人な発言を嫌って、みんなオバマに投票した。

[Karen Hughes:"Communication lessons from the election"(2012/11/09) on Politico]
しかし、翌2013年3月には、共和党支持団体である保守的グループCRAの代表Celeste Greigが同様のレイプ関連発言で非難を逃れられず、代表に再選されなかった。それでも、共和党連邦議員たちは一歩も引かない。2013年6月には、連邦下院に妊娠中絶を禁じる法案を提案したアリゾナ州選出共和党Trent Franks連邦下院議員が、レイプによる妊娠は少ないと発言した。

その後4か月ほど後続の発言はなく、そろそろ終息方向かな?

posted by Kumicit at 2013/10/19 08:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする